Nov. 28 〜 Dec. 4 2016

”Permanent Underclass or Opportunist…"
エリート以外に残された道は、パーマネント・アンダークラスかオポチュニスト!?


今週のアメリカは月曜のオハイオ州立大学で起こった刃物による切り付け事件で始まったけれど、 この日はオンライン・ショッピングの売り上げが年間で最大になるサイバー・マンデー。 2016年のサイバー・マンデー1日の売り上げは、昨年より10%アップして34億5000万ドル(約3915億円)。 伸び率としては昨年同様ではあるものの、今年はアマゾン・ドット・コムを始めとする多くのオンライン・ショップが 10日前からサイバー・マンデー・セールを行っていたことや、先週金曜のブラック・フライデーにも33億ドル(約3400億円)を超えるセールスが オンライン・ショッピングで記録されていたことを考慮すると、これは極めて好成績と言えるのだった。

そのサイバー・マンデーの翌日は、アメリカのみならず世界中でチャリティへの寄付が呼びかけられる ”ギヴィング・チュースデー”。 2015年のこの日には1億1600万ドル(約132億円)の寄付が集まったけれど、今年はそれを44%上回る1億6800万ドル(約190億円)の寄付が 世界中から集まっているのだった。
ちなみに、アメリカ社会では1世帯当たりが年間にチャリティに寄付する平均額は何と2900ドル(約32万9000円)。 そのうちの大半が寄付されるのは11月と12月で、これはホリデイ・シーズンに恵まれない人々を思っての寄付というよりは、税金控除を見込んでのもの。 というのもアメリカではチャリティへの寄付が税金控除の対象となるためで、富豪やセレブリティが自分で設立したチャリティに寄付をしても その対象になるのは言うまでもないこと。 したがってフェイスブックのマーク・ザッカーバーグやエスティ・ローダーのレオナルド・ローダーといった大富豪が税金逃れのために 100億円以上の寄付をしていることも アメリカの1世帯当たりの平均寄付額をアップさせている背景。でも、クラウド・ファンディングについては、 たとえがん患者の治療費を寄付した場合でもこの対象外。
アメリカでは所得が低い人々ほど税法の知識が乏しいこともあり、税金を申告する段階になってクラウド・ファンディングへの支払いが寄付とはみなされないことを 初めて知って、苦いレッスンを強いられる人々は少なくないという。




その一方で政治の世界では今週、ドナルド・トランプ次期大統領が、アメリカが独立国家と認めていない 台湾の蔡英文(さいえいぶん、写真上左側)からの電話を受けたことが大きく報じられていたけれど、 アメリカの大統領、及び次期大統領が台湾とのコミュニケーションを取ったのは40年ぶりのこと。 しかもこれは、アメリカ政府の外交プロトコルに反する行為。
トランプ側は、「単に選挙勝利の祝福の電話を受けただけ」、「トランプ氏は50か国以上から祝福の電話を受けていて、そのうちの1本に過ぎない」と軽視しているものの、 アメリカ政府関係者、及びメディアの間では「現在のアメリカにとって 中国との外交政策が最も重要」と認識されているだけに、 これに対する批判が多く、既にパキスタンやフィリピンの大統領との電話で顰蹙を買っていたトランプ氏であるけれど、台湾との電話については、 「外交の素人」というイメージをアメリカのみならず 世界中に印象付ける結果になっているのだった。

その一方で今週はトランプ氏が選挙公約通り、 メキシコ移転を計画していたインディアナ州のエアコン会社、キャリアーの工場残留を決断させ、1000人分以上の職を救ったことがニュースになっており、 トランプ側は、「数本の電話で工場移転を思いとどまらせた」、「今後は企業にそう簡単には国外に仕事を輸出させない」と勝利宣言をする様子が報じられたのだった。
しかしながら、それと同時に報じられた交渉の舞台裏はと言えば、工場移転を取り止める替わりにキャリアーの親会社、ユナイテッド・テクノロジー社が 700万ドルの税額免除をインディアナ州から受け取るだけでなく、それでも1300人分の職を同社がメキシコに移すという事実。
すなわち、トランプ側は700万ドルを支払ってメキシコに移る仕事の半分しか救えなかったということで、その700万ドルはインディアナ州の納税者によって 分割負担が強いられるもの。 要するに やがては大企業のトップの給与になる税金の優遇措置を庶民の血税で賄うというもので、この取引については 大統領選挙でトランプ支持を強烈に打ちだしていたサラー・ぺイランさえもが批判をしていたのだった。




