Nov 2 〜 Nov 8 2020
未だ or 遂に、バイデン勝利と今後
今週のアメリカ最大のニュースは言うまでもなく大統領選挙。
私が土曜の東部時間午前11時20分過ぎにジョー・バイデン当選を知ったのはニュースやメディアのアラートではなく、窓の外で人々がセレブレーションを始めたため。
NYの街全体が いきなりこんな大歓声に包まれたのは私が記憶する限り2012年にNYジャイアンツがスーパーボウルで勝利して以来のこと。
NYはアンチ・トランプ派、民主党支持者が多いブルー・ステートとあってその後30分以上に渡って大歓声が続いていたけれど、
これによって誕生したのが史上初のブラック/アジアンのマイノリティ女性副大統領。
バイデン氏は史上初の黒人大統領の副大統領であっただけでなく、史上初の黒人副大統領を指名した大統領になるのだった。
アメリカの大統領選挙では敗れた側が、英語でConcession Speech / コンセッション・スピーチと呼ばれる
敗北を認め、国を1つにするスピーチをするのが慣例。しかしこれは法的に定められたものではないことから、現時点で見込まれるのが
トランプ氏が歴史上初のコンセッション・スピーチを行わない敗者になること。
トランプ氏は裁判で戦うとしているものの、現時点で
共和党上層部や 超トランプ寄りメディアであるFOXニュースまでもが示しているのが「選挙は終わった」という見解。
今後2021年1月20日の大統領就任式までは、バイデン氏は ”President-Elect / プレジデント・エレクト” という名称で呼ばれ、
週開けから早速新政権スタートの準備に入ることになるのだった。
メジャー・ネットワークが中断したトランプ・スピーチ
アメリカがこの選挙結果を知るまでもなくトランプ敗北が近づいていることを予感したのが、木曜のナショナル・ブロードキャスト・ニュースの時間帯である6時50分前から
トランプ氏がホワイトハウスのプレス・ルームで行ったスピーチ。
その内容は「合法の票だけをカウントしていれば、自分は楽に勝利している」、「世論調査が投票者抑圧をしている」、
「郵送票に不正投票が多数混じっている」、「アメリカ軍の票はどこへ消えた」といった事実無根の申し立て。このスピーチを最後まで放映したのは
CNNとFOXニュースという全く反対のポリティカル・ポジションにある2つのネットワークのみ。それ以外のABC、NBC、CNBC等は上のビデオにあるように、10分を回った頃から
「大統領のスピーチに虚偽が多数含まれているので 訂正します」とアンカーが割り込む様子が見られていたのだった。
これはネットワーク側の判断もさることながら、ソーシャル・メディア上で「大統領だからといって こんなデマ吹聴のプロパガンダの放映を許すのか!」という非難が殺到していたため。
最後まで放映したCNNとFOXニュースも 直後に内容訂正をしており、これまでは何を発言してもまかり通っていたトランプ氏に初めて
メディアのファクトチェックがリアルタイムで入ったのがこの時。
特に超トランプ・メディアのFOXニュースについては、他のネットワークに先立ってバイデン氏のアリゾナ州勝利を報じたことから
トランプ支持派が腹を立てただけでなく、トランプ氏自身がネットワークのオーナーであるルパート・マードックに直接電話で撤回を求めたものの、
マードックはそれを拒否しているのだった。
結果は裁判では覆せない
トランプ陣営、及びその支持者は選挙直後から複数の州で40以上の訴訟を起こしているけれど、
訴訟というものは起こせば裁判になる訳ではなく、既にいくつもの訴えが裁判所によって棄却されているのが現在。
現時点の訴訟は「投票用紙が奪われた」と訴える年配女性の証言を証拠にしたもの、「死人名義の投票用紙が含まれている」と訴えるもの、
「選挙日以降にカウントされた遅れた票は無効」といったものであるけれど、前者2つは例え事実でも選挙結果に影響するほどの数ではないのは明白。
後者については選挙日以降にカウントされた郵送票の殆どが選挙日前に投函されているだけに、決して遅れた投票ではないのは周知の事実。
(日本のSNSで取り沙汰されている不正申し立てはすぐに解決しているので 訴訟を起こす段階にも至っていません)
郵送票集計に時間が掛かり過ぎることを疑う声もあるけれど、
