今週アメリカで最大の物議になっていたのが、ヴァンス副大統領、国防長官、国防アドバイザー、国家情報長官等、20人のトランプ政権主要官僚が、
民間アプリ、シグナルを使用したグループ・チャットで、米軍のイエメン攻撃に関する詳細情報を攻撃開始の2時間前にカジュアルにシェアし、
しかもそのメンバーに、リベラル・メディア、アトランティック誌のジャーナリストが意図せず含まれていたという大失態。
当初、ジャーナリストはチャット内容の重要さを考慮し、一部を隠蔽して記事にし、リスクの高いコミュニケーション手段で、軍事機密を絵文字を交えてシェアする官僚たちのアンプロフェッショナルぶりを指摘。
しかし元FOXニュース・キャスターから国防長官に異例の大抜擢となったピート・へグセスが、記事をフェイク・ニュースと非難したことから、
アトランティック誌は翌日にグループ・チャットの全文を公開。そこで明かされていたのは攻撃のタイミングから、天候、使用する武器に至るまでの
詳細な情報。しかし議会証言を求められた官僚の言い訳は 「国家機密はシェアされていない」と、問題軽視に終始したことから、
共和党内からも聞かれたのが、ジャーナリストを含めたグループ・チャットをアレンジした国防アドバイザー、マイク・ウォルツの辞任要求。
ウォルツに関してはその後、支払いアプリ”Venmo”で、328人のフレンド・リストが公開されているという 一般人でもあり得ないセキュリティの緩さが指摘されたけれど、
さらに驚くべきはドイツのメディアが、ハッキングなどせず、コマーシャル・データ検索によって、いとも簡単にトランプ政権官僚のEメール、スマートフォン番号、パスワードのリストを入手したという
前代未聞の事態で、その中にはへグセス国防長官や、CIAやFBIといった諜報機関のトップ、トルシー・ガバード長官の情報も含まれていたという笑い話のような展開。
この状況に当然ながら独立機関による調査が求められたけれど、その機関はトランプ氏が物議を醸しながら解雇をしたばかり。
専門分野未経験のアマチュア官僚たちによる情報漏洩は、これが初めてとは判断できないことから、”シグナルゲート”と呼ばれ始めたこの問題はまだまだ尾を引く気配なのだった。
トランプ政権が関税措置と、不法移民の国外追放によって実現を謳っているのが、
アメリカ国内にアメリカ人が就労する製造業を復活させること。
そんなトランプ政権の盲点と言われ、大手企業がトランプ氏に気付いてほしくないと考えているのが、
インドへの高額給与業務の流出。
アメリカの仕事がインドに流出するのは決して新しいことではなく、1990年代には既に会計業務、税金申告作業、IT企業のテックサポートやカストマー・サービス等が
賃金が安く、労働者が英語を話すインドで行われてきたのは周知の事実。これらはいずれも時給が安過ぎて、アメリカ人が遣りたがらない仕事なのだった。
しかし時代は変わって、現在インドに流出しているのは 医療スキャンの分析、マーケティングのキャッチ・コピー執筆、予算案調整、最先端のマイクロチップの設計といった
高度なホワイト・カラー・ジョブ。すなわち、これまでアメリカで高額給与が得られると見なされてきた業務。それがH1Bヴィザで入国するインド人ではなく、
インド在住のインド人によって、安い人件費で賄われてしまうのだった。
これらの業務に就くインド人は 大学院を出ているケースが多く、加えてインドは毎年、工学学位取得者をアメリカの10倍輩出。
今や中国を抜いて世界一の人口、世界一の就労人口を誇るとあって、有能な人材プールを底なしで抱えながらも、近年インド国内ではホワイト・カラー・ジョブの求人が激減中。
そのためリモート・ワークで優秀なインド人を雇いたい外国企業にとっては、完全な買い手市場になっているのだった。
そもそも多くの米国企業は数年前から、アメリカの高齢化、労働人口の減少、そして熟練労働者雇用が難しくなることを見越して、
インドで高学歴かつ有能な従業員を安価で雇う戦略にシフトしており、
それが加速したのはパンデミック中のリモート・ワークによって、「業務に国境は無関係」という認識が高まって以来。
実際、パンデミック中には、アメリカの企業従業員が、インドやタイ、ベトナム等のエンジニアや、ライターに安価で仕事をアウトソースして、
自分は長期バケーションを楽しむ様子をアントレプレナー気取りでSNSにアップしていたのは記憶に新しいところ。
今ではフォーチュン500企業の3分の1が、インドに何等かの業務センターを持っており、中でも量販チェーン、ターゲットがベンガルールに擁するオフィスは、ミネアポリス本社とほぼ同規模。
バンク・オブ・アメリカもチェンナイにオフィスを構えており、外国企業の拠点はインド国内の英語圏6都市に集中しているのだった。
イギリスのオンライン・バンク、Revolut/リヴォルトは、コロナ騒動から明け切っていない2021年に初めてインドのスタッフを7人雇い入れたところ、彼等の優秀さに驚嘆したとのこと。
以来インドでの採用を増やし続けており、インド人スタッフは財務、マーケティング、エンジニアリングに加えて、人事部門でも極めて優秀で、しかも真面目。
そのインドでは、優秀な人材ほど 「アメリカに拠点を置く企業で昇進したい」という野心を持っており、
高額給与や待遇改善を求めて経営側と対立するアメリカ人従業員に頭を悩ませている米国企業にとっては、まさに渡りに舟なのだった。
アメリカ、イギリス、日本といった先進国企業からのリモート業務引き受けは、インド以外にも ポルトガルなど、複数の国が行っているけれど、
