Apr. 25 〜 May 1, 2022
アマゾン ビジネスに陰り?、ツイッターが言論無法地帯に!?、フロリダVS.ディズニー
今週のアメリカでは大手企業の2022年第1四半期の業績が次々と発表されたけれど、
アマゾン、インテルなど一部のハイプロファイル企業の業績が不振であった以外は、殆どがウォールストリートの予測を上回る利益を上げ、
S&P500社は平均で前年比7%アップを記録。そんな中、木曜に発表されたアメリカの2022年第1四半期のGDPはパンデミック突入時の2020年以来となる
1.4%のマイナスを記録。アメリカは2021年第4四半期で6.9%の成長率を見せ、2021年度にはGDPが1984年以来の高水準である5.7%上昇を記録していただけに、
この数字は市場関係者にとってサプライズの数字となっていたのだった。
そして今週も乱高下を見せていたのがダウ工業平均株価で、長引くウクライナ情勢、国内の労働者不足と人件費高騰、中国のロックダウン、
そして何より連銀の利上げという不安材料を抱えて金曜にはダウ平均が939ポイント下落。
4月を通じてダウ平均は5%下落、NASDAQは2008年以来となる13%の下落、S&P 500も9% 価格を下げて 2020年3月のロックダウン開始時以来の最悪の成績を記録しており、
リセッション突入まで秒読み段階と言われたのが今週なのだった。
アマゾンのビジネスに遂に陰り?!
木曜の株式取引終了後に発表され、ウォールストリートにショックを与えたのがアマゾンの2022年第1四半期の業績。
それによれば、アマゾンは今四半期に38億ドルの損失を計上しており、損失が出たのは2015年以来のこと。
これを受けて金曜のアマゾン株価は14%下落。これは1日の下げ幅としては2006年ぶりのもので、業績のスローダウンは2001年のドットコム・バブルが弾けた時以来のもの。
アマゾン株式11%を所有するジェフ・ベゾスは金曜1日だけで200億ドルの個人資産を失い、資産総額1500万ドルになったことから、
世界長者番付でLVMHのベルナール・アルノーに抜かれて第三位に転落しているのだった。
アマゾンにとって業績不振最大の要因になっていたのは、電気自動車会社、ラヴィアン・オートモーティブ(写真上、中央)への投資で76億ドルの損失を出したこと。
それ以外にもEコマース部門が北米で約16億ドル、その他の全世界で13億ドルの営業損失を計上。
加えて昨今のインフレ絡みの支出が2億ドル、生産性低下による出費も4億ドル増えたこともレポートされているけれど、
Eコマースの売上自体は7%アップ。しかしこの数字も昨年同四半期の44%アップに比べると極めて物足りない数字となっているのだった。
アマゾンは2020年のパンデミック中のロックダウンで恩恵を受けた企業の1つで、人々が外に出ず 全てをオンラインで購入するようになったことから、
その需要に対応するために2021年に数十億ドルを投じて新たなウェアハウスを建設し、従業員数も2倍に増やしており、人手不足の中で人材を集めるために
人件費を大幅に増やしたところ。その一方でNYのスタッテン・アイランドのウェアハウスでは同社史上初の労働組合が誕生。他のウェアハウスでも同様の
労働組合結成のアクションが起こっており、現在アマゾンはそれを阻止する訴訟を起こしてはいるものの、今後避けられないと見込まれるのが人件費の更なる高騰。
政府のデータによれば、アメリカ国内のオンライン・ショッピングの売上は今年2月、3月と2ヵ月連続で減少しており、
その理由の1つはインフレが家計を圧迫した結果、簡単にショッピングをしなくなっていること。さらには過去2年間続いた 家でネットフリックスを観てオンライン・ショッピングをするライフスタイルに飽きた人々が、
外出をするようになり、それまでオンライン・ショッピングに費やしてきたお金がレジャーや旅行の費用に当てられる傾向も顕著。
そのためアマゾンがパンデミック中に行った急速なウェアハウス拡大と従業員増加は陽の目を見ることなく、コスト上昇の要因になっているのが現在。
アマゾンでは第1四半期中にガソリン代の高騰、トラック・ドライバー不足の配送コストの増大を受けて、アマゾン・プライムのメンバーフィーを118ドルから138ドルに値上げ。
それでも今四半期中に数百万人の新たなプライム・メンバーを増やしており、現在アメリカのアマゾン・プライムのメンバー数は日本の人口より多い1億4860万人。
2017年からの5年間で49.5%も増加している計算になるけれど、プライム・メンバーが増えるということは アマゾンにとっては注文から1〜2日で配達しなければならい利用客が増えることを意味しており、
インフレ、消費者のライフスタイル変化、人件費高騰などのマイナス要因が 今後アマゾンのビジネスに大きく影響することは確実視されているのだった。
ツイッターが”フリースピーチ=言論無法地帯”になる日!?
