Mar. 14 〜 Mar. 20, 2022
プーチンのメンタリティ,文化財攻撃の背景,暴騰するニッケル市場の問題, ETC.
今週のアメリカでは、水曜に連邦準備制度理事会が3年ぶりに0.25%の利上げを発表。それによって今週中に4%を超えたのがアメリカの住宅金利。
しかし年明け段階から「3月に0.25%の利上げ」と言われ続けてきたとあって、株式市場へのインパクトは殆ど無し。
2022年中には連邦準備制度理事会があと6回行われ、その都度見込まれるのが同様の利上げ。年末の段階では1.9%の金利が見込まれるけれど、
ロシアのウクライナ侵略によって原油価格が上がり続けているだけに、これによってどれだけインフレが抑制できるかは微妙なところ。
一方西側諸国の経済制裁を受けた緊急措置で金利を9.5%から20%に引き上げたロシアは、2月の段階でインフレが前年比で9.15%加速。ここまでの高金利でも
銀行から預金を引き出す人々が後を絶たない一方で、今週までに西側諸国の400の企業がロシアでのビジネス停止、もしくは撤退を表明していることから、
営業終了前のそれらのストアに 閉店セールなどしなくても大勢の人々が溢れていたのが今週。
既に一部のモスクワのスーパーでは 埋まらない食料品の棚が出始めており、今後ロシアで見込まれるのがインフレで商品価格は上がるものの、
その商品が店に並ぶことが無いゴースト・インフレ状態。
そのロシアは2021年の時点で 西側諸国より深刻なインフレに陥っていたけれど、2014年のクリミア戦争の経済制裁以降、アメリカ企業を中心にロシアから手を引いたビジネスが少なくなかったことから、
それ以降のロシア経済の年間成長率は平均で0.3%。これはグローバル・アヴェレージの2.3%を大きく下回るもので、
今回の経済制裁に際しては 各国の主要セクター関係者が「ロシアの経済規模は想像よりも小さい」というリアクションを示していたのだった。
ウクライナ抗戦とプーチン大統領のメンタリティ
ロシア軍がウクライナへの侵攻をスタートして今週で3週目。
今週もウクライナの悲惨な戦争状態が伝えられ、木曜の時点での一般市民の死者数は1834人。しかし今週一時的にも伝えられたのがウクライナ国民による一丸となった応戦ぶりがロシア軍の優位に立った報道。
今週までに約900発のミサイルを放ったロシア軍は、徐々にソビエト時代の古い武器を使い始めているとのことで、欧米の軍事関係者は中国の軍事援助さえなければロシアの武器が底を着き始めていると指摘。
過去2週間、戦死者数の発表を控えているロシアであるけれど、その数は今週の時点で約1万7000人、そのうち1万2949人がロシア兵、残りがロシア政府に雇われたコントラクターの兵士。
加えて週末までにロシアの将軍5人が死亡に追いやられているのも特筆すべきポイント。
現時点で西側諸国が提供する武器で ロシア軍に最も大きなダメージをもたらしているとウクライナ兵が語るのが写真上左のジャヴェリン。
その一撃がロシアの戦車を粉砕する様子が度々ビデオに捉えられているけれど、今ではウクライナで多くの人々がその名を知るようになった武器がジャヴェリン。
アメリカは前回の武器提供で2600ユニットのジャヴェリン、600以上の携帯式防空ミサイルシステム、スティンガーを送付しており、
今週議会で可決された8億ドルの軍事援助で 更にその数を増やすのに加え、戦闘機能のあるドローンを提供するとのこと。
アメリカの軍事専門家は、ウクライナ政府が望む上空の飛行禁止区域指定やポーランドによる旧式のミグ・ジェット戦闘機の提供よりも これらの武器の方が有効な抗戦手段になると指摘するのだった。
ウクライナに対してはアメリカ以外にもドイツなど約30カ国が軍事援助をしているのに加えて、ウクライナ民兵の士気は一般市民をターゲットにしたロシア軍の攻撃により
むしろ高まっていることが伝えられる中、不足が伝えられ始めたのが食糧。ロシアの空爆により食糧備蓄庫が2回攻撃され、大量の食糧が失われたことが伝えられたのが今週。
