Dec 14 〜 Dec 20 2020

"Farewell to NYC Restaurants Permanently Closed in 2020"
2020年にクローズした1000軒のNYレストランの中で 私が最も閉店を惜しむ6軒


今週のアメリカで最も報道時間が割かれていたのが、ワクチン投与スタートのニュースとアメリカの北東部を襲った大規模なスノーストーム、ゲールのニュース。 その間にもコロナウィルスの感染はさらに拡大。それと共に木曜に発表された新規失業保険申請者数も88万5000人となり、9月以降最多を記録しているのだった。
その一方で週半ばから大問題になっていたのが、ロシアによる過去9ヵ月に渡る 国防省からソフトウェア企業に至るまでの広範囲かつ大規模なハッキング。 ”サイバー・ヴァージョンのパールバーバー”と表現されるこのサイバー攻撃には政府の情報委員会が大々的な制裁を求めていたものの、肝心のトランプ大統領がこの問題に一切言及せず、 やっと土曜日に沈黙を破って非難したのはロシアではなく中国。「ロシアのハッキングはフェイク・ニュースで、 中国によるハッキングの方が遥かに大規模」というのが決してプーチン大統領に逆らえないトランプ氏が展開した”新しい説”なのだった。



20%下がった私のレントが象徴する今のニューヨーク


さて私事ではあるけれど、年末で今住んでいるアパートのリース契約が切れる私は2週間前に更新を行ったばかり。 その結果私のレントは20%ダウンして、前回のファイナンシャル・クライシス(日本でいう2007年のリーマン・ショック)の時とほぼ同等のレベルになったのに加えて、 年間700ドルのジムのメンバーシップが無料。 もしリースが更新ではなく 新規の契約であった場合は 契約期間の最終月がフリーレントになっていたという完全な借り手市場。
引っ越す意志が無かった私が最も迷ったのは契約の長さで、最短で6ヵ月、最長で18か月のチョイスがあったのだった。 多くのニューヨーカーは「ワクチン投与が始まっても、州外脱出者が多かったので まだまだニューヨークのレントは下がる」という意見。 本当にそうなるのであれば、最短で契約を更新して更なるレントの下落を待つべきであるけれど、 まだまだ低迷が見込まれる不動産売買市場よりも通常は早く動くのがレンタル市場。
2020年11月は昨今の家賃下落を受けて、新規のレンタル契約数が突如30%アップ。 この中にはニューヨーカーが別の好条件のアパートに引っ越す件数も含まれるものの、 少しずつ増えてきているのが新たな流入組とカムバック組。後者の中には「地方や郊外の生活が退屈で耐えられない」という人も居れば、 ハリケーンやスノーストームが原因の停電等、地方&郊外特有の問題や隠れた生活コストに気付いた人、 そしてワクチンが普及して再びレントが上がる前に戻ろうという人々が居るようなのだった。
2020年には40万人の住民が州外に移住したニューヨークでは、3月〜9月の間に6000のビジネスがクローズし、そのうちの4000件が再開の見込みが無い廃業。 破産申請件数も前年比で40%アップしており、120万人と言われたNY市のオフィスワーカーのうち 現時点でオフィスに戻って勤務しているのは約15%。 パンデミックによってニューヨークは完全にリセット・モードに入っているのだった。



