June 18 〜 June 25 2018

”Not Just Political, Now It's Personal”
不法移民ポリシーを巡って、
収拾不可能なレベルに更に深まったアメリカの亀裂



国民が1つになってワールドカップを観戦する国々とは正反対に、不法移民の親子引き離し政策が 政治議論を通り越して、過去にないほどに国民を分断する感情レベルの争いに達していたのが今週のアメリカ。
この問題に対する抗議が激化するきっかけとなったのが、 移民対策を行うホームランド・セキュリティが 不法移民収容施設のメディアによる撮影を許可しない代わりに 自ら公開した映像と画像。 それに捉えられていたのは、幼い児童を含む不法移民の子供達がまるで動物のように金網の檻に収容され、 マラソンランナーにゴール地点で渡されるアルミホイルのようなマイラー・ブランケットを掛けて床で眠らなければならない状況。 ケーブル局のニュースキャスターの中には この様子を説明しながら涙で声を詰まらせたケースもあり、 それとは別にメディアで公開された親を求めて泣く子供の声にいたたまれない思いを強いられたアメリカ国民の怒りが トランプ政権の移民政策に向けられたのが今週。
トランプ氏はこの撤回を切り札に、民主党を譲歩させてメキシコとの国境に壁を築く予算の獲得を狙っていたと言われるものの、 政治的なダメージがあまりに拡大していったことから、 遂に6月20日に親子引き離しを止めさせる大統領令に署名することになったのだった。






トランプ政権が厳しい移民政策を打ち出して以来、5月5日〜6月9日の約1カ月間に親から引き離された不法移民の子供の数は2,300人。 その子供達は既に17の州の100の収容所に送られ、ホームランド・セキュリティ側は「記録を残している」と主張するものの、 関係者は一度他州に送られた子供達を親に再開させるのが極めて難しいと証言しているのが実情。 大統領令が発令される前の段階で、デルタを含む複数の航空会社がホームランド・セキュリティに対して「不法移民の移送を 人道的な立場から断る」という通達をしていた事が明らかになっているけれど、親子引き離し政策は何の準備や計画も無しに実施されただけに、 いきなり不法移民の子供達をシェルターに送り込まれた地方自治体も混乱を極めている状況なのだった。
そんな中、トランプ大統領は政治的なダメージ・コントロールのために不法移民に殺害された子供の親達を遊説先に招き、 「この親達は、不法移民のせいで子供達と永遠に引き裂かれることになった」とスピーチ。しかしながら 檀上に上がった親達が持っていた殺害された子供の写真に 全てトランプ氏が大きくサインをしていたことから、アンチ・トランプ派はそんなトランプ氏の不謹慎なナルシズムとグルーピーまがいの親達に対する批判を展開していたのだった。

でも今週それを上回る大批判を受けたのがメラニア夫人。夫人は夫への批判を避けながら 親子引き離し政策に反対するツイートを先週末に行っていたけれど、 今週その移民の子供をサプライズ訪問した際に夫人が着用していたのが ZARAの39ドルのジャケット。 人々が眉を吊り上げたのは その背中に書かれていた「I REALLY DON'T CARE, DO U? 」のメッセージ。 その火に油を注ぐかのように、ホワイトハウスのスポークスマンが「夫人のジャケットには、隠されたメッセージなど無い」とコメントを発表したことから、 いよいよアメリカ国民はメラニア夫人の背中に書かれたメッセージを文字通りに受け止める結果になったのだった。
これほどまでにメラニア夫人のファッションに注目が集まったのは、ヒューストンの洪水被害者を見舞う際にマノーロのハイヒールを履いて出掛けて以来であるけれど、 ミッシェル・オバマ夫人とは異なり 何を着用してもトレンドを生み出さなかったメラニア夫人が ついに生み出したのが、 下の写真のファッション・トレンド。 セレブリティが「Yes We All Care、Don't U?」、「I care Do U?」、「I Do Care And U Should Too」といった ジャケットやTシャツでイベント、コンサート、インスタグラムに登場したかと思えば、 アパレル会社が写真下右のような製品をクリエイトして、その利益の100%を不法移民をサポートするチャリティや団体に寄付すると発表。
それとは別にメキシコとの国境近いテキサスの町に暮らす夫妻が不法移民の裁判費用の手助けをしようと、 1500ドル(約16万円)を目標にクラウドファンディングを行ったところ、僅か数日で何と1900万ドル(約21億円)の寄付が集まったという エピソードが報じられたのが今週。 でもトランプ氏が今日6月24日朝に、不法移民に裁判の機会を与えずに国外追放をするプランをツイートしたため、 せっかく集まった寄付が活用されない可能性が高まってしまったのだった。






今回の不法移民親子引き離し政策において、トランプ政権内で一番の悪役扱いをされているのは写真上左の ホームランド・セキュリティ長官、クリステン・ニールセン。そうなっても仕方ないのは、 親と引き離されて泣いている子供を「演技をしているだけ」、「親子のふりをしているだけ」と語るなど、 同情のかけらさえ見せずに 非人道的な移民政策を正当化するコメントを何度も行っていたため。
そのせいで 抗議活動グループのターゲットになっていたのが彼女で、 自宅の外で真夜中に「No Justis! No Sleep!」と、その睡眠を妨げる大合唱が起こったかと思えば、 夫と共にディナーに訪れたメキシカン・レストランでは、彼女を追いかけて入店した活動家グループが 抗議メッセージを投げかけた後 「Shame! Shame!(恥を知れ!)」の大合唱が始まり、 これに店の来店客も同調したことから、食事をせずにその場を去ったことが伝えられているのだった。

