Aug. 28 〜 Sep. 3 2017

”American Red Cross, Disaster Relief or Disaster Itself”
ハリケーン・ハーヴィ―で浮上したアメリカン・レッドクロス・バッシング


歴史的な大陸横断の皆既日食で自然の神秘を味わった翌週のアメリカを襲ったのが、テキサスに3回も上陸し、 気象観測史上最大の雨量をもたらしたハリケーン・ハーヴィー。
ハーヴィーが全米第4位の規模の都市、ヒューストンにもたらした雨量は1275oで、これはほぼ1年分の雨量に匹敵するものであると同時に、 オリンピック・サイズのプールを約3700万回以上満タンにする約25兆ガロンの水量。
現地ではハーヴィーが去ってからも洪水の危険があるため、今も3万2000人がシェルターに避難しており、 10万戸以上の家が床上浸水の大被害に見舞われ、そのうちの1部はこの先1カ月以上水に浸かったままになることが伝えられているのだった。 現時点で死者数は50人を超えているけれど、新たなリスクとなっているのは洪水のせいで電力を失った化学薬品工場で爆発事故が起こっていること。 ヒューストンには250の化学薬品工場があり、これらが扱っているのはプラスティックや塗料の生産に用いられる化学薬品。 こうした薬品は 常温で可燃性があるため 冷却施設で保管されているものの、ハリケーンで電力を失い、 バックアップの自家発電システムが稼働不可能となった複数の工場で爆発や火災が起こっており、 人体に有害と思しき化学薬品が消火と洪水の水に交じって住宅街にまで流れ込むことが懸念されているのだった。




ハーヴィーの被災地からは、現地の壮絶な被害の様子と共に、突然襲ってきた洪水で家や車の中に閉じ込められた人々を 救出する一般市民のボランティアの姿が報じられ、人々が助け合う姿が見られたものの、この状況に乗じた店舗荒らしや、 不足する飲料水や食料を巡って争う人々がいたのは これまで起こったありとあらゆる災害時同様の光景。
メディアでは、そんな被災地からの報道と同時に人々に寄付を呼び掛けるアナウンスメントが行われていたけれど そんな際に、真っ先に寄付の対象として名前が挙がるのがアメリカン・レッドクロス(米国赤十字)。 レッドクロスはどの国においても、NPOでありながら半官半民のような不思議な組織で、 今回のハリケーン・ハーヴィーの被災チャリティにおいても セレブリティが真っ先に数千万円〜1億円の多額の寄付を表明し、トランプ大統領までもが100万ドルの寄付を表明したのがレッドクロスなのだった。

ところが週の半ばになって、そのレッドクロスとのパートナーシップを事実上打ち切ったのがフェイスブック。 フェイスブックはこれまで自然災害などが起こる度に、寄付を希望する人々をレッドクロスに誘導し、 同オーガニゼーションの寄付金集めに最も貢献してきた企業。 ところがハリケーン・ハーヴィーの寄付については、Center for Disaster Philanthropy/災害慈善センターに誘導する措置を取っており、 フェイスブック側はこれについて何もコメントをしていないものの、レッドクロスの寄付金の使い方について同社内部で不信感が募っている様子が噂されていたのだった。
そうなってしまう最大の要因は、2010年にハイチで起こった大地震の際に、アメリカン・レッドクロスが4億8800万ドル(約5368億円)の寄付を集めながらも、 そのうちの4分の1以上に当たる1億2400万ドル(1364億円)を組織内の費用に充てたことが 昨年アメリカの上院議員によって明らかにされたため。 今週には様々なメディア&オンライン・メディアがレッドクロスのこれまでの活動についての 批判記事を掲載していたけれど、さらに事態を悪化させたのが 今週半ばにメディアに登場したレッドクロスのエグゼクティブが、 「寄付金のうちのどの程度が 実際にハリケーン・ハーヴィーの被災活動に使われるのか?」という質問に対して 明確な答えが出来なかったこと。 これを受けて、瞬く間にツイッター上でも「レッドクロスには寄付をしないように」という 何千ものツイートが溢れる結果となっているのだった。






とは言っても、レッドクロスに寄せられた寄付金の使途不明ぶりはハイチの大地震に限ったことではなく、9・11のテロの際には ニューヨークのセレブ・シェフ、デヴィッド・ブーレ―がグラウンド・ゼロで作業をする人々のために 仮設キッチンで腕を振るっており、表向きには彼のトライベッカのレストランが営業不可能なため、ボランティアで料理をしているように演出されていたのだった。 ところが後に、彼がレッドクロスに高額のフィーを支払われていたことが明らかになり、 この段階で地に落ちたのがデビッド・ブーレ―の評判。でもそうなった経緯は 当時のレッドクロスの女性プレジデントが この時点で未だ独身だったデヴィッド・ブーレ―と個人的に親しく、彼よりもっと安く料理をするシェフが居ることを承知で、 レッドクロスが集めた膨大な寄付金の一部が彼とそのスタッフの給与、彼が満足する食材に費やされ、 作業員に毎日サーヴィングされていたのがミシュラン・スター・シェフの”キュジーヌ”。お陰でデヴィッド・ブーレ―はレストランが閉店中でも利益を上げ、 スタッフをキープして給与を払い続けることが可能になっていたのだった。 ちなみにこの女性プレジデントは、テロの後に露呈した不祥事が原因で辞任に追いやられているけれど、当時の彼女の年収は 今から16年前のNPOの給与としては考えられない2億1000万円。 辞任の際にも、高額の退職手当を受け取っているのだった。

