July Week 2, 2014
” The NoMad Bar ”
” ザ・ノーマッド・バー ”


私が ニューヨークのベスト・シェフだと考えているのが、ミシュラン3つ星、ニューヨーク・タイムズ4つ星を獲得している イレブン・マディソン・パークのダニエル・ハム。
その彼とイレブン・マディソン・パークのマネージャー、ウィル・グイダラは、今やニューヨークのレストラン業界で 最強のコンビと言われる存在で、 その彼らが2012年に、ノーマッド・ホテルとのパートナー・シップで、ホテル内にオープンしたのがレストラン、 NoMad / ノーマッド
私はダニエル・ハムの大ファンということもあり、オープン当初、直ぐにノーマッドに出かけたけれど、 イレブン・マディソン・パークに何度も足を運んでいる私が、ノーマッドを訪れたのはその時1回だけ。 別に気に入らなかった訳ではなく、食事も雰囲気もサービスも存分にエンジョイしたけれど、 同レストランで食事をしたのはその時だけなのだった。
その代わりに私が頻繁に訪れていたのが、同店のライブラリーと呼ばれるラウンジ・セクション

というのも私は ノーマッドのバー・ディレクターであるレオ・ロビシェックのカクテル・メニューのファンで、 ユニークなコンセプトと アイデアに溢れた彼のカクテルは、味も美味しいし、独創的でさえあると思うもの。 また、ライブラリーでも レストランのメニューの殆どが味わえるので、ディナーの前後に、カクテルとスモール・ディッシュを味わうために、 頻繁に利用していたのが ライブラリーなのだった。

その私にとって、朗報と言えたのがノーマッドが バー&ラウンジ・エリアを拡大するというニュース。 なので、てっきり現在ノーマッドの店内にある ”エレファント” と呼ばれるバー・エリアと、ライブラリーが拡大されるのかと思っていたところ、 6月半ばに オープンしたのは、店内では現存のノーマッドと繋がっているものの、 個別のエントランスを持つ 別店舗、 ” ザ・ノーマッド・バー”。
私は、ダニエル・ハムの新しい店はメディアでの バズ が大きくなって、混み合う前に出掛けることにしているので、 早速 友達を誘って出かけたのが6月後半のこと。
その結果、バーでありながら 最も楽めたのはフード。 もちろんカクテル・メニューもレオ・ロビシェックの手腕が光るラインナップであったけれど、 カクテルについては、最もインパクトが強かったのは そのお値段の高さなのだった。






店内はバー・カウンターのエリアが吹き抜けになっていて、そのカウンターの前がブース・セクション。そしてバルコニー兼2階フロアで構成されていて、 予想したよりずっとアップスケールな空間。
昨今モダンなデザインのバーが多い中で、クラシックで ディテールにまで関心が注がれたエレガントなセッティングは、 一杯飲んでから家に帰ったり、一杯飲んでから何処かに出掛けたりするバーではなく、雰囲気を楽しみながらじっくり居座るためのスペース。
そしてそのじっくり居座る間に、気分良く フードとドリンクで散財してもらおうというのが同店のコンセプトで、 フードが美味しいので、カクテルが進むし、カクテルが進むから、フードを追加オーダーしてしまうというのが同店。
でも、うかつにオーダーできないのが ザ・ノーマッド・バーのカクテル・ラインナップ。

クラシックなカクテルをオーダーしていたら、1杯16ドルであるけれど、酔っ払って気分が良くなってきた時に 目を向けてはいけないのが リザーブ・カクテルのセクション。 1965年もののカルヴァドスを用いたジャック・ローズは1杯60ドル、ラーティサン・コニャック・グラン・シャンパーニュ50年ものを用いた カクテルは1杯198ドル。
「こんな高いカクテル、誰が飲む?」と考える人は多いけれど、貧富の差が世の中のアヴェレージ以上に開いているマンハッタンでは、 今や150年もののコニャックやアルマニャックを日本円にして百万単位のお金で飲ませるエクスクルーシブなラウンジが増えているのが実情。 したがって、ザ・ノーマッド・バーが高額カクテル・ビジネスに乗り出しても決して不思議ではない時代背景なのだった。

