Apr. 27 〜 May 3 2015

” Internet Crooks ” ”
私が遭遇したインターネット詐欺


今週末のアメリカでは、全米最大かつ最も歴史あるホースレース、ケンタッキー・ダービーが行われたのに加えて、 ファイト・マネーだけで日本円にして360億円という フロイド・メイウェザーVS.マニー・パッキャオの世紀のボクシング・マッチが大きな報道になっていたけれど、 1週間を通じて最大のニュースになっていたのは、ボルチモアで無実の罪で警察に逮捕され、 その直後に死亡したフレディ・グレー(25歳)と、現地で暴徒と化した黒人市民の抗議活動の様子。
フレディ・グレーは小さな折り畳み式のナイフを所持していただけの理由で不法に逮捕され、 シートベルトを着用しない状態で手錠を掛けられて、警察のバンの中の檻に押し込まれ、 その搬送中の警官の荒っぽい運転のせいで、車内で首や頭部を打撲。警察署に到着した段階で、医療行為が必要なほど体調が悪化していたという。 ボルチモア警察では、逮捕者を車で搬送する際にはシートベルトを着用させることが義務付けられているというけれど、 実際には警官達がそれを無視するのが常で、「逮捕者を罰する=虐待する」目的でわざと荒っぽい運転をして、 手錠が掛けられてバランスが取れない容疑者らが、搬送中に車内の檻にぶつかるなどして、怪我が負う様子を楽しむ傾向にあったという。
フレディ・グレーの場合、警察署に到着した段階で 彼が助けを求めていたにも関わらず、立ち会った警官は 誰一人として医療チームに連絡することは無く、事実上、彼を見殺しにしているのだった。

アメリカでは、特に昨年後半から黒人容疑者に対する警察の行き過ぎたヴァイオレンスが批判を浴びて久しいけれど、 これまでは、ありとあらゆる状況で警官が不起訴処分となってきたのに対して、 フレディ・グレーの逮捕に関わった6人の警官は、週末の段階で起訴されているのだった。

今週火曜日には30以上の施設と100台以上の車が放火され、大暴動と化していた今回のボルチモアの抗議運動であるけれど、 そんな中、全米でバイラル・ビデオになっていたのが 覆面をして暴動に加わろうとした息子を 引っ叩いたり、引きずり出したりして、阻止した母親の様子を捉えた以下のビデオ。
この母親は、一躍メディア&ソーシャル・メディア上で大賞賛されて、今週のにわかセレブリティになっていたのだった。




さて、ニューヨーカーがルームメイトを探したり、中古の家具やコンピューターを売りに出す際に、必ずと言って良いほど使うのがクレイグ・リスト。
クレイグ・リストには、全米各都市のバージョンが存在していて、人の募集でも、物の売買でも、ローカルな取り引きを迅速に行うために利用されるもの。 特に家具のように簡単に送付する訳に行かないものは、購入者が車で取りに来てくれて、その場でキャッシュ決済が成立するので、 取引が非常に簡単。
その一方で、かつてはクレイグ・リストが売春メディアとして使われ、クレイグ・リストでマッサージ・サービス等を提供していた女性達が 連続殺人事件の被害者になるケースが発生。 それまで野放し状態だった同サイトをに初めて規制が掛かったのがこの時なのだった。
それと同時に同サイトで、決して少なく無いのが様々な詐欺行為。 このため、クレイグ・リストには 詐欺行為に対する警告と注意事項が記載されたセクションが設けられれて久しい状況なのだった。

私はこれまでクレイグ・リストを使ったことが一度も無かったけれど、Will New Yorkの宿泊施設のベッドルーム&ダイニング・エリアを ウィル・スペースにコンバートするに当たって、要らなくなった家具を売る必要があったため、 初めて利用することになったのが数週間前のこと。 そしてそのバイヤーの1人として遭遇したのが、まさに絵に描いたようなインターネット詐欺師なのだった。

