Aug 11 〜 Aug. 17 2008
” アジア人、吊り目の屈辱? ”
今週のアメリカのメディアは、北京オリンピックで 1大会最高の8つのゴールド・メダルを獲得したマイケル・フェルプスの
報道 一辺倒という感じであったけれど、アメリカではマイケルと 共にすっかり にわかセレブリティになってしまったのが、
シングル・マザーとしてADHD(注意欠陥・多動性障害)と診断された息子を 史上最強のオリンピアンに育て上げたデビー・フェルプス。
マイケル・フェルプスに限らず、アメリカのオリンピアン達の報道に必ず登場するのが 家族達のサポートぶりであるけれど、
実際、今回のアメリカ選手団には 20人もの ”ママさんアスリート” が含まれているという。
なので やはりアメリカは スポーツの世界でも 女性がキャリアを追求し易い状況が整っているのかもしれない・・・と感じさせられてしまったのだった。
アメリカでは、マイケル・フェルプスと同時に大きく報じられていたのが 41歳にして史上最年長の水泳メダリストとなったダラ・トレス(写真右)で、
今回のオリンピックは彼女にとって5度目であるものの、アテネ・オリンピックの際には年齢のせいでリタイア扱いされて 選考対象にもならなかったのが彼女。
ところが2005年の妊娠中から週3〜4回のペースで泳ぎ始めた彼女は 再び水泳への情熱が目覚めてしまい、
2006年には競技タイムで泳ぐようになっていたという。そして今年6月に史上最年長のオリンピック・スイマーに選ばれたのは、
アメリカ国内では大きく報じられたこと。
現地時間の日曜に行われた50メートル・フリースタイルでは、
自分の娘でも不思議ではない年齢の選手達を相手に、100分の1秒差で金メダルを逃して、シルバー・メダルを獲得。
またその後のリレーでアメリカ・チームのアンカーを努めた彼女は、やはりアメリカ・チームをシルバーメダルに導いている。
そんな彼女が掲げていた「夢の実現に年齢制限は無い!」というメッセージは、30歳アップのアメリカ人には非常に大きくアピールすると同時に、
多大なインスピレーションを与えていることが指摘されており、今回のオリンピックではマイケル・フェルプスに続く 報道時間を獲得しているのだった。
さて今回、金メダルの獲得数ではアメリカに勝っている中国であるけれど、中国は幼い頃からの英才教育が実を結んでいる
一方で、規定年齢に達しているかが疑わしいと問題視されている女子体操選手の多くは、自分の親が試合を観戦に来ているかも知らなかったり、
親が生活援助を受けるために 無理やり体操を続けさせる といったあまり幸せそうではないストーリーが報じられていたりする。
また英才教育を受けながらも怪我で選手生命を絶たれた アスリートが、今は田舎で貧しい暮らしを強いられて 「若い時期を台無しにされた」と
語っている様子なども今週のNBCの報道番組でレポートされていたのだった。
その年齢を偽っていることが指摘されている中国の女子体操選手であるけれど、普通のスポーツであれば オリンピックの規定年齢である16歳の
選手の方が 彼女らの本当の年齢といわれる14歳のアスリートよりも勝っていてしかるべきもの。
でも女子体操に関しては、年齢と共に知能が発達すればするほど恐怖心が強くなって、それがパフォーマンスの妨げになることが指摘されている一方で、
平均台を始め、身体が小さい方が有利な種目が多いと言われるのだった。
唯一、身長が小さいと不利な種目は 段違い平行棒で、棒の間を飛び移る際に 身体が小さいとその分ミスが起こる危険が高まるとのことであった。
ところで、今週のアメリカではオリンピック絡みでありながら、競技とは直接は無関係の2つのスキャンダルが大きな話題になっていたのだった。
そのうちの1つは、開会式で唯一のソロ・パフォーマーとして歌唱を行った9歳の少女、リン・ミョーク(写真左、右側)が 「リップ・シンキング」(録音に合わせて口だけを動かすこと)
をしており、実際にこの時の歌唱は7歳のヤン・ペイー(写真左、左側)によって行われていたというもの。
そして そんなややこしい小細工をした理由というのが 「リン・ミョークは顔は可愛くても歌が下手で、ヤン・ペイーは歌は上手くても 顔が可愛くない」
と判断されたというもので、 このことはニューヨーク・タイムズが水曜の第1面で伝えた他、アメリカの多くのメディアが大きく報じていたのだった。
でもオリンピックの開会式でのリップ・シンキングと言えば、前回の冬季トリノ大会でも 故ルチアーノ・パバロッティが 録音に合わせて
実際に歌っているかのように見せるパフォーマンスをして 後に批判されていたけれど、
パバロッティの場合、録音の歌声と 口を動かしている人間が一致しているという点が今回のケースより ずっとマシだと見なされるポイント。
リン・ミョークとヤン・ペイーの場合、2人の子供の美味しい所を取って、1人のパフォーマンスに見せかけようとしたことが
モラルに厳しい 西側メディアの反感を買ったのが実情である。
2つめのスキャンダルは、今週のインターネット上で大論議を醸すことになった 写真上左側のスペイン・バスケットボール・ティームの
広告写真。
これはスペインで最も発行部数の多いラ・マルカ紙に掲載されたもので、チーム全員が アジア人をからかう時にする典型的なジェスチャーである