企業側は社会的反発を恐れてか、それをオープンにしない傾向にあり、特にアメリカでは 高等業務の雇用が減っている原因を「AI導入の影響」とごまかす傾向が顕著。
そのためトランプ政権も気付いていない、もしくは企業からの献金を受けて 気付かないふりで片づけることにしていると言われるのが
高額給与業務の海外流出なのだった。
海外に高額給与の仕事が流出する結果、2024年にハーバード大学MBA課程を卒業しても、3カ月以上仕事が見つからない求職者は卒業生の23%、ほぼ4人に1人。
この数字は2022年には10%だったので、急速にホワイト・カラー労働市場が冷え込んでいる様子が見て取れるけれど、
アイヴィー・リーグの名門大学の学費は25万ドル、マスター・デグリーを取得すれば更に約10万ドルが上乗せされるのがアメリカ。
多くの学生が学費ローンでこれを支払っているので、40代、50代になっても学費を返済し続けるケースは全く珍しくない状況。
そんな多額のローンは、他の世代よりも厳しい雇用市場に直面しながらキャリアをスタートさせるジェネレーションZにとって、あまりに重すぎる負担。
それもあって大学教育の必要性について最も意見が分かれているのがジェンZ。
そんなジェンZにとって 新たな希望になっているのが、ベビー・ブーマー引退に伴う熟練職人不足が深刻化したことを受けて、ブルーカラー・ジョブで裕福になるチャンス。
ブルーカラー業務は、これまで汚い、キツイ、単純作業というイメージで若い世代に嫌われてきたけれど、
技術の進化によって状況がすっかり変わり、溶接、修理、建築、製造といった様々な分野で、高まって来たのが技術性、専門性という高額給与を受け取る要素。
それを受けて 電気技師、配管工、機械工といった職業では、業務に携わりながら資格取得を目指す18歳から25歳の労働者が増加中。
現在、これらの業務は初任給が7万ドル以上にアップ。20代のうちに年収10万ドルも夢ではなく、学費ローンとは無縁。
しかも多くの雇用主は技術者不足を補うために、従業員の資格取得を金銭的にサポートしているので、
都市部ではなくても 20代で借金を抱えず、持ち家と自家用車の購入が実現すると言われるのがブルーカラー。
さらには、イーロン・マスク率いるDOGE(政府効率化省)が、政府職員を大量解雇し、公務員さえ雇用が安定しない様子を見せつけたことも手伝って、
ジェンZのブルーカラー志向が更に高まると言われるのが今後。
また、ブルーカラー専門職を目指すジェンZは、電気作業や自動車整備、窯業などの業務そのものが「自分に向いている」、
もしくは「夢中になれる」と考えており、経済的安定だけでなく、遣り甲斐や充実感を見出しているケースが非常に多いとのこと。
さらに言えば、こうした技術職の方が事務職、トレーダー、アナリスト等よりもAIに仕事を奪われないというのもメリットになっているのだった。
2025年に入ってから、鳥インフルエンザの影響で上がり続けた卵価格は
1ダースの全米平均価格が昨年秋の2.25から、今では10ドル以上にアップ。
NYでは卵をバラ売りするストアまで現れたけれど、今や店に卵があればラッキー。
多くのストアはSold Outサインを出し、陳列棚は空っぽ状態が続いているのだった。
これを受けて、ベーカリーやレストラン、惣菜店は、値上げやメニューの変更を強いられ、
レシピで定評のあるNYタイムズ紙のクッキング・セクションは、「No Egg, No problem」というタイトルで、通常卵を使うレシピのNo Eggバージョンを公開しているのだった。
トランプ政権の農務長官が、この短期的解決策として 数カ国と協議しているのが卵の輸入。
これにはトルコ政府が応じ、米国に4億2000万個の卵を輸出する意向を示したけれど、これはアメリカが1日半で消費する量。
2024年にアメリカで生産された卵は1090億個で、値上がり前の価格に戻すにためには、数十億個を輸入する必要があるとのこと。
しかし卵は輸送が難しく、他国も鳥インフルエンザの影響で、余剰分がさほど無い状況。
アメリカが食糧輸入で頼りにしてきたカナダとメキシコは、たとえ輸入出来ても25%の関税がネックになって価格が下がらない上に、
トランプ政権の強硬姿勢が反感を買っているだけに、何かを頼めば交換条件が出る状況。
他に農務省が有力な卵輸入先としてアプローチを試みたのはデンマークであったけれど、同国もトランプ氏がグリーンランドを領土にすると宣言して以来、
反米感情が高まり、交渉が難航中。
もし十分な卵輸入が実現した場合でも、米国卵市場は、約半分が大手5社でコントロールされており、
今回の卵不足で大儲けをしているのがこの5社。アメリカでは2000年過ぎにも大手卵生産者が違法に価格をつり上げ、
当時のブッシュ政権下で大儲けをした歴史があるだけに、鳥インフルエンザ対策と共に、市場構造を改めない限り、
今より若干安い値段が 今後の卵価格として定着するリスクが指摘されるのだった。
イースター(復活祭)を控えて、アメリカでは益々卵価格が上がる気配だけれど、
ホワイトハウスが毎年イースターに子供達を招いてホストするのがエッグ・ハンティング。
トランプ政権は、高額な卵代を負担したくないのか、ホワイトハウスのイースター・イベントに企業スポンサーを募るという
前代未聞の試みをしていることが伝えられるのだった。
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執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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