また今週にはバイデン大統領がプーチン大統領に対して初めて「War Criminal / 戦争犯罪者」という言葉を使ったけれど、
これだけ罪の無い市民を巻き込んだ攻撃を行っても プーチン氏を戦争犯罪者として訴追するには、まだまだ長い捜査と手続きが必要であることは
今週行われたスピーチでゼレンスキー大統領もフラストレーションを露わにしていたのだった。
その一方でNATO諸国が深刻に危惧するのが、生物化学兵器、最悪の場合 核ミサイルをプーチン大統領が使用すること。
今週末にはプーチン氏がロシアの最高幹部、及び同盟国に核非難訓練をするよう通達する一方で、
核兵器の惨事の中でも飛行可能な”Flying Kremlin / フライング・クレムリン”と呼ばれるエアクラフトの使用準備が進んでいる様子が情報筋によって伝えたとのこと。
さらに金曜にはロシアのワールドカップ・スタジアムでクリミア戦争8周年のイベントが行われたけれど、これに姿を見せたプーチン氏の様子から、
再びその複数の健康問題を指摘する声が高まっていたのが今週末。
そのプーチン氏はネズミが徘徊する共同住宅で貧しい少年時代を送っており、やがて彼が観察するようになったのがネズミの生態。そしてある日部屋の角に追い詰めたネズミが猛然と自分に飛び掛かってきたことで
覚えた恐怖に大きな衝撃を受けており、以来、追い詰められた時ほど激しく戦う哲学を貫いてきたのがプーチン氏。これは欧米で出版されているバイオグラフィーに記され、
プーチン氏を語る際に頻繁に登場するエピソード。
それだけに現在プーチン氏が置かれた状況、健康状態を考慮して、「プーチン氏が核兵器使用に踏み切ったとしても 決して不思議ではない」という声は少なくないのだった。
歴史あるものほど攻撃対象になる!? ヘリテージ・ワー
ウクライナからは既に350万人近くの国民が国外に避難したことが伝えられるけれど、
国内に残留する人々がロシア軍との戦いと共に行っているのが、ウクライナに2万箇所以上あるミュージアム、教会、図書館、墓地、モニュメントを含む同国の歴史的、民族的、文化的アイデンティティの保護活動。
先週にはキーウから50マイル離れたイヴァンキフ博物館がピンポイントのターゲットとしてロシア軍に攻撃されていたけれど、
既に幾つもの美術館、博物館、モニュメント、教会がターゲットにされており、その都度失われてきたのが貴重な建造物やアートの数々。
そのため街中の銅像をサンドバックで囲んだり、デリケートな建物にプロテクションを取り付けたり、美術館の絵画や彫刻を別の場所に移す作業が急ピッチで行われているのが現在。
この活動をアメリカから遠隔でサポートしているのがスミソニアン美術館の文化財保護部門。スミソニアンはイラクやシリア等の文化財保存にも寄与しており、
そのサポート内容は貴重なアートや文化財の移動やパッキングについての指示に始まり、将来的に責任追及をするための文化財のコンディション、及びそのダメージのドキュメンテーションなど 多岐に渡るもの。
加えてヴァージニア自然史博物館の文化財モニター・ラボではサテライト映像で、ウクライナ全土の文化財の位置とその状況を随時モニターしているけれど、
文化財が攻撃ターゲットになっていることはそのモニター・データにも如実に現れているとのこと。
第二次大戦の際にはアメリカ軍が歴史的建造物の価値を重視して京都を空爆や原爆の対象から外したことは良く知られるけれど、
現在ウクライナで起こっているのはその逆。
ウクライナの歴史やカルチャー、国民の誇りやアイデンティティの象徴を破壊することにより、ロシア軍が目論んでいるのはウクライナ民兵の士気を衰えさせることに加えて、
後にロシアにとって都合が良い歴史やモニュメントをウクライナにインストールすることにより 国民の意識を変え、最終的には歴史を書き換えること。
ウクライナの人々が現在勇敢に戦っている理由の1つが、ウクライナが過去にハンガリー、オーストリア、ポーランド、ロシア帝国、そして1991年までソビエト連邦の
一部となってきた歴史から、自由と独立が如何に大切かを熟知しているため。そしてそんな歴史や国民意識のシンボルになってきたのが様々な文化財。