目尻を引っ張って、細い吊り目にする ”Slant Eye / スラント・アイ” で写真に納まっているもの。
このジェスチャーは、まともな人種意識がある人にとっては明らかに ”レイシズム” と取れるもので、
アジア人(もしくはそのルックス)を馬鹿にする行為。
まずはインターネット上で広まりだしたこの写真であるけれど イギリスのメディアが報じたのを皮切りに、アメリカ、カナダ等諸外国のメディアが
レポートしたために、オリンピック委員会さえも 「不適切な写真」 という見解を明らかすることになったのだった。
写真に写っている一部のスペインのプレーヤーは、「こんなポーズをするのは気が引けた」として謝罪しているけれど、
スペインのNBAに当たるバスケットボール・アソシエーションは この写真掲載を許可したことに対する謝罪を拒否しており、
プレーヤーの何人かも、「アジアのカルチャーに敬意を表したユーモア。アジア人を傷付ける意図など無い」
として写真を正当化するコメントしたために、この件は 今週、多数のインターネット・サイト上で 何百もの書き込みが寄せられる トピックになっている。
さらに、この写真が出回った数日後には スペインの女子テニス・チームが、今年4月のフェデレーション・カップで中国チームに勝利した後、
同じポーズで記念撮影をしていた写真(写真上右側)が公開され、スペインにおけるアジア人蔑視の根深さを印象付ける結果になっている。
スペインといえば、フランスの黒人サッカー・スター、ティエリー・ヘンリーに対して ”モンキー”と大合唱をするなど、
スポーツ界でのレイシズムが以前から指摘されていた国。
一部には この写真が 2016年大会の開催地候補として名乗りを上げているマドリッドの オリンピック誘致に悪影響を与えるという声も
聞かれているけれど、インターネット上に溢れているのが、スペインのバスケットボール・チームに対する非難と
現在、ワールド・チャンピオンである彼らに 決して ゴールド・メダルを取らせるべきではないという声。
スラント・アイのジェスチャーでルックスをからかわれるのは、アメリカやスペインだけでなく、西洋諸国で育ったアジア人だったら
誰もが経験していると言われるもの。 「6歳の子供ならまだしも、大の大人が 人種的インパクトも考えずに こんな子供染みた行為するなんて・・・」というのが
ネット上の多くの意見であるけれど、私もそれには全く同感なのだった。
私は大人になってから ニューヨークに来たので アジア人のマイノリティとして アメリカで育つのがどういう感じであるかは分らないけれど、
TV番組などで、アメリカ人の子供が、横に引っ張った細目をタレ目にして「ジャパニーズ」、吊り目にして「チャイニーズ」といって
アジア人の子供をからかうシーンが出てきたりすると、未だレイシズムという意識が薄い子供がそうやって異人種をからかうのは
仕方ないとは思うけれど、 見ていて 決して気分が良い光景ではないもの。
でも 、アジア人の細い目は特に女性の間ではかなりのルックス・コンプレックスになっているのは事実で
日本でも 多くの若い女性が目の両端を僅かにカットして 目を見開かせる施術をしていると言われるし、
韓国や中国でも二重瞼に整形する女性が多いと伝えられて久しい昨今。
今週NBCで特集されていた中国人のオリンピック・チアリーダーの中にも、不自然な二重瞼の女性が何人も居たのが非常に印象に残っていたりする。
なので、スラント・アイのジェスチャーはアジア人の外見的特徴であるだけでなく、コンプレックスでもあるのも否定できないもので、
そんな痛い部分を突かれている感じがするだけに、アジア人としては益々面白くない気分がするのである。
インターネット上では、スペイン・チームのジェスチャーを アジア人を真似た”キュート”な行為だと弁護する声も聞かれていて、
アジア人を傷付ける意図が無いのだから、謝罪の必要も無いという、スペイン側と同様の意見も聞かれていたけれど、
私がアメリカに来て人種差別について学んだことの1つが、レイシスト(人種差別主義者)であればあるほど、
「異人種を差別(侮辱)している意識が薄い、もしくは無い」 という点。
そういう人種意識のセンシティビティが欠落しているから、どんなに有能なサッカー選手でも 黒人であるだけで「モンキー」などと
ののしってしまうわけで、人種差別を理解している人から見ると 胸が痛くなるようなことを 平気でやってのけてしまうのである。
ニューヨーク・タイムズ紙は、スペインのバスケットボール・チームの写真について、
アジア人をからかうようなジェスチャーもさることながら、それについてきちんとした説明や謝罪がなされなかったことの方を
問題視する記事を掲載していたけれど、
バスケット・チームと言い、テニス・チームと言い、今週物議を醸した2枚の写真が アジア人の間でのスペインのイメージを大きく落としたのは
確実と言えるのである。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に
ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。
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