
今回は、日本滞在中に交わした友人との会話の中で尋ねられた質問について答える形を取らせて頂くことにします。
その友人はアメリカや イギリスを含む欧州にも暮らした経験があり、質問を受けたのは「欧米社会は脅しを何より嫌うのに、何故セックス・トラフィッカーのジェフリー・エプスティーンがブラックメール(脅迫)で世界のVIPを操りながら、人脈が拡大出来たのか?」ということ。
友人の指摘通り、欧米では脅すという行為、すなわち「XXXXしなければ、●●●してやる」という言動を友人や取引先にすれば、敵意と反感を買って、
それ以降は信頼されない関係になるのが通常。
また訴訟社会のアメリカでは「訴えてやる」と脅しを掛けることにしても、正当な根拠があって、問題解決のために法的救済を求める意志表示として語るのは合法であっても、
正当な根拠が無いまま相手を威嚇したり、嫌がらせ目的、さらには金銭やサービスを要求する目的で語られた場合は違法。
その例をエプスティーン絡みで挙げれば、エプスティーンと生前何度もインタビューをして、彼に関する著書を執筆してきたマイケル・ウルフが
メラニア夫人とエプスティーンとの関りをポッドキャストで詳細に発言したのを受けて、夫人がウルフに対して謝罪と取り消し、10億ドルの損害賠償を求める名誉棄損訴訟を起こすと警告したのが昨年の秋。
メラニア夫人の警告にはウルフへの威嚇に加えて、自分の正当性を社会にアピールするイメージ戦略の側面も含まれていたのだった。
しかしウルフは自分の発言を裏付ける証拠を持っているため、「夫人の訴訟警告は、言論の自由を萎縮させることを目的とした戦略的提訴にあたる」として
逆に夫人への訴訟を表明。ちなみに戦略的提訴とは、相手に訴えるだけの法的根拠が無くても、訴訟の脅しを掛けることで相手を黙らせる威嚇等を意味する違法行為。
それ以降、夫人側はウルフに対して訴訟を起こしていないだけでなく、ウルフの依頼で裁判所が発行した「召喚令状/Subpoena」の受領を避け続けていることが報じられるのだった。
ちなみにこの令状さえ受領しなければ、原告の訴えが被告側に通達された証明が出来ないので、裁判を始めるのは不可能。
メラニア夫人が提示した10億ドルという破格の賠償金は、第二期政権スタート以降、理由を見つけてはメディアを訴えて来たトランプ氏に倣った金額だったけれど、
そのトランプ氏は不動産業時代から訴訟の脅しでコントラクターへの支払いから、植毛を担当した美容整形医に至るまでの支払いを逃れる、マフィア的な脅しで知られてきた人物。
そんなトランプ氏が、少なくとも一時は極めて親しかったと言われるジェフリー・エプスティーンが同じような手法で、少女達、時に少年達と関係した世界中のVIPに
脅しを掛けていたかと言えば、決してそうではなく、だからこそ彼が世界中の多岐に渡る分野で VIP人脈を拡大していったことが指摘されるのだった。
ジェフリー・エプスティーンは、大学卒業資格無しに21歳でマンハッタンの有名私立高校、ダルトンの数学教師になるという異例の経歴の持ち主。
彼を採用したと言われるダルトン学長のドナルド・バーは、トランプ氏が第一期政権で司法長官に任命したビル・バーの父親。
当時、ダルトンでは長身でルックスは良いものの、大卒資格を持たない若過ぎる教師に賛否両論だったようだけれど、
ブルックリンのローワー・ミドルクラスの家庭に生まれたエプスティーンは、ダルトンに裕福で社会的影響力のある生徒と保護者が集まることを熟知しており、
そこから自分のキャリアをステップアップさせることを初めから狙っていたという。
そのせいか、エプスティーンはダルトンの女子学生とは不適切な行為や関係が無かったようで、やがて意図した通りに有力な保護者に気に入られたエプスティーンは、
その保護者が投資銀行ベア・スターンズの幹部、アラン・グリーンバーグに口利きをしたことで同行に就職。
当時のエプスティーンは「非常に頭が良く、人を惹きつける術、社交術を心得ていた」と証言されているのだった。
その魅力でベア・スターンズ時代にヴィクトリアズ・シークレットの親会社CEO、レスリー・ウェクスナーをクライアントとして取り込み、やがて大きく展開していったのがエプスティーンの人生。
