Mar 16 ~ Mar 22 2025

Decline could be One for the History?
J.P.モルガンが”歴史的”と表するテスラ転落劇!?


今週のアメリカで最も物議をかもしたのが、トランプ政権が敵性外国人法を適用して、ヴェネズエラからの不法移民を 名前や身分の確認をせず、全員をギャング団メンバーと決めつけて、悪名高きエルサルバドルの刑務所に強制送還した事態。 その収監の様子はBGM付きでミュージック・ビデオのように公開され、それを観た移民の母親は「息子はギャングではない、当局は息子のタトゥーをギャング・メンバーのものと勘違いしている」と抗議。 実際に移民局は、腕にタトゥーがあることを身柄拘束の基準にしており、複数の家族が不当送還に抗議しているのが現在。
敵性外国人法は過去2回、戦争時に適用されており、そのうちの1回は 旧日本軍によるパール・ハーバー奇襲直後に日系アメリカ人を強制収容所送りにした際。
この措置は途中で裁判所判事によって差し止められたものの、その判事に対してはトランプ氏とマスクが弾劾を求め、 その弾劾請求にはロバーツ最高裁長官が反論を唱えるという二転三転状態が続いていたのが今週。
そんな中、水曜に公開されたのがジョン・F・ケネディ大統領暗殺に関する2000ファイル、合計6万3000ページの機密文書。 しかし先日公開されたエプスティーン・ファイル同様、新事実に乏しい内容で、リベラル・メディアが「期待外れ」と報じる一方で、 保守メディアは「ついに陰謀が明かされた」とセンセーショナルに報じたけれど、その背後で起こっていたのが、教育省解体と 公正取引委員会の上層部解雇。 特に公取委は、本来ならトランプ政権に人事権が及ばない中立機関で、その解雇は違憲であり、違法。 そのため解雇された職員は裁判で闘う意向を示しているけれど、DOGEは早くも公取委のウェブサイトに記載された 同委員会の業務内容を削除。もし公正取引委員会が機能しなくなれば、 合併から、カルテルまで、大手は遣りたい放題。消費者を含む弱者から利益をむさぼる、公正性を失ったビジネスが野放しにされることを意味するのだった。



人類史上No.1の富豪が経営するテスラのメイン商品


イーロン・マスク&DOGE(政府効率化省)に対するアメリカ国民の怒りは、日を追うごとにエスカレートし、 先週末にはアメリカ国内の 100以上のテスラ店舗で行われたのが大規模な抗議活動。 同様の活動は欧州やオーストラリアでも行われており、中でも激しいのがドイツ、イギリス。特にドイツでは、マスクが選挙戦で極右政党を押す内政干渉に出たことが大きな反発を招いているのだった。
昨年の大統領選挙で、トランプ氏に2億7700万ドルを投じたマスクは、トランプ氏当選後から急騰したテスラ株で、あっという間に資産を2000億ドル増やし、 一時は大成功と見られたのがトランプ氏への ”投資”。 12月12日にテスラ株がピークを付けた際には、その個人総資産が4380億ドルとなり、これはアメリカのGDPの1.6%に当たる額。 人類史上最も裕福だったと言われる14世紀のマリ国王、マンサ・ムーサの資産(現在価値に換算して4000億ドル)を抜いて、富豪の歴史を書き換えており、 マスク1人の資産が、世界の貧困国、150カ国のGDP合計を上回っていたのだった。

しかし、今ではテスラ株がそのピークから約50%下落。 世界各国で売り上げが60%、70%というペースで激減した上に、ボイコット運動にも歯止めが掛からず、 更なる業績悪化は免れない状況。それに救いの手を差し伸べ、先週、ホワイトハウス前でテスラのデモンストレーションを行ったのがトランプ氏。
二極化が進むアメリカでは、リベラル派の怒りを買ってボイコットされたプロダクトは、保守派の間で売り上げを伸ばすのが通常パターン。 2020年、第一期トランプ政権下では、缶詰豆の最大手 GOYAのCEOがトランプ氏を讃える問題発言をしたことから、民主党リベラル派の間で大々的なボイコット運動が勃発。 それに同情したトランプ・ファミリーが、SNSを通じてGOYA缶詰プロモーションを行ったところ、売り上げが22%回復するリアクションが見られたのだった。
先週、テスラのプロモーションを行ったトランプ氏は、同じ効果を期待するコメントをしていたけれど、 さすがに1ドル以下の豆の缶詰と、最も安いモデルで4万4000ドルのテスラが同じリアクションになる筈がないのは推して知るべし。
そもそも現在のテスラ離れは、マスクがトランプ支持を打ち出した時点から予測されていたことで、 これまでテスラを購入してきたのは圧倒的にアンチ・トランプ&環境コンシャスの民主党リベラル派。 右上のビジュアルは、テスラが最も売れている10州をブルーで示し、最も売れていない10州をレッドで示したものであるけれど、 そのカラーは そのままアンチトランプ派のブルーステーツ、トランプ氏を支持するレッドステーツに当てはまるのだった。
実際にレッドステーツの住人は 80%以上が「何が起こってもEVだけは買わない」とアンケート調査で回答するほどのEV嫌い。 それを反映してレッドステーツでは、テスラでの長距離移動が不可能と言われるほど、チャージング・ステーションが少ない状況になっているのだった。

