May 21 〜 May 27 2018

”Failure-to-Launch Syndrome”
悪いのは親か?自分か?今アメリカで増える
"フェイリュアー・トゥ・ローンチ・シンドローム"



今週のアメリカは夏の始まりを意味するメモリアル・デイのロング・ウィークエンドを控えていたので、 通常はスロー・ニュース・ウィーク。すなわち大きな報道が少ない週であるけれど、 あえてその週を狙って ニューヨーク市警察に出頭したのが、複数の女性に対する性的虐待行為で起訴されていたハーヴィー・ワインスティン。 罪状認否で無罪を主張したワインスティンは 1億1000万円の保釈金を支払って仮釈放されているけれど、彼に対する容疑は有罪になった場合、 最高で54年の禁固刑。それ以外にも彼に対してはロンドンやロサンジェルスでも訴追が行われる見込みになっているのだった。
そんなスロー・ニュース・ウィークにメディアが大きく報じたのがニューヨーク郊外に住む両親(写真上左側)が、 自宅に居座る30歳の息子(写真上中央)を追い出すために、裁判に持ち込んで 立ち退き要求を取り付けたというニュース。 この両親、クリスティーナ&マーク・ロタンドは、自宅に10年以上家賃を支払わずに居座る息子、マイケルに対して 今年2月から既に5回の立ち退き要求を書面で通達し、そのうちの1回では彼が他に住む場所を探すための資金まで提供していたとのこと。
しかしながらマイケルはその資金を別の目的に使用し、全く立ち退く気配が無いことから しびれを切らした両親が裁判所に訴え、今週火曜日に裁判官から 2018年6月1日付けで マイケルが両親宅から立ち退く命令を取り付けているのだった。





このニュースを報じるメディアが こぞって指摘したのが、マイケル・ロタンドのようなケースが決して珍しくはないということで、 彼が 今アメリカで増えている "Failure-to-Launch Syndrome / フェイリュアー・トゥ・ローンチ・シンドローム" の一例に過ぎないということ。
"Failure-to-Launch / フェイリュアー・トゥ・ローンチ” とは 2006年に封切られたマシュー・マコナヘイ&サラー・ジェシカ・パーカー主演のロマンティック・コメディ映画。 成人してからも両親の家に住み、仕事をせずに、毎日好きな時に寝て、起きて、サーフィンをしたり、友達とハングアウトするなど、親のすねをかじりながら 好き勝手な暮らしをする息子(マシュー・マコナヘイ)を経済的、精神的に自立させるために 両親がサラー・ジェシカ・パーカー 扮するガールフレンドを雇う というのがそのストーリーであるけれど、 近年のアメリカでは "フェイリュアー・トゥ・ローンチ”は 略して”FTL” とも呼ばれ、 自立出来ないミレニアル世代、特に親を頼る男子ミレニアルの代名詞。 その状況は ”フェイリュアー・トゥ・ローンチ・シンドローム" と呼ばれ、社会現象かつ社会問題に捉えられて久しい状況となっているのだった。
事実、ミレニアル世代の3人に1人は親と一緒に暮らしていることが伝えられ、2016年のアンケート調査によれば 18〜36歳の男性の多くが一人暮らしやルームメイト、パートナーと暮らすよりも親元で生活する傾向にあるとのこと。 また1979年には6.3%だった若い成人男性の完全失業率は、2016年にはその約2倍の11.9%にアップしているのだった。

映画 『Failure-to-Launch / フェイリュアー・トゥ・ローンチ』では、主人公男性の両親は ボートを所有するなど 金銭的な余裕を感じさせていたけれど、今週報じられたクリスティーナ&マーク・ロタンドは その自宅(写真上右)に寝室が4つあるとは言え、さほど裕福な印象は受けないカップル。 息子のマイケルを養うことは、彼らのリタイアメント生活の負担になっていたようで、 2人は今年に入ってからマイケルのスマートフォンを家族割引のプログラムの対象から外していたとのこと。
彼を追い出だそうとする以前にも、2人は何度もマイケルに対して「家賃を支払い、仕事を見つけるように」と 警告してきたというけれど、 マイケルは「忙しくて 仕事を探している暇なんてない」と言い逃れをしていたことが報じられているのだった。




