July Week 3, 2012
” Yayoi Kusama at Whitney Museum of American Art ”
” ヤヨイ・クサマ・アット・ホイットニー・ミュージアム・アメリカン・アート ”



6月初めに、暫くご無沙汰していた友人が突然メールで誘ってくれたのが ヤヨイ・クサマの ホイットニー・ミュージアムで行なわれるエキジビジョンのオープニング。
その友人はコンテンポラリー・アートのディーラーで、キース・へリングの作品を数枚所有していたりする人物だけれど、 ヤヨイ・クサマの大ファンだそうで、、彼女の作品を見て 私を思い出したと言って、メールをくれたのだった。
そう言われた私は私で、「それは私が日本人だからということなのだろうか?」と首を捻ってしまったけれど、 この時に 私の頭に甦ってきたのが、もう何年も前に 同じニューヨークのMoMA (ミュージアム・オブ・モダン・アート)で行なわれたヤヨイ・クサマのエキジビジョンに 出掛けたこと。 あまりに前のことなので、何時のことだか思い出せなかったのでグーグルしてみたところ、1998年に行なわれたエキジビジョンであることが判明して、 時の流れの速さに驚いてしまったのだった。

草間 彌生氏は、1929年3月22日生まれの日本人アーティストで、今年84歳。
絵画、彫刻、ビデオ・アート、小説など、様々な分野のアートを手掛ける人物であるけれど、 私は1998年に MoMAのエキジビジョンを見るまで彼女の名前や作品のことは全く知らず、 日本人女性で こんなにニューヨークで有名なアーティストが居たことに 当時驚いていたのだった。
その時、MoMAで開催された ヤヨイ・クサマのエキジビジョンは、 絵画、彫刻、写真、そしてビデオ・プレゼンテーションで構成されいて、 いろいろな意味で印象的だったけれど、その時から14年経った今も鮮烈に脳裏に刻み込まれていたのが、 水玉をありとあらゆるところにあしらった作品の数々。
なので つい最近、アメリカ人の女友達にヤヨイ・クサマの作風について訊かれたときに、 「水玉がそこら中にある 不思議な世界」と表現してしまったけれど、 久々に眺めたヤヨイ・クサマのアートのイメージは、その時の印象と大きく食い違うことはなく、 改めてその作風のインパクトの強さを実感してしまったのだった。






残念ながら ホイットニー美術館でのオープニングが行なわれた際は、私は日本に一時帰国しており、 私がやっとヤヨイ・クサマのエキジビジョンに足を運んだのは今週に入ってのこと。
私にとって印象的だったのは、 壁一面にカラフルなペイントをあしらったセクション(写真すぐ上の2枚)。 シダ植物を思い起こさせるカラフルなペイントは、以前のエキジビジョンには見られなかった作風だと思ったけれど それもそのはずで、 これらはヤヨイ・クサマの2009〜2010年に掛けての作品とのこと。すなわち、これらは80歳を過ぎたアーティストが手掛けた絵画であるけれど、 そうとは思えないパワーが感じられるヴィヴィッドなシリーズになっているのだった。

ヤヨイ・クサマがアメリカにやってきたのは1957年。「日本で出来る活動は し尽くした」と判断しての渡米とのことで、 まずはシアトルで暮らし始め、その後ニューヨークに移ってきたという。
そんな彼女のアートがニューヨークで最もポピュラーだったのは、アンディ・ウォーホールが未だ脚光を浴びる以前の60年代半ばのこと。 でも、アートの世界にもファッション同様にトレンドがあり、ヤヨイ・クサマの当時のスタイルが 徐々に時代と そぐわなくなってきた頃から、 アーティスト本人のナーバス・ブレークダウンが始まり、安住の地を求めて73年に日本に帰国。 その後、精神治療を受けながら、その病院の傍にスタジオを建てて、以来そこで製作活動を行ってきたという。
長いアーティスト活動の間には、自殺願望を抱いた時期もあったと言われるけれど、経済的には恵まれながらも 冷淡な父親と 虐待する母親に育てられたヤヨイ・クサマは、幼い頃から植物が語りかけてきたり、布の模様が生き物になって動き出すなどの幻覚を見ていたとのこと。 多くのアート批評家は、彼女のアートが精神的なクライシス・モードから生まれており、そうした幻覚の具現化であると指摘しているのだった。
また、ヤヨイ・クサマのアートがコム・デ・ギャルソンのレイ・カワクボ、さらにはイギリスを代表するコンテンポラリー・アーティスト、ダミアン・ハーストに 影響を及ぼしていることを指摘する声も聞かれていたけれど、 それは、今回のエキジビジョンを見て、私も非常に強く感じるところなのだった。





