May 24 〜 May 30 2021

"Why People Get Angry So Easily"
ロード・レイジ、エア・レイジ、銃乱射事件、ヘイトクライム、
益々気性が荒くなるアメリカの怒りの原因は?



今週末のアメリカはメモリアル・デイの休日を月曜に控えて3連休のロング・ウィークエンド。 全米でプレパンデミック・レベルに近い3700万人が車でのドメスティック・トラベルをしており、 エア・トラベラーの数も昨年の約6倍の400万人。これを受けてマイアミ国際空港では 空港を利用する旅行者へのワクチン投与が行われていた他、NYでもワクチンのモービル・サイトがビーチに送り込まれていたのだった。
木曜の段階で最低1回のワクチン接種を受けたアメリカ人の数は1億6600万人に達し、Fully Vaccinated人口は1億3400万人で人口の40.7%。 このところのワクチン接種スローダウンを補うために カリフォルニア州では 総額1億1600万ドルのキャッシュやギフトをワクチン接種のインセンティブにして接種者を大幅に増やした他、 オハイオ州では今週半ばに”ワクチン宝くじ”による初のミリオネアが誕生したばかり。ワクチン投与の対象になったばかりのティーンエイジャーに対しては、 同じくオハイオやNY等で 4年制州立大学の授業料が無料になる奨学制度が当たるワクチン宝くじが導入されているけれど、実際にワクチン接種を拒む人々に極めて効果が高いのが 金銭的なインセンティブ。 バイデン政権では「7月4日の独立記念日までに成人70%が最低1回のワクチンを接種」というゴールを設定しており、現時点では全米の半数以上の州で それが達成されるペース。
一方、週半ばには現在アメリカからの渡航自粛が呼び掛けられている日本に 米国オリンピック選手団を送り込むことが物議を醸していたけれど、 その際に「ホスト国日本のワクチン普及率2%」という後進国並みに低い数字が メディアで驚きをもって報じられていたのだった。



エアレイジを恐れてリタイアを早めるフライトアテンダント


さて今週のアメリカは 何時に無く様々なレベルのヴァイオレンスのニュースで溢れていたけれど、中でも報道時間が割かれていたのが 先週金曜に怒ったカリフォルニア州のロードレイジ。これは6歳の息子を学校に連れて行こうとした母親が、無謀な横入りをしたドライバーに 中指を立てるF-Youのジェスチャーをしたところ、それに逆切れした車の同乗者が母親の車の後部に発砲して息子が死亡した事件。 警察では問題の車を運転していた女性と発砲した同乗者男性逮捕のための情報提供を求め、 20万ドルの懸賞金を提示しているものの2人は未逮捕のまま。
またワシントンDCでは、マゼラッティを運転していた男性が横入りをした車の女性ドライバーに複数の銃弾を浴びせる事件(写真上中央)が発生。 女性は車を走行して逃げたものの怪我を負っており、こちらも容疑者は未逮捕。 ソーシャル・メディア上では「マゼラッティに乗れる人間が何故こんなにイライラしているのか?」といった指摘が飛び交っていたけれど、 「人間の幸福度は 年収7万5000ドルを超えると、それ以上は幾ら稼いでも一緒」と言われるだけに 高級車に乗れる財力が精神の安定を約束する訳ではないのだった。

今週はそんなロードレイジのニュースに加えてエアレイジ、すなわち航空機内での乗客による壮絶な暴力もニュースになっていたけれど、 それが先週日曜にサウス・ウエスト航空機内で起こった事件。アメリカの航空会社機内ではワクチン接種をしていても マスク着用は今も義務。それを拒否した白人女性客がフライトアテンダントと口論になって 殴り掛かり、 歯が二本折れて出血する怪我を負わせているのだった。
同様のエアレイジは今年に入ってから2500件以上起こっており、そのうち約1900件がマスク絡みのトラブル。 この数は乗客数がパンデミック前に比べて遥かに少ないことを考慮すると かなりの確率で起こっている計算。 エアレイジで逮捕されると最高で2万5000ドルの罰金と懲役刑が課せられ、航空会社側はその乗客を生涯ノーフライ・リストに載せることが出来るけれど、 今年に入ってから急増しているのが「給与や労働時間がエアレイジのリスクに見合わない」と辞めたり、リタイアを早めるフライトアテンダントの数。 エアレイジは航空会社が機内でのアルコールのサーヴィングを再開してから急増しており、 パンデミック中に増えた飲酒量も昨今のアメリカ人の精神不安定要因を担っていると言われるもの。
またマイアミの空港ではチケットのブッキングを巡って数人が殴り合う事件が3週間で2回起こっており、今やエアレイジは機内だけの問題ではなくなっているのだった。