今週月曜に成立したのがテスラCEO、イーロン・マスクによる440億ドルでのツイッター買収。マスクはその買収費用を工面するために、
今週火曜、木曜に合計85億ドル相当のテスラ株を売却。ローンを提供した銀行に対しては、エグゼクティブの給与カット、大幅レイオフで
コストを削減し、新たな収入源を確保することを約束。これを受けてツイッター社員に対しては、現マネージメントから「今の仕事が保証出来るのは買収プロセスが終わるまでのあと6ヵ月程度」との
通達がされているのだった。
さらに「フリー・スピーチの復活」を掲げるマスクは、ツイッターのアルゴリズムをオープンソースにし、センサーを排除することも約束しており、
買収後に真っ先に彼がツイートで攻撃したのが これまでツイッター社内でセンサー・ルールを定めて来たマイノリティ人種のトップ女性弁護士。
その途端にツイッター上には その弁護士に対する人種差別、女性蔑視、脅しや暴力をプロモートするツイートが溢れており、
「マスク経営下でのツイッターの姿を垣間見せている」との声が聞かれていたのだった。
こうした様子にツイッター社内では「暴力、レイプ、児童虐待のポストや、選挙に影響を与えるデマや誤情報を放置するのか?」と猛反発が見られており、
同時に聞かれていたのが かつて悪質なツイートを野放しにしていた時代の悪夢や、そのセンサーのプロセスが如何にモラルとテクニカルの見地から困難であったかを訴える声。
また広告主にとっては、センサーが排除されることは自社広告が 幼児性的虐待やテロリストによる処刑ビデオの横に掲載されるかもしれないリスクを意味するのだった。
マスク側はツイッターをプライベート企業にして、取締役会や広告主の意向で言論の自由が妨げられない環境を整備すると同時に、ロボットによるツイートやリツイートを排除する手段として
ツイッターをサブスクリプション・ベースにすることを検討していると言われ、これを行う場合に必然的に生じるのがKYC(Know Your Customers/ユーザーのID認証)。
すなわち無料で匿名アカウント、フェイクアカウントを作り、幾らでも勝手なことがツイートできる時代が終わることになるけれど、
もし将来的にマスクがツイッターを何等かの理由で売却した場合、ユーザーの個人情報、及びそのライフスタイルや政治思想を反映したツイート・ライブラリーが全て買収先の企業に渡り、
それらのデータがどう使用されるかの保証は全く無いというリスクも伴うのだった。
現時点ではアメリカ国民の過半数が好感していると言われるマスクによるツイッター買収であるけれど、特に好感しているのは保守右派。
中でも中西部の保守派貧困層の80%以上がこの買収を支持しているけれど、もしツイッターが有料になった場合、料金によっては真っ先にユーザーから締め出されてしまうのがこれらの人々。
逆にリベラル派、民主党支持者はこの買収には意見を決めかねている人々が多いと言われるけれど、今週には過去最多Like、及びリツイートの記録を複数回打ち立てたオバマ前大統領、
およびNY選出の民主党若手下院議員、AOCことアレクザンドリア・オカジオ・コルテスらが軒並みフォロワーを大きく減らした一方で、
ドナルド・トランプJr.、フロリダ州知事で2024年の共和党大統領候補でもあるロン・ディサンティスらがフォロワーを増やす現象が起こっており、
イーロン・マスクが掲げるフリー・スピーチが右寄りになるのは時間の問題と言われるのが現在。
保守派が今回の買収を歓迎した理由の1つは、2021年1月6日の議会乱入以来ツイッターから永久追放されたトランプ前大統領が復帰できるためであったけれど、
そのトランプ氏は先週の時点でツイッターへの復帰を拒み、今週には遂に自ら立ち上げたソーシャル・メディア・プラットフォーム「トゥルース・ソーシャル」に初のポストをしているのだった。