また同店は、何故かワインがボトルでサーブされなくて、グラスかハーフ・ボトル。 さもなくば、いきなりボトル・サイズがジェロボアム(3リットル入り=通常ボトルの4本分)までアップするという不思議なラインナップ。 しかも、ハーフ・ボトルのラインナップは60ドル〜150ドルと決してお安くなくて、ボトルと間違えてオーダーしてしまう人も少なくないのでは? と思ってしまったのだった。
同店で、充実しているのはワインよりも むしろビールで、缶入りからボトルまで、 興味深いラインナップが幅広いプライス・レンジで揃っているのだった。






フードに話を移せば、ザ・ノーマッド・バーのシグニチャー・ディッシュになっているのが、写真上、上段のチキンポット・パイ。
チキン・ポットパイとは、チキン・シチューが入った容器をパイ皮で蓋をして、オーブンに入れて焼き上げる料理。 容器は 陶器でサーブされる場合も多いけれど、ザ・ノーマッド・バーで用いられているのは、写真上のような重たいキャスト・アイアンの小鍋。 通常、チキン・ポットパイと言えば 寒い季節の食べ物で、夏にこのアイテムが話題と人気を博すのは不思議でもあるけれど、 実はこのディッシュは、ノーマッドのレストランのダイニング・ルームでサーブされている シグニチャー・ディッシュ、”スタッフド・チキン” をカジュアル・バージョンにアレンジしたもの。
このスタッフド・チキンはチキンの内側にブリオッシュ、フォアグラ、ブラック・トリュフがレイヤーになっているという贅沢もので、 同店のオープン直後に私が味わった時には2人分のポーションで 78ドルであったけれど、今はそれが82ドルにアップしているのだった。 (詳細はノーマッドの記事を参照のこと)

同店のフードで最も高額なチキン・ポット・パイは、串刺しにしたフォアグラがウッド・プレートに乗って、 サイドに添えられた状態で運ばれてきて、サーバーが上のパイを崩してくれて、そのフォアグラを熱いパイの中に 落とすというデモンストレーションが行われるもの。 これはスフレを食べる際に、中央に穴を開けてソースを流し込むプロセスに似ているけれど、 友人と同ディッシュをシェアした私が味わった部分からは 僅かにしかフォアグラの風味がしなかったので、 次回は自分だけで オーダーしてみようと思っているのだった。
でも素朴なイメージがあるチキン・ポットパイが、36ドルも出すと、こんなに洗練されたグルメ・フードになるというのは 非常に斬新に思えたことの1つ。

それ以外のフードは、 全て10ドル台で、ポーションも小さめ。 トライするべきなのは、イレブン・マディソン・パークでもダニエル・ハムが出しているキャロット・タルタルの カジュアル・バージョン(14ドル、写真上、下段左)、エッグ・プラントのベニエ。
シェイク・シャック10周年の際に”ハム・バーガー”を食べ損ねた 私と友人は、ハンバーガーもオーダーしてみたけれど、実はつい最近オープンした キース・マクナリーの新レストラン、シェルシュ・ミディがこれを遥かに凌ぐ最強のグルメ・バーガーを メニューにフィーチャーしていて、私は断然そちらに軍配を上げるのだった。

ザ・ノーマッド・バーは、ノーマッドのレストラン同様、デザートのラインナップが弱くて、 唯一特筆すべきは、キャンディ・バー。 これはキャラメルの入ったダーク・チョコレートの所謂”板チョコ”(写真上、下段右)。 それが14ドルもするけれど、私は レッド・ワインとダーク・チョコレートというコンビネーションをデザートに好むので、 下手なスウィーツよりも、板チョコの方が余ったら持って帰れるという利点もあって、気に入っていたのだった。

ザ・ノーマッド・バーの営業時間は、毎日午後4時半からだけれど、 フードのサービングがスタートするのは5時から、閉店は日曜が深夜0時、月曜、火曜が午前1時、水曜〜土曜が午前2時まで。

私の予想通り、今やメディアがどんどんザ・ノーマッド・バーを取り上げているので、 今では物凄く混み合っている同店であるけれど、雰囲気も食事も、カクテルも気に入ったので、 タイミングを見計らって、そのうちまた足を運ぶと思うのだった。

The NoMad Bar
10 West 28th St.
Tel: 212-796-1500





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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