Nov 9 〜 Nov 15 2020
終わった選挙を長引かせる本当の思惑とは?
今週のアメリカで最も報道に時間が割かれていたのは、トランプ氏が起こそうとしていた不正選挙の裁判のニュースではなく、
圧倒的にワクチン開発のニュース。
このニュースが報じられた先週日曜夜からダウの先物が1000ドル以上アップし、
逆に月曜にはZOOM、ぺロトン、ネットフリックス、アマゾンといったステイホーム銘柄が暴落。
まるでコロナウィルスが終わったかのようなリアクションであったけれど、その割にワクチンを開発したファイザー社の株価が上がらなかったのは
ファイザーのCEO、アルバート・ブーラがその持ち株の60%に当たる560万ドル分の株式を売却し、それが市場関係者の間で広まったため。
これをインサイダー取引と疑問視する声が聞かれたものの、アルバート・ブーラはこの売却は今年8月の時点で発表していたと釈明しているのだった。
ファイザーのワクチンに続いて、月曜にはイライ・リリーが開発していたアンチボディ・トリートメントを
FDA(食品医薬品局)が緊急認可。これは10月にウィルスに感染したトランプ大統領に投与された
治療法に似たもの。
それ以外にも今週にはロシアがファイザーの90%という効果を上回る92%の効力を謳ったワクチン開発を発表しているけれど、
アメリカでは金曜まで10日連続で新規感染者が10万人を超えており、州ごとに営業時間制限、集会の人数制限といった
規制がどんどん発令されていたのだった。
トランプ氏敗北は既に織り込み済!?
トランプ大統領による不正選挙訴えのニュースは、ワクチン、コロナウィルスの感染状況に次ぐ今週三番目のニュース。
というのも起こされた訴訟がどんどん棄却されていたのに加えて、不正の確固たる証拠が提出されなかったためで、
週半ばには13ヵ国からやって来た選挙監視団、ホームランド・セキュリティのサイバー・セキュリティ部門等が次々と「今回の選挙は極めて公正に行われ不正はなかった」と正式にレポート。
トランプ陣営がその裁判に最も力を入れていたペンシルヴァニア州では、訴訟を担当するはずだった大手法律事務所が
金曜に裁判から手を引くことを発表。理由は不正の証拠が明確でないままトランプ陣営に言われるままに訴訟手続きを進めようとした事務所の姿勢に抗議してトップ弁護士達が
次々と辞表を提出したため。
その一方で今週報じられていたのが共和党内部、及びトランプ陣営でも選挙結果が覆せないことが既に織り込み済みという状況。
共和党議員がバイデン氏の祝福を控えているのは「トランプ氏が敗北を悟るまでには時間が必要」と考えているのに加えて、
トランプ氏の復讐を恐れているためと言われ、トランプ陣営では既にスタッフ解雇が進んでいたのが今週。
トランプ氏による不正選挙の訴えに加担していないイヴァンカ・トランプ&ジャレッド・クシュナー夫妻は、
ワシントンDCからニューヨークに戻る準備に入ったと言われ、
トランプ氏自身も日曜には「He won because the Election was Rigged」と事実上バイデン勝利を認めるツイートを行っているけれど、
そのトランプ氏は今週側近に、全ての投票結果が出てバイデン次期大統領誕生が正式に発表された際には
「コンセッション・スピーチ(敗北を認め勝者を祝福するスピーチ)の代わりに、2024年大統領選挙出馬を発表する」と語っていたことが報じられているのだった。
未だ支持者から裁判の寄付を集める理由
開票結果が確定するに連れて、バイデン側はポピュラー・ヴォートでトランプ氏との差を400万から600万近くに広げており、
選挙人の獲得数も週末の段階で306人。トランプ氏が結果を覆すには少なくとも3つの州での逆転が必要で、これが不可能なことは政界でも、メディア業界でも認識されていること。
にもかかわらずトランプ氏が今週毎日のように不正選挙についてツイートをし、裁判で戦うとして引き続き支持者から集めていたのが寄付。
