Dec 21 〜 Dec 27 2020
史上最悪と言われた2020年のアメリカを振り返って…
今週はクリスマスを金曜に控えて週明けからアメリカはホリデイ・モード。コロナウィルスの感染拡大が更に悪化しているにも関わらず850万人が
旅行に出掛けており、空港でインタビューされた多くの人々が旅行の理由に挙げていたのが「長い間家族に会っていない」ということ。
その一方で、今週与野党議員、世論、メディアの怒りと反発を招いたのが、トランプ氏の任期切れ直前の恩赦連発。
その中には娘婿の父親、チャールズ・クシュナー、多額の選挙資金横領で私腹を肥やした共和党議員らが含まれており、
本来大統領恩赦はFBIや司法省との意見交換を経て決定されるべきところを、トランプ氏は完全にそのプロセスを割愛。
これまでトランプ政権下で恩赦された94人中、89人がトランプ支持者、トランプ氏の友人で占められているのだった。
中でも今週世界的に顰蹙を買ったのが米国政府のプライベート・ミリタリー・コントラクター、ブラックウォーターのメンバーで、
バグダッドの14人の一般市民を理由もなく殺害し、17人に重傷を負わせた罪で6年前に有罪になっていた4人を無罪放免にしたこと。
それもそのはずでブラックウォーターのオーナー、エリック・プリンスはトランプ政権の教育長官、ベッツィ・デヴォスの弟。
アムウェイ、NBAオーランド・マジックを経営するビリオネアのデヴォス・ファミリーは2016年の大統領選の時からトランプ氏を熱烈に支持し、
多額の政治献金をしており、妊娠中絶や同性婚の違憲化や銃規制撤廃にも多額の資金を投入している超右寄り保守派。
ベッツィ・デヴォス自身は公立校のために使われるはずの国民の税金で チャーター・スクール(裕福なコミュニティが独自に設立した学校)の運営をサポート。
富裕層に公立校の授業料で私立校並みの学校を提供してきた一方で、従来の公立学校システムを崩壊寸前にまで導いた悪名高き教育長官。
今週バイデン次期大統領が、彼女の後任に公立学校制度擁護の立場を貫いてきたミゲル・カルドナを指名し、
彼が人種や居住区に無関係な教育の質の向上を掲げたことは、チャーター・スクールの恩恵とは無関係な一般国民に大歓迎されていたのだった。
2020年を象徴する3つのキーファクター
2020年はパンデミックの影響で世界の人々にとって史上最悪の年であったと言われるけれど、
アメリカにおいてはパンデミックに加えてブラック・ライブス・マター(BML)に代表されるソーシャル・ジャスティス、大統領選挙が2020年を象徴するキーファクター。
特にBMLの抗議活動を全米のみならず世界中に波及させたのが、ミネアポリスの警官、デレク・ショーヴィンが逮捕して手錠を掛けたジョージ・フロイドの首に
膝を押し付けて不敵な笑みを浮かべていた姿。このシーンは多くの人々にとって2020年の最も忘れられないシーンの1つ。
2020年中はそれ以外にも警官による黒人層に対する不必要な発砲射殺事件が相次いだけれど、抗議運動とは裏腹に年末になってもそれが収まる気配が無いのが実情。
またコロナウィルスが中国から広まったことを受けて、今年はアジア系移民に対する暴力や嫌がらせも全米各地で増加。
そのコロナウィルスは感染拡大が大統領選でマイナス要因となるトランプ政権がウィルスの存在からロックダウン、マスク着用までを否定。それらに不必要な政治的意味を持たせていたけれど、
そうしたずさんなコロナウィルスへ対応やBLMのムーブメントがなければ、バイデン氏が特に魅力ある候補者ではなかっただけに、恐らくトランプ氏が再選されていたという意見は多いのだった。
私にとってはそのバイデン勝利が報じられた11月7日土曜日 午前11時半過ぎにニューヨークで沸き上がった歓声と、その後のセレブレーションは2020年で最も印象的だった瞬間。
それと同時に忘れられないのは ニューヨークで初のコロナウィルス患者が出た際のローカル・メディアのパニック報道とそれを見た時の不吉な予感、
感染ピーク時に1日に何度も耳にした救急車のサイレン、
ロックダウン解除の第一フェイズ直後にミッドタウンに久々に出掛けた際に目の当たりにしたゴーストタウンのような静けさ、
