Mar 9 ~ Mar 15 2025

HACK, DEMO & FAFO?
言論の自由と永住権の危機!?、DEMOとFAFO


今週のアメリカでは引き続き株価が下落。過去3週間で4兆ドル以上が市場から失われ、 特に週明け月曜にはテスラ株が15%下落して、2020年のパンデミック時以来の下げ幅を記録。
同じ月曜にはX(元ツイッター)がサイバー・アタックを受けて複数回ダウン。イーロン・マスクはこれを「コーディネートされたグループ、もしくは国家が絡んでいる」とした上で、 IPアドレスからウクライナの可能性を匂わせたけれど、 その段階で犯行声明を出していたのが2023年に結成されたハッカビスト(ハッカー+アクティビスト)グループの ”ダーク・ストーム”。 「政治的意図は無い」というダーク・ストームは、クラウドベースのソーシャル・メディアを通じて、ハッキングの証明となるスクリーン・ショットを公開。専門家によれば、今回のハッキングは DDoSアタックと呼ばれる一時的効力のもので、決して新しいハッキング手法ではないとのこと。にも関わらず世界規模でビジネスをするXが、DDoSアタックで何度も ダウンしたことで指摘されたのが、マスク買収後に有能なエンジニアが去ってしまった Xのセキュリティの軟弱さ。
イーロン・マスク率いるDOGE(政府効率化省)のウェブサイトも、度々落書き等のハッキング被害に見舞われており、 社会経験ゼロながら年収20万ドルで雇われたDOGEの20代エンジニア達も決して優秀ではない様子を露呈しているのだった。



金はトランプに流れる


今週最も物議をかもしたのは、トランプ氏がホワイトハウス前で テスラの”インフォマーシャル”を行ったこと。 業績悪化が著しいテスラを救うために、自らのSNSでテスラを購入を宣言していたトランプ氏は、 宣伝文句と価格が書かれたカンニング・ペーパーを握りしめながら、「スゴイ、全てがコンピューターだ」とEVに初めて乗り込んだと思われるリアクションを披露。 その見返りにイーロン・マスクは、昨年の大統領選挙でトランプ氏に注ぎ込んだ2億8800万ドルに加えて、更に1億ドルをトランプ政権運営費用として支払うと発表。
一方、アマゾンはメラニア夫人のドキュメンタリーに4000万ドルを支払っただけでは足りないと思ったのか、今週、トランプ氏のリアリティTV「アプレンティス」のシーズン1~7を アマゾン・プライムで配信すると発表。トランプ氏のイメージアップを兼ねながら、エグゼクティブ・プロデューサーであるトランプ氏に献金する姿勢を見せたのだった。
クリプトカレンシーの世界では、TRONの創設者ジャスティン・サンがトランプ・ファミリーが設立したクリプト会社、ワールド・リバティ・ファイナンシャルに対して大統領選勝利後に3000万ドルを投資。 その上トランプ氏のMEMEコインを7500万ドル分を購入したことで、SEC(証券取引委員会)が彼を相手取って起こしていた詐欺罪の訴訟差し止めを獲得。 MEMEコインは、発行元であるトランプ氏と一部の関係者が資産を劇的に増やせる手段で、元手がほぼゼロで作られたデジタルコインが 売り出しから僅か2日で130億ドルの市場価値になったのは既に報じられたニュース。現在価値が下落したとは言え、 MEMEコインは今後もサウジアラビアや中国の資本家が、証拠が残らないトランプ氏への献金手段として利用することが見込まれるのだった。
またTariffについても、当初は諸外国との交渉材料にすると見られていたけれど、実際には 国内産業のCEOがビジネスに重要なアイテムをTariffの対象外にしてもらう、もしくはTariffを延期してもらうために トランプ氏に様々なオファーをしているようで、某大企業はトランプMEMEコインを1500万ドル分購入。一時的にTariffを逃れたものの、 今週スティールとアルミニウムの25%のTariffが導入され、その努力が無駄になったことがネット上で報じられたのだった。
さらにトランプ氏は、CBSの報道番組「60ミニッツ」が大統領選挙戦中に放映したカマラ・ハリスのインタビューについて、「ハリス側に有利に編集されていた」 という理由でCBSを相手取って、100億ドルの損害賠償訴訟を2月に起こしたところ。この編集は放映時間内に収めるために行われた 政治的意図がないもので、CBSは闘う決意であるものの、親会社であるパラマウント・グローバルが、現在スカイダンス・メディアとの合併を控えており、 トランプ氏の機嫌を損ねれば、合併が阻止されるのは必至。そのため訴訟取り下げの示談金という名目で、CBSがなりの金額を合併成立のために支払うという説が有力。 この訴訟はトランプ氏個人が起こしたものなので、示談金が支払われた場合は全額トランプ氏のものになるのだった。
そんなトランプ氏とは、100万ドルを支払ってマーラゴのプライベート・クラブのメンバーになれば、ディナーやパーティーで同席できることは既に知られているけれど、 今では500万ドルを支払えば、誰もがトランプ氏と個人的なミーティングが出来るオプションが登場。もちろんこれはトランプ氏にプライベートに会う機会が与えられるだけで、 何等かの優遇を望む場合は、それに応じた額を別途支払うのは当然のこと。
ちなみに大統領の年収は40万ドル。第一期政権では、給与は1ドルしか受け取らないと言っていたトランプ氏であるけれど、 その4年間に 大統領の立場を利用して稼ぎ出したのは24億ドル。 第二期で政権では給与について言及していないことから、受け取るものと見込まれ、 アメリカがリセッションに突入しようと、トランプ氏には確実にお金が流れ込むことになっているのだった。