R.I.P. My Fave NYC Restaurants


ニューヨークのビジネスでパンデミックによって最も大きなダメージを受けたのは 言うまでもなくレストラン業界で、今年閉店に追い込まれたレストランは1000軒。 その中にはオープンから1年も経っていないハドソン・ヤーズ内のTAKルームや、ブーレー・アットホーム等、ミシュラン・スター・シェフの店も複数含まれている状況。 またモンキー・バー、21クラブ、ペグ・クラブ、ゴサム・バー&グリル等、長年に渡るビジネスで、多数のパブリシティを獲得してきた店もクローズしているけれど、 私にとって最も閉店がショッキングで残念なのがこれからご紹介する6軒。
まず1軒目は写真上左側、ソーホーの外れにあったアクア・グリル。1996年にオープンした同店は私の意見ではNYでNo.1のエブリデイ・シーフード・レストラン。 週末のブランチでも人気のスポットで、誰もがアペタイザーにオーダーしていたのが生ガキ。ちなみに店内の写真の左手前のカウンターの上に積まれているのがその生ガキ。 それ以外にもツナのタルタル、ホタテのソテー、ロブスター・ロール等、何をオーダーしてもシーフードが新鮮で美味。 ちょっとメートルディーと話し込んだだけでシャンペンをご馳走してくれるようなフレンドリーなサービスも魅力なのだった。
2軒目、写真上右側のアンクル・ブーンズは、ミシュラン三ッ星レストラン、パー・セ出身のシェフ2人が2013年にノリ―タにオープンしたタイ・レストランで、2015年からミシュラン・スターを獲得。 若いシェフならではの冒険的でクリエイティブなグルメ・タイフードが良心的な価格で味わえたけれど、 唯一の問題点は店舗が狭くて、ウォークインの来店客が待っていることが多く、食後にゆったりできかなかったこと。
3軒目は写真下左側のミッション・チャイニーズフード。ここは何度もCUBE New Yorkで記事にしたけれど、ヒップな雰囲気とエッジーな客層の中で刺激的にスパイシーな四川中華が味わえたレストラン。 ちなみにアンクルブーンの写真の手前右に頭が写っているのはミッション・チャイニーズの韓国人シェフ、ダニー・ボーウェン。 同店のライスケーキのソテーと麻婆豆腐、スパイシー・チキンウィングはヤミツキになる美味しさ。 ブルックリンの支店は生き残っているけれど、ここはマンハッタンのローワー・イーストサイドにあった店舗とは似て非なる存在なのだった。
4軒目は写真下右側のオーガスティン。同店はバルタザール、パスティスを手掛けるレストランター、キース・マクナリーの系列レストラン。メニューや店内の雰囲気にもそれが如実に表れていて、 とにかく居心地が良く、当たり前のものが当たり前に美味しかった店。ファイナンシャル・ディストリクトのビークマン・ホテル内にあったオーガスティンは、 バルタザールやパスティスより遥かに予約が取り易く、常に失敗が無いので何度も足を運んだ記憶があるのだった。





レストラン・ビジネスのパラドックス


5軒目、写真上左側は私が住むアッパー・イーストサイドで25年以上の長寿人気を誇った地中海料理のネイバーフッド・レストラン、ビヨグル。 ここのフラット・ブレッドとハマスは他店のものが全て邪道に思える絶品。私は1990年代から同店に友達を連れて出掛けていて、 私の忠告を無視して他の料理を注文した友達が それを殆ど食べずにフラットブレッドとハマスを繰り返しオーダーする状況を何度経験したか分からないほど。 加えて請求書を見る度に その安さに驚いていたけれど、あれだけ繁盛していた店がロックダウンであっさりクローズしたことは、 私だけでなく アッパー・イーストサイドの常連客に非常にショッキングに映っていたのだった。
最後の6軒目、写真上右側は昨年夏にタイムズスクエア・エディション・ホテル内にオープンした701ウエスト。 オープン直後に出掛けた私が料理からインテリア、サービスまで久々に惚れ込んだアップスケール・レストラン。それもそのはずでシェフはNYの若手実力派、ジョン・フレイジャー。 インテリアを手掛けたのはイアン・シュレーガー。今年2月のガールズナイト・ディナーが同店での最後の食事になってしまったけれど、 閉店の理由は8月でエディション・ホテル自体が閉鎖されてしまったため。これはホテルのオーナーであるマリオットと投資会社による決断なのだった。

私が常にレストラン・ビジネスがとても難しいと思うのは、経営的にサヴィになればなるほど、食のインパクトが薄れる傾向にあること。 パンデミック中も立派に生き残っていても「10年前の方がずっとクォリティが高くて好きだった」というレストランがある一方で、「閉店してから7年経つけれど、あの料理が忘れられない」という レストランもある訳で、経営のサクセスが必ずしも 人の心や記憶にインパクトを与える食体験を意味する訳ではないのは言うまでもないこと。
先日読んだ記事に「2020年のレストラン・クローズにより、ニューヨーカーは食事が楽しめるスポットだけでなく、そこでの思い出が奪われてしまった」と書いてあったけれど、 私の考えはその逆。これらのレストランがそれまでのクォリティやサービスを落として、利益追求の経営で生き残って行く方が、 それまで味わった食事やその時の様々な思い出が 私の中で台無しになると思われるのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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