Aug. 1 〜 Aug. 7 2022

"Pelosi, Tiffany, B.Pitt, Etc."
ペロシ台湾訪問と半導体株、ティファニーのNFTジュエリー、B.ピットのスカート着用インパクト、Etc.


今週火曜日には複数の州で11月の中間選挙に備えて民主、共和の候補者を絞り込む予備選挙が行われていたけれど、 そんな中、通常の予備選の2倍の投票者数を記録したのが カンサス州で行われた人工妊娠中絶の是非をめぐる投票。
最高裁で妊娠中絶が違憲と判断され、中絶に関する判断が各州政府に委ねられて以来 初めてとなるこの投票には全米の関心が寄せられていたけれど、 結果は事前の予想を覆して 59%が人工中絶違法化に反対票を投じ、英語で”プロ・チョイス”と呼ばれる中絶支持派の圧勝となっていたのだった。
カンサスは俗にレッド・ステーツと呼ばれる共和党保守派が極めて多い州。州内には中絶クリニックが4軒しかないことからも分かる通り、 既に人工中絶が厳しく取り締まられ、ただでさえ少ないクリニックが政治圧力による迫害さえ受けて来た州。 そのカンサスで約6割の人々が中絶違法化に反対したというのは 政界関係者にとってもショッキングな数字で、 妊娠中絶の次は、同性婚、やがては避妊に至るまでの覆しを掲げ始めていたエクストリームなキリスト教保守派共和党議員にとっては、 有権者の大半が 彼らの掲げる極右スローガンを支持していない実情を突きつけられた投票結果。
しかし金曜には、共和党議員が多数を占めるインディアナ州議会で 妊娠中絶を全面禁止する法案が可決。 カンサスのように州民投票が行われるケースは少ないだけに、今後レッドステーツが続々と妊娠中絶禁止に動くことが見込まれるのだった。



ナンシー・ペロッシ台湾訪問と半導体株売却のシナリオ


今週アメリカ、アジア諸国でも大きな報道になっていたのが、ナンシー・ペロシ下院議長の台湾訪問。 米国政府高官の台湾訪問は1997年のニュート・ギングウィッチ下院議長以来のもので、台湾を自国領土と見なす中国政府は 当然の事ながら この訪問によって台湾が独立国家と見なされるのを嫌い、シー・ジンピン国家主席が 訪問がもたらす二国間の関係悪化をバイデン大統領との2時間に渡る電話で事前警告していたのだった。 ホワイトハウス関係者は非公式ながらも この訪問を「不必要」と語り、バイデン氏もデリケートなタイミングでの訪問に難色を示し、 台湾国内でも「中国を刺激しないでほしい」という世論が聞かれた中、何故か共和党上層部が全面的にサポートしたのがこの訪問。
メインストリーム・メディアは 中国が台湾に対して軍事行動を起こした際の アメリカによる全面的サポートの約束をペロシ議長の訪問目的として報じていたけれど、 インターネット上のニュースがフォーカスしていたのは、ペロシ議長の夫で 個人資産1億3000万ドルと言われる投資家 ポール・ペロシが、 7月26日に 半導体メーカー Nvidia/エヌビディアの2万5000株、410万ドル相当を売却して、34万1365ドルの損失を計上していたことなのだった。 この売却は バイデン大統領が8月9日に署名予定の ”Chip Act/半導体法案” を懸念したものと言われ、 一部ではインサイダー取引を疑う声も聞かれるもの。法案自体は半導体の国内生産推進、及び研究費用として530億ドルの政府助成金を提供するもの。 その中には半導体生産工場建設資金の税額控除も含まれているのだった。

パンデミックを機に起こった半導体不足で 自動車を始めとする数多くの業界が製造困難とコスト上昇に見舞われたのは周知の事実。 その状況が2024年まで続くことから 世界各国が悟ったのが 半導体が石油同様に現代社会の生命線であるという事実。 そのため 遅まきながら半導体のアメリカ国内生産を強化しようというのがこの法案で、 恩恵を受けるのはインテル、テキサス・インストゥルメンツ、ミクロン・テクノロジー等、既に半導体の国内生産をしている企業。 これに対してNvidia、Xilinx/ザイリンクス、AMDといった企業は、半導体業界で ”Fabless/ファブレス” とカテゴライズされる工場を持たないメーカー。 ファブレスのために 半導体生産を引き受けているのが台湾や中国の ”Foundry/ファウンドリー”と呼ばれる製造業者。
チップ法案により Nvidiaを含むファブレスの半導体メーカーは 今後 大金を投じて国内生産に切り替える、もしくは助成金や税額控除の無いハンディを背負うという不利な二択に追い込まれる訳で、 ポール・ペロシがNvidia株を売却したのは それを見込んでの判断と言われるのだった。 しかしNvidia株は彼が売却した7月26日が昨今の最安値で、その後株価が上昇中。逆にチップ法案で最も恩恵を受けるはずのインテル株価は近年最低のレベル。 現時点では何故かチップ法案の株価への影響はさほど見られていないのだった。