その問題の息子、マイケル・ロタンドは大学中退で、一度親元を離れて暮らしている間に 一児の父親になっているものの、母親の女性とは交際した訳でも、結婚した訳でもないという不思議な状況。 母親女性は、「マイケルが精神的な病を患っている上に、銃を所有している」として、身柄の保護を申請している有様で、 その精神的問題から彼女に100%の親権を与える判決が家裁で下されたのが今年初めのこと。
両親が彼の立ち退きを迫り始めたのはその直後であるものの、果たして両親は マイケルが 孫の親権を失ったことに失望したのか、 それとも彼の精神状態と銃の所持を懸念して、自らの安全のために彼の立ち退きを迫ったのかは不明なのだった。 確実に言えるのは、マイケルが立ち退き命令に対して非常に腹を立てていることで、彼はメディアに 「両親は善良な人間ではない」とコメントし、控訴の意思を表明して、全面対決の姿勢を見せているのだった。

ちなみに "Failure-to-Launch / フェイリュアー・トゥ・ローンチ” とは、ロケットの”打ち上げ失敗”、ボートの”船出の失敗” という意味で、 それが世の中に巣立っていかない息子を表現している言葉。 "フェイリュアー・トゥ・ローンチ・シンドローム”は、精神病とは見なされていないものの、 BPD(ボーダーライン・パーソナリティ・ディスオーダー)等、常に不安や孤独、精神不安定、罪悪感に駆られている現代の青少年の 心の病が原因になっていると心理学や精神医療の専門家によって指摘されている現象。
何故 男児が自立出来ないかと言えば、ミレニアル世代で男子と女子の大学の卒業率が逆転したことからも分かる通り、 教育現場が 女子の可能性を伸ばそうとする一方で、 男子が負けること、失うこと、自分の能力が及ばないことに対する 不安や恐れが高まる社会環境に置かれていることが指摘されているのだった。




とは言っても、"フェイリュアー・トゥ・ローンチ・シンドローム”の原因は、男児を育てる家庭内にもあるのは紛れもない事実で、 殆どの家庭においても 女児より甘やかされて育つのが男児。 その理由の1つは 家の中の手伝い1つを取っても、母親は自分に出来た事と同等、もしくはそれ以上を娘に要求するのに対して、 息子に対しては遥かにロウ・レベルしか要求しないだけでなく、進んで世話を焼いてしまう傾向にあるため。 また目標達成のために母親が叱咤激励するのは娘で、おだてて持ち上げるのが息子。 その結果、女児の方が精神的に打たれ強く育つのは 決して今に始まったことではないけれど、 それは青少年女子の自殺率が圧倒的に男子より低いことにも現れているのだった。

さて2006年の「フェイリュアー・トゥ・ローンチ」の映画の中では、 両親がガールフレンドを雇うことで 解決を試みたのが 自立しない息子の問題。 でもミレニアル世代にこれが通用しないのは、彼らが「女性だからといって夢を諦める必要が無い世代」であり、 「男性だからといって、女性を養う必要が無い世代」という意識を持って育ってきたため。
したがってミレニアル世代のガールフレンドに対して親が託せる希望があるとすれば、それは「息子が彼女と一緒になるために自立しようとすること」ではなく、 「経済力のある女性が息子に夢中になって、養ってくれること」。
心理学の専門家が "フェイリュアー・トゥ・ローンチ・シンドローム”の治療のために望ましいとしているのは、 親が働きかけるよりも、ライフコーチのような専門家を雇って、 毎日のスケジュールを建設的にしていく等、小さなステップをつみ重ねるアプローチ。 しかしながら アメリカにおいて クリスティーナ&マーク・ロタンドの世代は、 心臓病やがん、アルツハイマー病などを患う親の世代の面倒も見なければならないケースが多いだけに そんな余裕など無いケースが殆ど。 ソーシャル・メディア上の多くのリアクションは、クリスティーナ&マーク・ロタンドが「30歳になった息子を養う必要など無い」と 彼らを支持する一方で、「子育てを誤ったのも やはり彼らの責任」という声が圧倒的となっていたのだった。



執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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