さらに3月27日からスタートし 毎日午後7時に医療現場最前線で働く人々に
感謝の拍手と声援を送る#ClapBecauseWeCare(#クラップ・ビコーズ・ウィ・ケア)のグラスルーツ・イベントも
2020年の忘れ難い光景。インターネットの呼びかけでスタートした#ClapBecauseWeCareは、その後2ヵ月以上に渡って雨の日も週末も続けられていたのだった。
パンデミック中にはフリーランスのナースや医療関係者が、感染ピークを迎える州に移動しながら医療行為を行っていたけれど、そんなフロントラインを渡り歩いた医療関係者がこぞって語っていたのが、
ニューヨークがいかに仕事がし易かったか。春先から5月にかけて感染ピークを迎えたニューヨークでは、休業中のレストランが医療関係者のために毎日のように食事を差し入れ、
子供達がエッセンシャル・ワーカーに感謝のメッセージをサインやカードにして贈っており、私自身、街中で医療関係者を含むエッセンシャル・ワーカーに「Thank you!」と声を掛けて労をねぎらうニューヨーカーの姿を何度目撃したか分からないほど。
それがノース・ダコタやアリゾナ州になると「自分はコロナウィルスになんて感染していない」と患者がナースを怒鳴りつけたり、付き添いの家族にマスクを着用するように言っただけで
「民主党の犬」などと罵られたとのこと。マスクについては全米のストアでその着用を拒む人々が口論、殴り合い、引いては銃まで持ち出してくる
過剰反応を見せていたのだった。
ポリティカリー・コレクトネス & 女性初
2020年はBMLの抗議活動の高まりによってポリティカリー・コレクトネスを求める風潮が一層高まった年。
それを受けて長年アメリカで人種差別のシンボルになってきたコンフェデレート・フラッグ(南軍旗)がNASCARのレース会場から排除され、
ロバート・リー将軍を始めとする南軍の英雄、奴隷制支持者の銅像が全米各地で撤去されたのに加えて、
メジャーリーグのクリーブランド・インディアンズ、NFLのワシントン・レッドスキンズがそれぞれネイティブ・アメリカンに対する
差別用語を使ったチーム名を改めた年。それ以外にも人種差別的な商標やパッケージの改定が相次いだけれど、
ファッション&ビューティー業界ではマイノリティ・モデル、トランスジェンダー・モデルの起用、及びマイノリティ・オーナーのブランドに対するフォーカスが高まり、
”They”が ”She”でも”He”でもない、ジェンダーフリーの三人称単数を示す言葉として市民権を獲得。
さらに2020年はカマラ・ハリスが史上初の女性マイノリティ副大統領に選出されたのは周知の事実であるけれど、
それ以外にも1月に開催された第62回グラミー賞でアルバム・オブ・ジ・イヤー、ソング・オブ・ジ・イヤーを含む主要4部門を総なめにした女性初の受賞者になったのがビリー・アイリッシュ。
9月に死去したルース・ベイダー・ギンズバーグ最高裁判事が、最高裁ビルと議会議事堂で一般国民の弔問を受けた初の女性になった一方で、
次期バイデン政権で女性初の財務長官に指名されたのがジャネット・イエレン元FRB議長。カレッジ・フットボールの世界ではヴァンダービルト大学のサラー・フラーが
ハイレベルのリーグ、パワーファイブに出場した史上初の女子プレーヤーになっており、
様々な分野で”女性初”が誕生したのは2020年の明るいニュース。
しかしながら気象変動が原因の山火事、竜巻、ハリケーンといった自然災害が猛威を振るったのも2020年で、特に2020年は歴史的なハリケーンの当たり年。
2020年に死去したセレブリティの中で最もショッキングに受け止められたのは1月26日にヘリコプター事故で娘ジジと共に41歳の若さでこの世を去った元NBAプレーヤー、コビー・ブライアント。
ソーシャル・メディアでは、ミレニアル&ジェネレーションZを中心に爆発的人気を博したのがTikTokで、セレブリティでもなかなかフォロワーが増やせないこの新しいプラットフォームから
一般人のインフルエンサーが何人も誕生していたのだった。
ファーストタイム・インヴェスター、エブリシング・ヴァーチャル、フード・インセキュリティ
2020年春に第1回目のコロナウィルス景気刺激策の支援金支給が行われたのを前後して、過去最多のグーグル検索数を記録していたのが「How To Buy Stocks」。
