Dec. 5 〜 Dec. 11 2016

”Alt Right and White Only Nation"
増えるヘイト・クライム、アルト・ライトの勢力拡大で、
アジア人はどの程度差別されるのか?



大統領選挙が終わって、今週で約1カ月が経過したアメリカであるけれど、選挙の後遺症はアメリカ国民の間に根強く続いていて、 アメリカの成人に対するデイリー・アンケート調査によれば、選挙後に「バッド・ムードを味わっている」と回答した人々は全体の20%、すなわち5人に1人。 この数値は日本でリーマン・ショックと呼ばれている2008年からのリセッション以降は約11%で横這いだったもので、 選挙後に約2倍になっているのだった。
それと同時に 昨今メディアが使うようになってきたのが「Trump10 / トランプ・テン」という言葉。 これは、トランプが大統領になってから 10パウンド(約4.5キロ)体重が増えたという意味で、その語源は アメリカの大学一年生(フレッシュマン)が親元を離れて寮生活を始めて、 不規則な食生活やジャンクフードの食べ過ぎによって体重が15パウンド(約6.8キロ)増えることを意味する「Freshman 15 / フレッシュマン・フィフティーン」。
すなわち、トランプが大統領になったことに失望した人々が、ストレス・イーティングやストレス・ドリンキングで 僅か1カ月ほどで5キロ近くも体重を増やしてしまった訳だけれど、 もちろんその体重増加にはサンクスギヴィング・ディナーでのカロリー過剰摂取も加担しているのだった。






アメリカ社会が今も選挙後遺症を引きずる要因の1つと言えるのが、選挙後毎日のように報じられるヘイト・クライム。 移民や異人種に極めてオープンマインドであるニューヨークでさえ、選挙後にヘイト・クライムが31%も増えたことが伝えられており、 その内訳は口頭のハラスメントから ヘイトメッセージを建物の壁にスープレーするヴァンダリズム(器物損壊)まで様々。 そしてその状況はアメリカ全土にも蔓延しているのだった。

まず選挙2日後には、ウエスト・ヴァージニア州の企業ディクターが「美人のファーストレディがホワイトハウスに 戻って嬉しい。ヒールを履いたサルにはもう飽き飽きしていたところ」と ミシェル・オバマ夫人を蔑視するツイートをし、それを事もあろうにその街の市長が、 絶賛のリツイートをして、双方とも職を追われているけれど、 人々を呆れさせたのは、メッセージ内容もさることながら、 社会的地位がある2人の大人が こんなツイートが許されると思い込んでいた状況。
その一方で、11月半ばにはデルタ航空機内で、トランプ支持者の男性乗客がヒラリー・クリントンに投票した人々に向かって「お前たちは負けたんだ、トランプ大統領に従え!」と 怒鳴りつけ、この男性はデルタ航空から永久追放となり、デルタ航空は不愉快な思いをした乗客全員のチケット代を払い戻したことが報じられているのだった。 それ以外にもアメリカ生まれのイスラム教の女性がテロリスト呼ばわりされて「この国から出ていけ」となじられたり、 ブルックリンでは アジア人男性がいきなり顔を殴られるなど、 ドナルド・トランプが大統領選に出馬し、人種差別スピーチを繰り広げたのをきっかけに ただでさえ増えていたヘイト・クライムが、 その当選を機に、あたかも合法化されたような状況になっているのだった。
またトランプ当選以来、女性蔑視のトラブルも増えており、 ニューヨークのクイーンズのレストラン・オーナーが、「From now on, we can grab them by the pXXXy」とトランプのコメントをそのまま使って、 女性に対する痴漢行為が許されたかのようなツイートを行った他、別のレストランでも来店客から同様のハラスメント受けた女性が レストランを訴えるという事態が起こっているのだった。

NYにおける2015年のデータによれば、ヘイト・クライムのタ-ゲットは人種では最も多いのが黒人層。 でも2015年から「Black Lives Matter」が全米を巻き込むムーブメントになっていることもあり、前年比では17%ダウンとなっているのだった。 アジア人に対するヘイト・クライムは2015年の段階では全体の6%、ヒスパニック+ラテン系はさらに少ない1%。
宗教別では ヘイト・クライムのターゲットとして最も多いのはイスラム教かと思いきや、ユダヤ教。前年比の伸び率でも11%と最も多くなっているのだった。 イスラム教徒に対するヘイト・クライムはユダヤ教よりは少ないものの、伸び率は同等。 それ以外でヘイト・クライムのメジャーなターゲットになっているのはLGBTコミュニティで、前年比48%のアップを見せているのだった。
FBIが発表した2015年の全米におけるヘイト・クライムのデータにおいても、人種では黒人層、宗教ではユダヤ教をターゲットとしたものが最も多いものの、 前年度からの伸び率が最も高いのはイスラム教。2001年のテロ以来の過去最高レベルに達しているとのことで、 ハラスメントやモスクへの危害は2015年に68%もアップしているのだった。




