Sep 25 〜 Oct 1 2023

Epstine Settlement, Mar a Lago Value, Meta's AI, Etc.
エプスティーン7億ドル賠償金の背景, マーラゴの本当の不動産価値、アレクサより賢い喋るAI, Etc.


今週火曜日、148日目にして終了したのがハリウッドのライターズ・アソシエーションのストライキ。週明けから合意が近いことが報じられていたけれど、 最終段階まで調整が行われたのは やはりAIの問題。結果的に合意書の内容には、AIに関して初めてクリエイティブ面と労働規範の見地からのガイドラインが示された形となり、 今後この同意書が他の分野でも叩き台として活用されると見込まれるのだった。その内容は以下のとおり。

結果的にライターズ・アソシエーションは、AI導入に際しての作家の権利を守ったと同時に、より好条件の賃金、福利厚生、プロジェクトに最小限の人員を用意する等、 求めた条件の殆どを手に入れたのが今回のストライキ。この好結果が 現在ストを行っている俳優組合やUAW(ユナイテッド・オート・ワーカー:自動車業界ビッグ3の労働組合)にどう影響するかも見守られているのだった。



エプスティーン事件、日本では有り得ない賠償金がらみの出来事


今週火曜日に報じられたのが、J.P.モルガンが 未成年少女のセックス・トラフィッカーとして逮捕され、拘留中に自殺を図ったジェフリー・エプスティーンに対して1998年〜2013年までの間、彼の犯罪をサポートする金融サービスを提供していた 責任を問われた訴訟で、7500万ドルの和解金を支払うことに同意したニュース。J.P.モルガンは6月にも被害者が起こした訴訟の和解金として2億9000万ドルを支払うことで合意しており、 J.P.モルガンがエプスティーンへの融資から手を引いた後、金融サービスを引き継いだドイツ銀行も被害者からの訴訟に7500万ドルの和解金を支払うことで決着。 アポロ・グローバル・マネジメントの共同創設者レオン・ブラックも法的追求を避けるために今年7月に6250万ドルの賠償金支払いで合意。 現時点でエプスティーン関連の和解金総額は、彼の遺産売却による収益も含めると7億ドル以上、日本円にして1045億円以上。 その半分以上を支払っているのがJ.P.モルガンであるものの、資産約3兆7000億ドルを誇る米国最大のバンクで、時価総額約4220億ドルの同行にとって、これらの支払いは微々たるダメージなのだった。
アメリカでは 最も賠償金が取れる相手を訴えるのが訴訟の基本とは言え、エプスティーン事件の後始末として J.P.モルガンを始めとする大手金融機関がこれだけの賠償金を支払ったことに如実に表れているのが、 名前こそは出て居なくても 業界人のトップや著名人たちが いかにエプスティーンと深く関わっていたか、そして彼らが1日も早く同事件がメディアや人々の記憶から消えることを望んでいるということ。
特にJ.P.モルガンについては、元最高経営責任者 ジェス・ステイリーがエプスティーンと深く関わっていたことはオープン・シークレットで、 J.P.モルガン幹部らはこぞって「エプスティーンの犯罪については何も知らなかった」と主張しているものの、内部ではステイリーがエプスティーンに対する融資を続ける姿勢を貫いたことは長く問題視されていたという。 そしてスティーリーに対しては、J.P.モルガンがその責任を追及する訴訟を起こしており、その訴訟は既に示談が成立。 和解内容は非公開であるものの、スティーリー個人が J.P.モルガンの訴訟関連費用の一部を負担したと見られるのだった。
J.P.モルガンほどのバンクの最高経営責任者であれば、2桁億円単位の給与が支払われているのは確実であることから、 スティーリーに和解金支払い能力があることは明らか。しかし企業経営の問題について幹部個人の責任を訴訟という形で問うのは珍しいケース。 これは言ってみれば、日本で同様の性的スキャンダルが報じられる芸能プロプロダクションを顧客にする銀行が、 その担当者を訴えるような状況。
J.P.モルガンとしては、2008年にエプスティーンが少女の買収斡旋罪で有罪になってからも、内外の反発を押し切って融資を続けた責任が 当時の最高経営責任者、スティーリー個人にあったことを 法的記録で残しておきたかったために起こしたと言われるのがこの訴訟。 そうなるとエプスティーンと個人的にも親しかったスティーリーが 「バンカーとして利益を優先するあまり、彼の犯罪を知りながら融資を続けた」というよりも、 彼自身がヴァージン諸島のプライベート・アイランドで、エプスティーンによって少女達をあてがわれたVIPの1人だったのではないかという疑惑がどうしても浮上してくるのだった。



