Sep. 12 〜 Sep. 18 2022

"Boosting Far-Right, Chess Scandal , Patagonia, Etc."
民主党がトランプ極右をサポート、チェス・スキャンダル、パタゴニア企業譲渡の背景、ETC.


今週のアメリカは火曜日に発表されたCPIこと消費者物価指数で、予想よりもインフレが進んでいたことを嫌気して株式市場が大きく値を下げたのに加えて、 金曜ににはFedEx、ジェネラル・エレクトリックスがいずれも大きく悪化した業績を発表。 特にFedExの業績不振は 世界的な需要減速に対する懸念を高めており、金曜の同社株式は24%下落。 その結果、今週の株式市場はダウ興行平均株価が4%、ナスダックが5.5%、S&P500が4.8%の下落を見せていたのだった。
これによって9月21日に行われるFEDこと連邦準備制度理事会で最低0.75%の利上げが確実になっているけれど、 今週のアメリカでは住宅金利が2008年以来初めて6%に上昇。これは昨年同時期の2倍に当たる数字。 これによって40万ドルの家を30年ローンで購入している場合、今年1月に比べて月々の支払いは700ドルアップした計算。 その上にインフレによる食費と生活費、電気代の上昇で、一般市民の生活コストは上昇する一方。 既にリセッションに突入していると言われる米国住宅市場は、過去6ヵ月連続で売上を落としているのだった。



民主党が共和党の極右候補を応援、中間選挙のための意外な戦略


ここ数週間、アメリカで報じられていたのが テキサス、フロリダ、アリゾナといった不法移民が流れ込む州の 共和党州知事が、その移民達をバスに乗せてワシントンDCやニューヨークといったリベラル派が多いエリアに事前通達無しに送り付けてくる問題。 NY市には今週までに1万1000人もの不法移民がテキサスから到着。NYは不法移民を犯罪者扱いしないサンクチュアリー・シティであることから、 シェルターを用意し、亡命申請が迅速に行えるように支援団体が動いているものの、受け入れはほぼパンク状態。
今週にはフロリダのロン・ディサンティス州知事がチャーター機でヴェネズエラからの50人の移民を 民主党・リベラル派が多い高級リゾート地、マーサス・ヴィンヤードに送り付けた一方で、 カマラ・ハリス副大統領の自宅前にもテキサスのグレッグ・アボット州知事がバスで移民を送り付けた様子が大報道になっていたのだった。 これは共和党側にとっては、バイデン政権の移民問題、国境対策の甘さを世論にアピールすると同時に、民主党知事の州に移民問題を押し付ける一石二鳥の効果をもたらすもの。 しかし国境に辿り着いた段階で既に疲れ果てている移民達に対して、政治的嫌がらせのために更に過酷な長旅を強いることについて「ヒューマン・トラフィッキングと同じ」といった批判が集まり始めていたのが今週のこと。

現在 共和党が11月の中間選挙で上院、下院の過半数を獲得するために必死で進めているのが、国民の関心を歴史的なインフレや移民問題に向けること。 今春までは それが確実に実現すると見込まれるほど民主党が劣勢であったけれど、状況が変わり始めたのは 最高裁が人工妊娠中絶の合憲を覆してからのこと。 以来、それに反発する女性や若い世代が民主党を積極的に支持するようになり、今では共和党が奪い返せると見込まれる議席数が激減しているのだった。
そんな中、中間選挙に出馬する共和党候補者を決める予備選挙に、多額の資金を投じていたことが明らかになったのが民主党。 すなわち民主党は敵対政党の候補者の応援に大金を投じていた訳であるけれど、具体的に推していたのはカリフォルニア、ミシガン、ペンシルヴァニア等、民主党候補の苦戦が見込まれる9州の 極右の共和党候補者。 彼らを後押しするために 民主党は5300万ドル以上を費やしており、一部の選挙区では共和党候補が自力で集めた選挙資金の30倍を民主党が応援資金として投じているのだった。
その理由は 極右の共和党候補者が、 妊娠中絶に関してはレイプや近親相姦、母体の生命リスクがあるケースでも違法とする厳しいポリシーを打ち出し、 2020年の選挙結果については、根拠も無しに不正を訴えるトランプ氏の主張をサポートしているためで、こうした極端な極右の対立候補と戦う方が 穏健派中道路線の共和党候補を相手にするよりも民主党候補の勝算が遥かに高まるため。
実際に現時点で中間選挙の大きな争点になると見込まれるのが人工中絶問題。加えて前回の選挙結果に対する不正疑惑の訴え、及びその後の議会乱入を 民主党支持者 及び支持政党無しのインディペンデント層は「民主主義政治に対する脅威」と捉える傾向は顕著。 そのため民主党候補の有権者へのアピールが弱くても、保守極右の対立候補に対して抱く嫌悪感や危機感によって投票意欲を高める戦略に出ていたのだった。
これが意味するのはトランプ氏が後押しした共和党候補の予備選挙での当選が必ずしも中間選挙のレッド・ウェイブ(共和党勢力の圧勝)には繋がらないということ。 しかし万一、この戦略が民主党の意図した通りにならなかった場合は、米国議会は超保守極右に近付くのだった。



バイブレーターを用いたチェス不正疑惑!?


