Sep. 4 〜 Sep. 10 2017

”This Will Be The New Normal”
メガ・ハリケーンはニュー・ノーマル、
それでも気象変動を信じないアメリカを待ち受けている悲運!?



今週のアメリカのメディア報道が集中していたのが、カリブ諸島、キューバを経由して週末にフロリダ半島全域を襲った 気象観測史上最大規模のハリケーン、アルマのニュース。 その前の週にテキサス州を襲い、全米第4の都市 ヒューストンに1500〜1800億ドル(16.5〜19.8兆円)の被害をもたらしたハリケーン・ハーヴィーの際にも ”史上最大規模”という表現が用いられていたけれど、今回のアルマは一部のエリアを襲う規模ではなく、フロリダ州全体より幅が広く、同州全域を通過した 文字通りのメガ・ハリケーン。メディアの中には、アルマというネーミングをもじって 「アルマゲドン」という見出しで報じるところもあったほど。
アルマは12年前にフロリダを襲った大規模なハリケーン、アンドリューの2倍の規模で、時速160マイル(256km)の風速を37時間以上キープした初めての大西洋上ハリケーン。 史上最高の650万人に対して避難命令が出され、ハリケーンが上陸する以前から6兆円の保険金が申請され、私がこのコラムを書いている日曜夜の時点で330万世帯が停電。 向こう数日〜数週間に渡ってその電力が戻らないほどの 大被害をもたらしているのだった。
フロリダ州南部の住人の多くは強制避難命令によって州北部に批難しているけれど、そうした人々は 道路と橋の安全が確認されるまで帰宅が許されない見込み。その一方でフロリダと言えば気候が良く、州に所得税を収める必要が無いため、 リタイアメント・コミュニティが非常に多い州。介護施設の多くは 避難が かえって老人たちに危険であることから、 避難命令が出ているエリアでも介護士、入所者共に施設に居残ったことが伝えられているのだった。 事実、過去の自然災害時における老人4万人を対象に行われた調査によれば、 避難をした老人の方が死亡の確率が2倍、その後入院を強いられる確率が4倍に増えたとのことで、 特にフロリダ州に240万人居ると言われるアルツハイマー患者には、避難が裏目に出るケースの方が多いことが指摘されているのだった。




私はマイアミに親友が暮らしているとあって、今回のハリケーンの上陸は自分の事のようにハラハラしながら見守ったけれど、 それというのもマイアミは既にシー・レベル(海面水位)の上昇により、ハリケーンが来なくても海水が街中に流れ込む ”サニーデイ・フロッド(晴れの日の洪水)”という 現象が起こっている街(写真上右)。 加えてプライベート・アイランドの邸宅を始め、多くの高級住宅街がウォーター・フロントにあり、 正面玄関が車寄せで、家の後ろ側が水路や海に面したボート寄せという家が非常に多いのだった。 このためハリケーンでシーレベルが90p上がった場合のマイアミの家屋の被害額は15.5兆円。180p上がった場合は60兆円と見積もられており、 今回のハリケーンでは直撃を逃れたとは言え、高潮で5フィートはシーレベルがアップすると見込まれているのだった。

専門家の間では 2050年までにマイアミの大半が海に沈むと予言する声も聞かれるだけに、 既に現地では6000億円を投じて堤防や道を海面水位より高くする工事や、ポンプによる海水の汲み出しシステムの導入が行われているけれど、 その費用を捻出しているのが、現在のマイアミの不動産ブーム。 近年ではテロや政情不安の影響で、ヨーロッパからのリッチな移民がマイアミに増えており、それに加えてサウス・アメリカやロシアからの 不動産投資のマグネットになって久しいのがマイアミで、現時点で開発段階の物件は約200軒。
前述のようにフロリダ州は所得税収が無いため 固定資産税が大きな税収減。 しかしながら今回のようなハリケーンが続いた場合、当然の事ながらその不動産の売れ行きだけでなく、不動産価値にも影響が出るため、 ハリケーンの被害以上の問題を懸念する状況になっているのだった。

また マイアミに限らず、 フロリダと言えば年間1億1200万人がヴァケーションに訪れる州。 その観光ビジネスは140万人の雇用を生み出しているだけに、ハリケーン後に危惧されるのは復旧までの間、 旅行者が激減すること。さらにフロリダはオレンジ、イチゴ、トマトなど年間1400億円分の農産物を生産している州。 それだけに同州の農作物被害が、野菜・果物の価格上昇を招く事が見込まれるのだった。




ニューヨーカーはフロリダに別荘やアパートを持っていたり、家族や親戚が暮らしているというケースが多いだけに、 ヒューストンを襲ったハーヴィーよりも、今週のアルマの方が上陸前から頻繁に話題に上る傾向にあったけれど、 そんなニューヨーカーの何人かが宣言していたのが、「フロリダ州知事が気象変動を認めるまで救済のための寄付はしない」ということ。
共和党のフロリダ州知事、リック・スコットは 気象変動を信じない政治家の筆頭で、州政府の文書に”気象変動”、”地球温暖化”という言葉の使用を禁止したほどの強硬派。 オバマ政権下では肩身が狭い思いをしていたものの、 トランプ政権が誕生してからは、気象変動を否定するトランプ氏の後押しを受けて勢いをつけてきた存在。 それだけに環境コンシャスな人々は彼を毛嫌いする傾向にあるのだった。