銃の更なる普及がアグレッシブで攻撃的な社会へ 


そして今週水曜に カリフォルニア州サンノゼのヴァレー交通局で起こったのが、同局に勤めるサミュエル・キャシディ(57歳)が 3丁の銃と11ユニットの大容量弾倉を持って現れ 合計39弾を発砲して9人を射殺した事件。キャシディは勤続10年以上で10万ドル以上の年収を得ていたものの、 同僚に対する人種差別発言が原因で 事件当日には懲戒聴聞会にかけられる予定であったとのこと。
今週はこれ以外にもコロラドのスーパーで10人が射殺される事件が起こっており、 2021年にアメリカ国内で起こった”マス・シューティング(4人以上が撃たれる銃撃事件)”の数は5月28日の時点で225件。死者数は1万7000人で、怪我人は約1万2500人。 そんな中、テキサス州で法令化されようとしているのが21歳以上ならばライセンス無し、バックグラウンド調査無しで誰でも銃が購入できるという 恐ろしい銃規制緩和法案。そもそも昨今の銃撃事件急増の原因は アメリカ社会に更に多くの銃が溢れているためで、 4月の1ヵ月間だけでアメリカ国内で販売された銃の数は180万ユニット。多くの人々が銃を携帯しては 「マスク着用を注意された」、「車で横入りされた」といった些細な理由でも それを行使するのが現在のアメリカ。 銃を持つと”ウェポン・エフェクト”で、精神状態がアグレッシブになることは5月3週目のQ&ADVのセクション ”夫が護身用に銃を購入してからというもの…” でも ご説明したけれど、昨今の更なる銃の普及と携帯増加はガン・ヴァイオレンスだけでなく、アメリカ国民に攻撃的かつ短気な精神状態をもたらしているのだった。

その一方で引き続き今週もアジア人に対するヘイト・クライムが報じられていたけれど、それに昨今加わっているのがアンチ・セメティック(反ユダヤ)のヘイトクライム。 2020年からパンデミックを受けて急増したアジア系に対するストリートでのヘイト・クライムは いきなり暴力を振るうケースが圧倒的。人種差別のヘイトクライムは口頭による罵倒や侮蔑から暴力にエスカレートするのが一般的なのに対して、 アジア人に対してはいきなり後ろから突き飛ばす、殴り掛かる、蹴り飛ばす犯罪が殆ど。 ターゲットの約60%が女性で、男女を問わず高齢者を狙うケースも多く、 個人の怒りやフラストレーションを コロナウィルスを理由に一目でアジア人と分かる存在に発散させる腹いせ、弱者虐めと言えるのだった。



怒りは精神疾患の症状の1つ


アメリカではこうしたヴァイオレンスが続くと「何故人々がこんなに怒り易くなってしまったのか?」と新しい社会問題のように取り上げるのが常。でも同様のヘッドラインは 2000年以降に定期的に見られてきたもので、エスカレートしてきたとは言え 決して新しい問題ではないのだった。
10年以上に渡ってそのエスカレートの一端を確実に担ってきたのがソーシャル・メディア。 というのもソーシャル・メディアは多数のリアクションを獲得するために 怒りのトーンで書かれている、もしくは怒りのリアクションを煽る目的で書かれているケースが殆ど。 ソーシャル・メディアに費やす時間が長い人ほど、不安や怒り、嫉妬の感情が強く、精神が不安定と言われるけれど、そんなソーシャル・メディアによって抱く怒りを 精神的刺激と捉えてジャンキーになって行くケースは多く、それと同時に知人や友人との経済的な違いを感じたり、自分が居ない世界で幸せそうにする様子を見て落ち込んだり、モヤモヤした不安を抱えるのは ソーシャル・メディアの負のスパイラル。そうなると怒りが感情のデフォルトになって、無意識のうちに自分を奮い立たせる怒りのネタや怒りのはけ口を求めるようになるのだった。
怒りも 落ち込みもエスカレートすると自分ではコントロール出来ない状態になるけれど、怒りのエスカレートで起こるのがヴァイオレンスという形の発散。 ヴァイオレンスには突発的な怒りがトリガーになったものと、銃乱射事件のように継続的な怒りが原因の計画性と準備を伴うものがあるけれど、 パンデミック初期には有色人種の行動をチェックしては警察に通報していた”カレン”と呼ばれる白人女も、昨今では前述のエアレイジにも見られるように 自ら暴力を振るうケースが増えているのだった。 そんなアメリカで近年取り沙汰されるようになったのがIED(Intermittent Explosive Disorder/直訳すれば”間欠性爆発障害”)。 これは断続的な激しい怒りが器物損壊や暴力事件などのヴァイオレンスに発展するケース。
私は個人的には「XXX症候群」「XXX障害」などと 様々な症状に名前を付けて不必要に病気扱いするのには反対の立場であるけれど、 怒りは複数の精神疾患の症状の1つ。近年ではその放置よって精神疾患とヴァイオレンスの双方が悪化した結果、凶悪な犯罪に発展するケースが増えているのだった。

今週にはNYのブロンクスの高齢者専用住宅で87歳の男性が83歳の隣人を殺害して大きな報道になったけれど、 被害者も加害者も認知症ユニットの住人。殺害方法は加害者が被害者の頭を掴んでコンクリートの壁に何度も叩きつけるという強暴なもの。 一旦怒りでキレた状態になった認知症患者の強暴ぶりはケアテーカーが安全のために避難しなければならないほどで、 何が怒りのトリガーになるかが全く分からないとのこと。 認知症は高齢者だけのものではなく 若年性も増えており、ジョンズ・ホプキンズ大学が若年性認知症の後期症状の筆頭に挙げているのが 「Severe mood swings and behavior changes / 激しい感情の起伏と行動の変化」。
問題が起こって腹を立てるのは人間として当然であるけれど 些細なことで激怒し、その頻度が多い場合には ”怒りっぽい性格” や ”人間性の至らなさ” として片付けるのではなく、 本人と周囲の安全のためにも 早い段階でヘルプを求めるべきなのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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