今週大きく報じられたのがチェス・トーナメントの不正スキャンダル。Netflixのヒット ドラマ「クイーンズ・ギャンビット」以来、 以前よりも注目が集まるようになったチェス・トーナメントであるけれど、問題の不正疑惑が浮上したのは9月4日にミズーリ州セントルイスで開催されたシンクフィールド カップの35万ドルの賞金が掛かった決勝。 ここで起こったのがサンフランシスコ出身の無名のニューカマー、ハンス・ニーマン(19歳、写真上左)が ノルウェーのグランマスター、マグナス・カールセン (31歳、写真上右)を破る番狂わせ。
カールセンは世界チャンピオンに5回輝く現在のチェス界の最高峰で、その段階で連勝記録を53まで伸ばしていたところ。それに対してニーマンはトーナメントで最もレーティングが低かったプレーヤー。 しかも過去のトーナメントで複数回不正を摘発されていたこともあり、囁かれ始めたのがニーマンの不正。 その不正手段と指摘されたのが、ニーマンが 肛門に挿入したセックス・トイのバイブレーションによって カールセンに応戦するAIの戦略を遠隔から受信していたというもの。 この不正についてはテスラCEOのイーロン・マスクさえもが ジョークのツイートをして 後にそれを削除しており、メインストリーム・メディアもソーシャル・メディアも大きく報じるニュースになっていたのだった。

ニーマンは過去の自らの不正については「以前は何としても強くなろうとして 必死だった」と認めているものの、「全裸でプレーしろと言われたら応じるし、電波をブロックするブース内での試合も厭わない」と疑惑を全面否定。 しかしこのスキャンダルを受けて 優勝賞金100万ドルのチェス・ドットコム・トーナメントはニーマンの出場停止を決定しているのだった。
ニーマンに対する不正疑惑が浮上した要因は、マグナス・カールセンが 「If I speak I am in big trouble」というタイトルの 意味ありげなYouTubeビデオのリンクと共に 決勝の途中棄権をツイッターで宣言したこと。加えてオンラインでそれまでの決勝を見ていた人々が、 ハンス・ニーマンが何等かのエレクトリック・シグナルを受け取っていた疑いを唱え始めたため。 当初その疑惑は「AIの手 をボタンや靴底のバイブレーションでニーマンに送信する」というものであったけれど、 それが「肛門から挿入したセックス・トイによるバイブレーション・シグナル」という説に化けた途端に 「そういう手段もあるか…」とばかりに その疑惑が 半ば事実として山火事のようにメディア&ソーシャル・メディア上に広まったのが今週。 この疑いを立証する証拠は現時点では一切無いだけに ハンス・ニーマンは「自分をチェス界から追い出す策略」と猛反発していたけれど、 これをきっかけに彼の知名度が一気に高まったのもまた事実。今後のカールセンとの再対決に大きな関心が集まることも確実視されており、 チェス業界にとっては格好のパブリシティになっていたのだった。



パタゴニア企業譲渡の背景


今週、世界各国で大きく報じられたのがアウトドア・アパレルのパタゴニアの名物オーナーで、現在83歳の イヴォン・シュイナードが、1970年に自らが創設し、今や30億ドル企業となった同社を 特別信託と非営利団体に 譲り渡したニュース。
登山家でありサーファー、熱心な環境保全家として知られるシュイナードによれは、パタゴニアを譲渡した特別信託と非営利団体は 長年環境問題と向き合って来た彼が選んだ信頼できる組織であるとのこと。 でもそのオーナーシップを子供達に相続させなかった本当の理由は、多額の贈与税、相続税を支払うよりも、その分を環境対策に注ぎ込むため。
もしシュイナードの子供達が経営権を相続した場合、支払う相続&贈与税は企業価値の3分の1に当たる10億ドル。 しかし税法で「501(c)(4)オーガニゼーション」とカテゴライズされる 特別信託と非営利団体に譲渡した場合、シュイナードは贈与税を支払う義務はあるものの その額は遥かに安い1750万ドル。しかも信託の決議権株式は押さえていることから、譲渡後もシュイナードは企業方針の実権を握ることが可能になっているのだった。

パタゴニアは 本来なら株式公開が出来る企業規模を誇りながらも、シュイナードは「地球こそが自分達の唯一の株主」として、金銭的な利益よりも 「環境保全による自然からの恩恵」を追求する経営で知られ、「必要無ければ自社製品を買わないでください」という普通ならあり得ないキャッチコピーの広告を展開したのは有名なエピソード。 また同社は、Reduce (長期使用に耐える商品を提供し、無駄な購買を減らす)、 Repair (パタゴニア製品の修理)、 Reuse (不要なパタゴニア製品を回収し、ニーズがある人々に寄付する)、 Recycle (古くなったパタゴニア製品を引き取り、リサイクルする)、 Reimagine (世界を考え直す:自然を破壊せず、再生可能な自然だけを享受する) という ”5R” のポリシーを掲げ、それを業務の中で実践してきた 環境問題の数少ない有言実行企業であり、 環境コンシャス企業のモデルと言える存在。
そのパタゴニアが今週発表したオーナーシップの譲渡については、「政府主導の環境問題への取り組みでは もはや手遅れになりつつある」危機感と受け止める声も聞かれており、 今後プライベート・セクターがさらに積極的に環境への取り組みをする必要性をアピールしていたとも言われるのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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