Mar Week 4, 2025
The Internet Has Replaced TV in the US?
TV離れが先行していた米国、ネットはTVに取って替わりましたか?


オバマ大統領時代にアメリカに住んでいたことがあります。CUBE New Yorkのウェブサイトは、その頃からずっとアクセスし続けてきました。
日本では今、TVのニュースが政府や大手芸能事務所、TV局にとって不都合なニュースを報道しないことが問題視されています。 社会悪が暴かれるタイプの報道は、文芸春秋のような週刊誌ネタからスタートするケースが殆どで、騒がれてもTVが報道しないニュースは YouTuberが盛んに取り上げるので、YouTuberは「これからはTVよりもネットの時代だ!」と言っています。
ですがYouTubeのコンテンツは、ウソやデマも多い上に、YouTuberの考えを押しつけたり、YouTuberの勝手な思い込みを伝えるだけのコンテンツも多いので、 時々ウンザリします。 それに偉そうなことを言う人に限って、責められた場合に備えて「ネットなんですから鵜呑みにしないでくださいね」なんて逃げ道を作っているのを見ると、 逆にネットの限界感じてしまいます。

秋山さんはかなり以前からコラムで、「TVを観なくなった」と書いていらっしゃいましたし、アメリカのTV離れは 日本でも報道されていますが、 実際のところ アメリカではネットとTVの力関係はどんな感じなのでしょうか。 日本では、TVが ずっと洗脳メディアとして国民をコントロールしてきましたが、 ネットにしてもSNSやYouTubeはアルゴリズムのせいで、偏った思想に洗脳されていく恐ろしさを感じています。 しかも日本のYouTuberは、英語も話せなければ、日本から出たことも無ような人が Qアノンみたいなアメリカの陰謀説を拡散しているので、 何の目的で、何のための誤情報を発信しているのか、と考えて恐ろしく思えることもあります。
秋山さんはどのメディアが一番信頼出来るとお考えですか? どんなソースをチェックして記事を書かれるでしょうか? ご迷惑でなければ、アメリカの現状も含めて教えて頂けたら嬉しいです。
よろしくお願いします。お身体に気を付けながら、これからも頑張ってください。

  ー R ー


TVがインターネットにテリトリーを拡大したのがアメリカです


Rさんが書いて下さった通り、私はTVというものを今では全く観なくなりました。 それは多くのアメリカ人も同様だと思います。
ですがそれはあくまでTVというあらかじめ放映時間が決まったフォーマットを利用しなくなったという意味で、 ニュースやトークショー、ドラマなど、TVで放映されるコンテンツは、YouTubeやストリーミングで自分のスケジュールに合わせて視聴する状態は続いています。 要するにアメリカでは、TVがインターネットの世界にテリトリーを拡大したのが現状であって、 日本のYouTuberが語るような TVとネットがゼロサム・ゲームを繰り広げている状況ではありません。
今やアメリカの一般家庭においてTVという物体は、リヴィング・ルームに置かれたビッグサイズのコンピューター・ディスプレーのような存在になりました。 スーパーボウルや年末のカウントダウンのようなビッグ・イベントは従来通り、TVのLIVE中継で視聴しますが、 今やTVという電化製品はネットフリックスを含むストリーミング、YouTubeのビデオ・コンテンツ等を大画面で観たい時に使う用途が増えています。 TVでネット・コンテンツを視聴するようになった一方で、TVコンテンツもインターネット上に溢れるようになった訳です。
そんな状況下で衰退したのはケーブルTVチャンネルです。 ケーブルTVはこれまで、大手ネットワークTVの古いコンテンツや、再放送、低視聴率番組の救済手段、 費用が掛からないニッチな番組のアウトレットとしての役割を果たしてきました。しかしそれらのコンテンツはネットフリックスやアマゾンプライムに放映権を販売したり、 大手ネットワークTVが運営するストリーミングのコンテンツとして配信した方が、より多くのオーディエンスにアピールし、利益も得られるので、その存在意義が無くなってきました。