マーラゴの不動産価値は本当は幾らなのか?


今週NYの判事が下したのが、トランプ氏、及びトランプ・オーガニゼーションが 所有する不動産を過剰に見積もることにより、有利な利率と条件で銀行融資を受けて来た詐欺容疑の裁判で、 トランプ側が22億ドル前後、過剰に資産を見積もっていたと認定する判断。 10月2日からは、トランプ・ファミリーとそのオーガニゼーションが、長年に渡って 金融機関を含むビジネス・サイドに対しては不動産価値を過大評価する一方で、納税申告の際には過小評価をして税金逃れをしてきた詐欺罪の 裁判がスタートすることになっており、この認定はトランプ側に極めて不利に働くと見られているのだった。
しかしそれ以前からインターネット上で取り沙汰されてきたのがフロリダ州パームビーチにあるトランプ氏の私邸兼プライベート・クラブ、マーラゴに 果たしてどの程度の不動産価値があるのかという疑問。トランプ側の見積りでは 6億1210万ドルとされているけれど、査定人による市場価値は1800万〜2760万ドル。 そのためNYの判事はトランプ氏がマーラゴの不動産価値を2000%以上過大評価していると指摘したのだった。
トランプ氏の息子、エリック・トランプは この判断を受けて「マーラゴには査定人の市場価格の100倍の価値がある」と反論したけれど、 今年8月にも不動産ウェブサイト Zillowが マーラゴの市場価格を4億2200万ドルと見積もって大炎上しており、その後2420万ドルに訂正する失態を演じたばかり。 トランプ擁護派は、同じパーム・ビーチでマーラゴよりも敷地面積が狭い物件が3890万ドル〜5990万ドルで売りに出ていること、 マーラゴに ほど近い同等面積のさら地が2億ドルで売却された例などを挙げて、査定人の市場価格が低すぎると反発していたのだった。
しかしマーラゴが さら地より安いのは当然で、理由はマーラゴが1965年にフロリダ州パームビーチのランドマーク指定を受けた建造物であるため。 すなわち建物の保存が義務付けられるだけでなく、様々なランドマーク規定によってがんじがらめにされるとあって、ランドマーク指定をされた不動産は市場価値が大きく低下するのは常。 そのマーラゴは、1927年に当時の女性富豪が大金を投じて建設した大邸宅。トランプ氏が購入したのは1985年のことで、 当初オーナー・ファミリーは トランプ氏から提示された その当時の最低見積り価格 2000万ドルでの買い取りをあっさり拒否。 そこで意地になったトランプ氏は、マーラゴと海岸線の間の小さな土地を 当時のKFCオーナーから200万ドルで買い取り、 そこに「マーラゴからのビーチ・ビューを遮る私邸を建設する」と脅しをかけたのは、トランプ氏本人が自慢として語るエピソード。 これによって、ただでさえ買い手を探すのが難しいマーラゴの市場価値が激減。 そのお陰でトランプ氏は僅か700万ドルでマーラゴを手に入れることに成功。これを「ディール・メイキングの達人」と呼ぶか、「汚いやり口」と考えるかは意見が分かれるところであるけれど、 正攻法では責めず、脅しが絡む手法は、NYでは良く知られるトランプ氏の長年のやり口。パームビーチのオールドマネーでは上品過ぎて歯が立たないのは無理もないことなのだった。
マーラゴを買い取って以来、大々的なリノベーションに入ったトランプ氏は その途中で資金不足となり、マーラゴを複数の邸宅として切り売りするプランをパームビーチ政府に提出。 しかしランドマークにそのような許可が下りるはずはなく、1994年からプライベート・クラブとして運営を始めたのが 現在のマーラゴに落ち着いた経緯。 これだけ大きなランドマーク物件を維持していくには、ホテルやプライベート・クラブとして経営するしかないのが実情で、そのような物件では高額査定がされることは無いのだった。
ちなみにマンハッタン5番街のトランプ・タワーにトランプ氏が所有する2787平方メートルのペントハウスも、トランプ側の見積りによる市場価格は3億2700万ドル。しかし、実際にはNYの一等地のロケーションを考慮して、最高に見積もっても、 その3分の1程度が市場価格。加えて80年代に建設された時代遅れなデザイン、国民の半分がアンチ・トランプ派で通常の物件よりバイヤーの数が半減することを考慮すると、実際の価値は更に低いとも指摘されるのだった。



