July 10 〜 July 16 2023

" Extreme Weather, Strike, AI, Etc."
ストライキ、AI、テスラ・スーパーチャージャー、 Etc.


今週のアメリカで最大のニュースになっていたのが、全米各地の異常気象とそれがもたらした被害のニュース。 週明けからの豪雨で街中が水路になってしまったヴァ―モント州に加えて、ミシシッピー州でも豪雨による大洪水が起こっていたかと思えば、イリノイ州では複数の大型の竜巻で、 家屋やビルディングの屋根が吹き飛ばされ、樹木がなぎ倒される被害が続出。南部と中西部では8600万人の住人にヒート・アラート、 すなわち高温警報が出ていたけれど、中でもマイアミは今週金曜の段階で34日連続で華氏100度、摂氏にして37.78度以上を記録。 ビーチの砂が熱過ぎて、裸足で歩けないほどで、海水の温度も歴史的な温かさ。
同じく高温が続くテキサス州では電力消費の史上最高を記録し、関係者はいつ大停電が起こっても不思議ではないと警告する状況。 ネヴァダ州ラスヴェガスでは今週、街の史上最高気温、47.2度を記録し、旅行者が口々に訴えていたのが靴底の燃えるような熱さ。 それもそのはずで、地面の温度は72度。そのため自宅玄関前の階段に座っている間に火傷を負って、病院に運び込まれる高齢者が出るほどで、 各州とも外出を控えるようにとの呼びかけが市民に行われていたのだった。



遂に俳優もストライキのハリウッド


7月14日金曜の午前零時からストライキに入ったのが、ハリウッドで16万人という最多メンバー数を抱える労組、スクリーン・アクターズ・ギルド(以下SAG)。
ハリウッドでは既に5月からライターズ・アソシエーションがストライキに入っており、その影響で多くの映画やTV番組の撮影が既にストップして久しい状況。 SAGがストライキに入るのは1980年以来のことで、ライターズ・アソシエーションとのダブル・ストライキは1960年以来63年ぶり。ちなみに当時SAGを率いていたのは、俳優時代のレーガン元大統領。 これによって現在製作中の「ライオンキング」や「アバター」の続編、ミュージカル「ウィキッド」、「デッドプール3」といった未来の話題作の撮影がストップ。 ストライキ中は映画館も客足が伸びないとあって、既に封切られて 興行売上が伸び悩んでいた「インディアナ・ジョーンズ」、「フラッシュ」の2本は、 アメリカ国内の興行売上では製作費の元が取れない可能性が濃厚。
来週末に公開を控えている この夏の話題作2本、「バービー」と「オッペンハイマー」についても、スト中はSAGメンバーが プレミア出席を含む、プロモーションを行うことは出来ない規定。そのためストライキ決定のニュースをロンドン・プレミアの最中に知らされた 「オッペンハイマー」に出演するマット・デイモンやエイミー・ブラントといった俳優陣は、早々にプレミアを引き上げており、NYプレミアはキャンセル。 それよりも大きなダメージを受けるのは今後に封切りを控えているサマー・ムービーで、 プロモーション無しの封切りでは芳しい興行成績は望めないのだった。
アクターズ・ギルド、ライターズ・アソシエーション、双方が訴えているのは、ストリーミング・サービスの競争時代に入ってから プログラム量産体制が業界のニューノーマルとなり、俳優やライターは労力の割に見返りも保証も無いどころか、 下っ端になればなるほど給与が下がっている悲惨な状況。逆に映画スタジオやストリーミング会社のエグゼクティブは潤う一方で、双方の組合にとってその利益還元は最大の課題。
加えて重要な争点になっているのが AI導入に際しての組合メンバーに対するプロテクション。 ライター達がチャットGPTに代表されるAIによるスクリプト・ライティングの導入を危惧する一方で、 俳優はAIジェネレートのキャラクターが今後増えることから、俳優のイメージと収入を守る条件を掲げているのだった。
ハリウッドでは、この2つの組合に加えて、ディレクター・アソシエーションもストライキに入る可能性があったものの、こちらは6月後半に AMPTP(Alliance of Motion Picture and Television Producers)との合意に達しており、 トリプル・ストライキは回避されたのだった。しかしディレクターは映画界の管理職とあって、俳優やライターとは異なるポジション。 AMPTPは SAGとライターズ・アソシエーションの要求を「非現実的」と見なしているだけに、ストライキが長引くことが見込まれるけれど、 そうすると少なくとも暫くの間は潤うのはストの原因になっているストリーミング・サービス。
ストの終焉は、話題映画や人気ドラマの製作停止が業界に大打撃を与え映画会社やストリーミング・サービスのエグゼクティブの態度が軟化し、 ストによって生活が成り立たない組合メンバーが妥協をして、落とし所を見つけるタイミングであると見込まれるのだった。