とは言っても、テスラのビジネスを支えているのは、EVの売り上げよりも、むしろカーボン・クレジット。 これはCo2排出基準が満たせない他の自動車会社に、テスラが持つ排出クレジット(規制クレジット)を販売する行為で、 テスラが2024年にカーボン・クレジットで稼いだ売り上げは27億6000万ドル、これは利益の40%。 そのため自動車業界ではテスラは、「カーボン・クレジットを売る自動車会社」と皮肉られる存在なのだった。



テスラ株がまだ下がると言われる理由…


昨年12月18日から始まった株価の下落により、テスラは7000億ドル以上の時価総額を失っているけれど、これは トヨタ、ホンダ、フォルクス・ワーゲン、フェラーリ、ポルシェ、アストン・マーティン、メルセデス・ベンツ、フォードの時価総額の合計を上回る額。 3月20日現在のテスラの時価総額は7289億ドルで、この額は多くの市場関係者にとって トヨタの時価総額3000億ドル、ポルシェの240億ドル等と比べると、まだまだオーバーバリュー。
モルガン・スタンレーは、「長期的にテスラ株は買い」とアナリストが語りながらも、顧客と投資家に今週発表したレポートでは、 テスラの株価目標を それまでの144ドルから、126ドルに下方修正。J.P.モルガンも、「昨今のテスラの転落ぶりは、歴史的」としながら、株価目標を120ドルと発表しているのだった。
中にはそれを下回る予測も聞かれるけれど、そうした人々が着眼しているのが 英語でP/E Ratio(ピー・イー・レイシオ)と言われる株価収益率(以下PER)。 これは企業の株価を 1株当たり利益で割った比率のことで、この数値が低ければ企業は市場で過小評価されており、高ければ過大評価されているということ。 要するに株が割安か、割高かを判断する目安になる数値。
例えばフォードのPERは、現時点で6.29。殆どの自動車会社が5~10のPER。 これがアップルのような優良IT企業になると、現時点のPERは35.0、昨今株価が下落したとは言え、昨年は業績絶好調だったエヌビディアは60で、ITグロース株は20~30が一般的なPER。
2023年後半から”マグニフィセント・セブン”と呼ばれている アップル、グーグル、マイクロソフト、アマゾン、メタ(フェイスブック)、エヌビディア、そしてテスラの7社で比較すると、 上左のビジュアルの通り、他のマグニフィセント・セブンに比べて年間純利益が極めて低いだけでなく、前年比で純利益を大きく落としているのがテスラ。 しかし現在のPERは、アップルの3倍に当たる101。 すなわち業績の割に超過大評価されているのがテスラ株。

何故、テスラ株がここまでオーバーバリューになるかと言えば、イーロン・マスクがX上や、メディア、テスラの株主総会で、 実現していないプロジェクトや、開発が進んでいるかが不明なテクノロジーを打ち上げては、それらを如何にも短期間に達成できるかのような期待感を煽るため。 すなわちテスラ株のオーバーバリューを支えているのは、マスクのオーバー・プロミス。
フォーチュン誌によれば、業績のみで評価すればテスラは時価総額の8.8%程度の価値。 残りの91.2%を担っているのが、マスクがもたらす物議や宣伝効果。 そのため DOGEへの抗議が高まり、テスラの評判を下げているとは言え、マスク無くしてはテスラは 企業として成り立たないことが指摘されるのだった。
その一方で今週、アナリストがこぞって指摘したテスラの危機は テクノロジー面で中国のライバル BYDに水を開けられつつある状況。 今や世界一のEVメーカーになったBYDは、僅か5分のスピード・チャージングを実現。しかもオートパイロット機能を全モデルで無料提供し、 エンジンは5分で時速400キロまでの加速が可能。テスラより遥かに安価で、スタイル性も向上しているのだった。
対するテスラは、同社のスーパーチャージャーを使用しても 80%チャージするのに平均15~20分を要し、自宅でフル充電を行う場合の所要時間は6~9時間。 テスラ車の中で唯一マスクがデザインした、最高額のサイバー・トラックは、スーパーチャージャーを使用してもフル充電の所要時間は1時間40分。 オートパイロット機能は、8000ドル~1万ドルの追加料金を支払って加わるオプションでありながら、レポートされているのが事故や違反走行。 DOGEが大幅解雇を敢行した政府機関の中には、テスラのオートパイロット事故の捜査を進めていた部署と職員が含まれているのだった。
ちなみにサイバートラックは最低価格が10万ドルの高級車にも関わらず、故障が多く、修理に費用と時間が掛かって、部品が手に入らないことから、多くの保険会社が車両保険を拒否。 加えて洗車マシンで車体に傷がつくことから、多くのスタンドで見られるのが「サイバートラックお断り」のサイン。 今週金曜には、市場に出回る殆どのサイバー・トラック4万6000台のリコールが報じられたけれど、これはサイバートラックにとって8回目のリコールで原因は、車体のパネルが走行中に吹き飛ぶリスクがあるため。 この問題は数ヵ月前からレポートされており、テスラ側では「ダクト・テープで留めるように」とアドバイスしていたのだった。
このことからも分かる通り、既にテスラからは有能なエンジニアやデザイナーが去っており、商品開発力の衰えもテスラの将来が危ぶまれる大きな要因の1つ。
現在テスラは、抱えている不良在庫を処分するために金利0%ローンを提供し、売り上げアップを図っている真最中。 しかしアメリカでは、自動車ローン返済の滞りが過去最高に達している状況で、「そんな中での0%ローンは、サブプライム・ローンだ」と関係者を恐れさせているのだった。