ホイットニー美術館で9月末まで行なわれるヤヨイ・クサマのエキジビジョンは、ロンドンのテート・モダンで行われたものを、 ホイットニーのキュレーターが同美術館に合わせて手を加えたもの。
モダン&コンテンポラリー・アートのエキジビジョンが、まずロンドンで行われ、その後 ニューヨークにやって来るというのは、 珍しいことではなく、ロンドンのアート界の方が モダン&コンテンポラリー・アートのショック・バリューをより深く理解して、 作品の魅力を引き出すプレゼンテーションをするというのが私個人の意見。 私が、初めてダミアン・ハーストの作品を意識して眺めたのもロンドンのロイヤル・アカデミー・オブ・アーツの美術館であったけれど、 同じ作品を別のセッティングで見た時とは、全く心理的インパクトが異なったのにはビックリしてしまったのだった。

ところで、今回のヤヨイ・クサマのエキジビジョンが大きな話題となっている理由の1つは、ルイ・ヴィトンという メジャー・スポンサーが付いているため。 その展示も美術館内に止まらず、ピアー45のハドソン・リバー・パークでは、 まるで キノコのように見える 赤と白の水玉のオブジェが パークの芝生の上に展示されているのだった。
さらにルイ・ヴィトンの5番街のフラッグ・シップは、現在ヤヨイ・クサマのブラック&ホワイトの水玉柄で覆われ、 そのウィンドウ・ディスプレーも、ヤヨイ・クサマのテーマで統一。 店内ではルイ・ヴィトンとヤヨイ・クサマのコラボレーション・プロダクトも販売されているけれど、 このコラボ商品は、日本の伊勢丹を含む、世界各都市のポップアップ・ショップで同時販売されているのだった。





ちなみに、ルイ・ヴィトンがポップアップ・ショップを世界複数カ国で同時展開したのは今回が初めてとのこと。
私は正直なところ、ヤヨイ・クサマのルイ・ヴィトンとのコラボレーションは それほど評価をしていなくて、水玉のパターンを用いた いかにも推して知るべし的な仕上がりに物足りなさを感じているのだった。
そもそも、これまでのルイ・ヴィトンとアーティストのコラボレーションは、ムラカミにしても、スティーブン・スプラウスにしても アーティスト側がルイ・ヴィトンのクラシックなマテリアルを 自分のアートにアレンジする遊び心やユーモア、アーティストの解釈が魅力になってきたもの。 でもヤヨイ・クサマのコラボレーションに関しては、ルイ・ヴィトンがアーティスト側に歩み寄っただけで、ヤヨイ・クサマのパターンが、 ルイ・ヴィトンのバッグやスカーフ、シューズといったアイテムに用いられているだけ。
すなわち、ヤヨイ・クサマがルイ・ヴィトンというブランドや、そのマテリアルをどう料理するか?という アーティスト・コラボレーションの醍醐味が感じられない仕上がりになっているのが私が不服に思う点なのだった。

したがって、ルイ・ヴィトンとのコラボレーションだけから、ヤヨイ・クサマというアーティストをジャッジしたり、 その作風がこういうものだと思いこんでしまう人が居たとしたら、それは非常に残念なこと。
幻覚や、自分の精神状態と向き合いながら、長年に渡ってアート活動を続けてきたヤヨイ・クサマの作品は、 ルイ・ヴィトンとのコラボレーションよりもずっと奥が深くて、観る側に強烈なインパクトを与えるもの。 なので、これを機会にヤヨイ・クサマに興味を持った人には、彼女の多くの作品を見て その魅力や興味深さを味わって欲しいと思うのだった。





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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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