Dec. 11 〜 Dec. 17 2017

”Social Media Make You Crazy”
フェイスブックのリサーチ結果も認める
ソーシャル・メディアとうつ病の関係



今週のアメリカで最大の報道となっていたのは火曜日に行われたアラバマ州の臨時上院議員選挙で、 通常ならばメディアの注目さえも浴びることが無いのが、最初からキリスト教保守派の共和党議員が勝利すると決まっている同州の選挙。
ところが今回に限って全米の注目が注がれた理由は、共和党候補、ロイ・ムーア(70歳)が、 30代、40代の頃にティーンエイジャーに対して性的虐待行為を行い、9人の犠牲者から告発されていたため。 そのうちの1人はロイ・ムーアにショッピング・モールで声を掛けられて、電話番号を渡すのを拒否したところ、 当時裁判官であった彼が学校の授業中に校長室に呼び出してまで電話番号を聞き出したという彼の異常性を訴えていたのだった。
でも全米を唖然とさせていたのは、ロイ・ムーアをサポートするアラバマ州民の言い分で、「30年も前の事のことを今更告発するなんて…」というのならば 未だ理解の余地があるけれど、 「アラバマ州では40代の男性がティーンエイジの少女に興味を示すのは当たり前」、「ロイ・ムーアは敬虔なクリスチャンなので、 彼がすることは正しいこと」と主に白人層の年配の男女が 非常識なまでのサポートぶりを展開していたこと。 また選挙戦終盤では、昨年の大統領選挙でロイ・ムーア同様に10人以上の女性からセクハラや性的虐待の告発を受けていた トランプ大統領が ロイ・ムーアに対して熱烈なサポートぶりを見せたこともあり、全米が関心を注いだのがその選挙。
結果は大接戦の上、民主党の対立候補、ダグ・ジョーンズが勝利を収め、 アメリカ国民をホッとさせた一方で、ロイ・ムーアを全面的にサポートし、選挙活動にも協力したトランプ氏の顔が潰れる事態となっているのだった。




でもソーシャル・メディア上で最も大きなバズをクリエイトしていたのは、 CUBE New Yorkのトピックのセクションでも取り上げたテネシー州の少年、キートン・ジョーンズのいじめの被害を告白するビデオから 端を発した茶番劇。
この経緯を簡単に説明すると、先週金曜にフェイスブック・ライブでポストされたのが 学校でのいじめについて涙ながらに語ったキートンを母親が撮影したビデオ。 同ビデオは その後ツイッターでシェアされたことから、週末までに 2000万人が視聴。キートンが顎の腫瘍を摘出するための手術を3回も受け、頭部に大きな傷を負い、 言葉を喋るのに不自由があるという状況も手伝って、あっという間に大勢の人々の同情とサポートを集めたのだった。 その中にはジャスティン・ビーバー、セリーナ・ゴメス、ルブロン・ジェームス、ケンドール・ジェナといったAリスト・セレブリティが数多く含まれており、 そのフォロワーがリツイートを繰り返したのも同ビデオが瞬く間にヴァイラルになった要因なのだった。
ところが週明けにソーシャル・メディア上に浮上したのが、実はキートンの家族が人種差別一家であったという事実で、 キートンの母親が アメリカにおける人種差別や奴隷制支持のシンボルであるコンフェデレーション・フラッグの横で満面の笑顔を見せるスナップや、 キートンと兄弟がコンフェデレーション、アメリカ国旗、銃を片手にネオナチのようにポーズする写真がインターネット上に浮上。 それだけでなくキートンの母親は、白人至上主義と思われても仕方がないようなメッセージもポストしており、 その時点でリアーナやカーディBといったセレブリティのソーシャル・メディア上から キートンをサポートするポストが消えて行ったのだった。 また母親と思しきIDで複数のクラウドファンディングでキートンへの寄付集めが行われており、キートンをサポートするために母親にコンタクトしたセレブリティの1人は、 「サポートするならお金を振り込んで欲しい」と言われたことを、彼のソーシャル・メディア上で告白。 彼に限らず騙された思いをするサポーターがソーシャル・メディア上に溢れる一方で、 引き続き いじめに対して勇気ある発言を見せたキートンをサポートする人々も居たのが今週火曜日の時点。この段階でビデオの視聴者数は5000万人にも達していたのだった。
ところが、翌日にはキートンの父親も白人主情主義の ネオナチ・グループの1員であることが 写真付きでソーシャル・メディア上で明らかになり、加えてキートン本人も 人種差別用語を使ってクラスメートをなじったことがあり、 それが彼に対するいじめの原因になったことがある事実も判明。 このため先週末にはキートンに同情を寄せていた人々が 手のひらを返したようにキートン一家に対するバッシングを繰り広げるようになり、 全米が翻弄される茶番劇を展開していたのだった。