またハリケーン・サンディが2012年にニューヨークを襲った際にも、レッドクロスのエグゼクティブがファーストクラスのフライトでやってきて、 ファイブスター・ホテルに宿泊し、被害が激しかったブルックリンやクイーンズ、ニュージャージーを簡単に視察して、 全く被害が無かったマンハッタンのアッパー・イーストサイドのレストランでディナーをしていた様子は当時ニューヨークで大きな反感を買っていたもの。 でもレッドクロスのエグゼクティブにとってファーストクラスのフライト&ファイブスター・ホテルの宿泊は当たり前のことで、 この時が特別という訳では無かったのだった。

またレッドクロスが頻繁に批判されるのは、今回のハリケーン・ハーヴィーのような大災害で人々から多額の寄付金を集めておきながら、その使い道を明確にしないだけでなく、 別の災害に備えるという名目でそれを使い切らないこと。加えて本来レッドクロスが行っていると人々が思っているような作業を、 別のチャリティ機関などにアウトソーシングしているのがレッドクロスの実態で、それは責められるべきことではないけれど、 レッドクロスは何もせずにアウトソースした手数料はしっかり着服しているとのこと。 さらに安価で手に入るような被災地グッズも レッドクロスが手配すると何故か値段が跳ね上がるのも不信感が持たれる要因で、 9ドルのものが レッドクロスのサプライだと90ドルに跳ね上がって計算されているケースも過去に伝えられているのだった。




そんな批判を受けて、今週メディアに登場したレッドクロスのCEO兼プレジデント、ゲイル・マクガヴァン(写真上右)が、 「レッドクロスは1ドルの寄付当たり91セントを被災地での飲み水、食事、ブランケット、清掃のサプライに当てている」と 釈明したけれど、写真上左は2016年にルイジアナ州で起こった洪水の際に被災者に出されたフード。 これをソーシャル・メディア上で批判されたレッドクロスは、「食事の準備の際に生じたエラーのせいで、 ポーションが小さくなった」と事情を説明したけれど、理由はどうあれ寄付金が有効に活用されているとは思えない様子を露呈しているのだった。
その一方で、レッドクロスはNP0にも関わらず その年間収益は26億ドル(約2860億円)で大企業並み。 しかも現場スタッフの多くはボランティアで賄われているので、人件費が極めて安価な組織。その役員には、 アップル・ペイの副社長やマスターカードのCEO、USバンコープのチェアマンなどが名前を連ね、 寄付金が流れ込む経路をしっかり押さえているのだった。

今回のハリケーン・ハーヴィーがもたらした被害と経済的なダメージの総額はアメリカの自然災害史上最悪の1600億ドル(約17兆6000億円)とも 1900億ドル(約20兆900億円)とも言われるけれど、現地で被害に見舞われた住宅のうち、洪水の保険に入っているのは6軒に1軒の割合。 今回のバーヴィーでは多くの民家が腰まで水に浸かる被害となり、中には2階にまで浸水した家屋もあったけれど、 洪水に見舞われた場合、小規模な民家で浸水1インチ(約2.5p)毎の被害額は約220万円。これは家屋の被害額で、家具や家電製品、衣類などの 被害額は含まれていないのだった。
そのため保険に入ってなかった人々は「全てを失った」と絶望感を隠せない様子を見せていたけれど、保険に入っていたとしても安心出来ないのは、 5年前にハリケーン・サンディの被害を受けたニューヨーク、ニュージャージーの人々が、 今もその保険金の支給を待っているという厳しい現実。

このように家や家財道具も含めて全てを失ってしまった人々にとっては一時的に水や食料、毛布などが支給されたところで これからの生活はどうにもならないもの。 2005年にハリケーン・カトリーナがルイジアナ州を襲った際にも、政府や地方自治体に見放され、レッドクロスからの恩恵など殆ど受けなかったたニューオリンズ第9区に、 その後10年間に109の住宅を建設したのは 他ならぬブラッド・ピットと彼の設立した慈善団体「Make It Right / メイク・イット・ライト」。ハリケーンの翌年、2006年にニューオリンズを訪れて、全く手つかずになっていた第9区の様子に ショックを受けた彼が、助成金と彼の名前で集めた寄付で、家のデザインから建築のプロセスまでを行う組織として設立&運営したのがメイク・イット・ライト・ファンデーション。 ブラッド・ピットは自らこのプロジェクトに着手するためにニューオリンズのフレンチ・クォーターに家を購入したほど。
そんな前例を考えると レッドクロスによって寄付金1ドルにつき91セントが災害直後の水、食料、毛布等に使われたとしても、 最も困っている人々には何の助けにもならないのは明らかなのだった。


執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

Shopping
home
jewelry beauty health apparel rodan

PAGE TOP