May Week 5, 2021
Japan is Becoming Cheap?
安価優先、”質” を重んじる日本の心は何処に?


秋山様、
アメリカで5年生活した後、コロナウィルスが原因で昨年帰国した者です。
日本での再生活をウィルスの緊急事態宣言が発動されて、東京オリンピックが延期される中でスタートしましたが、 最初は物価が安く、サービスが丁寧な日本は悪くないなぁと思いながら暮らしていました。 ですが徐々に自分がだんだん日本の悪い側面に偏って行くのを感じるようになりました。 意識高い系を自称する”島国フェミニスト”の主張や、どう考えても英語力が足りないまま海外メディアから情報を適当に拾っているYouTuberの言い分に 腹を立てたり、ストレスが溜まったりの毎日で、帰国後の自主隔離中の食事をコンビニから便利に調達していたのがそのまま食生活になってしまい、 コンビニで買ったものを食べながら、SNSにドップリという生活になってしまいました。

でもさすがにウエストラインが太くなり 自分でもそれが悪いのは分かっていたので、ある時ツイッターのアプリをアイフォンから消して、YouTubeも英語のものだけを見たり、ヨガやホーム・エクササイズのビデオを見ながらやるように心掛けました。 食べ物も近所のコンビニで買わず、遠くのスーパーで食材を買って料理することにしました。 すると体重が減って 頭がクリアになってきたこともあって 「日本はこれで大丈夫なのか?」と思うようになりました。 私が心配なのは、日本が長く続いたデフレの影響で 「適正価格」の意識が希薄になって「安ければ安いほど良い」という社会になってきていることです。 今の日本では食べ物からスキンケアまで価格を安くするための化学薬品がどんどん混入してきています。 食べ物は化学薬品のせいで 食べた時は美味しいと感じるので 私も帰国直後はハマって食べていましたが、 私はカルフォルニアに住んでいたので オーガニックの野菜を食べて、ジョギングをしたり、ビーチでヨガをしたりがライフスタイルでした。 ですから自主隔離期間に私の意識や食生活を簡単に変えてしまった化学薬品まみれの食事に恐ろしくなりましたが、 日本で多くの人達がコンビニで食事を済ませて、それで平気で生きている様子にはもっと恐ろしくなりました。

そう思いながら日本社会を見るにつけ、世界で一番 ”質”を理解していたはずの日本人が、 「安かろう悪かろう」に甘んじている様子が残念でなりません。 恐らくそれは欧米で言われる「失われた30年」の間に、株価や収入が上がらず、「コストを減らして節約する、値段が安い方を選ぶ」質素でつつましい価値観が定着して、 日本人が”質”に価値を見出さなくなってきたためだと思います。 物に適正価格があるのを忘れて「まともに生産したらこんな安価にはならない」と思える値段の方が当たり前になってしまい、 どうしてそんな価格が実現できるのかを深く考えず消費していると思います。 今日明日というレベルではどうにもならなくても、それが5年10年と続けば肥満や心臓病、皮膚炎、アレルギー症、精神不安定など、いろいろな病気を引き起こすのは目に見えています。 身体に良いケミカルなどないからです。 熱く語ってしまって申し訳ありません。

私は決して日本に批判的なのではなく、アメリカに住んでいた時は日本人である自分を毎日のように意識していたので、普通に日本にだけ住んでいる日本人よりもずっと愛国心は強いと自覚しています。 でも海外で暮らしていたというだけで、日本についてちょっとでも批判的なことを言うと 周囲が批判的なので言いたいことも言えない感じです。
秋山さんはつい最近日本に一時帰国されたと書いていらしたのですが、その時に日本をどう感じられましたか。 今の日本がどうしたら良くなると思いますか? CUBEさんの読者でも日本について批判的なことを書くと怒る人が居ると思うので 言い辛いかもしれませんが`、ご意見を聞かせて頂けたら嬉しいです。

