Mar 30 ~ Apr 5 2025

WTF... Market & World Reacted
トランプ新関税率に世界とマーケットが…


今週4月2日に米国メディアが報じたのが、トランプ大統領が「イーロン・マスクはもうすぐ政権から去る」と官僚たちにコメントしたニュース。 同じ日にはテスラの第1四半期の著しい業績悪化が報じられ、トランプ氏はマスクがテスラを含む本業経営に戻ることを示唆。 通常ならこれが大ニュースになるはずだけれど、それを吹き飛ばす以上のインパクトで、株価のノーズダイブを招いたのが、 同日午後4時からホワイトハウスのローズ・ガーデンで盛大に発表された世界各国への新関税率。
新たな貿易関税はメディアや経済評論家が ”予想を遥かに上回る酷さ”と表現するもので、世界貿易混乱を通り越して 貿易戦争への突入を意味するもの。 企業経営者や投資家はもちろん、共和党上院議員、トランプ氏の経済アドバイザーさえも失望、反発する内容で、 これを受けて翌日木曜にはアップル、ナイキを始めとする株価が大暴落。市場総額3.1兆ドルが消え去り、崖から転落するようなチャートを描いたのは周知の事実。
この新関税措置では、世界185カ国に一律10%の関税を科し、そのうちの60カ国に対して個々の相互関税率が発表されたけれど、 先に25%の関税が宣言されていたメキシコ、カナダ以外で、このリストに含まれていなかったのがロシアと北朝鮮。 逆にこのリストに含まれいたことにメディアが注目したのが アメリカとの貿易が皆無で、その存在さえ知られていなかったマクドナルド・アイランド。 それもそのはずで、マクドナルド・アイランドは人間が1人も居住しておらず、ペンギンと一部の鳥類のみが生息する南極の島。 このペンギンへの税率は、新関税関連ニュースで唯一笑えるネタを提供していたのだった。



新関税率が理不尽と言われる理由


トランプ氏の新関税率は、世界の株式市場に暗い影を落とし、全てをギャンブルにしてしまうポリマーケットでは「アメリカのリセッション突入」に賭ける人々が50%にまで上昇。 J.P.モルガン・チェースも、リセッション突入の確率を40%から60%に引き上げたけれど、トランプ氏は「新関税がアメリカの黄金時代を築き、何兆ドルもの利益を生み出す」との強気の主張で、 パンデミック以来の株価大暴落についても、「最初は痛みが伴うもの」と極めて楽観的。
多くの専門家が指摘する新関税の問題点は、同盟国と敵国を区別していない点で、トランプ政権は、「米国製品に対する諸外国の貿易障壁に基づいて関税率を決めた」と主張。 しかしその障壁とはアメリカが抱える貿易赤字のことで、厳しい税率を課しているのはもっぱらアメリカの貿易赤字が大きい国々。 とは言っても、カナダ、メキシコ、中国、日本等からアメリカが買う品物の量が、これらの国々にアメリカが売っている商品の量を上回って貿易赤字が生じるのは”障壁”とは言えないもの。 また中国はさておき、人口と市場サイズを考慮すれば、アメリカが買う量が多くなるのも当然のことで、決してトランプ氏が語るように 「過去半世紀に渡ってアメリカは諸外国から利用され、利益をむしり取られて来た」訳ではないのだった。
経済専門家の間では、「トランプ氏は貿易の大原則が分かっていない」との指摘もあるけれど、 実際にトランプ氏が カナダに対して「アメリカの51番目の州になるべき」と主張する理由は「毎年アメリカは、カナダに2000億ドルの補助金を与えている」というもの。 これはアメリカがカナダに対して抱える貿易赤字の額で、世界9位の経済国、世界4位のエネルギー資源国であるカナダがアメリカの補助などは受けていないのは当たり前。 そのため、トランプ氏が「2000億ドルのカナダへの補助金」を話題にする度に 「大統領は本当に”財政赤字”と”貿易赤字”の違いを理解しているのか?」との憶測が飛び交っているのだった。