しかし熱心なトランプ支持者が不正選挙を覆して勝利を勝ち取るために行っている寄付は、個人の寄付額が5000ドルを超えた場合にのみ その一部がリカウント(数え直し)を求めるファンドに行くシステム。
それ以外は40%が共和党全国委員会、残りの60%がトランプ氏が新たにスタートした”Save America” というPAC(Political Action Committee)の資金になるのだった。
PACは資金の使い道に制限が無いことから、これまで超富裕層の税金逃れの手段になってきた政治献金システム。一定の政治家や政党ををサポートする活動資金として
自らが作ったPACで寄付を募り、自分自身でも寄付をすれば、集まった資金で私用のヨットやランボルギーニを購入してもOK。しかも払った寄付金は税金控除の対象になるというもの。
したがって裁判費を名目に集まった寄付は トランプ氏が自分の高額ライフスタイルを維持するために使っても、
3年以内に満期を迎える約4億ドルの借金返済に当てたとしてもお咎めなしで、最初からそれが目的の寄付集めという見方もアンチ・トランプ派の間で高まっているのが現在。
土曜日には、ソーシャル・メディアを通じて呼びかけられたトランプ支持者数千人がホワイトハウス前に集結。引き続きの熱心なサポートを見せる中を
トランプ氏が大統領専用車ビーストに乗って、手を振りながらゴルフ場に向かう姿が見られたけれど、
その様子に象徴されていたのが トランプ氏本人でさえ支持者と共に闘うよりゴルフを優先させる姿勢。
ちなみにトランプ氏の警備、移動費を含むゴルフ代は2019年5月の段階で国民の税金1億ドル以上を費やしており、
バイデン氏がゴルファーでないのは国家予算の見地からは朗報と言えるのだった。
トランプ氏、自叙伝出版契約で1億ドル?
11月17日にはオバマ前大統領の自叙伝「ア・プロミス・ランド」が出版されるけれど、
もし選挙に敗れたトランプ氏が自叙伝の出版契約を結んだ場合、見込まれるのはオバマ夫妻が2017年の契約時に受け取った
6500万ドルを上回る1億ドル近くのアドバンス(前金)。
それ以外に現在トランプ氏がスタートすると噂されるのが、選挙直前から不協和音が続き、
今や裏切り者扱いをするようになったFOXニュースに代わる新たなコンサバティブ・メディアのスタート。
トランプ支持者の間では、トランプJr.やイヴァンカに次期選挙で立候補して欲しいとの声も上がっているけれど、
選挙直後のアンケート調査では「もしトランプ氏が選挙に敗北した場合、2024年に再出馬するべき」という意見は共和党支持者の間では38%であったとのこと。
でも次回選挙出馬、多額の借金返済を含むトランプ氏の今後の鍵を握ると見られるのが、NYの司法長官が起こしているトランプ氏とトランプ・オーガニゼーションの長年の不正ビジネスに対する訴訟。
大統領に就任以来、「勝てば官軍」的に税金申告書公開を逃れてきたトランプ氏であるものの、もはやその公開は時間の問題。
特にトランプ氏の長年の弁護士で、ビジネスの内情を熟知するマイケル・コーヘンが選挙資金規正法違反、脱税等の罪を認め、捜査に協力していることから
この訴訟にかなりの弁護費用が掛かるのは明らか。
そもそもトランプ氏のビジネスは、見栄を張る無駄遣いと訴訟費用が収入を上回ることで知られ、この夏公開された税金申告書の一部によれば、
黒字経営をしているのは、マーラゴ、ワシントンDCのホテルを含む3つの施設のみ。
でも今後は 歴代大統領として国の税金で終生警備が賄われるのに加えて、
ペンションとして終生受け取れるのが政府官僚のエグゼクティブ・レベル1の年収。その額は2020年の段階では21万9200ドル、日本円にして約2295万円。
しかしこれはトランプ氏のライフスタイルを考えると焼石に水の金額であるだけに、
まだまだトランプ氏は寄付と献金を集めるためにも政治活動を続けると見込まれるのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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