- F -


私もコンビニ・フードには思うところがありました


Fさんがご指摘の通り私は2月半ばから5週間弱、日本に一時帰国していました。 この時は日本がコロナウィルスの緊急事態宣言の真っ最中でしたので、最初の2週間は自主隔離のために空港近くのホテルで過ごし、その後も 会える友人やその時間帯が限られていたこともあり、今回は通常とは異なる一時帰国でした。 そういう特殊な時期に2年ぶりの母国の印象をジャッジするのは適切ではないと思うのですが、 コンビニの食事については私もかなり思うところがありました。
先に一時帰国をしていた知人から、自主隔離中のコンビニ・フードやカップラーメンを食べる生活についていろいろ聞いていたので、 私は最初の2日はNYから持参したフードを食べて、3日目から2日間だけコンビニ・フードを食べました。 私は1日1食主義ですので 合計2食、コンビニのサンドウィッチやおにぎり、胡麻和え、サラダを食べましたが、1食目を食べた翌朝には野菜を取っていたのに便秘気味になり、 2日目の夜に原因不明の細かい発疹が額に出たことから、翌日からはグーグル検索で2キロ離れたところにある大手スーパーを探し出して、そこにランニングを兼ねて買い出しに行くことにしました。 コンビニ・フードについてもグーグル検索をしましたが、保存料を含むケミカルの混入は予想していたものの、おにぎりのごはんにまでシリコンが入っていることはその時に初めて知りました。 シリコンは欧米だとシャンプーやスタイリング剤に含まれるのさえ嫌われる原料です。 加えてコンビニ・フードの添加物についての検索結果で「世界の科学者が添加物の安全性を保証しています。食中毒を防ぐためにも添加物はプラスの方が大きいと言えます」といった説明が食品業界から行われ、 それを鵜呑みにする傾向が決して少なくないこともショックでした。 私は健康や食関連の情報や記事はかなり積極的に読みますが、少なくとも私が英語で読んでいるものには添加物の安全性を保証している科学者など出てきたことはありません。 また21世紀の先進国で「食中毒を防ぐ」というセンテンスが出て来るのは そもそもフレッシュな食べ物ではなく、調理から時間が経過した状態での販売を前提にしている訳ですので、 コンビニ・フードは栄養や健康面を度外視して 出来る限りの利益を上げるために生産されている製品に過ぎないとも感じました。
Fさんがご指摘の通り、それを食べている人は安価や便利の代償をやがては心身の健康を害する、もしくは老化の促進という形で支払うことになってしまうと思いますし、 今はその危険を警告するYouTubeビデオもかなりあるようです。でもケミカルは中毒性がありますので抜け出すのは難しいですし、 それはコンビニ・フードだけでなく、不健康な食事や加工食品全般に言えることです。それらが中心の食生活をしている人の中にはリスクを指摘されると攻撃的になる人も居るようですが、 そうしたリアクションはドラッグやアルコール中毒者も同様です。

SNSについては私はそもそも関わらない主義なので 実態の詳細は分かりませんが、日本を誇りに思って外国で生きている日本人が失望するような 陰湿で暴力的、かつ下品な言葉のツイートがかなり増えてきていることは頻繁に耳にしますし、それが表面だけ取り繕っている一部の日本人の本性だという声もあります。 さらに今回の一時帰国では、今までになく自殺や精神障害の深刻な問題について様々な話を聞くことになりましたが、ソーシャル・メディア上の虐めや 様々なレベルでの虐待がかなり悪質である一方で、それを救済する体制の無さについても深く考えさせられました。 したがってコンビニ・フードとSNSが現在の日本のカルチャーの二大悪のように書いていらしたFさんの主張には私も同感です。
でも私が一時帰国時に限らず 日頃から問題に感じているのはその根底にある意識です。日本では未だ「人と同じでなければならない」、「世間が良しとする人生を生きなければならない」という社会概念が強く、 それを若い世代に押し付けていますし、若い世代もそれで自分を苦しめている様子は外国から見ていても顕著です。 世界は徐々に自由に生きる時代に突入しようとしているのに、本来なら世の中の空気が読めて 新しさを求める日本人が 保守的で 時に部落的な価値観から抜け出せず、「抜け出せば異端者」、「自由に生きる人間、生きようとする人間を蔑む、叩く」という状況が続いていると思います。