AI、エネミー Or パーフェクト・ワーカー


先週、”ツイッター・キラー”とも呼ばれるアプリ、”スレッド”をリリースしたメタのマーク・ザッカーバーグと、そのリリースに猛反発したツイッターのイーロン・マスクが、 今週に入って共に発表したのが それぞれの新たなAIプロジェクト。
以前からAIに何十億ドルもの開発費を注ぎ、米国AI業界のゴッドファーザーの異名をとるヤン・ルカンをチーフ AI サイエンティストに擁するメタは、 既に普及しているオープンAIのチャットGPT、グーグルのバードに対抗する手段として、オープンソースのAI言語モデルを公開。 これによりスタートアップ企業やデベロッパーが、その技術を使用しながら独自のツールやソフトウェア開発をすることが可能になる訳で、 自社のAIテクノロジーをプラットフォームとして拡大するというユニークなアプローチに乗り出しているのだった。
一方オープンAIの共同創設者でありながら、方針の相違で経営から手を引いたイーロン・マスクは、新たに”xAI”という新企業の立ち上げを発表。 そのチームはかつてグーグル、オープンAI、マイクロソフトのAI部門に所属したエキスパートで構成されているとのこと。先週には「メタがツイッターの元上層部社員を雇って、 ツイッターのコピー・アプリを開発した」としてメタを訴えたイーロン・マスクであるけれど、xAIでは彼も全く同じことを実践しているのだった。
そのAIは日進月歩で能力を高めており、今週にはチャットGPTが、あのレイ・ダリオ率いる世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーターのジュニア・レベルの試験に80%の正解率で見事パスしたとのこと。 現在ブリッジウォーターではトレード戦略をAIに学習させている真最中。 AIのビジネスへの導入も着々と進んでおり、エアbnbでは ユーザーとレンタル物件のマッチメーキングを行いながら、ユーザーのニーズやリクエストに応える ”AIコンシアージュ”を トレーニングしており、実用化は時間の問題。 更にAIは昨今、ドラッグの取り締まりにも活用されており、これが導入されているのは通関プロセス。 今やドラッグは街角でドラッグ・ディーラーから購入するのはなく、オンラインで注文する時代。そして中国から郵送されて来るのが最も一般的な ドラッグ入手ルート。アメリカでは先月6月だけで680キロのフェンタニルが通関時に没収されているけれど、 フェンタニルはモルヒネの100倍の強さで、2021年には7万人以上がオーバードースで死亡している極めて危険なドラッグ。 そのフェンタニルの様々なパッキング手法をAIに学習させることにより、スキャニング画像からAIがフェンタニル入りの荷物を識別するようになっており、 ドラッグの個人輸入を水際で防ぐ手段になっているのだった。
またこのところ悪天候でフライト・キャンセルが相次ぐ航空会社も、AIによるマイクロフォアキャストを活用し始めていて、 これは”GALE”と呼ばれる最新のAIプログラム。このテクノロジーに投資をしながら 既に実用化に踏み切ったジェットブルーによれば、 GALEは郵便番号の区画という極めて小さい単位での気象情報を把握・分析しており、それによってフライト・プログラムを組むことにより 同社は既に月30万ドルのコスト削減に成功していることがレポートされているのだった。
こうして、どんどん賢くなるAIであるけれど、オープンAIのチャットGPT、グーグルのバードは共にユーザーの入力情報を AIトレーニングに使用しているとして、つい最近プライバシー侵害の訴訟が起こされたばかり。
今週には、Eコマースのカストマー・サポートを担当する企業Dukaanが 従業員90%を解雇し、 代わりにAI導入の拡大を発表したけれど、AIの進化によって最も脅かされる職業は、当初見込まれたライター等の文筆業よりもむしろ カストマー対応や監視業務。Dukaan社では顧客の問い合わせ対応をAIに切り換えた途端、その所要時間が98%短くなったとのこと。 監視業務にしても AIは瞬き1つしない上に、休憩も必要無く、人間の集中力や体力では対抗できない監視能力があるのは言うまでもないこと。 カストマー対応に関して言えば、人間が相手だと嫌がらせや、憂さ晴らしで長引かせるクレーマーが、AIが相手だと諦めるというのが所要時間の短縮に貢献しているのもまた事実なのだった。



