セルフドライヴィング・カー初の死亡事故の原因はUberにある?
事件捜査で明らかになったUberの企業体質の問題点
Published on 3/27/2018

3月18日にアリゾナ州、タンぺで起こったのが Uberのセルフドライヴィング・カーにによる死亡事故。
車種はヴォルヴォ XC-90 のSUVで、セルフドライヴィング・カーとは言っても
Uberのスタッフが運転席に乗車するタクシー。
アメリカでは2017年に4万100人が交通事故により死亡しており、そのうちの94%がスマートフォンに気を取られるなどの
ヒューマン・エラーによる事故。そのためセルフドライヴィング・カーは、そうした 死亡事故を減らすための有効な手段になり得ると
期待を集めており、そんな最中で起こった初のセルフドライヴィング・カーによる死亡事故 ショッキングに伝えられたのは言うまでもないこと。
ところが、事件の全容が明らかになるにつれて、これがセルフドライヴィング・カーのテクノロジーの問題というよりも
Uberという企業の体質に問題があったという見方が徐々に強くなってきたのだった。
以下のビデオは事件後に公開されたダッシュボード・カムの画像で、自転車を押しながら道を横断していた歩行者をはねる前に
車が一向に減速していない様子を捉えていると同時に、インドアの映像では乗車していた Uberスタッフが
前方には関心を払わず、歩行者をはねた瞬間に驚く様子が捉えられているのだった。

この死亡事故を受けて、Uberはアリゾナ、サンフランシスコ、トロント、ニューオリンズ等で行われていた
同社のセルフドライヴィング・カーのプログラムの停止を発表しているけれど、
犠牲者となったのは 3回の結婚歴があり、2人の子供を持つエレイン・ハーツバーグ(49歳、写真上左)。
彼女をはねた段階での車のスピードは約66〜70キロであったという。
運転席に座っていたのは、ラファエラ・ヴァスケス(44歳、写真上中央)で、
ビデオに捉えられたように、彼女は一切前方には関心を払っておらず、
何故 歩行者や障害物を避けるためのレーザー・ディテクション・システムが稼働しなかったが疑問視されているのだった。
でもそれよりも、事件後に人々を呆れさせたのが、
運転席に座っていたラファエラ・ヴァスケスが、2001年に偽の銃を使った
強盗未遂の犯罪で5年の禁固刑を言い渡された前科者で、
幾つもの交通違反の記録もあるという事実。
前科がある人間はUberのドライバーには慣れないはずであるものの、
同社はそのバックグラウンド・チェックの費用を節約するために 過去 5年程度しか犯罪歴を調べないことで知られているのだった。
またこの事故がきっかけで明らかになったのが、Uberはセルフドライヴィング・カーのプロジェクトをスタートさせるにあたり、
「常に 2人のエンジニアを乗車させる」と謳ったポリシーを
密かに変更していたという事実。その後 Uberのセルフドライヴィング・カーに乗車していたのは、テクニカル・バックグラウンドがゼロで、
僅か3週間のトレーニングを積んだだけのスタッフ。だからこそラファエラ・ヴァスケスのような前科者でも
同プログラムのスタッフになれる訳で、メディアの調べによれば 他のUberのスタッフも 複数の交通違反歴がある元ピザの配達員などで、
Uberが当初謳った ”建て前” とは全く異なるプログラム運営がされていたのだった。

2009年にスタートしたUberは、トラブルと決して無縁ではない企業で、
ビジネス 設立直後、Uberに対して批判的な記事を書いたジャーナリストや、その家族を標的にした攻撃や嫌がらせをソーシャル・メディア上で行ったことで、
まずは物議を醸した存在。 同社のインヴェスターでスポークスマンを兼ねていた俳優のアシュトン・クッチャーは
その嫌がらせ行為について 「(ジャーナリストに対する)当然の仕返し」とツイートをして、大顰蹙を買っているのだった。
またUberは、警官など特定の人々が同社のアプリを使えないように捜査する ”グレー・ボール” という
システムを導入したことでも批判を浴びた一方で、 社内はセクハラ、女性差別が横行することで知られ、
2017年には 社内の215人の被害の訴えが認められて、上層部20人が解雇されているのだった。
同社の元CEO、トラヴィス・カラニック(写真上左)も 自らの横暴な態度やセクハラの問題で、この直後に辞任に追い込まれているけれど、
Uberが株式公開に漕ぎつけることが出来ない理由が、こうした内部に山積する問題と言われて久しい状況。
Uberのセルフドライヴィング部門について言えば。
同部門が設立時に チーフになったのが、グーグルのセルフドライヴィング・カー部門、
Waymo / ウェイモの元エンジニア。
2017年3月にはウェイモが、そのエンジニアによって ウェイモの数千もの企業秘密書類が盗み出され、
そのテクノロジーがUberのセルフドライヴィング・カー・プログラムに不正使用されているとして
訴訟を起こしており、2018年2月に
Uberがウェイモに対して2億4500万ドルの賠償金を支払うと同時に、
ウェイモ社のテクノロジーを 今後一切使用しないということで
示談が成立しているのだった。

ウェイモ社との示談が成立した直後でこんな事件が起こると、
果たしてUberのセルフドライヴィング・カーのテクノロジーは大丈夫なのか?という疑問さえ沸いてくるけれど、
Uberは連邦政府によるセルフドライヴィング・カーの規制に反対するためのロビーングに多額の費用を投じている企業。
ユーザーの安全を軽視し、利益を追求する姿勢がそこにも現れていると批判されているのだった。
そもそもUberのセルフドライヴィング・カーのプログラムは、きちんとした安全規定が設けられる事無くスタートしたもので、
以前にも一度事故が起こっているものの(写真上右)、その時は別の車が事故の原因で、Uberの安全性に疑問を持たれることは無かったのだった。
既にFBIは、Uberのセルフドライヴィング・カーがハッキングされ、犯罪やテロに使われることを
危惧していると警告していることも報じられているけれど、
セルフドライヴィング・カーではない通常のビジネスにしても
Uberは ドライバーの自家用車の中に、 安全のためのリコール対象になっている車が無いかのチェックも怠っており、
その内情を知れば知るほど 、利用のリスクが大きく感じられるのがUberなのだった。
その一方で、アリゾナ州では既に10以上の企業によるセルフドライヴィング・カーのプログラムが行われており、
現在アメリカで同様のセルフドライヴィング・カーのプログラムが行われているのは32のエリア。
2035〜2040年には、世界中の車の25%がセルフドライヴィング・カーになると見込まれており、
今回の事件は、何故レーザー・ディテクターが作動しなかったかというテクノロジー面もさることながら、
プログラムを行う企業の姿勢や、それに対する政府の規制の必要性を痛感させるものになっているのだった。


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