Mar. 16 〜 Mar. 22 2020

”In the Time of Social Distancing”
ソーシャル・ディスタンシングの中で嫌われるメガリッチ・ピープル


ご存知の通りアメリカで凄まじい勢いで広がっているコロナウィルス感染。でもその感染よりも人々にショックと不安をもたらしているのが 州政府の対応措置と ビジネスへの猛烈なダメージ。
金曜にはニューヨークで一部のビジネスを除く業務停止処分とショッピングやジョギング、散歩を除く外出禁止措置が出たけれど、 さすがにレントが高額なニューヨークとあって 同時に打ち出されたのが家賃を滞納しても3カ月は家主が立ち退きを請求できないという法令。 でも誰もがこの先に備えてキャッシュをプールしておきたい時期なだけに「そんな法令が出されて 果たして家賃を支払う人が居るのか?」というのが レントが毎月最大の出費になっているニューヨーカー の素朴な疑問。
私のアパートメント・ビルディングでは、コロナウィルスの危機感が高まってからというもの、 住人のメール・ネットワークを通じて 食材の買い出しのヘルプを申し出る人や、学校のクローズを受けて子供の面倒や、家庭教師をオファーする人、 突如自宅勤務になった住人同士がプリンターをシェアしたり、オフィス・ファニチャーを無料で譲る等のトランズアクションが見られる一方で、 ビル内では住人が荷物を運ぶのを手伝ってくれたり、エレベーターの扉を開けて待っていてくれたりと 日頃以上にフレンドリーで親切。 「こういう時はネイバーが助け合わないと」というムードが高まっているのだった。
同様の状況は私が頻繁に出かけるスーパーやセントラル・パークでも見られていて、店内が混み合っていても通路の譲り合いの際にニッコリ微笑んだり、 ランニングの最中にすれ違う人が「Stay Healthy!」などと声を掛けてくれるので、こんなご時世でも心が温かくなる思いが出来るけれど、 そうなる理由の1つは 先週からアメリカ中で周囲と距離を置かなければならない「Social Disatancing / ソーシャル・ディスタンシング」が呼び掛けられてきた反動。 日頃はウンザリするほど人に囲まれて生活しているニューヨーカーが 人と隔離されたことによって、小さなコミュニケーションに価値を見出しているように思うのだった。 でも誰もがコロナウィルスの感染だけでなく、経済と将来への不安を抱えているのは言うまでもないこと。 今は未だ精神的な余力があるので 人を思いやることが出来る状態であるけれど、 もしこの状況が政府関係者が語るように何ヵ月も続くようなことがあれば、どうなってしまうか分からないと思うのだった。




その一方で 確実に高まっているのは所謂 ”Rich & Privilege (裕福で恵まれた人々)”、”Rich & Well Connected (裕福でコネクションがある人々)” と呼ばれる メガリッチ層に対する大衆の怒り。 今週には、自宅で自主隔離をしていたイヴァンカ・トランプが学校閉鎖を受けて、 子供達とリヴィング・ルームにシーツのテントを張ってキャンプをした様子をソーシャル・メディアで披露。 「楽しいアクティビティは食事の際に家族を一つにします、貴方のアイデアを#TogetherApartでシェアしてください」とツイートした途端に、 「大雪で家にこもっている訳じゃないんだ」、「お前の父親が何もしないせいで、こっちは生活を心配しなければならない」、 「子供が家に居る状態で仕事をしなければならない人間の身になってみろ!」 という大バッシングが寄せられ、ツイッター上には#ShutUpIvanka(黙れイヴァンカ) というハッシュタグが登場したほど。
中でも人々を怒らせているのが、若く体力があって感染しても命に別状が無いと思われるNBAプレーヤーや、カダーシアン・ファミリー等のセレブリティが 特にコロナウィルスの症状が認められなくてもテストが受けられるのに対して、一般庶民は感染者が周囲に居るなどの感染を疑う理由や複数の感染症状が認められても、 テストキット不足のために ドライブスルー・テストに車で数時間行列した挙句、「医師の診断書が無いとテストは受けられない」と断られたり、 スクリーニングの段階で「テストの必要が無い」と追い返されてしまうこと。 今週のプレスカンファレンスで記者に ”Rich & Well Connected” ばかりが優先してテストを受ける様子について尋ねられたトランプ大統領が、 「That’s Been the Story of Life (人生はそういうもの)」と応えたことについてもメディアと国民の怒りが高まっていたのだった。
今週にはメガリッチの身勝手さが感染テストだけでなく 呼吸器にまで及んでおり、 「Forget about Birkin and Rolls Royce, Now Ventilators are "It" Thing (今の”It” プロダクトはバーキンでもロールスロイスでもなく呼吸器)」という皮肉が聞かれるように 大金持ちが自分が必要になった場合に備えて、現在医療機関で不足している呼吸器をメーカーから直接購入を試みるケースが続出。 幸いメーカー側はそれらを断って病院を最優先に出荷しているけれど、最悪の場合 全米で今後96万台必要になると言われるのが呼吸器。
アメリカ国内では先週1週間だけでも失業保険の申請をした人々は28万1000人。その先週と比較して今週サウス・キャロライナ州の 失業保険申請数は400%アップ。コロラド州は875%アップ、オレゴン州に至っては2,175%もアップしており、 レイオフの波はまだまだ続くと見込まれる状況。 そのため選挙を控えたトランプ大統領は 各州ごとの失業率の発表を控えるように指示を出したことが伝えれているけれど、 全米各地では予備選挙が軒並み6月以降に延期になっており、毎年4月15日の税金締め切りもアメリカ史上初めて3カ月延期。アメリカ版の共通一次に当たるSATテストも今年はキャンセルが 発表されているのだった。




