初めまして。いつもこのコーナーを楽しみにしています。
私の情けない悩みについてご相談をさせて頂けないでしょうか。
私はアラサーの1人暮らしで、在宅で仕事をしています。
結構前からTVを観なくなり、その替わりにネットフリックスやYouTubeを観る時間が長くなりました。
最初はYouTubeで健康情報や料理のレシピ等を入手して、夜仕事が終わってからネットフリックスのドラマを観るというライフスタイルでした。
でも昨年くらいからでしょうか、徐々に先が分かり切っているドラマを何時間も見ているのが精神的な負担になったので、
YouTubeばかりを観るようになりました。
そして気付いたらYouTubeの中毒状態になっていました。
観ているのはK Popアイドルのビデオとか、懐かしい音楽ビデオとか、健康や料理、美容情報など、他愛のないものが多いですが、
気付くとすぐに半日が経過してしまいます。
窓の外で日が暮れているのを観ると 「1日がYouTubeだけで終わっちゃった」と唖然としたり、情けなく思ったりするのですが、
翌日になって「2~3本ビデオを見てから仕事をしようかな」と思ってYouTubeにアクセスしてしまうと、
そこからエンドレスのビデオ視聴が始まり、同じ状態が続くようになりました。私はフリーランスなので、積極的に仕事を取りに行かなければならないのに
YouTubeに時間を取られている間に仕事の量が減ってきているのを自覚しています。
なのにいざ仕事が入って来ると「ビデオが観たいのに面倒くさい」という気持ちになってしまって、
「早く仕事を終わらせてビデオに戻ろう」と思うせいか、細かいミスが増えたことを依頼主に指摘されました。
今までもミスはあったと思うだけに、実際に言って来るということは きっとかなりミスが多かったのだと思います。
YouTube中毒が心配になって 知り合いに紹介された精神カウンセラーみたいな人に相談したこともあるのですが、
その時には「ビデオを観ていることを中毒とは思わずに、ビデオを観て自分は有益な情報を学んでいると考えて、罪悪感を払拭して向上心を持ってビデオを観れば大丈夫」と言われました。
ですがこれは完全に裏目に出ました。罪悪感が無くなって暫しビデオを自分の勉強だと思いながら見たい放題見るようにしてみたのですが、
生活がガタガタになってしまって、他の物事をやる意欲を失くしてしまいました。
寝不足になり、昼間は夢遊病者のようで、唯一やる気がするのがYouTubeを観ることになってしまいました。
その時はタイミング良く3連休があり、姉の家に泊まり掛けで出掛けたお陰で 暫しYouTubeから自分を隔離することが出来て、
自分が如何に時間を無駄にして、不健康な生活をしていたかを反省することが出来ました。
ですが自宅に戻ると 観たい放題はさすがにもうしませんが、ビデオを観るのが生活の中心になってしまって、
目覚めのベッドの中から始まって、就寝時のベッドの中まで、ずっとタブレットを片手に 事あるごとにビデオを観ています。
特に最近はYouTubeのショート・ビデオにどっぷりハマってしまっていて、1本は短いのに ふと気づくと2時間くらい直ぐに経っています。
こんな中毒状態を治療する方法や考え方はあるでしょうか。
自分がしっかりすれば良いだけと思うのですが、それが出来ません。
何かアドバイスをお願いします。
- H -
症状の度合いに違いはありますが、YouTubeやゲームに中毒と言えるほど時間を割いてしまうことは今の世の中では決して珍しいことではありません。
中毒というのは、脳に何等かの幸福感を感じて「好む」状態が徐々にエスカレートし、価値観が偏り始める ”夢中”、”熱中”、”集中”という状態を通り越して、
脳の機能が乗っ取られてしまった状態を意味します。すなわち どんどん健康を害し、周囲にどんどん見放され、お金がどんどん減って行くなど、様々な問題や危機感を意識しているにもかかわらず、
そこから得る快楽が一時的に全てをかき消してしまうパワーに依存し、やがて抗えなくなる状態を意味します。
中毒症状に陥り易いのは「自分に甘いタイプ」と一般に言われますが、それに加えて自分に自信が無い人が多いように思います。
要するに「意志が弱い人」ということになりますが、人間は誰もが意志が強い訳ではありません。
多くの人々は強い意志など持ち合わせず、物事や状況に流されながら生きています。
だからこそ世の中では 多くの人々が特定の食べ物やYouTube、TikTokに代表されるソーシャル・メディア、アルコール、ニコチン、ギャンブル、恋愛相手等に対する
軽度から重度までの依存症や中毒症状を抱えて生きているのです。
YouTubeに関して言えば、最初はHさん同様にTVを観なくなり、自分が観たい時に 観たいコンテンツだけをYouTubeで視聴できることに便利性や時間効率の良さを見出している人は多いですが、
そんな人でもやがては TVを観ていた時代より ずっと長い時間をYouTubeの視聴に費やしていることを悟るのが通常です。
TVというのは、言ってみれば時間制限で決まったメニューだけを出すカフェのようなもので、時間通りにそこへ行って 決められたメニューと量で出された物を味わうのがルーティーンになります。
それに対してYouTubeの視聴は 時間制限のないビュッフェ(英語ではバフェ)のようなもので、好きな時に 好きな物を 好きなだけ食べて良い自由が与えられる分、
セルフ・コントロールをきちんとしなければ食べ過ぎによる不快、引いては肥満や糖尿病を含む病をもたらします。
そのセルフ・コントロールを妨げるようにデザインされているのがYouTubeのアルゴリズムです。
YouTubeとグーグルの親会社であるアルファベットは、早くから人間の脳と心理についての研究とリサーチを重ね、それをビジネスに持ち込んだ成功例です。