今年はミレニアル世代を中心にスマートフォン・アプリのロビンフッドを通じて初めて株に投資をする人々が増えており、年末になってからはその投資先はビットコインに移行。
従来の取引所ではなくロビンフッド、ペイパルを通じた投資がトレンディングになっているのだった。
それとは別に2020年のアメリカはコイン不足が問題になった年。つり銭不足は地方都市だけでなく、秋口にはNYにまで波及。
私自身、財布というものを持ち歩かなくなって2年以上が経過しているけれど、今年は全くと言って良いほどキャッシュを使わなかった年。
事実、ウィルス感染防止を謳ってキャッシュを受け付けないビジネスが激増。アメリカが大きくキャッシュレス社会に動いたのが2020年。
そして2020年と言えば学校授業からビジネス・ミーティング、ミュージアム・ツアー、エクササイズ・クラスまでもがヴァーチャルになり、
WFH(Work From Home)になった人々がNYやカリフォルニア等の税金、物価、レントが高い州からテキサス、フロリダ等に移住するケースが続出。
引っ越し業者が依頼を断る大繁盛となった一方で、移住組が増えた州では新規住宅建設ラッシュが起こり、その影響でティンバー(住宅用木材)に投資をしていた人が
ハイリターンを獲得。またウィルスのワクチンを開発した製薬業者の株価はサッパリであったものの、ファイザー社のワクチンを摂氏マイナス70度で保存するための冷却設備メーカーの株価は
その恩恵を受けており、ワクチンに限らず、現在製薬業界では超低温で保存しなければならない処方箋薬が増えているとのこと。
さらにパンデミックの影響ですっかり低迷を脱したゲーム業界は、今やビデオのストリーミングやスポーツを上回る業界規模に成長。
特にEスポーツには現在多額の投資金が流れ込んでいるのだった。
その一方でパンデミック以前の段階で既に60万人に達していたアメリカのホームレス人口が更に急増したのが2020年。パンデミック中に
全米の27都市で家賃や住宅ローンの未払いで家を追われた人々の数だけでも16万2000人。
家賃どころか食費さえ支払えない人々がフードバンクに長蛇の列を作ったことから、全米のフードバンクの需要が前年比で120〜160%アップ。
昨年までフードバンクに寄付をしてきた人々が「まさか自分がフードバンクに行列するとは思わなかった」と語りながら行列する姿が見られたのが2020年。
そんな人々がようやく受け取れるはずだった政府からの支援金がまたしても棚上げになったのが今週で、現在の支援法案が最初に下院で可決されたのが5月末であったことを思うと、
政治家が理由をつけては意図的に救済を先送りしていると言われても仕方がない状況。
前回のファイナンシャル・クライシスの際には、散々身勝手なリスクを冒して大儲けをしてきた金融企業を救うために 2008年1年間だけで4回も
金融の量的緩和を行った政府が、真面目に働いてレイオフされた国民が食糧を買うお金にも困っている時には 紙幣の印刷を渋るというのは
非民主的を通り越して、非人道的と見なされる姿勢。(Update:トランプ氏は12月27日夜になって、ようやく法案に署名したことが伝えられています)
アメリカではトップ1%の資産合計がボトム90%の資産総額とほぼ同じで、これはフランス革命が起こった時よりも大きな貧富の差。
そんな世情を受けて、多くの人々が どんな形であれ 社会が変わらざるを得ない時が刻々と近付いていると感じたのが2020年。
去年の続きが今年、今年の続きが来年というシナリオがもう成り立たなくなったことは2020年に誰もが学んだレッスンなのだった。
来週のこのコーナーは1回お休みを頂いて、次回は2021年1月10日の更新となります。
Have a Happy Healthy Prosperous New Year! / ハッピーかつ健康で、実りある新年をお迎えください。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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