July Week 3, 2013
” The Roof Garden Commission: Imran Qureshi ”
” ザ・ルーフガーデン・コミッション : イムラン・クレシ ”



メトロポリタン美術館のルーフトップ・ガーデンと言えば、春から秋に掛けて 毎年のように アウトドア・エキジビジョンが展示されるスペース。
セントラル・パークやアップタウンの眺望を背景に、開放的な雰囲気が味わえるルーフトップ・ガーデンは、 金曜、土曜になると 夕方5時半から閉館の8時まで マティーニ・バーもオープンするけれど、 ここで展示されるエキジビジョンは、夏の同美術館の目玉となって大きなパブリシティを獲得すると同時に、 多くの来館者を集めるアトラクションとして知られているのだった。

そんなメトロポリタン美術館の2013年のルーフトップ・エキジビジョンが、 ” ザ・ルーフガーデン・コミッション : イムラン・クレシ ”。
5月14日から11月3日までの予定で展示されている 同エキジビジョンは、ルーフトップ・ガーデンのコンクリートの床に、 乾いた血のような赤いペイントを一面に施したもの。 これを手掛けたのは1972年生まれの パキスタン人 コンテンポラリー・アーティスト、 イムラン・クレシで、そのペイントが施された面積は 8,000スクエア・フィート (約742平方メートル)。
これまで様々な展示が行なわれてきた ルーフトップ・ガーデンであるけれど、イムラン・クレシのペイントは 文句無しに 最大の面積を使ったものになっているのだった。

イムラン・クレシのアートは、トラディショナルなペイント・テクニックで 政治や社会問題にフォーカスしたものが多く、 問題提起やソーシャル・メッセージを発信するのが そのスタイル。
この一見、血の海のようなペイントは、良く見ると 所々に花が描かれているけれど、 これは世界中で起こっているヴァイオレンスに対する 悲哀を表現し、抗議、疑問を投げかけると同時に 平和を切望するイムラン・クレシの思いが込められたものと説明されているのだった。






イムラン・クレシは メトロポリタン美術館の建造物に直接ペイントを施した 史上初めてのアーティストで、 ルーフトップ・ガーデンを巨大なキャンバスに仕立てた同エキジビジョンは非常にユニークと言えるもの。
訪れた人々は、アートの上を歩きながら ブラシのタッチや ドリップ・ペインティングの手法を閲覧することになるけれど、 誰もが圧倒されると同時に、このシンプルなエキジビジョンを パワフルかつ インパクトの強い プレゼンテーションにしているのは、 やはりその面積の広さ。

さらに このエキジビジョンのユニークなところは、ペイントが時間が経過すると同時に、日光によって色が変わったり、雨で流されるなどして、 どんどん変化していくことで、その変化もこのエキジビジョンの醍醐味となっているところ。 これは「血の海が洗い流されるために、何度雨が降らなければならないか?」というメッセージでもあるというけれど、 それと同時に ヴァイオレンスによって流された血と、人々の心への衝撃が、時間の経過と共に 徐々に洗い流されていく様子 でもあるのだった。
したがって、オープン当時の5月に訪れた人が観た同エキジビジョンと、8月に訪れた人が観るエキジビジョンでは、 カラーやペイントの落ちかけ具合などが異なる点も 見所の1つになっているのだった。






メトロポリタン美術館は、毎年のようにルーフトップ・ガーデンで エキジビジョンを繰り広げ、話題と注目を集めてきたのは前述の通り。
そんな同美術館の過去のエキジビジョンを振り返ると、 2008年は、ジェフ・クーンのあまりに有名な スカルプチャー (写真上、左側)がポップな雰囲気をかもし出していたプレゼンテーション。 私の記憶では、この年からメトロポリタン美術館のルーフトップがオープンしたように思うのだった。

2009年のエキジビジョンは、ロキシー・パインがクリエイトした ”Maelstrom / ミールストロム (写真上、右側)”。
約 40×14メートルのステンレス・スティールを用いたスカルプチャーはこの時点で、ロキシー・パインが手掛けた最大規模のアート。 金属のパイプを用いながら、樹木の繊細なカーブを演出した見事な仕上がりになっていたのだった。




2010年は、私が個人的に今までのプレゼンテーションの中でベストだと思うと同時に、恐らく最も人気と注目を集めたエキジビジョンと言える ”ビッグ・バンブー (写真上)”。これをクリエイトしたのはマイク&ダグ・スターン兄弟で、5000本のバンブー(竹)で作られた巨大なスカルプチャー。 同スカルプチャーは、中の通路を歩いたり、階段をよじ登ったり出来る丈夫な作りで、もちろん夏のサンダー・ストームでもビクともしなかったもの。
私は毎朝のようにメトロポリタン美術館の背後に面するセントラル・パークのランニング・コースを走っているけれど、 ビッグ・バンブーについては 当時、建設中から ルーフトップに巨大な竹の建造物が徐々に出来上がって行って、 「一体何が出来るんだろう・・・」と 期待せずには居られなかった大規模なプロダクション。 エキジビジョンが終わって解体作業が行なわれていた際には、それを見て走りながら 寂しく思ったのを 覚えているのだった。




それに次ぐ2011年は、ルーフトップ・プレゼンテーションの中で最も不評だったアンソニー・カロのメタル・スカルプチャー・ガーデン (写真上、左側)。
この夏は、コスチューム・インスティテュートの展示で アレクサンダー・マックィーンの回顧展が行なわれていて、 それがメトロポリタン美術館の過去50年間に行なわれた 全てのエキジビジョンの トップ20内にランクされるほどの入場者数を記録する メガ・ヒットとなっていただけに、とても影の薄い エキジビジョンになっていたのだった。

そして昨年 2012年のエキジビジョンとなったのは、アルゼンチン出身のアーティスト兼 建築家である、トーマス・サラチェーノの ”Cloud City / クラウド・シティ (写真上、右側)”。 宙に浮かんだスカルプチャーを得意とする同アーティストがクリエイトしたのは、未来の居住空間を想像させるメタルのカプセル・コンパートメント。
安全性を考慮して、何本ものワイヤーでしっかり固定されている様子が強く印象に残っているのだった。


今年の夏は、グッゲンハイム美術館の天井を使った ジェームズ・ターレルの ライティング・エキジビジョンも評判になっているけれど、 こうして次々と質の高いアートに触れる機会が得られるのは、ニューヨークに暮らしている大きなメリット。
ミュージアム以外にも、アート・ギャラリー、オークション・ハウスのプレビュー等でも アートに触れられる他、パブリック・アート・ファンドが街中のあらゆるところで 定期的に展示している作品でも 身近にアートが楽しめるのがニューヨーク。
そんなこともあってか、ニューヨークは トラベル&レジャー誌の読者アンケートで ” アメリカで最もアートが楽しめる街 ” に選ばれているのだった。


The Metropolitan Museum of Art
1000 5th Ave. New York, NY 10028
Tel: (212) 535-7710






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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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