新関税率によって一般的なアメリカ家庭が余分に支払う家計出費は年間で3500ドル~5000ドル。自動車を購入する場合は、5000~15000ドルを余分に支払う計算。 それ以外でも1ケースが20ドルのドイツ・ビールは24ドルになり、中国産の100ドルの自転車は約130ドル、日本製の400ドルのビデオゲーム機は約500ドルとなり、アイフォンは2000ドル以上。 衣類に関しては、アメリカは97%が輸入品、それも中国とヴェトナムに頼っていることから、新関税導入後は40~50%増しの価格になるのは必至。 その他にもアメリカの成人の63%が毎日飲むコーヒーは99%、エビは94%が輸入に頼っており、アメリカで消費される約90%のアヴォカドはメキシコ産。 意外なのは、牛肉大国であるはずのアメリカがオーストラリアから牛肉を輸入していることで、大半を買い付けているのはファストフード・チェーン。 というのもアメリカの牛肉は脂肪分が多過ぎてハンバーガーのパティに不向きであることから、オーストラリア産の脂肪分が少ない牛肉とのミックスは不可欠。
今回の関税措置を受けて、アメリカが如何に輸入品に頼る国かを実感した人々は多かったけれど、 見方を変えれば、アメリカに製造業を取り戻し、サプライチェーンを国内で完結するのは、もはや不可能であるということ。
そもそもS&P500社、すなわちアメリカのトップ企業は2000年以降、企業の利益を国内の設備投資よりも、 株の買戻しと配当という株主優遇策に充てて来たのは周知の事実。 今から10年以上前の2014年の段階で、その割合が利益の95%に達していたことは、当時のブルームバーグ・ニュースが問題視していたこと。 要するにアメリカは製造・生産業に見切りをつけて安価な輸入品に頼る一方で、マネーゲームで富を築いてきた訳で、 株に投資できる人々と出来ない人々とで 貧富の差が大きく開いたのもそのため。 そんなマネーゲームの恩恵を受けてビリオネアになったトランプ氏やその政権の官僚が、今更経済の仕組みを崩壊させてまで 国内生産復活をプロモートしようとするのは腑に落ちないセオリー。
結局のところ新関税は、アメリカにとって不利益な貿易の是正を謳って、トランプ政権が国民から更なる税金をむしり取る手段と考えるのが自然。 アメリカではセールス・タックスは食材や、薬、一定額以下のアパレルには掛からないけれど、関税であれば輸入依存度が極めて高いアメリカでは 全品に輸入の段階で課税できる訳で、国民が嫌う「増税」という言葉を使わずして、 1世帯当たり年間3500ドル~5000ドルの税収を増やすことが出来るのだった。



ウィスコンシン州で大敗を喫したマスクがスケープゴートにされる日


4月1日に全米の注目を集めて行われたのがウィスコンシン州の最高裁判事の選挙。ローカル選挙としては破格の8000万ドルの 選挙資金が投じられたけれど、その4分の1に当たる2100万ドルを支払ってまで、保守派判事を当選させて、 同州の最高裁の保守過半数を実現しようと試みたのがイーロン・マスク。
結果は右上のようにリベラル派判事、スーザン・クロフォードが圧勝。何故マスクがこの選挙に並々ならぬ関心と資金を寄せたかと言えば、 パープル・ステーツ(スウィング・ステーツ)であるウィスコンシンの最高裁が保守に転ぶか、リベラルに転ぶかで、今後の選挙の投票法が決まり、 結果的に政権の行方を大きく左右するのが先ず1つ。加えて、テスラはウィスコンシンでディーラーシップをオープンすることが認められていないことから、同州で訴訟を起こしており、 その判決を買い取る目的も兼ねていたのだった。
マスクは、昨年の大統領選挙の際にペンシルヴァニア州で行ったのと同様の手法で、選挙直前にウィスコンシンに出向き、2時間演説した上に、フェイク抽選で選ばれた2名に 100万ドルの小切手を手渡し、さらには「リベラル派判事と闘う友人のスナップを1件投稿する度に20ドルを支払う」という事実上の”票買い取りキャンペーン” を実施。 さらには「もし保守派判事が当選したら…」と、その先の資金援助までほのめかしたけれど、 これには「ウィスコンシンの民主主義は売り物じゃない」とアンチ・トランプ勢力を含む州民たちが猛反発。
そもそも現地の世論調査によれば、過半数以上がマスクに対して批判的な意見で、彼がDOGEを通じて行っている 人員削減についても州民はネガティブ。 そのためウィスコンシン州共和党関係者は「マスクが来たことで、反トランプ票を煽った」と文句を言ったことが伝えられた一方で、 ウィスコンシン州は 「民主主義が金権政治を打ち負かしたシンボル」として、その株が急上昇していたのが今週。

