Jan 11 〜 Jan 17 2021

"Wake Up Call for Decentaralization?"
SNS言論統制は人々を経済のディセントラリゼーションに目覚めさせるか?


今週木曜に発表されたアメリカの新規失業保険申請者数は過去5ヵ月で最多の96万5000人。 ワクチン投与がスタートしてもアメリカのコロナウィルス感染は一向に収まらず、今週は毎日のように3000人以上の死者を記録。総感染者数は金曜の時点で世界の4分の1以上に当たる2340万人。 イギリスからの変異種、 B.1.1.7の感染者は現時点で全米の10州で確認され、その数は76人。3月までにはアメリカの感染者のマジョリティが B.1.1.7感染者になる見込みが発表されているのだった。
でもウィルス感染やワクチン投与よりもメディアの報道時間が割かれていたのが先週水曜に米国議会で起こったドメスティック・テロ関連の報道で、 今週毎日のように報じられたのが加担者逮捕のニュース。 悪質な容疑者の写真を公開し、国民にID割り出しの協力求めたFBIには10万件を超える情報が寄せられ、 その多くが家族や友人、隣人によるもの。 特に武器を持ち込んでいた容疑者達は、「TVのライブ放映中にナンシー・ペロッシに銃弾を撃ち込む」と友人にメッセージを送っていたり、 保守派ソーシャル・メディアで民主党下院議員処刑をほのめかすなど、選挙人投票阻止以上のヴァイオレンスを計画しており、 その犯罪がトランプ氏によって恩赦され、自分がアメリカを救った英雄の1人になると信じていたことが明らかになっているのだった。



 ”焼石に水” の言論統制 


1月17日、日曜には本来ならばバイデン大統領就任式のリハーサルがワシントンDCで行われる予定であったけれど、複数の武装反政府組織による新たな暴動が 保守派ソーシャル・メディア、パーラーで計画されていたことから リハーサルは延期され、ヴァーチャルの開催となったのが大統領就任式。国民に対してワシントン入りしないようにと呼び掛けられたのが今週末のこと。 パーラーはアマゾン、アップル、グーグルがいずれもそのアプリの取り扱いをドロップしたことから永久閉鎖の危機に瀕しているけれど、 その一方でフェイスブック、インスタグラム、ワッツアプ、YouTubeといったソーシャル・メディアがこぞってトランプ大統領、及びトランプ陣営一部のアカウントを停止したことで、 今週誰もが感じたのが大手テック会社が一国の大統領の”声”を奪うほどパワフルな存在であること。 特に過去4年間 トランプ氏のマウスピースの役割を担ってきたツイッターによるアカウント永久閉鎖は トランプ氏にとって大打撃で、 8870万人のフォロワーにアクセスする術を失ったトランプ氏は、スマートフォンを取り上げられたティーンエイジャーのようなフラストレーションを見せていたことが伝えられるのだった。
これに対する国民の意見は「言論の自由を守るべき」という声と、「あんな事態が起こるまで陰謀説やカルト集団化を野放しするなんて」とソーシャル・メディアの遅すぎたセンサーリングを 批判する声の真二つに分かれていたけれど、言論の自由を支持する人でも全米50州で引き続き武装したトランプ支持者が暴動を計画していることを受けて、 「大統領就任式が終わって ほとぼりが冷めるまでの一時的なアカウント閉鎖は致し方ない」という見解を示していたのもまた事実なのだった。

どちらの意見でも批判されていたのがソーシャル・メディアの対応であるけれど、特に有識者が指摘していたのが ソーシャル・メディアのアルゴリズムが 過激な陰謀説や極右勢力を急速に増幅させてきた実態。アルゴリズムがユーザーの利用時間を長引かせ、 中毒状態にすることにより 広告収入を高め、スポンサー企業に有料提供する個人データを収集するようにデザインされているのは周知の事実。 そうした金儲け主義のアルゴリズムの影響で コンテンツをクリエイトする側、閲覧する側がどんどん一定の思想に偏る現象をもたらしてきたのもまた事実。 人間心理を巧みに分析したアルゴリズムで これまで散々利益を上げてきたソーシャル・メディアが そのビジネス方針を改めずして 議会乱入テロのような事態が起こってから、危険分子の特定アカウントだけをクローズしたところで全く問題の解決にならないのは明らか。
フェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグは、1月6日午後のテロ進行中に既に社内メモで対応を指示していたことが 伝えられるけれど、「こうした事態が起こることをFBIよりも的確に予測していたはず」と言われるのがユーザーの日常のアクションや メッセージを逐一分析しているソーシャル・メディアなのだった。