言論の自由とグリーンカードの危機


今週、ニューヨークを中心に全米で大物議をかもしたのが、名門コロンビア大学のキャンパスで昨年続いた親パレスチナ抗議活動を アレンジしたと言われる大学院生、マフムード・ハリルが、国土安全保障省の捜査官によって逮捕された事件。
トランプ氏は就任直後から、昨年ハーバードを含む名門大学で起こった親パレスチナ抗議活動に参加した学生に対し、学生VISAの剥奪と国外追放を宣言しており、 当初捜査官はハリルが学生VISAでの滞在だと思い込んでいたとのこと。しかし彼はグリーンカード・ホルダーで、2年前に米国市民権を持つ歯科医の妻と結婚。現在その妻は妊娠8カ月。 それでも捜査官は、2人が暮らすコロンビア大学所有のアパートでハリルに手錠をかけて連れ去ったとのことで、強制送還は裁判所命令で差し止められたものの、 ハリルはルイジアナ州の刑務所に拘留されているのだった。
ここで問題になって来るのは、マフムード・ハリルが犯罪を犯した訳ではなく、合衆国憲法第一条で保証された言論の自由を行使しただけであること、 そして彼が本来なら強制送還の対象にはなりえない永住権保持者であるということ。 彼の抗議活動は、2023年10月にイスラム系過激派組織ハマスが行った攻撃と人質拉致の報復として、 イスラエル政府がガザ地区で行った大々的な軍事攻撃に抗議するもので、 彼を含む親パレスチナ活動者がサポートしていたのは、ガザ地区のパレスチナ市民。 しかし共和党保守派、及び一部のユダヤ系アメリカ人コミュニティは、この活動を過激派組織ハマスへの支持と受け取る傾向が顕著で、 ユダヤ系CEOがこぞって、「抗議活動を行う大学からは人材を採用しない」、「寄附金を打ち切る」と脅しをかけていたのが2024年のこと。 大学側も、学生の言論の自由を尊重する立場を取ったことで「対応を怠った」と批判され、 コロンビア大学は4億ドルの政府補助金をカットを突き付けられて、トランプ政権の提示する様々な条件の受け入れを公約したばかり。 その中にはデモ参加学生の退学処分、学位取り消し等が含まれているのだった。
現時点でマフムード・ハリルは、不当に身柄を拘束され、強制送還を直面するという極めて理不尽な状況に追い込まれているけれど、 トランプ政権の主張は「ハリルの存在は国家および外交政策上の利益に反する」というもの。 もし彼の身柄拘束と強制送還の正当性が認められた場合、まずグリーンカードというものが永住ビザから何等かの理由で取り消せるテンポラリー・ステータスに変わる判例を作ってしまうということ。 さらに抗議活動が 言論の自由で保証された権利ではなく、犯罪、もしくは国益を損なう行為と見なされた場合には、現在全米各地で起こっているテスラやトランプ政権に対する抗議活動も 犯罪と見なされる訳で、そうなれば テスラへの抗議デモを「ドメスティック・テロ」と呼び始めたトランプ政権にとっては願ったり叶ったりの状況。 通常であれば、アメリカ社会の土台を成す言論の自由とグリーンカードの存在が脅かされるなど 考えられないことだけれど、 常識が通用しないのがトランプ政権の恐ろしい所。
ちなみに2024年にニューヨークで行われていた親パレスチナ・デモ、及び今週始まったマフムード・ハリル釈放を求めるデモにも参加していたのが ごく一般のユダヤ系アメリカ人。企業CEOやヘッジファンダー、大手弁護士事務所に務めるような超富豪を除く NYのユダヤ系は、 昨年中から停戦を求める活動に参加し、ガザ地区のパレスチナ人には非常に同情的。 このことは、ロシアでも一般市民がウクライナに対して極めて同情的である様子に 通じるものがあるのだった。



