今週アメリカのメディア、ネット上、一般の人々の話題が集中していたのが、言うまでも無く トランプ政権の新貿易関税とそれを受けての株価動向。
週明け月曜は、ブラック・マンデーの再来を予感する声が飛び交う中で、重苦しく取引がスタートしたけれど、午前10時過ぎに
多くのヘッジファンダーがフォローするインフルエンサーがXで拡散したのが、トランプ氏が中国以外の関税引き上げを90日間延期するというという噂。
これに反応した市場は一気に上昇に転じたけれど、程なくそれがデマだと伝えらて株価は打ち上げ花火のように元通り。
しかし水曜には 全く同じ内容が トランプ氏本人のツイートで通達され、その途端にS&P500指数は9%以上アップ、
ナスダック総合指数は12%上昇し、1日の上げ幅としては24年ぶりの快挙。ダウ平均も8%近くアップして 40,000ポイント超えとなり、
下落続きだったテスラ株さえ18%上昇。しかし、翌日木曜には再び株価は下落していたのだった。
トランプ氏は水曜の関税延期の表明と共に、株式購入を促すメッセージをSNSにポスト。
それを受けて株価が急騰したことから、ホワイトハウス報道官や、商務長官は「これぞトランプ大統領のアート・オブ・ディール(駆け引きの芸術)」と大賞賛。
しかし多くの株主、及び民主党政治家は、トランプ氏が月曜の段階でテスト済だった関税延期のインパクトを利用して株価操作を行ったと猛反発。
トランプ政権内でインサイダー取引が行われていないかの捜査を求める声が高まっており、
実際 この歴史的株価上昇は事前に情報さえを得ていれば、リスク・フリーでインスタントにボロ儲けが可能なトレード・チャンス。
その翌日には大統領執務室で、トランプ氏が大手証券会社チャールズ・シュワッブCEOを含む金融エグゼクティブに、「今日はお前に20億ドル儲けさせてやった」
「お前にはもっとだ」と笑いながら語る様子がネット上で漏洩されていたのだった。
アメリカでは株価下落が始まって以来、国民が目減りする財産や401Kの焦りや怒りを、トランプ政権と共和党に対して露わにする傾向が顕著。
それに対する共和党側の政権擁護コメントは、「株価チャートをチェックするから下落が気になる」、「金に捉われるな、金なんて人生には必要ない」
という耳を疑う内容が少なくないのだった。
アメリカでは先週末から 新関税率導入後に価格が跳ね上がる自動車、アイフォン、スニーカー、玩具、ルルレモンのレギンス、ボトックスに至るまでの
駆け込み需要増加が伝えられていたけれど、そんな中、ほぼ全てのメディアと政治経済系のYouTuberが大きく報じたのが6月5日に発売される任天堂スウィッチ2について。
アメリカでも任天堂スウィッチ2の入手は争奪戦状態で、1億5000ユニットを販売したスウィッチを遥かに上回るセールスが見込まれているのは周知の事実。
そのアメリカでの予約受付がスタートするはずだったのが4月9日。しかし新関税率を受けて任天堂がそれを延期したことが大報道になり、
ゲームに興味がない人々の間でも一躍知名度を高めたのがスウィッチ。
任天堂は トランプ政権が中国に課す関税率を見越して、アメリカで449ドルで販売予定だったスウィッチ2の生産の一部をベトナムに移行させていたとのこと。
ところがそのベトナムに対して発表された新関税率は46%。それもそのはずで、今やベトナムは大手のアパレルやスニーカーの生産拠点で、アメリカが多額の貿易赤字を抱える国の1つ。
任天堂スウィッチ2は、パーツに至るまで アメリカで生産される部分はゼロで、もしアメリカ国内だけでスウィッチ2の生産を完結させようとした場合、
「不可能」という大前提を無視して見積ると、掛かる費用は数百億ドル。
しかもサプライチェーンを国内で完結させるには、最低10年を要するのだった。
任天堂は6月5日の発売日には変更はないとしているけれど、スウィッチ2は 中国への新関税率導入後初のメジャーなゲーム機器リリース。
ゲーマーを含むアメリカ国民、及び家電、IT業界が見守る最大の関心事はその価格で、
