Aug. 21 〜 Aug. 27 2017

”Taylor Swift's Marketing Method”
リベンジ & タイアップ、 テイラー・スウィフトのマーケティング・メソッド


今週のアメリカは様々なウォッチ・パーティー三昧であったけれど、その幕開けは月曜の歴史的なアメリカ大陸横断の皆既日食。
全米が麻痺状態になった日食の翌日に報じられたのは、その日食のせいで人々が見なかったもの。 それが何かと言えばインターネット・ポルノで、完璧な皆既日食が見られたオレゴン、サウスキャロライナ、テネシー州では、 その時間帯にアダルト・サイトへのアクセスが軒並み40%前後ダウン。 皆既日食のルートから外れたニューヨークやシカゴ、ロサンジェルスでは10〜15%程度のダウンであったという。

今週次に全米でウォッチ・パーティーが行われたのは、土曜日のフロイド・メイウェザーVS.コーナー・マクレガーの”世紀のマッチ”の際。 この試合を最後に フロイド・メイウェザーが50戦全勝の記録でリタイアすると言われていただけに、ラスヴェガスの会場には多くのセレブリティが 姿を見せていたけれど、自宅のTVでこの試合を見守った人々が支払ったPPV(ペイ・パー・ヴュー)の料金は99.95ドル。 その申込件数は約500万で新記録と言われるけれど、ニューヨークでもスポーツ・バーやラウンジが30〜50ドルのカバー・チャージでウォッチ・パーティーをホストしていたのだった。
現地のラスヴェガスでは、この世紀のマッチが当然のことながらギャンブルの対象になっていたけれど、 結果は誰もが予想した通りフロイド・メイウェザーの勝利。 このように予測が簡単だとギャンブルのスリルも無ければ、カジノの収益も落ちるので、 近年増えてきているのが 試合結果だけでなく、「試合前にアメリカ国歌を斉唱するデミ・ラヴァートが、通常の国歌斉唱時間の1分54秒以内で歌い終えるか?」、 「試合中にトランプ大統領が何回ツイートをするか?」といった 試合とはさほど関係ない どうでも良い事の賭け。 こうした賭けはProp Bets / プロップ・ベッツと呼ばれ、掛け金も低額であるものの、 カジノ側に年間に10億ドル以上の収入をにもたらすドル箱ビジネスになっているのだった。

さらに私がこのコラムを書いている今日、日曜には 毎週のように視聴率記録を更新し続けている HBOの「ゲーム・オブ・スローンズ」のシーズン7がファイナル・エピソードを迎えるので、やはり全米各地で ウォッチ・パーティーが行われているけれど、奇しくも 話題のボクシング・マッチと「ゲーム・オブ・スローンズ」は、共にその放映中にアダルト・サイトへの アクセスがダウンすると言うデータが出ているもの。 したがって今週は、アダルト・サイトのビジネスにとって好ましくないイベントが続いた週と言えるのだった。




その一方で、水曜に行われたアメリカの宝くじ”パワーボール”では、 マサチューセッツ州の女性が アメリカの史上最高の7億5870万ドル(約8346億円)の賞金を獲得。 この女性は1回払いを希望したため、賞金額は税引き後で3億3600万ドル(約370億円)となっているのだった。 パワーボールで5つの番号とパワーボール・ナンバーを当てる ”ジャックポット” が出る確率は2億2920万分の1。落雷に2回遭う可能性の方が高いとのこと。
この賞金によって、女性は一夜にして個人資産2億8000万ドル(約3080億円)のテイラー・スウィフトよりリッチになってしまった訳だけれど、 女性が賞金の小切手を受け取った数時間後、8月24日の深夜にリリースされたのがテイラー・スウィフトの新曲「Look What You Made Me Do」。 この曲のビデオは、今日放映されたMTVのビデオ・ミュージック・アワードでデビューした直後から、YouTubeで公開されたけれど、 それを待たずして公開された リリック・ビデオ(歌詞だけをフィーチャーしたビデオ)は金曜1日だけで1900万のビューイングを記録し、YouTubeの1日の最高記録を更新。 ミュージック・ストリーミングのスポルティファイでも金曜1日だけで同楽曲が800万回ストリーミングされ、やはり新記録を達成。
ニュー・アルバム「レピュテーション」の発売は11月10日であるものの、音楽業界では早くも同アルバムが アデルの「25」同様、 発売当日に50万枚を売り上げるであろうと予測しているのだった。