その最中にメディア、そして多くの一般の人々が指摘していたのは、キートンのビデオを見て彼に同情が集まるという初期のリアクションは理解できるとして、 その後に起こったセレブリティのサポート合戦がどんどんエスカレートしていった様子。
ジャスティン・ビーバーやセリーナ・ゴメスが彼をサポートするメッセージのビデオをポストしたかと思えば、 地元のNFLチーム、テネシー・タイタンズがキートンを試合に招待。 ヘイリー・スタインフェルドは、今週ハリウッドで行われた彼女の出演映画「ピッチ・パーフェクト3」のプレミアに、 キートンを自分のデート相手として連れて行きたいと呼びかけていた一方で、 クリス・エヴァンスは来年公開される「アヴェンジャー」のハリウッド・プレミアにキートンと母親を招待。 ドナルド・トランプ・ジュニアはキートンと母親を彼の自宅に招待しており、 あたかもキートンへのサポート通じて、誰が一番美談パブリシティを獲得できるかを競い合っているかのように見える様子を展開していたのだった。
もちろん、キートン一家の人種差別ぶりが明らかになってからは 最も恥ずかしい思いをしたのがこれらのセレブリティで、 ヘイリー・スタインフェルドは、「ピッチ・パーフェクト3」のプレミアのレッド・カーペット上で キートンについてメディアに訊ねられ、表情を強張らせていたのだった。

やがて週末を迎えるまでには「この話はもう沢山」、「本人たちを放っておくべき」という 意見が圧倒的になったけれど、キートンの茶番が繰り広げられている間に 10歳の黒人少女がいじめを苦に自殺したことが 全くメディアで報じられなかったことが問題視され始め、メディア報道の基準が、キートン一家と変わらない 人種差別ポリシーに基づいていると 批判される一幕も見られていたのだった。




そんなソーシャル・メディアに翻弄された一週間を締めくくるように、金曜にフェイスブックのリサーチ・ディレクターが そのブログでが発表したのが、「フェイスブックは使い方によっては人を落ち込ませる」というリサーチ結果。 このリサーチでは フェイスブックのニュース・フィードとその写真のチェックに時間を費やす人と、フェイスブックを主に友人や家族とのコミュニケーション手段として利用する人を比較したところ、 前者の方がかなり幸福度が低いという結果が得られたという。
また同じく今週には、現在子供達の間で増えているうつ病の原因が コンピューターやタブレット、スマートフォンの使用に時間を割き過ぎること、 特に「ソーシャル・メディアに長時間を費やすのが原因」という心理学専門家の分析もメディアで明らかになっており、子供達が ソーシャル・メディアを通じたいじめに悩んだり、疎外感を味わっては不安を募らせている様子が指摘されていたのだった。
更に今週スタンフォード大学で行われたディスカッションにおいては、 元フェイスブックのエグゼクティブが 「フェイスブックは社会の仕組みや人とのつながりを台無しにする道具であり、 それに関わって大金を儲けたことに罪悪感を覚える」と語っただけでなく、「自分の子供には決してフェイスブックのプロフィールは作らせない」とまでコメント。 この発言は、フェイスブックの初代のプレジデント、ショーン・パーカーが「フェイスブックは人間心理の脆弱性(ぜいじゃくせい)を利用して、 ユーザーが中毒になるようにデザインされている」とコメントしたことにも裏付けられているのだった。

すなわちフェイスブックは、ニューズ・フィードをチェックして”他人=フェイスブック・フレンド”の様子をチェックすればするほど、 自分が参加していない世の中の出来事を見せつけられて疎外感や焦りを覚えたり、 全く知らない人間の行動が気になっていく一方で、ソーシャル・メディアが世の中と関わる重要な手段に思えて、益々それに時間を割いていくようにデザインされており、 自分もその社会の一員であることを示すために、自分のことも熱心にポストするようになるというのがその仕組み。 一度中毒状態になると、ソーシャル・メディアで自分がどう見られているかが気になる一方で、 他人のニューズ・フィードに対するリアクションにも感情的になっていくのは自然の成り行きで、 キートン・ジョーンズのビデオに対して世の中が見せたリアクションはまさにその様子。

誰かのビデオがヴァイラルになれば、今度はその人物の粗探しをする人間によって過去や秘密が暴かれて、 にわかセレブリティのステータスから真っ逆さまに突き落とされる訳で、 そう思うと 日ごろからよほど完璧な人間で、ソーシャル・メディアにおける過去のポストも完璧でない限りは ビデオがヴァイラルになるのは逆にトラブルの火種。 それほどソーシャル・メディア上は、同情やサポートが数時間後にヘイトに変わるかもしれない恐ろしい世界であるということは、 ビデオをポストする前に誰もが心得ておくべきなのだった。


執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

Shopping
home
jewelry beauty health apparel rodan

PAGE TOP