状況によっては 市場に更なる”エコノミック・ツナミ”、”エコノミック・アルマゲドン”をもたらすとさえ言われるのだった。
とは言っても、新関税率はトランプ氏の胸1つ。そのため支持率低下を防ぐためにランプ氏が任天堂を関税対象外にする噂も流れており、
実際3月に中国への関税引き上げが行われた際、TemuやShienでアパレルを購入する若い世代が、TikTokで
「税金の方が商品より高くなった」とトランプ政権に苦情をぶつけたことで、800ドル以下の個人輸入品への課税は一時棚上げになったのだった。
しかし5月2日からは 800ドル未満の中国からの直輸入品には90%の税金が課せられ、2025年6月1日以降は税率がその倍に引き上げらる予定。
そのため、もし任天堂が関税対象外を勝ち取ったとしても、それは一時的な措置と見る方が賢明。
このような どっち付かずで、直ぐに状況が変わる政策は、市場と投資家が最も嫌う不安定材料になっており、「リセッションの可能性を高める」との
指摘が聞かれるのだった。
追記:Updated on 04/12
トランプ政権は、4月11日深夜に、スマートフォン、ノートパソコン、ハードディスク、メモリチップ、プロセッサを含む、米国で殆ど製造されていない必須の技術製品が含まれる関税除外措置を発表。
スウィッチ2を含む対象ガジェットはトランプ政権が中国製品に課す125%の輸入税、世界全体で課される最低10%の関税さえも回避されるとのこと。ちなみにアップル製品の80%以上は中国製で、
トランプ氏の新関税率発表からの数日間で、アップルの時価総額は6,400億ドル減少していただけに、これはアップルやサムスンにとっては朗報。
トランプ政権にとっては面目が潰れたUターンという見方が高まっています。
大手金融機関から、ギャンブル・ウェブサイトまでもが、アメリカのリセッション突入の確率を50~70%と予測する中、
多くの企業は既にリセッション対策に入っており、今週アップルを抜いて世界一の時価総額企業に返り咲いたマイクロソフト社を含む大手IT、
小売業がレイオフを発表する中、カリフォルニアのディズニーランドが発表したのが 施設内にある会員制「Club 33」で、初めて会員公募を受け付ける意向。
このクラブはウォルト・ディズニー自身が、自ら優雅に食事を楽しむ目的で1967年に設立。やがてVIPや企業向けのもてなしの場となり、トム・ハンクス、ケイティ・ペリーといったセレブリティやビジネス界のVIPがメンバーであることで知られるクラブ。
東京ディズニー・ランドを始め、世界の数か所のディズニー・パークにも支部があるものの、最もプレステージが高いカリフォルニアの本部は、入口に「33」とだけ書かれた地味なエントランス。
しかし最上級のサービスとダイニングを誇るウルトラ・エクスクルーシブな空間で知られ、ディズニーはその会員を入会金3万~10万ドル、年会費1万5千~3万ドルで
受け付けると発表。その背景にあるのは 近年のディズニー・パーク収益低下で、これから関税の影響で物価が上がれば
アメリカ国民が先ずカットするのがヴァケーション代。特にディズニーのように 何をするにも料金が発生し、最終的に大出費になるバケーションは 既に消費者から敬遠されており、
クラブ33の会員公募は 「収益強化のために伝統を破る苦肉の策」と言われるのだった。
一方、高額レストランも 輸入食材の値上がりに加えて、外食需要低下に向けた対策に取り組んでいる状況。
中でも顕著なトレンドは、それまで10~14コースで提供していたテイスティング・メニューの品数減らし。
ミシュラン3つ星の一流店であれば、従来の品数のテイスティング・メニューを300~600ドル、ワインのペアリングを80~220ドル増しで提供するという高価格でも、
現時点ではテーブルが埋まるけれど、ミシュラン2つ星クラスになると 週末はさておき、火曜日~木曜日のテーブルが埋まらない現象が既に全米で顕著。
ちなみにテイスティング・メニューを提供するようなレストランは日曜、月曜は定休日。そのため火曜日~木曜をアラカルト・メニューのみにしたり、