このところトランプ政権入りした議員の後釜を選ぶ選挙で、共和党候補の負けが続いていただけに、 もしウィスコンシン州で、マスクが財力とX(元ツイッター)を通じての影響力で勝利を勝ち取った場合は、 他の州でも それを活用しようとしていたのが共和党とトランプ政権。 それだけにトランプ氏はウィスコンシン州での敗北にかなり失望したと伝えられ、 同時に共和党内での立場が大きく弱まったと言われたのがマスク。
ホワイトハウスは、現時点ではマスクが政権を去るニュースを否定しているものの、ホワイトハウス臨時職員であるマスクの契約期間は180日間、すなわちあと約100日。 「延長するには、マスクはホワイトハウス首席補佐官のスージー・ワイルズに嫌われ過ぎている」と言われ、 トランプ氏も 「そこで全ての非をマスクに押し付けて、彼に見切りを付ける準備が出来ている」という説は有力。
今回のウィスコンシン州での敗北は、痛手とは言え、「トランプ氏にとっては、マスクの首を切る 格好の言い訳になった」というのが政権内の共通見解と言われるのだった。



カナダのボイコット、移民政策でアメリカのインバウンドの観光収入が激減!?


カナダがトランプ政権の関税や、アメリカへの統合案に反発して、国を挙げての臨戦態勢に入っているのは周知の事実。 既にカナダでは米国製品の非買運動がスタートして久しく、ショッピング・モール内ではカナダの量販店は大混雑しても、その傍のウォルマートはガラガラ。 スーパーでは、アメリカ製品は陳列棚の足元、もしくは最上段に置かれ、メイド・イン・カナダの商品が消費者の目の高さからの視野に入る位置の棚に収められ、 「カナダ産」が明確に表記されているとあって、その効果はかなりのもの。
そしてヴァケーション・シーズンを迎え、数字の上でも顕著になったのが、毎年アメリカに最多の旅行者を送り込んできたカナダからの旅行者激減。 航空データ会社OAGによれば、4月から9月までのカナダ-米国間のフライトの事前予約は、昨年の同時期と比較して70%以上減少。 旅行ニュース・サイト ”The Points Guy” によれば、カナダからの旅行者が10%減少するだけで、米国企業が失う収益は最大21億ドル。 もし事前予約の減少が そのまま旅行者数に反映された場合、米国企業が失う収益は最大で147億ドル。
航空会社は、この需要激減を一過性の減少とは捉えておらず、既にフライトを減らす動きに出ており、 それを反映して 今年に入ってから30~40%下落しているのがデルタ航空、ユナイテッド航空、アメリカン航空といった大手航空会社の株価。 もちろんその背景には、今年に入ってから航空事故が多発していることや、ミドルクラス以下が経済の先行きを懸念して、 飛行機で出掛けるヴァケーションを控えるようになったことも重なっているのだった。
加えて今年のヴァケーション・シーズンに大きく影を落とすのが、トランプ政権の移民政策。 2月~3月にかけて、立て続けにイギリス、ドイツの旅行者が移民関税局に逮捕されたニュースが報じられ、 各国政府が 「トランプ政権の移民政策で身柄を拘束されるのは、旅行者も例外ではない」と警告した結果、 旅行関連の掲示板やチャットグループで高まっているのが、米国入国時に身柄を拘束される懸念やリスク。
今週にはトランプ政権が、メリーランド州に合法で滞在していた三児の父親の移民を誤ってエルサルバドルの刑務所に強制送還したことを認め、 身柄の返還要求が出来ないことが大きな報道になっていたけれど、 そんな事態が起こるのは 身柄拘束者に対してIDの確認や、身分の証明機会(通常は裁判)を与えず、逮捕後に直ぐ強制送還をする移民狩りを行っているため。 したがって旅行者とて逮捕されれば、拷問と強制労働で知られるエルサルバドル刑務所に送られる可能性があることは、 特にヒスパニック系で、腕にタトゥーがある男性(移民局が逮捕基準にしている特徴)にとってはかなりの脅威。
しかも自主強制送還をするための航空チケット購入が出来る旅行者でさえ、理由も無く2~3週間拘留されることも SNSやグループチャットで恐れられており、 今年のアメリカではインバウンドの観光収入の激減が見込まれるのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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