とは言っても2016年の大統領選挙でトランプ氏を支持したアメリカ国民の多くは気象変動を信じない人々。 複数のアンケート調査でも、国民の40〜50%が「信じない」と回答しているのが気象変動で、これは先進国の中では極めて高い数字。 そうなる要因は、かつてタバコ会社が 「タバコが健康を害する」、「肺がんの原因になる」という医療データを隠蔽したのと同じ手法で、 エクソンを始めとするエネルギー会社が科学者による気象変動を裏付けるデータを隠蔽する一方で、 メディアやシンクタンクを巧みに操作して、気象変動が報じられる度に「確証が無い」、「事実の裏付けが無い」という説を広めてきたため。 97%以上の科学者が気象変動を事実と認める中、ごく少数の科学者がこれに猛烈な反論を唱えるのは、 その研究がエネルギー会社の補助や寄付によって行われているからで、そのこじつけがまかり通ってしまうのがFOXニュースを始めとする共和党右派のメディア。
またエネルギー会社はかつてのタバコ会社同様に、政治家への献金とロビー活動で 政界をコントロールしており、過去20年ほどで政治家への献金が3倍以上、 ロビー活動に費やす資金が5倍に増えており、2015年だけで約150億円が気象変動否定のロビー活動に投じられているのだった。

さらに2016年の大統領選挙では、トランプ氏が「オバマ政権の環境政策がアメリカのビジネス競争力を低下させた」という説で 気象変動否定派を盛り立てたのは周知の事実。そのトランプ氏が経営するフロリダのマーラゴのカントリークラブのメンバーは、 エネルギー会社のエグゼクティブだらけであることは有名な話。 気象変動や地球温暖化を否定する政治家の多くは、事実を知りながらも 政治的な立場からそれを認める訳には行かないのが本音と指摘されるのだった。




アメリカでは8月にエクソン・モービル社が何年も前から、気象変動や地球温暖化が間違いなく起こっているという科学者からの警告を受けながらも、 そのデータを捻じ曲げて世の中に発表していたことが捜査の結果で明らかになっているけれど、その時代にエクソン・モービルのCEOを10年間務めてきたのが、トランプ政権下の 国務長官、レックス・ティラソン。 でもエネルギー会社が気象変動や地球温暖化を信じていないかと言えば そんなことはなくて、 1989年にはシェルが 業界で一早く海面水位の上昇に備えて石油掘削のプラットフォームの高さを上げており、ほどなくライバル企業が同じ措置を取っているとのこと。 すなわち、自社のビジネスに不利な情報は隠蔽しても、企業のリスクを回避するためには その情報を利用してきた訳で、多額の利益を上げている企業が ”決して馬鹿ではない” というのは環境保全派も認める事実なのだった。

その一方で、歴史的なハリケーンが2週間にアメリカを2回襲ったことで、科学者の間では「これが単なる偶然ではない」という声が聞かれるけれど、 そもそもハリケーンが発生するのは海水の温度上昇による空気中の水分増加が原因。 これまでは上空からの寒気がハリケーンの発生を防いだり、規模を縮小する役割を果たしてきたものの、 徐々にその寒気が減少しており、今後地球温暖化によって海水温度が上がり続けた場合にニュー・ノーマルとなるのが今年のようなハリケーン・シーズン。
ハリケーンだけでなく、アメリカ内陸部では竜巻のシーズンが早く始まり、その勢いが年々激しくなっているのはアメリカ国内では周知の事実。 西海岸、北西部では、毎年のように大々的な山火事が起こり、ハリケーン・ハーヴィーがヒューストンを襲っている最中にもアメリカ北西部の11州で合計74の山火事が起こっていたのだった。 もちろん山火事の規模が年々大きくなるのも、気温の上昇と干ばつで木々や空気が乾燥しているため。 そんな火責め、水責めの状況を受けて、FIMA(連邦緊急事態管理庁)は毎日10億円の予算を使っており、今回のアルマで更なる予算不足に陥るのは言うまでもないこと。 またFIMAは国民の洪水保険も引き受けており、ハーヴィー以前の段階で抱えていた洪水保険の負債額は2.4兆円。5年前にニューヨーク、ニュージャージーを襲った サンディの被害者への保険金支払いが未だに果たせていないのだった。

アメリカはそんな自然災害だけでなく、国内では健康保険問題、移民問題を抱え、国際的には終わりの見えないアフガニスタン戦争、北朝鮮情勢を抱えながらも、 トランプ政権は大幅減税と税制改革を約束している非現実的な状況。 トランプ氏のもう1つの選挙公約であるインフラ整備は、自然災害からの復旧に費用を取られるため更に難しくなっているのだった。
そのトランプ政権は、発足6か月で大統領の1年分の警備費用を使い果たしており、理由は大統領の家族が多過ぎるのに加えて、ティファニー・トランプが イタリア旅行をするなど、家族のメンバーがジェットセッターのライフスタイルを楽しんでいるため。毎週末トランプ氏が マーラゴやニュージャージーでゴルフを楽しむだけでも毎回3000万円以上のセキュリティ費用が生じており、ゴルフ中のトランプ氏の警備をするための ゴルフ・カートのレンタル代だけでも、700万円を超えていることがレポートされる有様。 すなわち、ありとあらゆることで予算不足に追い込まれているのが現在のアメリカで、特に自然災害は桁外れの損失と経済ダメージをもたらしているのだった。
最後にグローバル・ウォーミングで恩恵を受ける国もあって、その筆頭に挙げられるのがロシア。 シベリアでは過去数年の冬がどんどん暖冬になってきており、それまで農作物など育たなかった土地で農業が出来るようになってきたとのこと。 そしてこのことはロシア政府が2016年の大統領選挙で気象変動否定派のトランプ氏を後押しした理由の1つとまで言われるのだった。


執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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