白人至上主義集団のKKK(Ku Klux Klan)がドナルド・トランプ大統領当選に際し勝利宣言をしたことはアメリカで大きく報じられたけれど、 トランプ大統領誕生を受けて勢いついているのが Alt Right/アルト・ライト・ムーブメント。
アルト・ライトとはアルタ二ティブ・ライトの略で、要するにキリスト教極右派やネオ・ナチのこと。 従来の”ホワイト・ナショナリズム・ムーブメント”ではあるものの、ミレニアル世代が加わっている点で、 新しいムーブメントと解する声があるのだった。

アルト・ライトは、白人のみの州の確立を目指していると言われ、エクストリームな思想では 女性も差別対象になっていることから、白人男性至上主義と表現される場合も多いもの。 トランプ政権においては、そのアルト・ライトのニュース・ソースであるウェブサイト、ブライトバート・ニュースの元エグゼクティブ・チェアマン、 スティーブン・バロンが首席戦略官、及びシニア・アドバイザーへの就任が決定しており、 ホワイトハウスにアルト・ライトの親玉と言える存在がパワフルなポジションで君臨することも 昨今のアルト・ライト・ムーブメントの追い風になっていると言われる要因。
でもそれよりも何よりも、ドナルド・トランプが選挙戦の最中から、アルト・ライトが一国の指導者から聞きたいと願ってきた白人至上主義を そのスピーチで打ち出したことが、現在ムーブメントの盛り上がりに大きく寄与しているのと言われるのだった。

今週末には、3大自動車会社の1つであるGMがキャデラックのCMのキャスティング募集広告で、アルト・ライトのメンバーを募り、「CMの中で誇りを持ったグループとして描く」ことを約束していたことから 批判を浴びていたけれど、見方を変えればこのエピソードは アルト・ライトがマーケティングに用いられるほどにメインストリームになりつつあることを意味するもの。
アルト・ライトというと白人層の割合が多く、大統領選挙でトランプを支持した中西部のみのムーブメントと思い込む人も多いけれど、 それ以外に同ムーブメントが活発なのは大学のキャンパス。特にアイヴィーリーグの一流大学などは、既に人種によってフラタ二ティやソロリティに入れないことは、 映画「ソーシャル・ネットワーク」で描かれたハーバード大学の様子などからも知られる事実。 大学によっては伝統的にアンチ・セメティック(反ユダヤ)のキャンパスなどもあり、そんな人種的校風はマイノリティの学生にとって大学選びのポイントになっているほど。

ところでアメリカのカルチャーに詳しくない日本人の知人から時々尋ねられるのが、どうやったらクリスチャンとユダヤ教の見分けがつくのかということ。 実際、私の親しいユダヤ教の友人は2人ともブロンド、元ボーイフレンドのジューイッシュ(ユダヤ教徒)もブロンド&グリーンの瞳で、 ユダヤ系には 見るからにジューイッシュという人だけでなく、非常にWASPY(ホワイト・アングロサクソン・プロテスタントっぽいという意味)なルックスの人が 含まれているのだった。
そんな人々がジューイッシュだと分かるのは通常はラストネームからで、 ゴールド、シルバー、グリーンといった言葉が入ったラストネームや、ブルームバーグ、ファーステンバーグのようにバーグで終わるラストネームはユダヤ教。 そんな例を挙げたらキリが無いけれど、アメリカに長く暮らしていると徐々にラストネームを聞いただけで、カソリックかプロテスタントかの区別は分からなくても、 ユダヤ人は識別できるようになってくるのだった。
そんなこともあって、アンチ・セメティックが根強い大学に進学するユダヤ教の学生の中には、クリスチャンの母親のラスト・ネームを使う例さえあるのだった。