今週のマネー&ビジネス・ニュース


今週水曜に発表されたアメリカの6月の消費者物価指数によれば、インフレ上昇率は前年比3%。連銀が目標とする2%までもう少しというところ。 今週には中国の景気が期待されたほど盛り上がらず、中国がデフレ状態に入ったことが報じられたけれど、 それと共に報じられたのがアメリカの最大の貿易パートナーが中国からメキシコに入れ替わったニュース。中国からの輸入がここへ来て大きく減ったことで、徐々に是正されつつあるのが 米国と中国の貿易格差。アメリカ&メキシコ間について言えば、アメリカで初期生産したものをメキシコに輸出して仕上げ、それを再輸入するプロセスが 様々なプロダクトの生産工程で行われているとあって、両国間はバランスが取れたパートナーシップであると指摘されるのだった。

アメリカで異常気象以外に 2023年の夏を象徴するキーワードになっているのが ”Summer of Swift”、すなわち”テイラー・スウィフトの夏”。 そう呼ばれるのは彼女のエラス・ツアーがメガ・サクセスを収めているためで、現時点でアメリカ国内のツアーの経済効果の総額は何と46億ドル。 エラス・ツアーの経済効果については6月1週目のこのコラムでもご説明したけれど、コンサート・チケット代だけでなく、 ホテルやレストラン、グッズやコンサート・ファッション等、幅広いカテゴリーに渡るファンの散財ぶりは 「インフレ助長するのでは?」との危惧が連銀関係者からも聞かれたほど。 テイラーのファンであるスウィフティーズ達が こぞってお金を遣っては物価を跳ね上げることを ”ファンフレーション” と呼ぶ経済専門家もいたけれど、 総じて金融&経済専門家はテイラーの名前を出すことで、そのコメントにニュース性を持たせようとしており、そんなことも ”Summer of Swift”と呼ばれる要因になっているのだった。

6月中旬に驚きを伴って報じられたのが、テスラがそのスーパーチャージャーを2024年からGMとフォードのEVに対しても開放するニュース。これによって GMとフォードのEVがアメリカ国内のテスラの1800箇所、2万プラグのチャージャーを使用出来ることになったけれど、 国土の広いアメリカで EV普及のネックになってきたのがチャージャー不足。そのせいで長距離移動が不可能な州もあるほどで、 これまでテスラのアドバンテージになってきたのが 先発として 既に多数のスーパーチャージャーを擁していること。
イーロン・マスクのような 敵に塩を送るようなことをしない経営者がそのアドバンテージを手放す理由は、EV普及という大義名分のためではなく、 チャージの代わりに得られる貴重なデータが欲しいため。テスラのEVチャージャーには複数の穴が開いていて、大きめの穴は電気をチャージするもの。 そして小さい穴はデータ収集の役割を果すもの。 テスラはWiFiとセルラー(4G、5Gの電波)で通信を行っており、ブレーキの利き具合から、エアコンの使用頻度、 車線変更の回数といった運転の癖から、行動半径、ライフスタイル等、今や自動車はドライバー情報がギッシリ詰まったデータの宝庫。 それを他社のEVを含む、アメリカ国内のほぼ全てのEVから取得出来るとあれば、自社のスーパーチャージャー開放は安い代償。
現在テスラは、充電に別モデルのポートを使用しているGMとフォードのEVがテスラのチャージャーが使用できるように アダプターを開発している最中で、 「情報を制する者がEV市場も制する」ことは確実視されるのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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