しかしながら「Look What You Made Me Do」がリリースされた直後のソーシャル・メディア上でのファンのリアクションは賛否両論で、それというのも 歌詞の内容がネガティブでダークであるため。 加えて音楽自体も カントリー・シンガーとしてデビューしたテイラーの面影が全く感じられないもので、 一時は前アルバム「1989」でポップ・シンガーに転向した彼女が、ニュー・アルバムでカントリーに復帰するという噂が流れていたけれど、 このニュー・シングルのトラックとモノクロのハードなアルバム・イメージで その噂はすっかり払拭されているのだった。




今週のシングル・リリース、11月のアルバム・リリース、そしてその後に控えているワールド・ツアーに向けて 完璧主義者で知られるテイラーが綿密に行ってきたのがそのマーケティング戦略。
2014年のアルバム「1989」リリース以来のテイラーは、スクワッドとネーミングされるセレブリティのお取り巻き軍団と共に 事あるごとにパブリシティを提供。 加えてセレブDJのカルバン・ハリス、俳優トム・ヒドルストンとのロマンスと別離でもゴシップ・メディアを賑わせ、 「オーバー・エクスポーズ=メディアへの出過ぎ」が指摘されていた状態。
ところが昨年末からのテイラーは、一切公の場に姿を見せなくなっており、 かつてはパパラッツィに撮影の機会を与えていたニューヨークのトライベッカの自宅前でも フードで顔を隠して、まるで犯罪者のようにカメラを避けて車に乗り込んおり、8月にコロラド州デンバーの裁判所で行われた ラジオのDJによるテイラーに対する痴漢行為裁判の際にも、法廷には裏口から出入りして一度もメディアにスナップされることが無かったのだった。

その後8月18日には彼女のタンブラー、ツイッター、2015年以降のフェイスブック・ポスト、インスタグラムのアカウントが全て消去されて、 ファンがパニック状態になったけれど、程なく彼女のソーシャル・メディアにポストされたのが意味不明なスネークのビデオで、 これによってメディアとファンの間で高まったのがニューアルバム発表間近の期待感。 そして8月23日水曜に発表されたのがニュー・シングル&アルバムの発売予告とニュー・アルバムのジャケット・イメージ。
この発表は 奇しくも彼女のライバルで、過去数年不仲が続いてきたケイティ・ペリーのニュー・シングル&ビデオ・リリースと重なっており、 メディアからはケイティに対する妨害工作と指摘されていたけれど、事実 少なからず影響を受けたのがケイティ・ペリーのニュー・シングルで、 テイラーへの敵対メッセージが込められていると言われる「スウィッシュ・スウィッシュ」。
このためメディアではテイラーの新曲が「ケイティ・ペリーへの敵対心を表現したもの」という憶測が飛び交っていたものの、 蓋を開けてみれば「Look What You Made Me Do」の歌詞でリベンジが謳われていたのは、 テイラーのもう1人の宿敵で、一度は仲直りをしたこともあるカニエ・ウエストと 妻のキム・カダーシアン。 カニエ・ウエストと言えば、2009年のMTVのビデオ・ミュージック・アワードで、テイラーがベスト・ビデオを受賞したスピーチの最中に 彼女からマイクを奪って 「ビヨンセがベスト・ビデオだ」と発言して大顰蹙を買ったのはあまりに有名なエピソード(写真上左)。 2015年に2人は和解したものの、カニエ・ウエストがその後リリースしたヒット曲「フェイマス」に、テイラーが事前に合意した内容とな異なる歌詞で 彼女のことをフィーチャーしたことから 再び不仲になったのが2人。その状況を受けて、 カニエとテイラーが電話で歌詞の打ち合わせをしている様子を録音したテープを キム・カダーシアンが勝手にメディアに公開したことから、さらに事態が悪化しているのだった。
ちなみに相手の承諾を得ずに録音した会話を公開するのはアメリカでは違法行為。このため一時テイラーの弁護士は、 カニエ・ウエスト&キム・カダーシアンを相手取って訴訟を起こす用意があるとコメントしていたほど。

