June Week 2, 2015
” Mission Chinese Food 2.0 ”
ミッション・チャイニーズ・フード 2.0
私が過去数年間に訪れたレストランの中で、最も強烈なインパクトがあったのがミッション・チャイニーズ・フード。
2012年にローワー・イーストサイドにオープンした同店は、ニューヨーク・タイムズ紙も この年にオープンしたレストランのNo.1に選んでいたほどで、
同店の韓国人シェフ、ダニー・ボイエンは一躍レストラン界のスターダムにのし上がった若手シェフ。
サンフランシスコからスタートしたミッション・チャイニーズ・フードであるけれど、
ダニー・ボイエンがクリエイトする 本格的な四川料理を軸にした スーパー・スパイシーでイノベーティブなチャイニーズは、
あっという間にニューヨーカーの間で大人気となり、予約を取らない同店の前には毎日のように大行列が出来て、
「2時間待ちは当たり前」という状況が続いたことは、ニューヨークのフーディーズであれば、誰もが覚えているエピソード。
私も同店を訪れた直後のこのコーナーで、
同店の待ち時間の長さや、ヤミツキになるほどスパイシーで美味な料理について書いたことがあるけれど、
そのあまりに強烈なインパクトのせいで、まるで先週のことのように覚えているのが2年以上も前の同店でのディナーなのだった。
ではミッション・チャイニーズ・フードの何がそんなにインパクトが強かったかと言えば、答えは「全て」。
ニューヨークというよりは東南アジアのネイバーフッド・レストランのような、
簡易な作りの店舗や、そこに来ているヒップな客層、チャイニーズ・レストランとは思えない照明の暗さや、エッジーなBGMとその大音響。
加えて、それまで食べたことが無いようなクリエイティブで、刺激的なまでにスパイシーなディッシュ。
何をとっても同店でのディナーは 本当に印象的で、ニューヨークのような世界中のありとあらゆるベストが集る街に暮らしていて
そうした新鮮で強烈なインパクトを味わうのは、本当に珍しい経験なのだった。
そんな、飛ぶ鳥を落とす勢いの上昇気流に乗っていたシェフ、ダニー・ボイエンが
壁にぶつかる きっかけになったのが、ニューヨーク市のヘルス・デパートメントの”戦い”。
2012年は、秋に大型のハリケーン・サンディがニューヨークを襲った年でもあったけれど、その影響でミッション・チャーニーズ・フードの店舗の一部が
致命的なダメージを受け、そのせいでヘルス・デパートメントの査察をクリアするだけの衛生条件を満たすことが出来なくなってしまったのだった。
当時のブルームバーグ市長政権下で、神経質なまでに厳しかったヘルス・デパートメントは、重箱の隅を突っつくような査察を抜き打ちで行っては、
レストランを閉店に追い込むという、”いじめ査察”で知られていた存在。
そんなヘルス・デパートメントにとって、メディアから大きな注目を浴びていた当時のミッション・チャーニーズ・フードは、
”いじめ甲斐のあるターゲット” になっていたのだった。
レストランが流行りに 流行っていたにも関わらず、閉店を余儀なくされたダニー・ボイエンは、
その後、気分転換のためにメキシコを旅行し、新たなアイデアを得てニューヨークに戻り、2014年にオープンしたのが メキシカン・レストラン、
”ミッション・カンティーナ”。
同店を営業する傍ら、ダニー・ボイエンが2014年に何度か行ってきたのが、
ミッション・チャイニーズのポップアップ・プロジェクト。期間限定で、彼をサポートしてくれる レストラン経営者の店舗内で
ミッション・チャイニーズ・フードをオープンしたのが同プロジェクト。しかしながら ウェブサイトからの予約がなかなか取れないことから、
フラストレーションを募らせるだけで終わったファンが非常に多いことも伝えられていたのだった。
そうするうちに同年9月に報じられたのが、遂にダニー・ボイエンがミッション・チャイニーズ・フードの新店舗のリース契約を結んだというニュース。
以来、フード・クリティックやレストラン業界関係者、同店やダニー・ボイエンのファンが待ちわびてきたのが
ミッション・チャイニーズ・フード2.0のオープンで、それが遂に実現したのが2015年2月のこと。
同店でのディナーが忘れられない私としては、直ぐにでも飛んで行きたかったけれど、オープン直後から予約を取らない状況が続いていたため、
なかなか予定が立たず、やっと実現したのが今週火曜日のことなのだった。
2.0バージョンのミッション・チャイニーズ・フードで、まず驚いたのが 店舗が以前とは比べ物にならないほどに
立派になっていること。新しいロケーションは、撤退したレストランの後を引き継いだリースではあるけれど、
以前に比べてインテリアがアップスケールなだけでなく、テーブル数も2倍くらいに増えているのだった。
メディアのレビューには、「2.0バージョンは、”両親と一緒に出かけられるミッション・チャイニーズ・フード”」と書かれていたけれど、
確かに以前に比べると、客層がヒップスター系だけでなく、幅が広がっているのが見て取れるところ。