一方、木曜に報じられて人々が眉を吊り上げたのがコロナウィルス感染予測を先に知らされていた上院議員4人が、今週も更に17%値を下げた株式市場の 暴落が始まる前のピーク時に所有株を売却して利益を上げていたニュース。 特にその取引が問題になっているのが 情報委員会議長でノース・キャロライナ州選出の共和党上院議員、リチャード・バー(写真上左)と ジョージア州選出の共和党上院議員であるケリー・ロフラー(写真上左から2番目)。
2人を含む一部の上院議員に対してコロナウィルス感染についてスペシャリストからプライベートな説明会が行われたのは1月24日のこと。 そしてその日のうちに始まったのがロフラーによる億円単位の株式売却で、同時に行われたのが自宅勤務が増えた際に上がると見込まれる株の買い付け。 またNY証券取引所のプレジデントであるロフラーの夫も、個人の別アカウントで約3億7000円相当の株式売却を行っているのだった。 その後2月12日にNYダウが史上最高値を更新しているけれど、同じ日には中国でのコロナウィルスでの死者が1000人に達し、疾病予防センターがアメリカにおけるコロナウィルス感染を警告。 その翌日、2月13日に売却されたのがリチャード・バーの約1億7000万ドル相当の株式で、その中には現時点で大暴落している2つの大手ホテルチェーンの株式が含まれているのだった。
加えてリチャードバーは、2月27日に地元のプライベート・クラブで会合を持った支持者に対して コロナウィルスの感染が広まった場合の自宅待機を含めた詳細のシナリオを説明しながら、 「軍隊が出動して状況に対応することになるが、詳細は国防省と大統領が指示すること」と、今週末のNYの状況を予期していたかのように語っていたとのこと。 でもこの頃は トランプ大統領がコロナウィルス問題を軽視し「弾劾裁判同様の民主党の陰謀、フェイク・ニュース」と語っていた時期。
ケリー・ロフラーは株価が最高値を付けた段階で 「幸いマーケットも経済も極めて好調」とメディアのインタビューで語り、一方、リチャード・バーは2月7日に 「アメリカはコロナウィルスに対する万全の準備が整っている」とコメントしているけれど、これらの発言はインサイダー・トレード疑惑が浮上した際に 自己弁護の材料として使えるだけに、意図的に楽観的な展望を語ったと見られているのだった。 当然のことながら2人に対しては国民から辞任を求める声が浮上。上院倫理委員会にも捜査の依頼が出されてはいるものの、少なくともこれまでは上院倫理委員会と言えば 「不透明を絵にかいたような組織」と政治記者に表現されるほど セクハラからインサイダー・トレーディングまでを野放しにしてきた機関。 ここでも”Rich & Well Connected” が恩恵を受ける社会の仕組みが立証されているのだった。

その一方で庶民に対しては「ATMマシンやキャッシュを通じてコロナウィルスが感染するので、キャッシュを使わないように」と警告される中、 NY郊外の高級リゾート地、ハンプトンズに逃れるリッチ達は 1日の引き出し限度額である5万ドルのキャッシュを複数回に渡って引き落としていることが伝えられており、 先週にはそのせいでパークアベニューのバンク・オブ・アメリカで100ドル紙幣が品切れになったほど。 アメリカでは銀行が破綻した場合にFDICバンクが保証する返済預金額は25万ドルまでなので、「ハンプトンズにこもるため」と言い訳しながらお金を引き出すメガリッチの行動は まるで銀行破綻に備えているかのように受け取れるもの。これまでメガリッチはハンプトンズでもキャッシュなど遣わず、アメリカン・エクスプレスのセンチュリオン・カードで支払いをしてきたことを思うと、 尚のこと謎が深まるのだった。
そのハンプトンズは昔ながらの地元住人は高齢者が多く、マンハッタンを逃れてやって来たメガリッチのせいでコロナウィルス感染者が出たこと、 そして ただでさえ少ない食材店の品物が買い占められてしまったことに腹を立てているそうで、 同様にリッチピープルの流入が始まっているマーサス・ヴィンヤードでも同じ事態を危惧して、地元民のアンチ・リッチピープルのムードが高まり始めているのだった。