MAGA FAFOとは? 


今週も教育省のスタッフを半分解雇し、政府職員の大幅削減に余念がないDOGE。しかし裁判所が6つの省庁における数千人の解雇を無効として、 再雇用を命じており、引き続き 効率化省と言いながら 非効率なオペレーションを見せている状況。 DOGEが解雇してきた職員の中には トランプ氏に投票したMAGA、及びMAGAの家族が多数含まれており、 そんな人々がSNS上で「トランプに3回投票したのに…」と嘆いたり、怒りを露わにする様子は 今では珍しくないもの。
民主党リベラル派は、当初はそんな ”脱MAGA”に同情的であったけれど、今では「自業自得」、「あれほど言ったのに」的な 冷たい対応に変わっており、特に3回トランプ氏に投票した”スリータイマー”に対しては、 「コイツらは、絶対に懲りずにまたやる」、「アインシュタインが ”バカとは 同じ事をやって、違う結果を期待する人間だ”と言った通り、3回 トランプに投票するのは 救いようのないバカだ」と、攻撃的になっているのが昨今。
そんな元MAGA、脱MAGAに対して 使われているのが「FAFO」という言葉。 これは「F@#k Around and Find Out」の略で、自分の愚行や無謀な行為の結果、 その代償を支払う結果に直面するという意味で、SNSで使われるスラング。 トランプ氏への投票を後悔する人々については”MAGA FAFO”、 後悔している様子は”Having MAGA FAFO Moment”という風に使うのが一般的。
MAGA、及びスウィング・ヴォーターの後悔は、トランプ氏の支持率低下以外にも現れており、 まずリベラル・メディアの旗印、ニューヨーク・タイムズが2月から、何とレッド・ステーツでサブスクライバーを増やし始めたとのこと。 そして、ポッドキャスト・チャートで過去数年No.1 を維持し、トランプ氏当選にイーロン・マスク同様に貢献したと言われる ポッドキャスター、ジョー・ローガンの「ジョー・ローガン・エクスペリエンス」が4位に転落。 替わってリベラル派のポッドキャスト「マイダス・ダッチ」がビューワ―を1ヵ月で倍増させてジョー・ローガンを抜く快挙を達成。 他にもリベラル系のYouTuber、ポッドキャスターが、めきめきビューワーを拡大する中、 元MAGA、脱MAGAが 解雇やTariffの影響による倒産危機をポストするのは、TikTokやMeta傘下のスレッド、そして 現在ユーザー数を急増させているブルースカイ。
X(元ツイッター)は、”マスクラット”と呼ばれるイーロン・マスクの ファンボーイ&ファンガールの存在を嫌って避けられる傾向にあり、 マスクへの抗議活動は テスラだけでなく Xにも拡大中。
またトランプ氏による無謀なTariffによる批判や抗議は、アメリカ全体にも向けられており、 グーグル検索では先週末からの7日間で ”ボイコットUSA” がカナダとEUで急増中。 これにはアンチ・トランプ派のアメリカ国民まで同調する傾向にあるのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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