今日、MTVのビデオ・ミュージック・アワードでデビューした「Look What You Made Me Do」のビデオ(以下)では、2016年にパリのホテルで 高額ジュエリーの強盗被害にあったキム・カダーシアンをイメージさせるシーンや、カニエ・ウエストのファッション・ブランド、”イージー”のファッション・ショーを彷彿させるような モデル達が同じ服装で並んだシーンが登場。加えてテイラーが ビヨンセを真似たようなダンス・シーンを見せ、 エンディングでは2009年のMTVのビデオ・ミュージック・アワードでカニエ・ウエストにスピーチを遮られた時のテイラーが現れるなど、 ポップカルチャーをフォローしていれば テイラーのファンでなくても理解できるリベンジの含みが ビデオの随所に盛り込まれているのだった。






今週のアメリカの芸能メディアは、テイラー・スウィフトのリベンジ・マーケティングにすっかり乗せられて、 ビデオにフィーチャーされていたスネークの意味合いから、アルバム・ジャケットに込められたメッセージにまで憶測を巡らせて、 テイラー側が計画した通りの多大なパブリシティをもたらしていたけれど、 それ以外にもテイラーは 新曲&ニュー・アルバム発表にあたって、いくつかの商業的なタイアップをしていて、そのうちの1つがUPS。 インターネット上で既に公開されているTVCMにはテイラー本人が出演。全米に10万台以上走っているUPSのトラックには 「レピュテーション」のアルバム・イメージがフィーチャーされ、広告ビルボードの役割を果たしているのだった(写真下)。
またABCTVは 秋からのドラマのラインナップのCMに「Look What You Made Me Do」をフィーチャー。 その一方でテイラー自身のウェブサイトでは、ビデオやPRフォトでテイラーがつけているスネーク・モチーフのリングを含む 新しいテイラー・グッズの販売がスタートしていたけれど、 ファンの中で最も物議を醸していたのは、チケット・マスターとのタイアップ。

昨今のアメリカでは、テイラーのような人気アーティストのコンサート・チケットが売り出される度に、あっという間に業者が買い取り、 それに高額の利益を乗せて再販するのが常。それを防ぐ手立てとしてチケットマスターとのタイアップで導入したのが、 ファンがテイラーのウェブサイトを通じてアルバムを購入したり、ビデオを観たり、商品を購入する度にポイントが加算され、 そのポイントが多いファンほど、アルバム発売後にスタートするコンサート・ツアー・チケット購入の際に優先されるというシステム。 テイラー側としては ロイヤリティの高いファンを優遇する手段として導入したシステムであるものの、 ファンにとっては「コンサート・チケットを手に入れたかったら、日頃からテイラー・グッズを購入するように」と強制されているように受け取れたようで、 ソーシャル・メディア上ではかなりの物議をかもしていたのだった。

全体的に今回のテイラー・スウィフトのニュー・シングル&アルバム発表のマーケティングは、ソーシャル・メディアを上手く利用して、 発信のタイミングから、商業的効果までもが緻密にデザインされているという印象であるけれど、 テイラーが打ち出した新しいダークでエッジーなイメージに対する従来のファンのリアクションまではコントロール出来ないのが実際のところ。 スウィフティーズと呼ばれる熱心なファンの間でさえ、楽曲からビデオ、グッズ、CM出演など、全てにおいて 賛否両論の意見が巻き起こっているのは珍しいことで、それは十分に納得できる状況なのだった。



執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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