そんなアンチ・リッチピープルの怒りの矛先の例外ではないのが感染を疑っているからではなく、感染を恐れて自主隔離をする セレブリティ。 ソーシャル・メディアを通じて そのゆったりしたライフスタイルや退屈そうな様子を披露しては、人々を励ます姿に大衆ウンザリし始めたのが今週。 それを象徴していたのが映画「ワンダーウーマン」で知られる女優で、自主隔離中のガル・ガドットが、 友人のセレブ達と共にジョン・レノンの「イマジン」をリレー形式で唄ったビデオ・ポスト。
コロナウィルス感染が広がるイタリアで、あるトランぺッターが「イマジン」を演奏しているビデオを観て「そのパワフルさに感動した」というガル・ガドットは 自らも低い声とノーメイクの笑顔で「イマジン」を歌い出し、それをナタリー・ポートマン、ウィル・ファーレル、ジェイミー・ドーナン、サラー・シルバーマン、カイア・ガーバーとカーラ・デルヴィーニュ、 エイミー・アダムス、ゾーイ・クラヴィッツ等が歌い継いでいるものの、歌唱力の乏しさも災いして 誰の目から見ても偽善的かつ自己満足的な仕上がり。 共鳴、共感を呼ぶために発せられたビデオであるものの、猛烈な批判が寄せられることになっているのだった。 その内容は「セレブリティが如何に馬鹿で鈍感かが分かる」、「恥知らず、みっともない、代わりに寄付をしろ」、 「ミリオネアが ”Imagine there is no possessions” なんて歌うのは皮肉以外の何物でもない」、 「イマジンの曲のイメージが永遠に損なわれた」とかなり厳しいもの。 その怒りの原因になっているのは一般庶民とは全く異なるセレブの危機感のレベルで、 彼らが「皆でこの時期を乗り切りましょう!」と呼び掛けたところで、迎えている時期の意味合いが天と地ほど異なる様子を感じさせるだけなのだった。

今回のコロナウィルスの問題では 自然災害等に比べると寄付を打ち出すセレブリティが極めて少なく、 カニエ・ウエスト、ジャスティン・ティンバーレイクらは寄付をしたことと そのチャリティ名は明らかにしても、どの程度の寄付を行ったかは一切明かさない不明瞭なもの。 各界のデミ・ビリオネア、ビリオネアも株価暴落で自分達の資産が激減しているのか、誰も大きな寄付を打ち出していないのが現時点で、 一部で囁かれるその原因は ノートルダム寺院の火災時のように約束だけして寄付をしない手段が既に通用しなくなっているため。
そんな中、ブレーク・ライヴリー&ライアン・レイノルズ夫妻はカナダとアメリカのフードバンクへ100万ドルの寄付を打ち出し、 モーニング・トークショー・ホストのケリー・リパ夫妻もやはり100万ドルの寄付をいち早く発表。 NBAスターのステッフ・カリーは 学校が休校になり それまで給食で賄われていた朝食と昼食が 食べられなくなる子供のために1万8000食分の食事をコミュニティ・フードバンクに寄付しているのだった。
実際にアメリカではコロナウィルスの問題以前から 学校給食が 唯一の暖かい食事を得る機会という貧困家庭の子供達が少なくなかったのが事実。 そのため全米各地では学校が閉鎖されてからも続いているのが 子供達の朝食と昼食の支給。 そうかと思えば大きな売り上げを記録した2019年のクリスマス商戦の際に、2018年のクリスマスの買い物のカードローンを払い終えていない状態でショッピングをしていたアメリカ人は59%。 2019年12月にGOBankingRates社 が数千人を対象に行った調査データによれば預金額が1000ドル以下のアメリカ人は69%、貯金が殆ど無いと回答した人々は45%。 そんな経済基盤がグラグラの国民が殆どにも関わらず、3週間前まで連銀が「American Economy is Still Strong」と語っていたのは信じがたい事実。 政府もそれを熟知しているからこそ、国民に当座を乗り切るためのキャッシュを支給する法案を可決しようとしているのが現在。
その一方でRich & Well Connectedしか簡単にコロナウィルス感染テストが受けられない状況に腹を立てた人々が、 徐々に必要性を認識し始めていると言われるのが、今週行われた予備選でジョー・バイデンに惨敗したバーニー・サンダースが打ち出すユニヴァーサル・ヘルスケア。 すなわち国民全員が平等なヘルスケアを受けるというシステム。そうでなければメガリッチのプライベート・ヘルスケアに 医療サプライからテストキットまでが優先的に流れ込み、「命の優先順位がお金で決まる」ことを悟り始める人々が増えているのだった。
ニューヨーク市ではメディカル・サプライがあと2週間で底をつくと言われて、呼吸器も3万台以上不足。 NYU(ニューヨーク大学)の寮やホテル、コンベンション・センターを病院にコンバートしなければならず、医療関係者も疲労でクタクタの状態。 これからさらにコロナウィルスの感染が拡大した場合、 健康保険制度以前にアメリカの医療制度が危機的な状況に直面しても全く不思議ではないのだった。

引き続きコロナウィルス感染拡大をご心配くださる皆様からお気遣いのメールをいただいていることにお礼申し上げます。 おかげ様でCUBE New Yorkは自宅業務でこれまで通りの営業をしております。 ただしダイヤモンド・ディストリクトがクローズしていますので、CJ製品は 一部を除いて現在オーダー受付をストップしております。詳細はこちらをご覧ください

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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