郵送票の方が開封とスキャンに時間がかかる上に、投票者のサインを事前登録された筆跡と照合するプロセスがあることから 投票所の票よりも集計に時間が掛かるのは当然のこと。
加えてペンシルヴァニア州などは投票日になるまで郵送票のカウントが許されないのが法律。
今回の選挙はパンデミックの影響で郵送票、特に民主党支持者、リベラル派の郵送票が激増したけれど、
各州が「全くトラブル無しに、予定より早く開票が進んだ」とレポートしており、その集計所での全プロセスは民主・共和の開票監視団によって見守られただけでなく、
インターネット上のライブストリーミングでビデオ放映されていたので誰にでも閲覧出来るようになっていたのだった。
トランプ陣営は全米50州での票の数え直しを裁判で求めるとしていたけれど、ジョージア州のような僅少差の州はオートマティックにリカウントに入るのが法律。
しかし大差がついている州では不正の証拠無しに数え直しの要求をすることは裁判でも不可能。
ちなみに2000年の大統領選挙が最高裁にまで辿り着いたのは、選挙の行方を決めるフロリダ州での投票結果が僅少差であっただけでなく、
当時の稚拙な投票マシンのせいで どちらに投票しているかが識別出来ない投票用紙が多数存在したため。
その数え直しの結果、僅か537票差でフロリダ州の選挙人を獲得したジョージ・W・ブッシュの当選が確定。
ポピュラー・ヴォートで勝利していたアル・ゴア側はフロリダ州の投票やり直しを求めることも出来たものの、国が分断されることを危惧して敗北を認めたのがこの時。
今回の選挙では2000年当時のような事態やトランプ側が主張するような不正の証拠が無いだけに、最高裁で結果が覆されるようなリーズナブルな
訴訟はほぼ無いと見込まれるのだった。
ナンシー・ペロッシが下院議長を追われる?
ジョー・バイデンが勝利したとは言え、今回の選挙結果は民主党にとっては諸手を揚げて喜べないもの。
というのも下院では過半数を維持したものの議席数を減らし、過半数獲得が見込まれていた上院でそれを逃す事態となったため。
そのため党内で盛り上がっているのが下院議長、ナンシー・ペロッシの責任を問う声。
共和党より早く世帯交代を迎えた民主党では、
NY選出のアレクザンドリア・オカジオ・コルテスに代表されるニュー・ウェイブ議員が今回の選挙でも議席を増やし、
前回ペロッシを下院議長に選んだベテラン議員のパワーが大きく低下。
バイデン氏より高齢の80歳のナンシー・ペロッシは再立候補の意志を見せているものの そうは問屋が卸さない気配なのだった。
逆にトランプ氏敗北によって 今後政権復帰が見込まれるのは
トランプ政権内の不正を訴えるホイッスルブローワーになったためにポジションを追われた高官や、
トランプ政権に抗議して辞任した科学者や政府職員。
その一方で土曜日にはCNNのコメンテーター、ヴァン・ジョーンズ(写真上右)が「これによって事実を報じてもバイアス(このケースでは特定政党支持メディアの意味)だと批判されないで済む」と
涙ながらに語る様子がヴァイラルになっていたけれど、
正義感のあるジャーナリストやレポーターにとって本当に辛かったのが、
トランプ政権に都合が悪い事実を報じる度に受けてきたフェイク・メディア扱い。
土曜日にはFOXニュースのキャスターでさえトランプ氏に敗北を認めるように訴え始めたけれど、
陰謀説、フェイク・メディア扱いがトランプ支持者の間からそう簡単に消えることは無いのが現実なのだった。
最後に今回の大統領選挙は私のアメリカ生活で8回目のものであったけれど、
支持候補が勝利したリアクションがここまで大きいのは2008年にオバマ大統領が選出されて以来。
でも当時と異なるのは喜びで泣いている人が メディアでもソーシャル・メディアでも多数見られた一方で、
危機感から解き放たれて安堵を感じている人々が非常に多いということ。
逆にトランプ支持者は4年前に民主党支持派が味わった敗北感や怒り、ジレンマを感じており、
こんなエモーショナル・レベルの高い選挙を4年毎に続けていたら、ただでさえ先進諸国の中で短いアメリカの平均寿命が
更に短くなると思われるのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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