そんなアルト・ライト・ムーブメントが盛り上がるアメリカにおいて、マイノリティとして生きていくからには、 日本人がどの程度差別されるかを危惧する必要が出て来るけれど、 アルト・ライト・ムーブメントの中においては、アジア人に対する差別はさほどプライオリティではないのが実情。
アメリカでは今週、2015年にチャールストンの黒人教会のバイブル・スタディの場で9人の黒人信者を射殺したティーンエイジャー、ディラン・ルーフ(写真上)の 裁判が行われていたけれど、事件後に公開された彼のマニフェストによれば、アジア人は白人至上主義者の思想をシェアする唯一の人種。 そのイメージが北朝鮮や中国から来ているのか否かは定かでないけれど、 昨年の同事件後に、カソリックの白人男性と 白人至上主義について話した際に彼が語っていたのが、 「アジア人は犯罪に加担する割合が低く、経済的に自立したマイノリティであるのに加えて、文句や主張がないので、 白人至上主義者の中に人種的優劣の意識があったとしても、敵視はし難い存在である」ということ。
アメリカにおけるアジア人のポジションについては、2015年のこのコラムでも当時のニューヨーク・タイムズの記事を引用してふれたことがあるけれど、 このセオリーで差別され難いと言われているのはピュアなアジア人。すなわち100%アジアの血が流れているアジア人のこと。 これがミックス・レース、すなわちアジア人と白人、もしくはヒスパニックなど別人種の間に生まれた子供になると若干別扱いになるようなのだった。

そもそもアメリカ合衆国において、インターレイシャル・マリッジ(異人種間の結婚)が合法となったのは1967年6月12日のことで、未だ50年も経過していない状況。 そんな根強い偏見から、ミックスレース(混血)は純血のマイノリティよりも身分が低いというヒエラルキーを描いているのが白人至上主義者で、 中でも彼らが最も嫌うのは白人と黒人のミックスで、インタ−レイシャル・カップルの中では最もヘイト・クライムのターゲットになり易いのが白人&黒人のコンビネーションなのだった。

さて私が時々日本人の友達に尋ねられるのが「アメリカで人種差別を受けたことがある?」という質問。
実は私は一度だけ人種差別発言をされたことがあって、それは1990年代半ばのパールハーバー・アニヴァーサリーの日のこと。 当時付き合っていたボーイフレンドと私のアパートで一緒にニュースを見ていた時に、パール・ハーバーの報道になり、 いきなり「Shane on you!(恥を知れ)」と言われたのだった。
彼は攻撃的な口調ではなく、半分冗談で言ったのは分かっていたものの、その当時は9・11のテロの前で、 旧日本軍によるパールハーバー奇襲と言えばアメリカにとって史上で最大の屈辱と捉えられていたこと。 アメリカに来てからは毎年のようにパールハーバーのアニヴァーサリーの度に、日本人として肩身が狭い思いをしていただけに、 自分のボーイフレンドに痛いところを突かれた私はカンカンに怒ってしまったのだった。
その時に私が彼に言ったのが 「日本人としてのプライドが私の人格を形成しているのだから、それを侮辱するような発言をするなら もう2度と会わない」ということで、彼は私のリアクションに驚いて謝罪をしたけれど その日は気分が悪くて、すぐに彼を追い出したのを昨日の事のように覚えているのだった。

今週はそのパールハーバーの75周年のアニヴァーサリーということで、生存者が一堂にハワイ入りした様子が アメリカで大きく報じられると同時に、パールハーバーの奇襲を機に、 それまでアメリカではヨーロッパの戦争と思われてきた第二次世界大戦に 一夜にしてアメリカが参戦した様子などが、当時を覚えている引退したニュース・キャスターによって生々しく語られ、 まだまだパールハーバーの歴史的インパクトがアメリカという国において非常に大きいことを感じさせていたのだった。

それもあって、日本の安倍総理がクリスマス休暇でハワイ入りするオバマ大統領と共に、日本の総理として初めてパールバーバーを訪れるニュースは 週明けにニューヨーク・タイムズがスマートフォンのアラートで伝えるほど アメリカでは大きく報じられていたけれど、 現在の日米関係を思うにつけ、古い世代のアメリカ人が日本という国について真っ先に思い浮かべるネガティブ要因が 75年間も日本政府によって放置されてきたことは アメリカに住む日本人の目から見ると驚くべきこと。
今ではヨーロッパでもアルト・ライト・ムーブメントが盛り上って来ているだけに、 日本にとっての歴史的なネガティブ要素を払拭することは、 外国に住んだり、ビジネスをする機会がない日本人にとっても、これから先の時代において重要になってくると思うのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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