「つつましい生活」は美徳であっても…

Fさんご指摘の「適正価格」の意識についても、日本の物価が世界の先進国のスタンダードとズレてきたので 日本を訪れた先進国からの旅行者は物価の安さに驚きます。 つい最近ジムで話したイタリア人カップルも日本で食べたラーメンの美味しさと安さを指摘していましたが、お寿司に関しては旅行ガイドによく載っている銀座のすし店よりも NYの某すし店の方が「NYプライスで高いけれど美味しい」と言っていたのがとても印象的でした。実際に今では特上のすしネタが最優先で入荷するのが高額で買い入れるアメリカと言われるようになって久しい状況です。
この手の話題になると 出て来るのがFさんもご指摘の日本の「失われた30年」ですっかり定着したデフレと経済規模のスケールダウンです。 私は89年に渡米しているので、今でも自分の日本語の感覚において「つつましい生活」というのは 「お金があっても必要以上の贅沢や、財産を見せびらかすような出費はせずに質実剛健に生きること」だと思っています。 つつましさ、謙虚さは英語ではModestyと訳される訳で、これは実際の能力や力量、財力などよりも自主的に控えめにする状態を意味する言葉です。
昨今の日本においては「つつましい生活」と「切り詰める生活」との違いを意識する人が減ってきて、この2つがゴチャゴチャになっているように感じられます。 私の考えでは「つつましい生活」は見栄や虚栄、無駄が無く、お金を遣う時は生きた遣い方が出来るので 心も金銭面も豊かになる美徳としての生き方です。 しかし「切り詰める生活」は必要なものでも削って生きなければならない状況ですので、続ければ続けるほど必要なものが切り捨てられて 心も金銭面も貧しく、感性も鈍く 頑固になっていきます。 すなわち「貧すれば鈍する」の状態になるので、「切り詰める生活」からは抜け出さなければならないのです。 でも言語上でこれら2つがゴッチャになっているせいか、私がざっとリサーチした印象では収入が少なくても 出費をどんどんスケールダウンして生きることを「つつましい生活」という美徳として捉える傾向が 窺えました。 今の日本の一部に見られる 質や健康への影響よりも とにかく安価を求める風潮はそんな「切り詰める生活」を肯定し、甘んじる様子を象徴するように見受けられてしまいます。 もちろん人生にはいろいろな時期がありますので、一時的に誰もが経済的に守りに入る局面を迎えるのは仕方がないことです。 でもそれが国を上げてのムードになってしまった場合には、経済がダイナミックさを失ってどんどん萎んで行くのは避けられません。

その一方で 少なくとも私の友人の間では、今後日本経済に起こり得る危機、特に日本の債務超過について深刻に捉える傾向が顕著になってきて、 財政需要の財源を国債に頼り続けることについて 以前ほど呑気な見解は聞かれなくなりました。 また 「日銀が社債を購入することで 政府が生き残る企業を選んでいる」、「本来ならとっくに潰れているはずのゾンビ企業が生き残って、新しいビジネスが生まれない」 「だから日本企業に世界的な競争力がどんどん無くなってきている」という見解を持つ人も増えたように思います。
残念なのは「世界」をスタンダードにする視点や、東南アジアの若者のように「外貨を稼ぐのが財産であり愛国心」という意欲が無く、「日本で稼ぎ、日本で生きる」という限られた枠組みが 未だ根強いことです。 ですがグローバル・エコノミーの世の中では、日本が自国の状況を自国の都合や意志で保てるとは限りません。 例えば中国のウィグル地区のリエデュケーション・キャンプの教師として雇われた女性が つい最近出版した著書の中で、「中国政府の世界征服のロードマップでは第一フェイズが2014年~2025年にかけての 新疆ウイグル自治区の人種の同化と排除、第二フェイズが2025年~35年の近隣諸国との統合、そして第三フェイズが2035年~2055年の欧州進出」であると書いています。 既に「北海道が中国に買い取られている」とまで言われるのですから、これからは日本が世界の影響でどうなって行くかを視野に入れて、それに備えて生きる必要があります。
私は日本政府が ゾンビ企業の社債など引き受けず、「石油より水」と言われる時代が来たのですから 全ての水源を国有化して外国資本から守るべきだと思いますし、 外国株やクリプトカレンシーのキャピタルゲイン課税率を下げて、国民の個人レベルの外貨獲得を奨励するべきだとも思いますが、国というのは所詮は何もしてくれないものなのです。 そうなると国民は自分自身で自分を守るしかない訳ですが、それは多かれ少なかれ 何処に暮らしていても同じだと思う次第です。

Yoko Akiyama


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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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