Aug. Week 4, 2013
” Piccaso Baby ”
”ピカソ・ベイビー ”



8月3日に、ケーブル局のHBOで初公開されたのが、ラッパーのジェイZのパフォーマンス・アート・ビデオ、 「Piccaso Baby / ピカソ・ベイビー」。
約11分に渡るビデオが収録されたのは7月のことで、そのパフォーマンスが行なわれたのは チェルシーにある有名アート・ギャラリー、「Pace / ペース」。 写真下、一番上段左のように、ペース・ギャラリー内に設置されたセットは、 小さなステージと、ウッド・ベンチのみというシンプルなもの。
ここにライブ・オーディエンスを集めて、6時間に渡る ラップ・パフォーマンスを行ったのが ジェイZであるけれど、 彼のパフォーマンスだけではなく、オーディエンスが1人、もしくは2人以上で、ジェイZと インターアクティブなコミュニケーションを見せるのが このビデオのコンセプト。

同ビデオの監督はマーク・ロマネクで、彼はミュージック・ビデオを多数手掛けていることでも知られる映画監督。 最も知られている作品は 1997年に公開されたマイケル・ジャクソンのビデオ「ヒストリー」で、 彼の映画作品で 最も注目を集めたのは 2010年に公開された「Never Let Me Go (邦題:私を放さないで)」。
「ピカソ・ベイビー」ビデオそのものは、パフォーマンス・アートと言いながらも、ミュージック・ビデオの メイキング・ドキュメンタリーのようでもあり、実際のところ、 同ビデオのレビューの中には、 パフォーマンスとパフォーマンス・アートの違いについて、 疑問を投げかける声が聞かれているのも事実なのだった。








このビデオがHBOでデビューした8月3日は、私は日本に一時帰国中だったのでDVRに録画をしておいたけれど、 日本から戻った時点で あまりの時差ボケの酷さに、録画をしたことさえ忘れていたのが同ビデオ。
それをやっと見たのは 先週のことだったけれど、 まずビデオを見て驚いたのが、そこに登場するジェイ・Z以外のセレブリティの顔ぶれ。

俳優陣から挙げていくと、アラン・カミング(写真上3段目左)、HBOの人気シリーズ「ガールズ」に出演中のアダム・ドライヴァー(写真上2段目右)、ロージー・ペレス、 ジョナサン・チャールズ、タラジ・P・ヘンソン(写真上4段目左)。
ダンサーのマガジーニ と ラディカル・フィニックス(写真上2段目左)。カニエ・ウエストのビデオにも出演したことがあるバレリーナのナンシー・ライダー、ストリート・ダンサーの ストーリーボード・P。 映画監督のジム・ジャーミッシュ、脚本家のジャッド・アプトー、詩人の二シェール・ブロナー、ライターのグレン・オブライアン。
音楽の分野からは シンガーのキア・ヴィクトリア、ラッパーのファブ・ファイブ・フレディとワーレイ。ミュージック・プロデューサーのジョージ・ドラコリアス(写真上4段目右)。
ファッション業界からはデザイナーのシンシア・ローリーや、J.クルーのクリエイティブ・ディレクターのジェナ・ライオンズ(写真上、一番下段左)。 畑違いなところでは、カリフォルニア州立大学チコ校教授、ジョン・ロッセル。
そして、アート界からは、リチャード・ジョンソン、ジャミマ・カーク、マーセル・ドザマ、ジョージ・コンド(写真上、一番下段右)、ミカレーン・トーマス、フレッド・ウィルソン、 ローレンス・ウェイナ、 アンドレ・セラーノ といった コンテンポラリー・アーティスト達に加えて、 アート・ディーラーで、シンシア・ローリーの夫としても知られるビル・パワーズや同じくディーラーのサンドラ・ガーリング。 アート・オーガニゼーション ”パフォーマ” のディレクターであるローズリー・ゴールドバーグなど、幅広い分野のアーティーな顔ぶれが勢揃い。
でも、タイトル 「ピカソ・ベイビー」に最も相応しいアート関係者として、同ビデオの格を上げる存在になっているのは、 何と言っても パブロ・ピカソの孫娘で、アート・ヒストリアンのダイアナ・ウィンドマイヤー・ピカソ(写真上3段目右)。

これだけの豪華なラインナップがジェイZのラップに合わせてダンスをしたり、ベンチに座って彼と向き合ったり、 それぞれの得意分野のパフォーマンスを見せているのがこのビデオで、 ジェイZ自身が収録前に、「実際にパフォーマンスが始まってみないと、何が起こるか分からない」と語っていた通り、 筋書き無しのインターアクティブ・パフォーマンスが展開されているのだった。






このジェイZのパフォーマンス・アートは、2010年に MoMa(近代美術館)で行なわれた マリーナ・アブラモヴィッチ(写真上の女性)による ”The Artist Is Present/ジ・アーティスト・イズ・プレゼント”のコンセプトを真似たもの。
同パフォーマンスについては、 ティルダ・スウィントンが 2013年中、MoMaで行なっている 眠り続ける パフォーマンス・アート 「The May Be / ザ・メイビー」 の記事の中でもご紹介しているけれど、 過去に MoMAで過去に行なわれたパフォーマンス・アートの中でも、最も有名かつ、高い評価を獲得しているもの。

同パフォーマンス・アートでは、 マリーナ・アブラモヴィッチが1日6時間椅子に座り、 ミュージアムを訪れた人と 1人ずつ、全く言葉を交わさずに向き合うというもので、 彼女と向き合って座る来館者は、自分がそこに居たいだけ座っていて良いというコンセプト。 2010年3月14日〜31日までのMoMA閉館日を除く 全日 行なわれた同パフォーマンスでは、 短い人は2分、長い人は2時間も彼女と向き合い続けており、涙ぐむ人も多かったというけれど、 その総時間は MoMAのパフォーマンス・アート史上、最長の736時間30分。 長さだけでなく、 最もサクセスフルなパフォーマンス・アートとして知られるのが、”ジ・アーティスト・イズ・プレゼント”なのだった。

「ピカソ・ベイビー」のビデオには、写真のように そのマリーナ・アブラモヴィッチが特別出演。
ジェイZと全く言葉を交わすことなく、抜群の存在感で向き合うシーンが メインでフィーチャーされているけれど、 パフォーマンス・アートの女王であり、パイオニアである彼女が登場してしまうと、アート関係者も 同ビデオをミュージック・ビデオではなく、パフォーマンス・アート・ビデオと認ざるを得ないのだった。
マリーナ・アブラモヴィッチはパフォーマンス後に コメントを求められて、 音楽がもたらすエキサイトメントについて 語っていたけれど、これがアートか否かは別として、パフォーマンス・ビデオとしては話題性やコマーシャル性に満ちているのは明らかな事実。

昨今のアートの大ブームの影響で、様々なポップ・カルチャーがアートとの融合コンセプトを模索している現在、 ラッパーでマルチ・ミリオネアのジェイZも、アート・コレクターであるだけでなく、 自らをアートに仕立て上げたパフォーマンスを行なっても 決して不思議ではないのだった。





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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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