それは不動産業を営む父親から億円単位の資金と人脈を得て、押しの強さと高圧的なスタイルで父と同じ不動産業を始めたトランプ氏とは正反対と言えるもの。
トランプ氏は前述の訴訟による脅しに加えて、「自分はやられたら必ずやり返す」と常に豪語。例え相手にとってビジネス上当然の選択、もしくは仕方ない決断でも、
利益を逃したり、損害を被った場合、それを個人の感情レベルで捉えて 復讐の対象にしており、ビジネス界で「敵に回すと厄介な存在」という評判を確立していたのだった。
もちろんトランプ氏の豪快さ、男尊女卑をオープンに語っても上手く逃げるキャラクター、時折効果的に温情を示すスタイルは
男性社会にドップリ浸かっているエグゼクティブに好感を持たれていたのも事実。
しかしジェフリー・エプスティーンはもっと巧みで、もっと緻密なアプローチとアフターケアをしていたことが伝えられ、ブラックメーラーでありながら
信頼さえ獲得する存在であったと言われるのだった。
そのブラックメールの手法とは、著明人や実力者に対して多額の寄付や有力な人脈を通じてアプローチし、
ビジネスを超えた交友関係に持ち込むのがファースト・ステップ。
そしてエプスティーン・アイランドや、彼のフロリダやNYの邸宅で、まるでサウナに誘うような軽いノリで 若い女性からのマッサージを一緒に受けるように持ち込むのが次のステップ。
やがて徐々に未成年の少女との性行為に導き、その様子をビデオで撮影して、動かぬ証拠を握るのが第三段階。
そこからエプスティーンは脅すのではなく、穏やか口調で行為の様子がビデオ撮影されていたことを明かし、それが脅迫目的ではなく、
エプスティーン自身や彼の仲介で同様の行為をした世界のVIP達をプロテクトするためのリスクヘッジであること、そして「我々の秘密を厳守してくれれば、
今後も自分の仲介で、誰にも知られることなく禁断の行為が続けられるだけでなく、同じ秘密をシェアする世界で一握りのVIPと強固なネットワークで結ばれることになる」
と説明。相手に「弱味を握られた」のではなく、「世界のVIPネットワークの一員として迎えられた」という特権意識を与え、
エプスティーンがその秘密を守るゲイトキーパーであり、その権力ネットワークのオーガナイザーであることを明確に認識させるのが第4のステップ。
そしてどんどん深みにはまるように誘導しながら、有益な人脈や投資案件等をエプスティーンに運んで来るように仕向けるのが最終ステップ。
そこまでくると、まんまと取り込まれた側は 世界の僅か一握りの上層部のギルドに属する優越感を抱く一方で、
禁断の行為がどんどんエスカレートしていったようで、暴力、カニバリズム、拷問といった犯罪行為も、
法の力が及ばない特権階級だけに許されたタブーという選民意識と背徳感を伴いながら横行し続けたとのこと。
そのエスカレーションがエプスティーンの立場を益々有利にしていったのは言うまでもないこと。
したがってエプスティーンはブラックメイラーであったとはいえ、彼に脅迫されているという意識を持っていたVIPは殆ど居ないと言われ、
それよりもエプスティーンは禁断の快楽を提供し、その秘密を守ってくれる有難い存在。またVIP達はエプスティーンを通じて人脈を広げるケースも多く、
金銭面でも様々な恩恵を受けていたようなのだった。
エプスティーンの手法は、言ってみればイソップ物語の「風と太陽」に出て来る太陽のやり方。
このストーリーは、風と太陽が旅人にジャケットを脱がせる競争をして、風は旅人のジャケットを吹き飛ばそうと強風で攻めたものの、旅人がジャケットのボタンをしっかり留めてしまい失敗。
次に太陽が燦燦と照らし始めると、暖かくなった旅人はあっさりジャケットを脱いだというもの。
要するにブラックメールという犯罪行為においても、イソップ物語の太陽のようなアプローチをする方が、遥かに有効のようなのだった。
Yoko Akiyama
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執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |


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