その詐欺師バイヤーが買い取りのオファーをしてきたのは、200ドルの価格を付けたダイニング・テーブルと椅子のセット(写真下、右)で、 私が売りに出していた家具の中で最も高額なアイテム。 このバイヤーが、他のクレイグ・リストのバイヤーと違っていた点は、 クレイグ・リストのバイヤーは通常、「買いたいので、今日取りに行っても良い?」というような即決&即ピックアップ・タイプが多いのに対して、 このバイヤーは自分がミリタリー・サービス(軍役)で現在海外に居るので連絡のぺースに時差が生じること、 支払やピックアップは彼のセクレタリー(秘書)が行うことなど、自分の状況を逐一説明してきて、 「ダイニング・セットの別の写真が見たい」とリクエストしてきたこと。
でも、当時そのアイテムには他に買い取りオファーが無かったことから、言われるままに追加の写真を送付したところ、 その返信で「「必ず購入するので、ダイニング・セットをクレイグ・リストのサイトから下ろしてほしい」というリクエストをしてきたのだった。


そこで、そんなに買ってくれる気があるのならと、クレイグリストのサイトからダイニング・セットを下ろしたところ、 次に届いたのが、「自分が現在海外にいる関係で、支払が小切手になること」、 「アイテムのピックアップをアレンジするのに10日くらい掛かること」、そして「その不都合のお詫びとして、売値に50ドルをプラスして支払う」 という内容のEメールなのだった。 私は頼みもしないのに、商品代金より50ドル多く払ってくれるというのも変だと思ったけれど、それ以上に不思議に思ったのが、 クレイグリストにキャッシュ・オンリーと書いたはずだったのに、何時の間にか支払が小切手になっていること。

そんな何となくキツネにつままれた気分でいたところに届いたのが以下のようなメールなのだった。


と一見筋が通ったストーリー。 でも私は、ウエスタンユニオンによる送金というセンテンスを見た途端、彼が詐欺師であることを確信したのだった。 というのは、ウエスタンユニオンとは、インターネット詐欺で最も使われる送金手段。銀行振り込みとは異なり、 個人情報を明かさず送金が受け取れるのに加えて、一度送金されたら、送った側にはそに取り戻し手段が無いのがウエスタンユニオン。 手数料が安く、迅速な海外への送金手段ではあるけれど、家族など、信頼できる相手でない限りは、非常にリスキーなサービスなのだった。
なので、私はこのメールを受け取った途端に、ディールをブレークするメールを出して、 もし小切手が届いてもそのまま送り返すと相手に伝えることになったのだった。


結局、「既に送った」と言われた小切手は届かなかったので、相手が送付していなかったことは明らかであるけれど、 もし私が相手に対する代金差額の返金リクエストを快諾した場合、起こっていたのが以下のような詐欺行為。


こうした詐欺行為が成立するのは、小切手の入金から不渡りが明らかになるまでに3〜4日ほどのタイムラグが生じて、 その間は、あたかも私が相手から自分が受け取る購入代金+他の誰かに支払われるはずの代金を受け取ったような状況になるため。 したがって真面目な人なら、額が大きければ大きい程 責任を感じて、相手への早めの送金を試みるのだった。

果たして相手が、私から幾らを騙し取ろうと思っていたかは定かではないけれど、この詐欺バイヤーとのメールのやり取りを振り返ると、 彼が私との信頼関係を築いて、安心させるための工夫や、その関係を確認しようとする素振りが随所に感じられるのだった。
そのポイントは、以下のようなもの。