今回の大統領選挙でドナルド・トランプに票を投じた州では、インディアナ州だけでなく、 メキシコなどへの移転のための閉鎖に瀕した工場を幾つも抱えているのが実情。 前述のキャリアー社のすぐ傍にも2017年6月に閉鎖に追い込まれる予定の工場があり、 今週はその従業員たちが「自分達の仕事も救ってほしい」と書かれたプラカードを持ってトランプにアピールする様子も報じられていたけれど、 このように工場閉鎖等で低賃金の収入源を失ってしまう人々のことは、ニューヨーク・ポストのような右寄りのメディアが”パーマネント・アンダークラス” と呼ぶ人々。
パーマネント・アンダークラスは現在のアメリカに7600万人居ると言われ、これらは大半は無一文でアメリカにやって来た不法移民ではなく、 リセッション後に徐々に経済的な困窮に追い込まれていった人々。 大学を出て、高収入を得て、都市部で働くエリート層とは対極に位置するのが パーマネント・アンダークラスで、 その22%は2つ以上の仕事に就き、31%が老後の蓄えが全く無く、46%が $400ドルの予期せぬ出費を払う余裕さえ無いという人々。 そしてこれらの人々の大多数が今回の選挙でドナルド・トランプに票を投じたことは周知の事実。

彼らは中国からの安価な輸入品との価格争いのために、企業が安い人件費を求めて工場移転をする度に仕事を失ってきた人々であり、 国内の人件費が下がっているのは移民に仕事を奪われているからと考えている人々。
そんなパーマネント・アンダークラスのフラストレーションに対して 大統領選キャンペーンで応えたのがドナルド・トランプで、 1100万人の不法移民の強制追放やイスラム教徒入国禁止に加えて、日本や中国の為替操作に対する制裁、 日本&NATO諸国に対する防衛費負担請求などを訴えて、 パーマネント・アンダークラスの親の世代同様に、普通に働いていたら無理なく60歳でリタイア出来る社会=”強いアメリカ” の復活を ”Make America Great Again” というスローガンでアピールしたことは ドナルド・トランプを大統領に導いた要因の1つ。
でもトランプを支持する右寄りのメディアさえもが 彼らを「パーマネント・アンダークラス」と呼ぶように、製造業に頼った小さな町がどんどん廃れていくのは もはや止められない現象。 そのことはドナルド・トランプのクロージング・ラインのシャツやネクタイが、中国やマレーシアで生産されていることからも明らかなのだった。




トランプ政権下では、富裕層を対象した減税が行われることにより、今後益々貧富の差が開くことが見込まれているけれど、 アンチ・エリート派の中にも パーマネント・アンダークラスにはならない人々も居るもので、それがオポチュニスト。 企業に勤める訳でも、自分でプロダクトやサービスを開発する訳でもなく、社会の風潮を利用しながら、 学歴や資格、資本金などなくても お金を稼いでいくのがこうした人々。
企業とタイアップして年収1千万円以上を稼ぐブロガーや、今アメリカで猛然とビジネス規模を拡大しているマリファナの 医療用の個人栽培をしている人等も このオポチュニストに含まれるけれど、 今回の大統領選挙を左右したと言われるフェイク・ニュースも そんなオポチュニストに多額の収入をもたらしていた”ビジネス”なのだった。

