June Week 4, 2012
” Fendi Baguette Book ”
” フェンディ・バゲット・ブック ”



アメリカのケーブル局、HBOで「セックス・アンド・ザ・シティ 」がスタートしたのは1998年であるけれど、 同番組がファッショントレンドに多大な影響を与え始めたのは、1999年のシーズンNo.2からのこと。
このときに、サラー・ジェシカ・パーカー扮するキャリーが 毎週、毎週、肩から下げたり、小脇に抱えて 登場していたのがフェンディのバゲット。
当時のキャリーの仕事は、ニューヨーク・オブザーバーという小さな出版物のコラムニストだったので、刺繍やビーズ、シークィンなどをあしらった、 様々な種類のバゲットを そんなに沢山買えるほどの収入があるはずは無いけれど、そんなリアリティを度外視して、毎週見とれていたのがキャリーが持っていたバゲット。 ブティックで眺めている時は、「派手過ぎるかも・・・」と思えたバッグを、キャリーがさりげなく、そして 意外な服とコーディネートして持つ姿は、当時、 既に火がついていたバゲットのブームに、油を注ぐ役割を果たしたのだった。

かく言う私も、1999年の1年間だけで、フェンディのバゲットを7つ購入したのを覚えているけれど、 私の当時の知り合いは、何と22個も購入していて、バゲットを買うだけのためにミラノに出かけたりもしていたのだった。
私は5番街55丁目の、今はアバクロンビー&フィッチのブティックになってしまった当時のフェンディ・ブティックに入り浸っていたけれど、 私の担当になってくれていた日本人男性のセールス・パーソンは、あまりにバゲットを捜し求める熱心な買い物客が多いために、 「バゲットが無い! 入荷してこない!」というような悪夢をしょっちゅう見るとこぼしていたのだった。 すなわち それほどまでに、女性達が命がけで買い求めていたのが当時のフェンディ・バゲット。
特に、セレブリティが特定のスタイルを持ってスナップされると、それを捜し求める人々からの問い合わせ電話が殺到するのは、 当時のフェンディ・ブティックでは頻繁に起こっていた現象なのだった。




フェンディのバゲットは今でも生産されているけれど、 当時のクリエーションは、ずっと派手でクリエイティブで、買わずにいられないオーラを放っていたもの。 私自身、次から次へと登場する新しいバゲットが欲しいあまり、既に購入したバゲットを売って、新しいバゲットを購入するというトレードを 何度も行なったのだあった。でも、驚くべきは当時1200ドルで購入したバゲットが、3ヶ月後に1800ドルで売れたりしていたこと。
というのも、当時のバゲットは種類が多い反面、生産数が少ないので、人気スタイルはストアに入荷した時点でウェイティング・リストで完売しているのが常。 なので、どうしても完売したバゲットが欲しいという女性達が、喜んで店頭価格よりも高額を支払っていたのだった。

私にとって最も利ざやが大きかったのはレモン・ツリーと呼ばれた大傑作バッグ。早めに予約を入れたので、私は1200ドルで購入したけれど、店に並んだ時点では 1600ドルに値上がりしていて、加えて あまりに生産数が少なかったため、私はそれを2400ドルで売却することが出来たのだった。
でもこのレモン・ツリーは売ってしまった後から、「手放さなければ良かった」と後悔したバッグ。 あまりに高く買ってくれるオファーがあったのと、その後にもっと気に入ったスタイルが出てくるかと思って 泣く泣く手放したけれど、もう10年以上が経過した今でも 思い出しては後悔しているのだった。

そんな過去にクリエイトされたバゲットのビジュアルを集めて出版されたのが、 ここに紹介する「Baguette / バゲット」という本。
バゲットは、私にとって思い入れのあるバッグなので、何となく昔のアルバムを見るような思いで ページをめくったけれど、こうした本が出版できるのは、同じデザインのバッグを 素材を変え、細工を凝らして何百スタイルも生産してきたフェンディのバゲットだからこそ。
シャネルの2.55バッグやエルメスのケリーやバーキンも、アイコニックなバッグではあるけれど、 これらのバッグはカラー・バラエティは可能でも、バゲットのようなクリエイティブなバリエーションは あり得ないバッグ。 だからこそ、バゲットが 90年代末のメガ・ブーム期に 熱心なコレクターを生み出したし、 「セックス・アンド・ザ・シティ 」の中で、キャリーが毎週様々なスタイルをさげて登場していたのだった。

以下は、そのバゲットのバラエティ。 私個人の意見では、バゲットは時代が新しくなるにつれて、クリエイティヴィティが大人しくなってきたイメージがあるけれど、 以下の写真では、現在ストアで販売されているリバイバルものも含めて、時代をミックスして並べています。











ところで、この本がきっかけで、自分が今、いくつのバゲットを持っているだろう・・・と思ってチェックしたところ、 クローゼットにあったのは5つ。そのうちの4つが総ビーズ、もしくはビーズ刺繍が入ったもので、 残りの1つはフェンディのズッカ柄の上にフラワーの刺繍を施したもの。

中でも、あまり使っていない割に、私にとって思い入れがあるのが、以下の写真の”ラ・ヴィ・アン・ローズ” というスタイル。 ビーズが手芸タッチ過ぎて、私の服とあまり合わないので持った回数こそは少ないけれど、 このバッグは当時のヴォーグ・マガジンが見開きのグラビアでフィーチャーしていたもので、 手に入れるのが一苦労だったもの。
”ラ・ヴィ・アン・ローズ” は、私が購入した2つ目のバゲットで、フェンディのセールス・スタッフも 「最も競争率が高かったバッグ」と語っていた人気商品なのだった。



バゲットは、ここ数年私にとって 思い出しては ごくたまに持つ程度のバッグになっていたけれど、 この本が出版されて、ヴィンテージのバゲットがもてはやされるようになってきているので、 特にこの夏は 久々に またバゲットを持とうかと思っているけれど、 バゲットの魅力はスタイルもさることながら、その適度な大きさ。 ストラップを肩にかけて、バッグを小脇に挟むのに丁度良いサイズで、 小さいように見えても、必要なものが全て入るのだった。

フェンディは、バゲット以外にもスパイ・バッグというトレンディ・バッグを生み出しているけれど、 そのブームの規模はバゲットの方が遥かにビッグ。 丁度バゲットが下火になった後の2001年には、バレンシアガのモーターサイクル・バッグが誕生しているけれど、 かつては ”It Bag” と呼ばれるトレンドの目玉になるバッグが登場すると、 本当にそれを下げている人を頻繁に街中で見かけたもの。
でも今は当時に比べると、例えばセリーヌのラゲージが流行っているとは言っても、1日に2人以上持っている女性を 見かけることは殆ど無いのだった。 これが貧富の差が開いた結果なのか、それとも女性達が以前ほどバッグのトレンドに関心を注がなくなった結果なのかは定かではないけれど、 この傾向が続くようであれば、時代を反映したアイコニックなバッグが 生まれ難くなるので、 「フェンディ・バゲット」のような本が、この先 出版されることは無いように思うのだった。





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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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