アレクサより賢い!、消費者版喋るAI


先週のこのコーナーで、アマゾンがスマートスピーカー、アレクサにAIテクノロジーを導入することにより、アレクサがデートのアドバイスから詩の執筆までをこなすようになることをご説明したけれど、 今週オープンAIが それに対抗するかのように発表したのが、チャットGPTが ユーザーの音声リクエストに対応するようになったこと。 すなわちチャットGPTに アレクサのような会話能力が備わった訳で、既にその能力はアレクサ以上。 先週アマゾンは AI導入によって、従来のように「アレクサ、ヒーターをつけて」と言わなくても、今後は「アレクサ、部屋が寒い」と言えばヒーターをオンにしてくれるようになると今後のビジョンを語っていたけれど、 既にそんな機転や、フォローアップの質問に至るまで、人間と会話しているようなやり取りを実現しているのがチャットGPT。 実際にチャットGPTと試験的に会話をしたオープンAIの従業員は 「チャットGPTに話を聞いて貰えて、精神的に安定した」と語っており、 今後AIをセラピーに活用することも視野に入れているとのこと。
さらにオープンAIはスポティファイと提携して、ポッドキャストをAIジェネレートの本人の声で別言語にする試みを行っている真最中。 もしこれが実現した場合、通訳が要らなくなるのに加えて、やがてAIが進化した場合、「外国語を学ぶ必要があるのか?」という疑問さえ出て来ることが予測されるのだった。

一方、これまでAIプロジェクトでは沈黙を続けて来たフェイスブックの親会社、メタも今週、WhatsApp、メッセンジャー、インスタグラムといった同社の人気アプリで利用出来る 新たなAI会話アシスタントを発表。 このアシスタントには28種類の AIキャラクターのチョイスがあり、そのラインナップは元NFLクォーターバックのトム・ブレイディ、モデルのケンドール・ジェナー、テニスのナオミ・オオサカ、元NBAプレーヤーのドゥウェイン・ウェイド、ラッパーのスヌープ・ドッグ等 かなりユニークな顔ぶれで、既にベータ版がリリースされているのだった。要するにアマゾンのアレクサやアイフォンのSiriの代わりを、 トム・ブレイディやケンドール・ジェナー等が務めてくれるのがメタのAI。 最終的にメタAIテクノロジーをRayBanと開発中のスマート・グラス、及びメタのヴァーチャル・リアリティ・ヘッドセット、Quest 3に導入するという野心的なプランも示していたのだった。
今週の2社の発表によって、ビジネス界はAIの進化が日進月歩どころではない速さで進んでいることを痛感しており、 半導体メーカーとして今年に入ってから株価が爆上げ状態のエヌビディアも、複数のAIスタートアップに多額の投資をしていることが報じられたばかり。 「AI市場を制覇する者が次世代を牛耳る」という印象を益々強くしているのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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