その分、2.0バージョンは以前のエッジーな雰囲気がややマイルドになった印象。
加えてメニューには キャビアやダックなど、100ドルのメニューがリストされていたり、
ドリンク・メニューにワインやカクテルがあったりと、他のレストランでは当たり前のことが、 以前の ミッション・チャイニーズ・フードを
知っている人にとっては、かなりのサプライズになってしまうのだった。
さて、肝心のフードは?と言えば、野菜のピクルスは以前のバージョンとは違っていたけれど、食べたことが無い新しい発見の味。
ビーツと一緒に甘く煮たチャーシューはとろけるような柔かさ。タルティン・ベーカリーのドウを使ってブリック・オーブンで
焼き上げたピザは、チャイニーズ・レストランなのに、完璧なイタリアン・マルガリータ。
新鮮だったのは抹茶パウダーがトッピングされたグリーン・ティー・ヌードルで、これは多くのクリティックが絶賛する
ヴェジタリアン・ディッシュ。スパイシーなディッピング・ソースをつけて味わう餃子は、皮がパリパリで美味。
山椒が利いたスーパー・スパイシーな麻婆豆腐の絶品の美味しさはそのままで、前回私が惚れ込んだ
ベーコンと韓国のライスケーキを炒めたディッシュについては、以前の方が
ベーコンとライス・ケーキが厚切りで、量も多かったけれど、味については全く文句ナシなのだった。
そして最後のディッシュは、ケールのソテーの梅干ブロスだったけれど、プラムやレンコンのスライスがトッピングされていて、
脂っぽい後味を すっきりと かき消してくれる変わった美味しさのディッシュなのだった。
4人でこれだけ味わって、すっかりお腹が一杯になったけれど、これにワイン1本をオーダーして1人、税金+チップ込みで44ドル。
他では味わえない お料理の連続な上に、全てが美味しかったので、大満足のディナーなのだった。
会計を済ませて 帰ろうとした時に バー・セクションに姿を見せていたのがダニー・ボイエン。
そこで、写真一緒に撮らせてもらったけれど、驚いたのは彼が”本当に”痩せていたこと。
ダニー・ボイエンが同店をオープンするにあたって、痩せてシェイプアップしたことはNYタイムズの記事で読んでいたけれど、
以前の店で見かけた彼より ずっとルックスが若返っていて、「以前の方が髪の毛が長くて、もうちょっと太っていた」と
思わず彼に指摘したところ、「あの頃は、凄く飲んでいたから」と笑いながら話してくれて、
とっても気さくでフレンドリー。ヘルシーでサクセスフルなオーラが出ていて、人生が軌道に乗っているという感じが
ビンビン伝わってくるのだった。(ちなみに写真上は、左よりWill New Yorkでヨガのクラスを教えているFumikoさん、
私、ダニー・ボイエン、Dinner ClubメンバーのRさん、一番右は風水師で、Will New Yorkでも風水クラスをやってくださっているMasakoさん)
ふと考えれば、彼の現在の更なるサクセスは ヘルス・デパートメントの”いじめ”に屈する事無く、前進し続けた結果のもの。
ダニー・ボイエンのシェフとしての才能が素晴らしいのは言うまでもないけれど、私は
そんな彼の苦境を乗り越えて レストランだけでなく、彼自身も2.0バージョンに
生まれ変わらせた人間的な強さにも脱帽してしまうのだった。
なので、お料理はもちろんだけれど、そんなシェフの逆境に屈しないパワーを感じるためにも訪れて欲しいのが同店。
BGMから、客層から、インテリアやプレゼンテーションまで、チャイナタウンのレストランには絶対に無い、
本当のニューヨークらしさを味わことが出来ます。
ところで、そのダニー・ボイエンに「これから何処に行くの?」と訊かれたので、
ドミニク・アンセル・キッチンにデザートを食べに行くプランを話したら、
「彼のやっていることは、全てがエクセレントだよね〜。新しい店(ドミニク・アンセル・キッチン)には未だ行っていないけれど…」
と言っていたけれど、私達が到着してみると、既にクローズしていたのがドミニク・アンセル・キッチン。
もっと遅くまでやっているものと 勘違いしていたけれど、同店は午後 7時で閉店なのだった。
そこでプランBということで、出かけたのがチェルシーにこの春オープンした、日本のケーキ店&カフェのハーブス。
私は日本に帰国すると、六本木ヒルズ内の同店にケーキを食べに行くことが多いので、
同店のオープンも嬉しいニュースだったけれど、NY店に訪れたのは やはりこの日が初めて。
既にお腹が一杯だったので、ハーブスのシグニチャーであるミルクレープとマロン・タルトを4人でシェアしたけれど、
日本的な控えめの甘さで、この日の締めくくりにはピッタリだったデザート。
同店は午後11時でクローズだったので、閉店までお喋りして楽しい時間が過ごせました。
ハーブスはちょっとロケーションが不便なのが玉に瑕だけれど、ケーキだけでなく コーヒーも美味しいので、
またディナーの後のデザートに立ち寄りたい!と思ったスポットでした。
執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。