そんなアメリカのTV局と日本のTV局は、私の目からみれば似て非なるものです。
日本のTV局は、ラジオや新聞というメディアと直結し、その系列勢力だけに国から電波が割り当てられてきたので、 電波オークションで新参者が参入出来て、買収・合併が繰り返し行われるアメリカのメディア界とは構造的にも経営姿勢も全く異なります。
例えば米国3大ネットワークの1つ、NBCは1926年にRCA(ラジオ・コーポレーション・オブ・アメリカ)によって設立され、その後ジェネラル・エレクトリック(GE)社と電信電話会社のAT&T等に買い取られ、 その後 RCAが経営から追い出されるなど、複数の大企業が経営シャッフルを繰り広げた結果、現在は世界的なマスメディア会社で世界第三位のケーブル会社でもある コムキャスト社が NBC局を経営するNBCユニヴァーサルを傘下に収めています。 このユニヴァーサルとは言うまでも無く映画やTVコンテンツを手掛けるユニヴァーサル・スタジオの親会社で、2004年に、当時のNBCの親会社GEがユニヴァーサルの株式の80%を取得することで吸収合併されました。
このことからも分かる通り、メディア企業は 利益と社会的影響力を追求して経営母体や方針が変わり続け、食うか食われるかの競争状態の中、数字が取れなければ、経営者でもアンカーでも首を切られて当たり前の世界です。
利益追求のためには、放映されるコンテンツや報道姿勢も変わります。FOXニュースは、1996年に 当時メインストリーム・メディアにないがしろにされてきた保守派、それも極右派のビューワーをターゲットにしてスタートしたチャンネルです。 報道の中立性を最初から放棄し、超右寄りでスタートしていますので、同局で報じられるニューは 他のFOX系列で報じられる報道内容よりも極右派を満足する形で歪められていますが、 それが同局の視聴率獲得のタクティックです。 より収益性を上げるために、ビューワー好みのコンテンツをセンセーショナルに発信するのは現代のYouTuberにありがちの手法ですが、 それを1990年代からケーブル・ニュース・ネットワークとしてやっていたのがFoxニュースです。
日本ではTVを”地上波”というメインストリームに位置付け、 YouTubeを含むネット上の配信は、「TVに出られなくなった人や、TVに反発する人、TVでは放映出来ない内容を発信する裏メディア」的な位置づけになっているように思います。 ですがアメリカでは、前述のようにTV局を始めとするメインストリート・メディアが、ネット上でも同じコンテンツを配信していますので、 インターネットは発信プラットフォームの1つとして捉えられている一方で、近年続いたTVのビューワー数の減少傾向には徐々に歯止めが掛かってきたとも言われます。

情報を伝える正義 VS. 情報の商品価値

私自身は、これまでは「アメリカ人の視点から見た日本を捉えたい」という気持から、日本のメディアとはあえて距離を置いて、 アメリカ人がアメリカで耳にし、目にする報道、アメリカで触れられる日本のカルチャーを通じて日本を捉えるように努めてきました。 ですがインターネットやSNSの普及で、言語のバリアとは無関係に世界各国の情報が様々な形で入る世の中になってからは、 自分が日本人として日本のことをあまりに知らないのを反省するようになり、丁度パンデミックの頃から 日本のニュースやSNSコンテンツ、アニメを含む日本のエンターテイメントを少しずつチェックするようになりました。
昨今の日本のスキャンダルを含む一連のYouTuberのコンテンツも、このところ努めてチェックしましたが、 私が今の日本のYouTuberに感じる限界は、まず取材力が殆ど無く、情報がほぼ全てセカンドハンドであること。 アクセス数(=収益)目的で、サムネイルやコンテンツが制作される傾向が顕著であること。 そしてRさんも御指摘の通り、「ネットですから」という言い訳をかざして、自分が発信するコンテンツに対して責任を持つ姿勢を見せないことで、 報道姿勢を見せながら、勝手な憶測やファクト・チェックをしていない情報を盛り込むYouTuberも少なくないように思います。
もちろん、ネットだから伝えられる当事者情報などもあるかと思いますが、 「今、事実を発信しているのはネットだ!」と言い切れる状態には達していないように思えるのが正直なところです。
昭和の時代には、「日本人は活字になったことを全て鵜呑みにする」と新聞・雑誌に書かれたことを事実だと認定する傾向が問題視されていましたが、 もし時代の流れと共に、その活字がTVのコメンテーターの発言になり、今ではそれがYouTubeやSNSインフルエンサーのコンテンツになろうとしているのであれば、 日本のメディア難民、報道難民ぶりは昭和の時代からさほど変わっていないということなのだと思います。
実際に、アメリカでは普通にニュースをフォローしている人であれば、イーロン・マスクがテスラを設立した訳でも、テスラのEVを発明した訳でもなく、 会社設立後に株主として経営に参画したことは知っています。ですが、日本のYouTube上では 全てをイーロン・マスクの手柄にして讃えるビデオを何本も観ました。