もちろん半導体法案が可決されても、アメリカのファブレス・メーカーは 世界の半導体の40%を生産する台湾のファウンドリーへの依存が続くのは明らか。 そのためペロシ議長の台湾訪問は 法案成立後も台湾ファンドリーに対するアメリカのサポートを示す目的を兼ねていたという見方もあるけれど、 米国の空母グループが南シナ海を航海する中、米国高官が台湾を訪問するのはやはり中国を不必要に刺激する行為。
その中国では春先から 暗礁に乗り上げた300以上の不動産開発へのローン支払いボイコットが広がり、それが地方銀行のキャッシュ不足を招いてバンクラン(預金凍結)が起こり、 政府は昨年12月に米ドル債権の不渡りを出した不動産大手のエバーグランデを何とかテコ入れして これまで中国経済を支えてきた不動産業界全体の危機を回避しなければならない局面を迎える中、経済成長がスローダウン。 その一方で スリランカに続いてキルギスタンも 一帯一路イニシアチブで中国から受けた数十億ドルの融資返済が滞る見込みで、今後同様の事態が見込まれる国々は決して少なくないのが実情。 そんな中国にとって、西側諸国への半導体供給を担う台湾を自国領土として しっかり押さえておくのは、三期目を迎えるシー・ジンピン政権にとっては 対外政策であり国内政策。
既に中国はアメリカに対する制裁アクションに出ているけれど、今回の訪問以前にも アメリカではマクロ経済の見通しを語る経済専門家が、 今後の不確定要素として異口同音に中国・台湾情勢を挙げる傾向にあったのは紛れもない事実。 もしペロシ議長の台湾訪問が 今後の軍事展開のトリガーになった場合、 ロシアのウクライナ侵攻により世界規模で見舞われた石油、天然ガス、肥料、小麦不足が、 今度は既に不足が深刻な半導体で起こる訳で、「リセッションで済むはずの経済ダメージがディプレッションになるかもしれない」とさえ言われるのだった。   



ティファニーのNFTジュエリー


今週金曜に発売され、あっという間に完売したのがティファニー初のNFTコレクション。 とは言ってもティファニーがクリエイトしたのはNFTのジュエリーではなく、 The Bored Ape Yacht Club / ザ・ボアード・エイプ・ヨット・クラブ (写真上左)と並ぶ NFTのブルーチップ、クリプトパンクスのNFTを 18Kゴールドとプレシャス・ストーンでリクリエイトしたラグジュアリー・ペンダント。
クリプトパンクスは 2017年に製作された24×24ピクセルの絵文字キャラクターのNFTシリーズで、その数は1万ユニット。 個々のキャラクターやその希少性によって価格が異なり、億円単位の値段が付くケースも珍しくないNFTアート。 ティファニーの企画は、クリプトパンクスNFTの所有者に限定して 所有しているキャラクターのペンダントを製作するというもので、 250ユニット限定、すなわちペンダントを製作してもらえるのは250人のオーナーのみ。 お値段は30ETH(30イーサリアム=約5万ドル)。 これが発売と共にあっという間に完売したことから、ティファニーは数時間で1250万ドルを売り上げた計算になるけれど、 更にティファニーには クリプトパンクスのNFTがペンダントと共に別オーナーに売却される度に ライセンス料が支払われる仕組み。 NFTは オープンソースで記録が改ざん出来ないブロックチェーン上で取引されるとあって、 売買の度に確実にライセンス料が請求できるのだった。ちなみにペンダントの出荷は2023年初頭とのこと。