特に用事などが無い時に多くの人々がビデオを立て続けに何本も観てしまうのは、人間の脳や心理を熟知してデザインされたアルゴリズムに対するごく自然なリアクションなのです。
更に言えば、YouTubeを始めとするソーシャル・メディアのコンテンツは、その内容の真偽に責任が生じないとあって洗脳目的で製作されたコンテンツが極めて多いのが実情です。
人間は洗脳のプロセスでは情報を深堀りする意欲が増大しますので、YouTube中毒になるプロセスで 興味を抱いているコンテンツに関する洗脳が同時進行しているケースも少なくありません。
したがってTVとYouTubeを比べると TVの方が無害な存在であり、YouTubeの方が確実に生活の中に入って時間を奪い去って行くと同時に、
精神面にも大きな影響を与えるメディアと言えます。
人間は意志がさほど強くなくても 時間的な縛りや、経済的なリミット、社会の一般常識やルールによって 欲望や行動が制限される結果、
依存症や中毒を発症せずに済んでいるケースは少なくありません。
その意味では自制心が欠落している人ほど、9 To 5の仕事や寮生活など、規則や一定の就労時間に縛られた生活をする方が、
自由を謳歌するより人生を間違えないケースが多いと言えます。
Hさんのように在宅のフリーランスをされていらっしゃる場合、自由になる時間が人よりも多い分、セルフ・コントロールをしっかりしなければYouTube中毒が悪化するのは不思議ではない状況です。
私自身もCUBE New Yorkを設立する前は在宅フリーランスのライター&リサーチャーだった時期があります。
当時の自分を振り返ると、やはり 9 To 5でオフィスに通う人達とは時間の感覚がズレていて、自分の興味に著しく偏る生活をしていました。
その頃はYouTubeなどありませんでしたので 私の場合、毎日夢中になっていたのはジムでのエクササイズでした。
ウェイト・トレーニングをしてから、ステアーマスターという階段を上るモーションのマシーンと格闘する 1日2~3時間のワークアウトを週に5~6回行っていて、
当時通っていたジムでは私のワークアウト・アディクトぶりは かなり有名でした。
ふと考えると CUBE New Yorkの前身になる会社のアイデアも ステアーマスターでワークアウトしている最中に思いついたものでしたが、
やがて会社設立を決めてからはインターネットやHTMLの勉強にその時間と労力が流れて行き、ワークアウト中毒が収まった替わりに体重が増えたのを覚えています。
YouTube中毒を治したいと思う場合、YouTubeを観る時間の短縮だけに取り組んでも効果は得られません。
生活全体を改めて、YouTubeに対する価値観を変えて行かなければ 直ぐに中毒状態に逆戻りしてしまいます。
スーパーモデルのクリスティ・トゥーリントンはタバコを止めるために、食生活や一日のスケジュールを変えて、一時的にコーヒーまで断ったとのことで、
禁煙達成を「One of the biggest accomplishment in my life (生涯最大の成果の1つ)」と位置付けていましたが、
私もそれが中毒状態から脱するための正しいアプローチだと考えています。
何故中毒症状改善のために、生活全般から食生活までを改めるべきかと言えば、人間は一事が万事だからです。
生活の何処かでダラダラした姿勢や、そんな生活を誘発する加工食品、糖分・塩分・脂肪分過多の食事をしていれば、それが生活全般に影響を及ぼすようになります。
Hさんは「YouTubeを観始めると、直ぐに半日が経過して気付くと夕方になっている」とご相談文に書いて下さったのですが、何時に寝て、何時に起きていらっしゃるでしょうか。
ベッドにタブレットや電子機器を持ち込むのは快眠を妨げるだけでなく、一日のスタートがダラダラする原因になることを自覚していらっしゃるでしょうか。
メールの文章を拝読しただけで、Hさんの生活の様々な部分にYouTube中毒を容認する要素が数多くあるように感じられてしまいます。
たとえ在宅勤務でもしっかり起床時間と就寝時間を決めて、規則正しい生活、健康的な食生活、適度なエクササイズをすることは
人間の脳の活性化に不可欠ですし、そうした生活こそが人間の幸福のインフラなのです。
今のようなダラダラした生活のダラダラした脳では、YouTubeのアルゴリズムに簡単に攻略されてしまいます。
私自身YouTubeのビデオを視聴していますし、有益な情報が得られるソースであると認識していますが、度を超えた視聴は
自分の時間を犠牲にしながら1兆ドル企業の広告収入のカモにされていることを意味するのです。
見方を変えてみると「YouTube中毒を治したい」というのは贅沢な悩みです。
世の中には健康問題、人間関係、経済的な不遇等、自分ではどうしようもない状況で苦しんでいる人達は沢山いますし、
自分より恵まれていないと思しき人々が立派に生きているのです。
先週末にはNYマラソンが行われましたが、私は毎年男女のトップランナーを自宅近くの5番街まで観に行くことにしています。
そうすると先にスタートしている車椅子部門の参加者や義足ランナーの姿を同時に目にしますが、毎年その逞しさには心を打たれます。
自分が抱えている全ての問題に悩んだり、凹んだりするのが如何に恥ずかしいかを毎年のように痛感させられます。
そういう意識でHさんのご相談に向き合うと「ブラウザのタブを閉じるだけのことが、どうしてそんなに難しいのでしょうか?」という気持ちになるのが正直なところです。
Yoko Akiyama
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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