3~4コースのプリフィックス・メニューを手頃な価格で提供するビジネスに切り換えるレストランが増えており、逆にそうすることで売り上げと利益が増えたケースもあるとのこと。
リセッション時代には、一部の超富裕層を狙うビジネスが安定して、手堅いように見受けられるものの、
そんな少ない客層を奪い合うビジネスで、徐々に始まっているのが常連客特別待遇やディスカウント。
ファッションの世界では一足先にそれを実践していたFarFetch等のハイファッション・ビジネスが、昨年明けに突如倒産して業界を驚かせたけれど、
「大金を投じての接待は当たり前」、「多額の購入をするのなら 多額のディスカウントは当たり前」と考える
限られた超富裕層をターゲットにしたビジネスは、むしろリスクが高いとの見解が多いのだった。
今シーズン、MLBで大センセーションを巻き起こしているのがトルピード(魚雷)・バット。
これは物理学の博士号を取得し、7年間教職に就いた後、ニューヨーク・ヤンキースのマイナーリーグ打撃コーディネーターになったアーロン・リーンハートが考案したバット。
数あるスポーツの中でも、野球は丸いボールを丸い側面(バット)で打つ唯一のスポーツ。丸い側面によって効果的にボールを打つためにリーンハートが物理学の見地から考案したのが、
その名の通り 魚雷のシェイプをしたバット。
これを使用したヤンキースのバッターが、今シーズン1試合でチーム記録となる9本のホームランを打ったことで一躍注目を集めており、その生産を手掛けるのはMLBの公式バットメーカーのビクタス・スポーツ。
長さや直径などはMLBの規格に沿ったもので、異なるのはスウィートスポットに重心を集めるデザイン。既にプロ、アマチュアを問わず注文が殺到中で、
このご時世に「野球のバットが売れる」という異常現象を生み出しているのだった。
一部では、「トルピード・バットを禁止すべき」との反対意見も聞かれたけれど、メジャーリーグのコミッショナー、ロブ・マンフレッドは「こうした話題は、野球にとってプラスになる」という見解。
話題性もさることながら、アメリカ人が好む高得点ゲームが望めるのもトルピード・バットが歓迎されるポイント。
そもそもMLBの人気が低下した最大の要因は、何の展開も無い試合が長時間続くため。
それが2022年のピッチ・クロック導入、ベース・サイズ拡大によって、投球のスピードアップと打率急上昇、過去40年間で最多の盗塁数が記録され、
試合が短くエキサイティングになったことで、減り続けた観客動員数を巻き返したのは記憶に新しいところ。
その上、トルピード・バットで ホームランが増えれば、試合が盛り上がるというのがMLB側の考え。
その一方でMLBは、シーズン前の13試合でAIアンパイアをテスト。2026年シーズンからの正式導入を予定しており、
試合のモダン化を継続中。今では数多くのスポーツでライン・ジャッジを中心に導入されているAIテクノロジーであるけれど、
これまでのMLBは「野球のアンパイアは、人間でなければダメ」という見解。
理由はAIアンパイアが完璧過ぎて、フォアボールが急増すること。
さらには 「配球の妙によるストライク」というものがAIには受け入れられないことだったけれど、
そうした問題をクリアしつつあると言われるのが、日進月歩で進化するAIテクノロジー。
でもアメリカ人は カストマー・サービスがAIだと、不満を感じても 諦める傾向にあり、AIアンパイアに対しても
腹を立てた観客によるブーイングが起こらなくなったら、スポーツ観戦の醍醐味が失われるとの指摘もあるのだった。
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執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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