その一方で世の中には自分の聞きたくないことは、真偽を確かめる以前に否定する人が沢山居ます。 YouTubeを含むSNSのアルゴリズムが、ビューワーを一定方向に導く情報をフィードし続ける結果、洗脳状態に導かれて、 それを否定する意見、情報が受け入れられないだけでなく、反対意見への敵対や攻撃に出る人は世の中で増えているのです。 ネットは、TVやペーパー・メディアよりも遥かにスピーディーかつ、有効な洗脳メディアであり、その効力は暗室に籠ってマントラを唱えるのと同等とさえ言われます。 これはカルト宗教が短時間に信者を洗脳するための常套手段です。
また洗脳というレベルに達していない場合でも、自分が問題視する存在を叩いているYouTuberが正しい情報を発信していると思いこむ傾向はネット民にありがちです。 盲目的に特定のYouTuberを信頼し、フォローすることにより歪んだ思想がインストールされてしまうケースも多々あります。 さらに、Rさんも御指摘の通り、海外に住んだことも無く、外国語を話さない人が、海外情報をレポート、もしくはレクチャーするYouTuberは 多いようですが、そうした人達は通常、海外極右メディアの影響を受けている、もしくはその情報の受け売りに見受けられます。 これは諸外国のスタンダードに比べて、右、左の概念がズレている日本において、リスキーな傾向だと私は捉えています。
また4月から日本では「情報流通プラットフォーム対処法」が施工されるようなので、これも少なからず今後のネットにおける情報配信に影響を与えると思っています。

大切なのは、ネットでもTVでも、感情を切り離してニュースを自分でジャッジすること、そして世の中には中立なメディアなど存在しないことをあらかじめ理解しておくことだと思います。 事実を中立な立場で発信するのはそんなに簡単な事ではありませんし、実践したところで恐らく評価されることもありません。 報道というものは、それを伝える視点が定まって、初めて情報というものに意味と価値がもたらされるからです。 報道のクォリティは、それを如何に常識的な立場から、モラルを守りつつ、分かり易く人々に伝えられるかで決まるというのが私の考えです。
ちなみに私がニュースを取り込むのは、ニューヨーク・タイムズ、ウォールストリート・ジャーナルを含む5つのメディアから毎朝受け取るニュース・レターで、 保守系右派メディアもNYポストを含め2~3はチェックしています。NYポストはFOX傘下で、同系列に流れるニュースを一番早く報じるメディアですが、 リベラル派が多いニューヨーカーにアピールしなければならないとあって、他のFOXメディアより視点が右に寄り過ぎない傾向にあります。 往々にして、リベラルと保守のメディア報道は同じニュースを報じていても、政治に関してはパラレル・ワールドと言えるほど解釈が異なるケースが多く、 善と悪が如何に簡単に入れ替わるかを目の当たりにします。

最後にアメリカのTVのニュース番組では、スポンサー企業や親会社の不祥事やスキャンダルについても、局と企業の関係性を明らかにした上でニュースとして報じます。 報道の正当性を世に示し、視聴者の信頼を獲得するためには、ビジネス上の都合で報道内容をカットしたり、変更するべきではないのです。 その正義が普通にまかり通っているという点で、アメリカのメディアの方が日本のメディアよりも遥かに民主的で公正が保たれていると判断されます。
YouTubeを観ている限り、日本の視聴者は、親会社やスポンサー企業の不祥事をTV局が報じないことを 当たり前のように受け止めていますが、 海外からは もうその時点で報道の正義を諦めていると判断されてしまうのです。 前回のこのコラムでも、日本社会に根付く「暗黙の了解」、「大人の事情」という理不尽に触れましたが、 ニュースを受け取る側にそうした歪んだ妥協がある限りは、TVでも、ネットでも、 全く新しいプラットフォームが登場した場合も、やがては政府や大企業のプロパガンダ・マシンになってしまうだけのように思える次第です。

Yoko Akiyama



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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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