フロリダVS.ディズニーの無益な対決
過去3週間に渡って続いているのがフロリダ州とディズニーの対決。事の発端は、共和党保守派のフロリダ州知事、ロン・ディサンティスが
俗に言う”Don't Say Gay”法に署名したこと。
この法律は小学校3年生以下に対して幼稚園や学校で州のガイドラインに従わない性別、及び性別意識の教育やディスカッションを禁じる法律で、
早い話がLGBTQの子供達に生まれならの性別を押し付けるもの。
これに対しては各方面や様々な企業から批判が寄せられていたものの、
フロリダ州に最も大きな影響力を持つディズニーが当初沈黙を続けたことから、社内スタッフがこれに猛反発を見せ、
遂にディズニーが正式抗議に動いたのは2週間前のこと。それに腹を立てたディサンティス知事は、リベンジとばかりに
フロリダ州で過去50年以上続いたディズニーに対するスペシャル・ステータスを剥奪する法案に先週サインしており、同社を目の敵にするアクションに出たのだった。
ディズニーが受けていたスペシャル・ステータスは税制優遇に加えて、ディズニー・ワールド周辺を事実上の自治区扱いにするというもの。
ディズニー側は今週に入ってからスペシャル・ステータスが剥奪される場合、同社が抱えるフロリダ州債権20億ドル分の債務が
州側に生じることを警告。またディズニーは自治区エリアの警察、消防、行政費用を負担していることから、スペシャル・ステータスが取り除かれて一企業という立場になった場合、
現地の住民税が平均的な4人家族で年間2200〜2800ドルアップすることも専門家によって指摘されているのだった。
加えて同エリアではディズニーのバックアップを得てソーラー発電の大々的なプロジェクトが進んでおり、ディズニーが手を引けばプロジェクトがストップするだけでなく、
多数の失業者が出る事態を招くことは必至。
ディズニー側はステータス剥奪を不服として裁判で争う意向を示しており、これについては保守派弁護士でさえも
「ディサンティス知事が行っているのは”Don't Say Gay”法を批判したディズニーの言論の自由を脅かす行為」と批判し、ディズニー側に勝算があるコメントをしているのだった。
しかしディサンティス知事は、2024年の大統領選挙出馬のために 保守層の支持基盤固めを狙って このところ極端なまでのアンチWOKE政策に出ている真最中。
”Don't Say Gay”法と共に彼がプッシュしているのが CRT(クリティカル・レース・セオリー)の取り締まり。CRTは本来、奴隷制を含む歴史的な人種差別の背景を教育課程で学ぶことにより、
人種差別撤廃を目指すためのものであるけれど、ブラック・ライブス・マターの抗議運動が高まって以来、保守右派が「CRTは白人学生に人種的な罪悪感を植え付ける洗脳」という反発を展開。
その結果、保守派が学校図書館や市立図書館で 奴隷制時代の小説や、人種問題に関するの歴史書などを禁書にする事態が起こっており、
そのムーブメントを先導しているのがディサンティス知事。
先週にはフロリダ州が採用している54冊の数学の教科書に「CRTが用いられている」として使用禁止処分にする大胆な措置に出たばかりで、これを熱烈に支持しているのが
パンデミック中に子供達のマスク着用&ワクチン接種義務を嫌ってすっかり保守右派に傾倒した白人層の母親達。
ディサンティス知事は大統領選を視野に入れて、ここでWOKE企業のディズニーには負ける訳には行かない立場であるだけに この問題はまだまだ尾を引きそうな気配なのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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