Apr. Week 2, 2018
”Sensational Baking @ Flora Bar"
”フローラ・バーのセンセーショナルで、イノベイティブなベーキング"
ここ数年で、本当にベーカリーが優秀になってきたのがニューヨーク。
かつては日本の美味しいパンが恋しくてたまらなかった私も、今ではニューヨークの方が好きなパンが多くなってきたほどだけれど、
このところニューヨークでは 優秀なパンやペストリーが味わえるのは、ベーカリーよりも むしろレストラン。
それほどまでに、現在のニューヨークではパンが美味しく無ければレストラン商売が出来ないと言われるほど。
逆にパンさえ美味しければ、朝食、ブランチ、ランチでも営業が可能で、高額のデザイナーズ・コーヒーと抱き合わせにしたカフェ&ベーカリーとしての
ビジネスも経営出来るとあって、今多くのレストランが力を入れているのがベーカリー・ビジネス。
今回ご紹介するフローラ・バーは、2016年にオープンして以来、その女性ペストリーシェフの手腕が大評判になってきたレストランで、
パンやペストリーで集客が出来ることをレストラン界で立証した存在の1つなのだった。
フローラ・バーのロケーションは、マディソン・アべニューの75丁目角で、ここはメトロポリタン美術館の分館である The Met Breuer/ザ・メット・ブロイヤーの地階フロア。
ミュージアムの来館者でなくてもアクセスできるスポットで、ここは2014年まではホイットニー美術館であった場所。
昨今のミュージアムは、レストラン&カフェ・セクションが来館者のアトラクションになると同時に、美術館のビジネスに貢献することから、
お金を掛けて有能なシェフを引っ張ってくるようになったけれど、
フローラ・バーのレストラン&カフェ運営の白羽の矢が立ったのが、
以前このコーナーでもご紹介したシェフ、イグナシオ・マットス。
2014年にエステラをオープンして以来、フローラ・バーは彼にとって3軒目にして初のアップスケール&アップタウンのプロジェクトになっているのだった。
そのイグナシオ・マットスは、自らもデザートをクリエイトするのを好み 、「ペストリー・シェフは要らない」という考えの持ち主。
「ペストリー・シェフよりも通常のシェフの方が、料理と一貫性のある、甘さが控えめのデザートがクリエイト出来る」と主張してきたけれど、
その彼が考えを改めたのが、フローラ・バーのペストリー・シェフ、ナターシャ・ピッコウィックスに出逢ってから。
33歳のナターシャ・ピッコウィックスは、かつてコーネル大学で英文学を、コロンビア大学でクラシック音楽を学んだ
音楽ジャーナリストで、カナダに移住してからは有名なフード・ブログでピザやベーカリーについてコラムを執筆するようになったという。
そのプロセスで彼女が夢中になっていったのがベーキングで、やがてペストリー・シェフとしてニューヨークに戻った彼女が、
共通の友人を通じて知り合ったのがイグナシオ・マットス。
ちょうどその時、2軒目のレストランに加えて、フローラ・バーのプロジェクトを抱えて
デザートを担当するペストリー・シェフの必要性を感じ始めていたイグナシオ・マットスは、
ナターシャのイノベイティブなベーキング・スタイルに、自分のフィロソフィーとのマッチを見出したとのこと。
以来彼女はフローラ・バーと、マットスの2軒目のレストラン、
パロ・アルト・パラディッソで、デザートやペストリーだけでなく、料理の一部としてのセイヴォリー・ペストリー(甘くない塩味のアイテム)
を手掛けるようになっているのだった。
ちなみに写真下2枚は、レストラン・セクションで彼女が手掛けるデザート。
でも彼女独特のセンセーショナルなベーキング・スタイルは、カフェ・セクションでサーヴィングされるパンやペストリーで存分に満喫できるのだった。
フローラ・バーは、手前がカフェ・エリアになっていて、そのショーケースには、
ナターシャ・ピッコウィックスが手掛けた 何種類ものべークド・プロダクトが並んでいるけれど、定番になっているのは、
レストラン・セクションでサンドウィッチ・ブレッドとしても使われているスコーン、
野菜をスタッフィングしたグリーン・タルト、ウォルナッツ・ショートブレッド、
シナモンとブラック・カーダモンの味わいが利いたスティッキー・バン、そして
パウンドケーキで、いずれも素朴で、シンプルなもの。
それだけに、微妙な味わいや 完璧なまでのテクスチャーが際立つものばかりで、
それが洗練された完璧さではなく、誰もが何時でも食べたくなるような、
コンフォートを与えてくれる絶妙さであるところが その魅力であり、
ナターシャ・ピッコウィックスが意図するところなのだった。
中でも最も人気と評価を獲得しているのが、
チーズとズッキーニのスコーン。
ズッキーニはベーキングに頻繁に用いられる野菜であるけれど、
細かくシュレッドしたズッキーニは、スコーンのテクスチャーを軽く保つために、
一晩掛けて水分を吸い取ったもの。それでもズッキーニには ドウをしっとりさせるのに十分な水分が残っているとのこと。
それに グリエ・チーズのキューブ、小麦粉、バター・ミルクを加えてオーブンで20分焼き上げるのがそのプロセスであるけれど、
ディテールに拘りまくっているので、通常のスコーンよりも遥かに軽く、外側がサックリして、内側がしっとりした完璧な仕上がり。
テイクアウトをして、家で オーブンに入れて 軽く温め直すと、チーズが再び溶け出して、
スコーンのテクスチャーがさらにサックリと軽くなって、幾らでも食べ続けられるような美味しさなのだった。
ドウ自体は、塩味ながらもほんのりした甘味があって、その微妙な甘さがチーズとズッキーニに絶妙のマッチ。
セイヴォリーでありながら、スウィート・ペストリーを味わっている感覚も この僅かな甘さで演出されているのだった。
フローラ・バーのカフェでは、これをコーヒーと一緒に朝食や、ランチで味わう人が多いけれど、
私はクリスプなホワイト・ワインと一緒に味わうのが断然お薦め。
このスコーンを目当てに同店にやってくるアッパー・イーストサイドの住民は非常に多いので、
早めに出掛けることをお薦めします。
Flora Bar : 945 Madison Ave, New York, NY 10021
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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に
ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。