プライベート・エクイティがベースボールを潤す結果… 


ベースボール・シーズン開幕に先駆けて、発表されたのがサンフランシスコ・ジャイアンツが、株式の10%をプライベート・エクイティに売却したニュース。 サンフランシスコ・ジャイアンツは、グレッグ・ジョンソン率いる35人のオーナーのシンジケートが所有しており、売却価格は未発表ながら、 昨年フォーブス誌がジャイアンツの評価額を38億ドルと発表していることから、4億ドル前後の資金をジャイアンツが得たという見方が有力。
そのメジャーリーグはサラリー・キャップ制が無く、ロサンゼルス・ドジャースが財力に物を言わせて、大谷選手を始めとする現行契約の支払を10億ドル以上延期 することで有力選手を集め、戦力に著しい不均衡を生み出していることから、シーズン前から聞かれていたのが「ドジャースの圧勝がメジャーリーグをダメにする」と予測するファン、スポーツ記者、評論家の声。
そのためジャイアンツも戦力強化のための株式売却かと思いきや、得た資金はスタジアムやその他の施設の改修、 そして球場に隣接するエリアの不動産開発に充てると発表。 12エーカーの土地に建つジャイアンツの本拠地、オラクル・パークは25年前に建設され、老朽化が進んでおり、 今後3年間でウィリー・メイズ・プラザに面したメイン・エントランスが生まれ変わる他、球場内もクラブ・ハウスの充実、オールインクルーシブの飲食サービスを含むプレミアム・ボックスを アップグレードして改築、拡張するとのこと。 要するに球場を地元に経済力をもたらすスポーツ&カルチャー・ハブにする ”街興し”を目的にしており、ジャイアンツ側は「今の世の中では、何をするにも新しい資本が必要」と 売却理由を説明しているのだった。
昨今、プライベート・エクイティは スポーツ・チームにアグレッシブに投資をする傾向にあり、実際にライブ・スポーツ・イベントは、コンスタントに大勢の観客を惹きつける”有能な商品”。 現在は 全てのプロ・リーグが大手ファンドの投資を受け入れているけれど、他に先駆けて、一番最初にプライベート・エクイティからの投資を受け入れたのがメジャーリーグ・ベースボール。 今ではボストン・レッドソックス、シカゴ・カブスなど、MLBの全30チームのうち、半数以上がプライベート・エクイティの資金提供を受けているのだった。
ジャイアンツがプライベート・エクイティに株式を売却したのはこれが初めてではなく、ヒューストン・アストロズ、サンディエゴ・パドレスなどの株式も保有するアークトスが 既にジャイアンツの株式約2%を所有。同社のように複数のプロ・チームに投資するプライベート・エクイティは全く珍しくないのだった。
そうなるのは、ストリーミングによって プロスポーツが国内に止まらず、世界中に市場を広げているためで、 ファンが世界中のチームをフォローできるようになった影響力は絶大。 メジャーリーグは、国内と海外でシーズン全体のストリーミングパスを販売する他、個々のチームも独自のストリーミング・プラットフォームを立ち上げており、 そうした市場拡大のための資金提供をしているのがプライベート・エクイティ。 要するに、これまで1スポーツ・チームでは不可能だった世界的な規模のビジネスを、巨大な資金力とITテクノロジーの進化が可能にしている訳で、 そのお陰でアメリカは世界のスポーツ・ファンから掻き集めた利益でオーナーが私腹を肥やすだけでなく、街興しまで可能になるということ。 大谷選手も日本の国民的英雄であると同時に、アメリカ経済に最も貢献する日本人になっているのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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