その一方でトランプ政権の報道官、サラー・ハッカビー・サンダース(写真上右)は家族7人でヴァージニア州レキシントンのレストランを訪れたところ、 食事のサーヴィングを断られ、ホワイトハウスのアカウントを使ってその扱いに抗議するツイートを週末に行っているのだった。これに対しては、 トランプ支持派、アンチトランプ派の双方が過剰に反応して、ツイッター・アカウントには翌日までに2500万を超えるリアクションが寄せられているけれど、 オンライン・レビューのYelpのウェブサイト上では彼女の入店を拒否したレストランに対する バッシングを展開するトランプ派の1つ星と、賞賛するアンチ・トランプ派の5つ星の レビューが溢れる有様。
「どちらにも味方しない」という人々にとっても、この一件で直ぐ頭に浮かんだのが コロラド州のケーキショップが、ゲイカップルのためのウェディング・ケーキ製作を 「ゲイを禁止するカソリックの信者である」という宗教上の理由で断った裁判。そしてその裁判についてサラー・ハッカビー・サンダースがケーキショップ側の客差別を サポートするコメントをしていたこと。実際 アンチ・トランプ派のツイートの中には、それを持ち出してきて「自業自得」と 指摘する声が決して少なくなかったのだった。

そうかと思えば超保守派で知られるトランプ政権の司法長官、ジェフ・セッションズは聖書のフレーズを引用して親子引き離し政策を正当化したことから、 自分が通う教会を含めた600のキリスト教福音派の教会から抗議の署名が寄せられ、特に自身の教会からは 「親子引き離しは児童虐待行為」とまで批判される羽目に陥っているのだった。




さてトランプ政権が不法移民の取り締まりを強化して以来、ナチスドイツのゲシュタポのように 不法移民に恐れられ、リベラル派を中心としたアメリカ国民に嫌われるようになったのが、 通称 ICE/アイスと呼ばれるUS Immigration and Customs Enforcement 。これは 不法移民専門の警察のような組織で、つい最近にはICEのNYオフィスにピザをデリバリーした不法移民をそのまま 収容所送りにして強制出国させようとしたことで大顰蹙を買ったばかりの存在。 ちなみに このデリバリーマンは ニューヨーカーの抗議活動が実って 釈放されているのだった。

そのICEはシリコン・ヴァレーのIT起業にとっては上顧客で グーグル、アマゾン、Dell、HP(ヒューレット・パカード)、 モトローラ といった企業が こぞって数十億円単位のコントラクトを ICEから獲得しているのは IT業界では周知の事実。
しかしながら これらのIT企業は こぞってトランプ政権の移民政策に反対する立場を取っており、 モラルの見地では批判しながらも、ビジネスの見地からは不法移民の厳しい取り締まりを効率良く行うためのテクノロジーを 提供してきた偽善的な存在。 ところが 今回の不法移民親子引き離し問題をきっかけに猛然と盛り上がり始めたのが シリコン・ヴァレーのIT企業のエンジニアや 株主からの ICE対する最新テクノロジーの提供に危険を訴える声。
今週にはマイクロソフト社の100人以上のエンジニアがエグゼクティブ にICEとの取引を止めるようオープン・レターを送付。 グーグルでも同様のムーブメントが起こり、グーグル側は新たなコントラクトは受けないことを発表。 ICEにフェイス・レコグニション・ソフトウェアを提供しているアマゾンでも、CEOのジェフ・ベゾスに対して アマゾンのトップ・エンジニアが連名で「我々は人権を脅かす監視ビジネスに加担すべきではない」というオープンレターを送付。 同じく今週には アマゾンの19の大手株主が、やはりジェフ・ベゾスに対して フェイス・レコグニション・ソフトウェアが社会にもたらす危険性を警告し、 その販売ポリシーに抗議するレターを送付したばかりなのだった。

トランプ氏とは個人的に犬猿の仲であるジェフ・ベゾスであるけれど、アマゾンのテクノロジーが トランプ政権下のICEによって行われてきた不法移民摘発の手入れの大きな助けになってきたのは否定できない事実。 手入れによって 大勢の不法移民労働者が逮捕されたビジネスは、いずれもアメリカ人労働者を雇ったら生産コストが上がり過ぎて価格競争に勝てない状況。 万一 赤字覚悟でアメリカ人労働者を雇おうとしても アメリカ人が働きたがらない職業。
トランプ政権の厳しい移民政策をサポートする人々は、 不法移民がアメリカ経済の重荷と信じる傾向にあるものの、実際には中小企業は ピザのデリバリーから、工事現場作業員、 工場労働者に至るまで、不法移民の労力無しには経営が成り立たないところが多く、それが移民社会 アメリカの経済の実態でもあるのだった。



執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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