Feb. Week 1, 2014
”ジュエリー・バイ・ジャー @ メトロポリタン・ミュージアム”
メトロポリタン・ミュージアムで11月から行われているエキジビジョンが ”ジュエリー・バイ・ジャー”。
”JAR / ジャー” はジュエリー・デザイナー、Joel A. Rosenthal / ジョエル・A・ローゼンタールのイニシャルであり、ブランド名。
ジョエル・A・ローゼンタール(以下JAR)は ニューヨークのブロンクス生まれで、ハーバード大学に通った後、パリに移り住み、1966年から
ジュエリー製作をスタート。
パリのヴァンドーム広場にブティックをオープンしたのは1978年のこと。
卓越した色のセンスを持つ彼がクリエイトするジュエリーは、クォリティが高く、発色が抜群の石を選りすぐって
製作されたもので、特に彼を有名にしたのは、そのパヴェのテクニック。
小さな石をぎっしりセットするJARのパヴェ・テクニックは、
巧みなカラー・グラデーションや精巧なクラフトマンシップで、世の中一般に知られる ”パヴェ”とは比較にならない視覚効果と、
デリケートなフォルムを実現することで知られているのだった。
今回のメトロポリタン美術館におけるエキジビジョンは、JARの作品、400点以上を集めたもの。
彼のエキジビジョンは2002年にロンドンのサマーセット・ハウスで行われたことがあるけれど、
アメリカで行われるのはこれが初めてのこと。
出展されている作品の大半は、彼の作品を購入した人々がエキジビジョンのために貸し出したアイテム。
その作品提供者の中は各国のロイヤル・ファミリー、グウィネス・パルトロー、エレン・バーキンといったセレブリティや、グッチを所有するPPRのビリオネア・ビジネスマン、
フランソワ・アンリ・ピノー等も名前を連ねているのだった。
私が最初にJARの存在を知ったのは 10年ほど前にクリスティーズのジュエリー・オークションに出品された彼の作品をプレビューで観た際で、
出回っている作品数が少ないだけに、当時の
オークションでも 彼の作品は目玉アイテムの1つになっていたのだった。
JARの作品の多くは1点もので、顧客が彼のジュエリーの購入に及ぶ際には、必ず身につけさせて、彼が似合わないと判断したら、たとえセレブリティでも作品を売らないというのが彼の主義。
従って 購入する側は、どんなにお金を積んでも 自分が気に入っているJARの作品を入手できるとは限らないのだった。
それほどまでに、製作工程だけでなく、仕上がった作品をディスプレーする人物にもこだわる
完璧主義者なのがJAR。
そんな全く商業的とは言えないビジネスを展開しているJARであるけれど、歴史上最も特筆すべきジュエリー・アーティストの作品を手に入れたいと
考えるメガ・リッチが後を断たないのが実情なのだった。
当初JARのジュエリー・エキジビジョンは、さほどパブリシティを獲得していなかったけれど、
それが一転するきっかけとなったのが、12月末になってニューヨーク・タイムズ紙のアート・セクションに掲載された記事。
その中では、メトロポリタン美術館で、JARの作品の受注会が行われたことや、
JARほどのエクスクルーシヴなアーティストがエキジビジョンのために作品をクリエイトしたこと等が書かれ、
美術館がJARのショールームのようになってしまったことを批判する声が聞かれる一方で、
エキジビジョン会場に特設されたギフト・ショップで、 まるでジュエリー・サロンで売るような高額商品が販売されていることも
批判の対象になっている様子が説明されていたのだった。
写真上のイヤリングがそのギフト・ショップ用の商品の一部であるけれど、”ティックル・ミー・フェザー”とネーミングされた写真上の
ゴールドのイヤリングは7500ドル(約75万円)、色違いのパープルのイヤリングは4000ドル(約40万円)。
その下の”カーニヴァル・ア・ヴェニス”とネーミングされたイヤリングは2000ドル(約20万円)。
プロダクトはリミテッド・エディションではないものの、ナンバーが付けられているとのこと。
これまでにも、メトロポリタン美術館でシャネルのエキジビジョンが行われた際には、シャネルのギフト・ショップがオープンし、
近年で最もサクセスフルと言われたアレクサンダー・マックィーン回顧展が行われた際には、
やはりアレクサンダー・マックィーンのギフト・ショップが設けられ、それぞれに特別にクリエイトされた
プロダクトを販売していたけれど、確かにここまで高額なプロダクトは過去に例を見ないもの。
とは言っても、JARの通常の作品のお値段を考えれば、”一般大衆向けの普及バージョン”が
このお値段になっても 不思議では無いとも言えるのだった。
個人的には、”普及バージョン”のイヤリングは、 パーフェクションを追求するJAR本来のクラフトマンシップが感じられないので、
あまり評価しないけれど、エキジビジョン自体はジュエリー好きであれば必見。
装飾品として観てしまうと 「持っていても着けないだろうなぁ」という印象の作品が多いけれど、
宝石を用いたウェアラブル・アートとして眺めた場合は、その美しさと完璧さに ため息が出るエキジビジョンです。
”ジュエリー・バイ JAR” は、2014年3月9日までの展示です。
執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に
ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。