July 31 〜 Aug. 6 2017

”Hacked Your Body To Be A Cyborg ”
人間がサイボーグになるためのボディ・ハッキング


今週のアメリカでは水曜にダウ平均株価が初めて2万2000ドル台をつけたことが大きく報じられていたけれど、 同じ水曜日にオレゴン・ヘルス・アンド・サイエンス・ユニヴァーシティが発表したのが受精卵の段階で心臓病の遺伝子を健康な遺伝子に転換させることに成功したというニュース。 同じテクノロジーを用いれば遺伝性の他の病も受精卵の段階で防ぐことが出来るとのことで、 メディカル・サイエンスが大きく一歩進化したことをアピールしていたけれど 同時に医学界から聞かれていたのがそのテクノロジーを懸念する声。
その懸念とは 遺伝子操作によって やがては 親の好みで性別の産み分けだけでなく、目や髪の毛の色、特定の能力などを 受精卵の段階で自在にデザイン出来てしまう、俗に ”デザイナーズ・ベイビー” と呼ばれる状況。 すなわちGMOで冷害や害虫に強く、早く育つ野菜や穀物をクリエイトするのと全く同じ状況が 人間で行われることが危険視されているのだった。
近年の乳幼児のがんを含む、子供達の心身の健康問題が国家予算の大きな負担になりつつある状況から、 ジェネティック・エンジニアリングの実用化は時間の問題と指摘され、それがエスカレートしても不思議ではないだけに、 各界の専門家は 先進諸国が早急に受精卵の遺伝子操作についての法律をきちんと制定すべきであると警告しているのだった。




その一方で、先週に報じられたのが、ウィスコンシン州のスリー・スクエア・マーケット社がアメリカ企業として初めて 従業員のボランティアにマイクロチップの埋め込みを行ったというニュース。
このマイクロチップは手に埋め込む ごく小さなもので(写真上)、インプラントの所要時間は30秒程度。 埋め込む場所は親指と人差し指の間で、インプラントの痛みは全くないとのこと。 このマイクロチップが何をするかと言えば、鍵を使わずに扉のロックの開け閉めを行ったり、 社内の自動販売機でお金を入れなくてもスナックやソーダが買えたり、コンピューターやコピー・マシンなど これまでパスワードやIDカードでアンロックしていたものが それら無しで使用できる等、数々の業務上の手間を省くメリットをもたらすもの。 スリー・スクエア・マーケット社側は、従業員のプライバシーを侵害するようなGPSなどのテクノロジーはマイクロチップに含まれていないとしており、 既に50人のスタッフがインプラントを行ったことが伝えられているのだった。

同様のチップは、ヨーロッパでは遥かに普及していて、スウェーデンでは電車の運賃の支払いが 手に埋め込まれたチップで行われている状況。実際スリー・スクエア・マーケット社のチップ埋め込みプログラムもスウェーデンの企業、 バイオハックス・インターナショナルと提携したもの。
アメリカでこのテクノロジーの普及が遅れている理由の1つは、 インプラントしたチップから企業側が従業員の健康状態を含む個人情報を 入手する可能性が危惧されるためで、特に雇用主が社員の健康状態を把握することは、 企業が負担する健康保険料を節約する目的に使用される可能性が危惧されて久しい状況なのだった。




でもアメリカでは、企業によるチップのインプラントは立ち遅れていても、ミレニアル世代を中心に 自らブルートゥースやマグネットをインプラントするボディ・ハッキングが既にちょっとしたバズをクリエイトしている状況。
個人で行っているインプラントの場合、メジャー企業とタイアップしている訳ではないので、その目的は殆どの一般人が 価値を見出さないものが多く 世界中で起こっている地震をバイブレーションで体感するためであったり、 地面の下に埋まっているジェネレーター等の存在を察知することが出来るなど。 それでも自分の目で見えるもの以外を感じたり、察知するのを好むミレニアル世代は、そんなボディ・ハッキングで埋め込んだテクノロジーによって 自分にスーパーパワーが備わったような感覚を楽しむ傾向にあるのだった。

事実、メディアでは200年以内に人間がテクノロジーを体内に取り入れ、サイボーグ化するという見解が一般的で、 裕福な人々ほど最先端のテクノロジーを体内に導入できると言われるのが現在。 中には「人類の未来の姿はエリート・サイボーグである」と予言する声も聞かれており、 テスラやスペースXで知られるイーロン・マスクも、今年2月に「人類が生き延びるためには、ある種のサイボーグになる必要がある」 とコメントしているのだった。




とはいっても、人間が未来のエリート・サイボーグなるのがそう簡単ではないことを印象付けたのが 今週報じられた フェイスブックがチャット用に開発したロボット・プロジェクトを閉鎖したというニュース。 その理由はAI同士がアルゴリズムを使って、人間に読解できない言語を生み出してコミュニケートをし始めたため。
すなわちAIの言語発達能力が人間を上回った訳で、AIはチェスに始まり、ありとあらゆる知的ゲームで人間に勝る能力を見せているのは周知の事実。 このため20年も経たないうちに企業CEOのポジションをAIが取って代わるとさえ言われるのだった。

こうした予測を聞いていると、映画「2001年宇宙の旅」(写真上左)や「ブレードランナー」を思い出すけれど、 特にスタンリー・キューブリック監督の「2001年宇宙の旅」は今からほぼ50年前の1968年に公開された作品ながら、 その20年後のNASAの宇宙船デザインの叩き台になるなど、歴史上最もハリウッド映画とスペース・テクノロジーに多大な影響を与えたと言われる作品。 その中に登場するAIの ”HAL/ハル” が意思を持ち始めて人間の脅威となるシナリオは、 未だにサイエンス・フィクションのメイン・ストリームなのだった。
私が初めて「2001年宇宙の旅」を観たのは高校時代で、「何て退屈で難解な映画」と思ったのを覚えているけれど、 この映画の世の中への影響力を強く実感するようになったのはアメリカに住み始めてから。 同作品に登場するAIのハルの製作に協力したのはIBM。でも1960年代は 未だハリウッド映画の中に特定の企業名を出すような時代ではなかったため、IBMをアルファベットで一文字ずつ前倒しにしたHALがAIのネーミングになったのは 映画ファンの間では知られているエピソード。 このネーミングは当時のIBMとキューブリック監督にとっては、ウィットを感じさせるシークレット・コードだった訳だけれど、 今やAIは かつてマシンではもたらせなかったウィットのようなものまで 人間が考え付く以上のバラエティを擁しているもの。
アマゾン・エコーのアレクサにしても、アメリカ人の会話に頻繁に登場する映画の有名な台詞で話しかけると、 そのシーンの台詞で返してくるウィットのデータがしっかりプログラミングされているのだった。


執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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