メイン・ストリームのニュース・メディア離れが顕著なアメリカでは、フェイスブックなどのソーシャル・メディア上にポストされるフェイク・ニュースを真に受けて、 大統領選挙で投票した人が多いことはアメリカでは周知の事実。 そんなフェイク・ニュースをリツイートする傾向は特にトランプ支持者に顕著であったけれど、 その内容は「300万人の不法移民が選挙で違法に投票した」という 根拠は無くても事実と紛らわしいものから、 「ヒラリー・クリントンは70年代にヨーコ・オノとレズビアンの関係にあった」 という明らかに馬鹿げたものまで様々。 でも前者は、先週日曜のドナルド・トランプの「不法移民さえ投票しなかったら、自分はポピュラー・ヴォートでヒラリー・クリントンに勝っていた」というツイートの インスピレーションとなり、後者は選挙キャンペーン中のスピーチの中で ドナルド・トランプがヒラリー・クリントンの不倫をほのめかしたネタになっていたのだった。

私はこうしたフェイク・ニュースがてっきりトランプ支持の極右派のグループによる発信かと思ってきたけれど、 実はその大半を発信していたのは、純粋に収入目当てのオンライン・オポチュニスト達。 ケーブル局HBOの報道番組では、そんなフェイク・ニュースの発信で知られるポール・ホーナーという人物と 覆面インタビューを行っていたけれど、 彼は「オバマ大統領がイスラム教で、しかもゲイであることを シークレット・サービスがもうすぐ出版される暴露本で明かした!」というような、 キャッチーでスキャンダラスなデマを流すことで知られる存在。
彼は毎日のようにフェイク・ニュースを書いては、トランプ支持グループに向けて発信しており、それはトランプ支持者の方が熱し易く、 実際にはあり得ない内容のスキャンダルにも直ぐに飛びついては 熱心にシェアやリツイートをするため。 またトランプ支持者の興味を煽るネタの方が簡単に書けて、ネタも豊富とのことで、ポール・ホーナー自身はトランプ支持者という訳ではないのだった。

今年だけでも彼の発信するニュースのうちの10本以上がソーシャル・メディア上でヴァイラルになっており、そのうちの1つは 「トランプに対する抗議活動をしている人々は、お金を支払われてやっているだけ。最高で3500ドルが支払われている」 というもの。 これにはトランプ支持の右翼メディアが飛びついただけでなく、 トランプの選挙キャンペーン・マネージャーまでもがリツイートしていたけれど、これがウソと分かる頃には 人々の関心が別のスキャンダルに移行するだけ。発信元が責められることは決して無いのだった。
ポール・ホーナーのフェイク・ニュースは、フェイスブックでのシェアが20万以上になることが珍しくないそうで、 彼が1日2~3時間をフェイク・ニュースの執筆に費やすことによって、自らのウェブサイトやフェイスブックのトラフィックによって彼に転がり込むのが多額の広告収入。 その彼のウェブサイトは、選挙後にグーグル、フェイスブックにより フェイクメディアとしてマークされたというけれど、彼は 複数のウェブサイトでフェイク・ニュースを発信しているので、そんなマーキングは痛くもかゆくもないと語っているのだった。

正直なところ、私はこのHBOの報道番組を見てからの方がフェイク・ニュースの発信に対して腹が立たなくなったのが実情。 その理由は、ポール・ホーナーがやっていることが 政治的な意図ではなく、 金銭的な利益を上げるために行われている 合法的なターゲット・マーケティングと判断されるため。
自分のターゲット層を理解して、そこから利益を得るための術を心得ているというのは 立派なビジネス・モデルであって、同様のことはフェイク・ニュース以外にも トレンドや人気プロダクトが生まれるプロセスでも行われているものなのだった。

したがって同じノンエリートであってもパーマネント・アンダークラスとポール・ホーナーのような オポチュニストとでは収入が違うだけでなく、人生へのアプローチも異なるもの。 パーマネント・アンダークラスは工場が閉鎖されれば職を失い、トランプのスピーチを聞いて憂さ晴らしをするのがせいぜいであるけれど、 オポチュニストは世の中の情勢を把握しているだけに、自分で自分の仕事や生活コントロールして生きていけるのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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