セントラリゼーションに属している限りは制裁を防げない


今週にはドメスティック・テロに対する世論の猛反発を受けて、マリオット、JPモルガン、ナイキ、ディズニー等多数の企業が 下院の選挙人投票に反対票を投じた共和党上院議員8人、共和党下院議員138人に対する政治献金停止を発表。 金銭的制裁はトランプ氏にも押し寄せており、議会乱入直後にトランプグッズ販売サイト、そのアフィリエート・サイトの閉鎖を発表したのがShopify。 ストライプとペイパルもトランプ氏のキャンペーンへの寄付送金プロセスを停止。 さらにはNY市、米国最大手の法律事務所セイファース・ショウ、大手不動産管理会社のキャッシュマン&ウェイクフィールド、ドイツ・バンクが いずれもトランプ・オーガニゼーションとのビジネスを一切絶つ意向を示したことから言論統制だけでなく、経済制裁のターゲットになっていたのがトランプ氏。
企業の政治献金やビジネス・コントラクトは少なくとも暫くは戻らないものの、トランプ氏に寄付をしたがる熱烈な支持者は未だに多いことから、 トランプ陣営にとって最も大きな打撃と言われたのが献金の送金手段が奪われたこと。 これを受けてトランプ支持者の間では「これからは資金集めをビットコインで行うべき」との意見が高まっていたけれど、 そもそも中央銀行制度に支配されないディセンタライズ・アセットとして生まれたビットコインは、制裁措置の対象にはなりえない資産なのだった。

しかしそのビットコイン、及びクリプトカレンシーは2018年からソーシャル・メディアの言論統制のターゲットになってきた存在。 フェイスブックがクリプトカレンシー関連の広告掲載を禁止してきた一方で、 YouTubeは ビットコインの解説をするYouTuberが陰謀説など一切語らなくても、ある日突然 チャンネルごと削除するような不当な処分しており、 その都度クリプトカレンシーのコミュニティがYouTubeに猛抗議をすることによって幾つものチャンネルを閉鎖から救って来ているのだった。
でも今となっては「詐欺が横行している」、「テロリストの資金になっている」といった理由でソーシャル・メディアがクリプト叩きを試みてきたのは、 「大手テック企業が自社コインでクリプト市場に参入をもくろんでいたため」とも言われる状況。 事実フェイスブックは2019年に自社クリプトのリーブラを発表。2021年中にそのネーミングをDiemと改めて フェイスブック上での物販及び送金手段として実用化に踏み切る見込み。 それが実現・普及した場合にはフェイスブックという企業がCEO、マーク・ザッカーバーグの決断1つで多くの人々の言論だけでなく、経済活動も簡単に規制することが可能になるのだった。



言論の自由のコントロールよりも恐ろしい個人資産へのコントロール


実際に言論の自由のコントロールよりもさらに恐ろしいのが個人資産に対するコントロール。 パンデミック以降、急速にキャッシュレス社会になった欧米のみならず、世界中の国々で導入が時間の問題になっているのが CBDC(Central Bank Digital Currency)、すなわち国の中央銀行が発行するデジタル通過。 中国では既にデジタル人民元の実用が試験段階に入っているけれど、CBDCは中央銀行が発行するとあって中央集権マネー。 これまで中央銀行と国民の間に入ってきた銀行の役割が希薄になり、国民1人1人の口座が中央銀行とコネクトされるので、 個人の収入や投資、消費が全て政府によって監視、コントロールされるだけでなく、 確定申告の必要が無くなる一方で、脱税やマネーロンダリングは不可能。 お金の流れを牛耳る政府の権限がどんどん強くなるのだった。

個人資産へのコントロールは共産主義や独裁主義国家のみで行われると思われがちであるけれど、 実際には歴史的にそれが行われてきたのは民主主義国家が経済危機に瀕した際。 つい最近では通貨の破綻危機を迎えて、インフレ率が35%に達しているアルゼンチンで、パンデミックの危機を乗り切るための1回きりの政策として、 米ドルにして250万ドル以上の資産を持つ1万1865人の市民の国内、海外の資産に対する臨時課税が12月に議会で可決されたばかり。 でもアルゼンチンでは過去に何度も通貨危機を迎えているとあって、国民は政府の「1回きり」という言葉を全く信用しておらず、 富裕層がインフレ対策と資産を守る目的を兼ねて購入に走ったのがビットコインなのだった。

そんな話を聞いても日本人は「通貨危機を迎えた訳でもないし、ビットコインは分からない、興味もない」という人が多い上に、 「新札発行を控えて、CBDCはまだ先の話」と考える傾向が顕著。しかしながら新札発行で国民の資産状況を国が把握した段階でCBDCが導入される方が恐ろしいと見受けられるのが実際。 ビットコイン以外のディセントライズ資産の筆頭に挙げられるゴールドなら政府のコントロールが逃れられるかと言えばそうでもなく、 アメリカの1930年代の大恐慌の際に起こったのが、国民が所有するゴールドを国が指定した価格で売却しなければならないという事実上の没収。以来1970年代までアメリカでは国民が ジュエリー以外の5オンスを超えるゴールドを所有することが禁止されており、同様の没収措置は1959年のオーストラリア、1966年のイギリスでも起こっているのだった。 万一この先の日本で同じことが起こった場合、多くの人々が田中貴金属からゴールドを購入しているだけに、そのデータを元にした政府による没収・買い取りは非常に簡単に思われるのだった。

前回のファイナンシャル・クライシスでは、大量の紙幣を印刷するベイルアウトで危機を凌いだものの、 パンデミックの影響で世界各国の中央銀行がこぞって金融の量的緩和を行った結果、この先の危機で発行出来る通貨のキャパシティが極めて限られてくるのは明らか。 世の中が「まさか」が起こり得る時代に入っているだけに、今後訪れる経済危機に際して 中央銀行が国民の資産凍結、没収等を行う可能性は決して否定できないもの。 それだけにこれからは世界中何処に暮らしていても 中央集権システムに属さない資産を持つことが これまで以上に大切になってくると思われるのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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