それが破壊されることでウクライナの知識人が恐れるのが 中国政府が天安門事件を史実から削除しようとしているのと同様に、ウクライナの歴史が削除され、
書き換えられることで、ウクライナの国民の間ではこれが単なる軍事侵略ではなく、ヘリテージ・ワー(国の世襲を掛けた戦争)であるという解釈がなされているのだった。
ちなみに、歴史的モニュメントやメモリアル・ミュージアム等によって国民心理に影響を与え、歴史を書き換えようとする動きはアメリカでも起こってきたもの。
過去数年の間に 全米各地でロバート・リー将軍の銅像を含む南軍記念碑の撤去が進んだけれど、これらの記念碑の大半に当たる400点近くが1910〜1940年代に設置されたもの。
1861〜1865年の戦争の記念碑が この時代に激増した理由は 当時の南部の州において黒人層の権利を剥奪し、隔離する法律が制定されたためで、
同時に進んでいたのが 南北戦争に寄与した黒人兵達の功績を史実から削除する動き。
記念碑や英雄像は 南北戦争の歴史を書き換え、黒人差別を正当化するための組織化された戦略の一環として設置されており、
その効果が如何に大きかったかは 南部の州において 南北戦争で南軍が敗北したことを知らないアメリカ人が決して少なくない様子が立証しているのだった。
したがって歴史書に正しい史実が記されたところで、毎日の生活の中で何気なく眺めているモニュメントや銅像によって人々に植え付けられた意識が
やがて史実を書き換える威力があることは明らか。だからこそ歴史を正しく刻んだモニュメントやアート、建造物を守ることが 国を守る一環として捉えられているのだった。
ニッケル市場の大混乱が証明したコモディティ・マーケット(商品市場)の本質的問題点
ロシアへの経済制裁が様々なマーケットに混乱をもたらす中、その最大の影響が見られたと言われるのがニッケル市場。
ニッケルはステンレス・スティールの生産やリチウム電池の生産に必要な金属で、
先週火曜日には僅か数分の間にニッケルの価格が2倍に高騰。LME(ロンドン金属取引所)は取引を中止しただけでなく、
混乱の中で成立した39億ドル分の取引をキャンセルしているのだった。
その大暴騰の要因は、ロシア侵攻によるニッケル不足が起こるなど予想せずに ニッケル価格の下落を見込んで多額のショート(空売り)ポジションを保有していた
中国のTsingshan ホールディング・グループが 損切に追い込まれ、相場が急反発するショートスクイーズが起こったため。
この大損失によってTsingshanが金融機関に支払うマージンコール(証拠金の請求)の額が数十億ドルに上ったことから、Tsingshanは期日までの支払いが不可能と通達。
これを受けて債権者である約9行のバンクがアレンジしたのがその救済案。
最大額の債権者はJPモーガンで、他にスタンダード・チャータード、BNPパリバらがそれに含まれており、
それぞれに担保と引き換えに支払期限を延長するなどの手立てが講じられたのが先週末のこと。
しかしニッケル市場はクローズしたままで、既に3回取引開始と価格の安定が試みられたものの いずれも失敗に終わっており、マーケットはすっかり機能を失った状態。
この市場凍結のせいで 見込まれるのが ただでさえ物流チェーンの問題で滞り気味だった商品供給の悪化。
そのためニッケルが電気自動車生産に不可欠であるフォルクスワーゲンなど 複数の企業が市場からではなく、鉱業会社からの直接購入の検討を進めており、
「コモディティ・マーケット(商品相場)は一体何のために存在するのか?」という根本的な疑問と構造的な問題を改めて提議していたのが今週。
メディアでは「コモディティ・マーケットも 中央銀行制度同様に、結局は金融機関を儲けさせるシステムの一環に過ぎない」と今更のように指摘する声が聞かれていたのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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