ビットコインを含むクリプトカレンシーの価格が大きく下落する中、ブルーチップのNFTはその財産価値を維持しているけれど、 メタヴァースにおいて商品、財産になるだけでなく、IDを含む証明書の役割を果たすのがNFT。そして通貨の役割を果たすのがクリプトカレンシー。 メタヴァース、ウェブ3への取り組みは グッチ、ルイヴィトンといった一流ブランドから、ディズニー、マクドナルド、コカ・コーラ、 J.P.モーガン・チェイスまでがスタートしているのは既にメディアが報じてきた通り。 またクリプトカレンシーに関しては ベア・マーケットの時ほど ビジネス間の動きが激しいのは毎度のことで、 今週には世界最大のアセット・マネージメント会社、ブラックロックが 同社投資家のダイレクトなクリプトカレンシー取引を可能にするため、大手クリプト取引所 コインベースとのパートナーシップを発表したばかり。
それ以外にもVC(ヴェンチャー・キャピタリスト)の資金は引き続きクリプト・プロジェクトに注がれ、今後の政府規制に向けたロビー活動にも 多額の資金が投じられる中、インフレが深刻なキューバでは既に日常生活の支払いにビットコインとイーサリアムが使用され始めているのが現状。
クリプト市場自体は リリーフ相場の後 もう一段の下げがあるとも言われるけれど、クリプトカレンシー自体は存亡の危機に陥ることは無いのだった。



B.ピットの着用でメンズ・スカートが市民権を得る?


今週、ファッション界のみならず大きな話題を提供したのが、ブラッド・ピットが映画「ブレット トレイン」のベルリン・プレミアにスカート姿で登場したこと。 男性のスカート着用は 今時決して珍しいことではなく、ゲイでファッショニスタとして知られるビリー・ポーターがオスカーに巨大なスカートのタキシード・ガウンで登場したのは2019年のこと。 昨年にはシンガーのハリー・スタイルがヴォーグ誌のグラビアでドレス&スカート姿を披露していたけれど、彼のようなジェンダー・フルイド・ドレッサー以外でも オスカー・アイザック、ピート・デイヴィッドソン等が フォーマル・オケージョンにスカートで登場し、一般男性のファッショニスタもごく自然にスカート・スーツを着用。昨今ではラッパーのA$APロッキーのように 女々しさとは全く無縁のセレブまでもがスカート姿でスナップされても 誰も驚かない時代。
そんな中、今週のブラッド・ピットのスカート着用が大きな話題になったのは、彼としては珍しいワードローブのチョイスであったことに加えて、 ブラッドのようなゲイでもなく、取り立ててファッショニスタという訳でもない50代の男性が スカートを着用することで、 今後メンズ・スカート市場の拡大に拍車がかかることを予感させたため。
アメリカではNFLクォーターバックの トム・ブレイディが30代で薄くなった頭髪をカバーするために植毛を行って以来、 それまで植毛を「男のやることじゃない」と毛嫌いしていた一般男性が 先入観を捨てて 行うようになったという前例があるけれど、 一般男性に新しい概念が広く浸透するのは、男性達が一目置く存在がそれを違和感無く取り入れた時。

ちなみにブラッドが着用したリネンの膝丈スカートと そのマッチング・ブレザー、インナーのリネンのボタンダウンは NYを拠点にする無名のデザイナー、 ハーンズ・ニコラス・モットの作品。ブランドにはウェブサイト、ソーシャル・メディア・アカウント、メール・アドレスや電話番号さえなく、 取り扱い店舗も無し。紹介者だけを相手にしたビジネスなので、「ブラッド・ピットが着用した翌日には完売」というようなことは無かったけれど、 逆に セレブが着用したものを 盲目的に我先にと購入することを愚行と見なす人々の間では、 「インターネット上では探せない」という全く新しいステータスとして認識されていたのがブラッドのスカート・スーツ。
その後行われたLAプレミアで、スカート・スーツを着用した理由についてプレスに尋ねられたブラッドは、「皆いずれ死ぬことになるから、その前にいろんな事をやってみるっていう感じ」と答えたけれど、 スカートを着用していたベルリンのプレミアで 同じ質問をされた時の彼返答は 「Breeze(風通し)」。 この夏のヨーロッパの記録破りのヒートウェイブに加えて、燃料不足が深刻なドイツの節電状況を考えれば 納得のリアクションであるけれど、 実際に膝丈パンツよりも遥かに涼しいのがスカートで、これは既にスカートを着用している男性達が一様に指摘するベネフィット。 そのため猛暑の中で体温を下げる手段として メンズ・スカートが普及しても不思議ではなく、 異常気象が作物の収穫を左右し、自然災害によって人々が住むエリアを変えざるを得ないように、気象変動が今後も人類の衣食住全てに 更なる影響を与えることが見込まれるのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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