この詐欺の手口に遭遇して、思い出したのが1990年代半ばに出版された「Sign/サイン」という本。
この本のタイトル、「サイン」とは、人間に本来備わるトラブルに対する予知能力が警鐘を鳴らすサインのこと。 多くの人々は、犯罪やトラブルに巻き込まれる前に、必ず何かしらの悪い予感や、何かおかしいと思うサインを感じているもの。 でもそれを、自分でかき消してしまうことによって事件やトラブルに巻き込まれるのが常で、それをかき消す要因となるのが、 成りゆきに任せた方が簡単だと思う妥協性や、見ず知らずの人間を簡単な話術で信頼してしまう安易さ。
この本の冒頭に書かれていたエピソードは、もう15年以上も前に読んだものであるけれど、今も私の脳裏に鮮明で、 それは連続レイプ殺人犯の被害者になりかかった女性のストーリー。 被害者女性が犯人に遭遇したのは、買い物から自宅アパートのビルに戻った時。その時に買い物袋が破けて食材がいくつか床に転がってしまい、 それを拾ってくれたのが犯人男性。
彼女は彼を見た途端、不吉な印象を抱いたものの、彼が笑顔で、フレンドリーに振る舞い、親切にも彼女のアパートまで荷物を運ぶのを手伝ってくれるというので、 その好意に甘えただけでなく、扉の鍵を開けるまで荷物を持っていてくれるという彼の言われるままにしたがために、 彼がアパートの中に押し入ってきて、そのままレイプの被害者になってしまったのだった。 その後、犯人が冷蔵庫にドリンクを取りに行き「これを飲んだら帰る」と言ったものの、 スキをついてアパートを飛び出し、隣人に助けを求めて、殺人を免れたというのがそのエピソード。

彼女が犯人の殺意を悟ったのは、「ドリンクを飲んで帰る」と言いながら、彼がわざわざ掛かっていた音楽の音量をアップさせたためで、 それが「悲鳴が聞こえないようにするため」と察知したことが被害者女性の命を救ったのだった。
でも、彼女は最初に犯人の顔を見た時点で、彼に不吉な印象を抱いており、彼が過度にフレンドリーかつ親切に振る舞うことにも 不信感を抱いていたというけれど、その都度 彼女がその「サイン」かき消してきたのは、 犯人の「Trust me = 信用して」という言葉。 人間は「絶対大丈夫だから、信用して!」などと言われると何の根拠もなくても、相手や相手の言ったことを信用してしまう傾向にあるけれど、 「Trust me = 信用して」という言葉を日常生活で頻繁に使うのは、自分が信頼すべき人間よりもむしろ、 自分に物やサービスを売ろうとしている人や、自分を何らかの形で利用しようとしている人。
すなわち犯罪でもセールスでも、相手とのにわかの信頼関係を築くために利用されるのが「Trust me = 信用して」という センテンスなのだった。

この被害者女性は、断ったにも関わらず荷物を部屋に運ぶのを手伝うという彼に、「怪しい人間じゃないから、 Trust me」と言われ、鍵を開けるのを待つと言われた時にも、何か変だと感じながらも、 「荷物を置いたら帰るから、Trust me」と言われ、何の根拠もなく彼のことを信用したことで、レイプの被害者になってしまった訳であるけれど、 彼女が唯一信用しなかったのが「これを飲んだら帰るから、Trust me」というセンテンス。 レイプの被害者になった時点で女性はようやく彼の「Trust me」という言葉が、自分を安心させたり、油断させたりするだけのものだと 気付いた訳であるけれど、彼が連続レイプ殺人犯であったことから分かる通り、 彼女の以前の被害者は、レイプされても彼の言葉を信じて命を失っていたのだった。

もちろん私が遭遇したクレイグ・リストの詐欺と、レイプ殺人では 犯罪のレベルに雲泥があるものの、犯人がにわかの信頼を築いて 被害者を欺こうとしているという点で、同様の心理操作が行われているように思えるのだった。
私は既に家具を全て売ってしまったので、クレイグ・リストを使うことはもう無いと思うけれど、 同サイトの詐欺に対する警告ページに、「決してウエスタンユニオンによる送金をしないように」との注意書きがあることを思うと、 見ず知らずのバイヤーを信用して、送金してしまった被害者が少なからず存在するということ。
こんな風に 大人でさえフレンドリーな文面やコンスタントなコミュニケーションで欺かれてしまうことを思うと、 青少年が見ず知らずの相手、時に性的虐待者とのチャットが原因で家出をしたり、カルト宗教やテロ集団に洗脳されて 行方不明になるケースが多いのは容易に納得がいくところ。
そして、それこそがインターネットの怖さだと思うのだった。


Will New York 宿泊施設滞在



執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。




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