Mar. 27 〜 Apr. 2 2017

"Kim Kardashian, 10 Years Later…"
自家製ポルノ発売から10年、キム・カダーシアンがクリエイトした
アメリカン・カルチャーと、今、彼女を脅かす新勢力とは?



今週、様々なニュースが報じられた中、ゴシップ・メディアのいくつかが報じたのが、今月で キム・カダーシアンを一躍有名にした自家製ポルノの発売から10周年を迎えたというニュース。
今ではリアリティTVスター、セルフィの女王、ソーシャル・メディアを通じたインフルエンサーとして、 知らない人は居ない存在になったキム・カダーシアンであるけれど、 彼女がリアリティTVで知られる存在になってからも、彼女が何故有名なのかを知らないアメリカ人は非常に多く、 ”Famous for being famous (有名なことで有名)” と 言われてきたのがキム・カダーシアン。これは特筆すべき能力や才能が無い有名人に使われる皮肉めいた表現であり、 決して褒め言葉ではないのだった。

私自身アメリカに長く暮らして、職業柄 芸能情報はよくチェックしているけれど、それでもキム・カダーシアンの存在を知ったのは、 カダーシアン・ファミリーのリアリティTVがスタートして数年後。 O.J.シンプソン裁判の弁護団の1人、ロバート・カダーシアンの娘で、パリス・ヒルトン同様、ボーイフレンドが公開したポルノ・ビデオで 有名になったということはアメリカ人の女友達に聞いたけれど、彼女が あのファッション・センスで、かつてスタイリストであったことは 自家製ポルノ10周年の報道を読むまで知らなかったし、 そのポルノ・ビデオの相手がR&Bシンガー、ブランディの弟で、本人もラッパーとしてデビューしていたレイ Jであったというのも初耳。
セルフ・プロモーションで知られるキム・カダーシアンとそのファミリーであるけれど、彼女を本当に有名にした段階でのストーリーは 知られていない部分が非常に多いことを悟ったのだった。

キム・カダーシアンを有名にした自家製ポルノの存在を知っているアメリカ人の誰もが断言するのが、 このビデオが意図的に流出されたものだということ。今週はその実情を含めたストーリーがゴシップ・メディアに 取り上げられていたのだった。




それによれば、流出した自家製ポルノが撮影されたのは2002年のこと。キム・カダーシアンが23歳のバースデーを祝うために、 当時のボーイフレンド、レイ Jとメキシコのリゾート地に出掛けた際で、2人はハンディカムを使って複数のオケージョンでセックス・テープを撮影。
ビバリーヒルズのセレブ・コミュニティの中で育ったキム・カダーシアンは、当時レイ Jの姉であるブランディのスタイリスト兼、パーソナル・ショッパーをしており、 セレブリティ願望が極めて強く、芸能メディアのエディターに頻繁に連絡をしては、 自らのネタを提供していたとのこと。その時点でキムは、徐々にイベントに招待される程度のセレブリティにはなりつつあったのだった。

やがて2004年に”流出”と称して発売されたのが、パリス・ヒルトンを一躍有名にした自家製ポルノビデオ 「One Night in Paris」。 当時、パリスと親友であったキムは、ポルノ・ビデオの流出という一見イメージダウンと思しき出来事によって、 その後パリスがリアリティTV「シンプル・ライフ」に二コル・リッチーと共に出演し、自らのフレグランスを手掛け、アジアを中心とした諸外国でも 彼女の人気を高めていった経緯の一部始終を目の当たりにしており、 その3年後に 全く同じように、まずインターネット上に”流出”し、その後ポルノ・ビデオの流通で知られる ヴィヴィッド・エンターテイメントによって大々的に発売されたのが「キム・カダーシアン・スーパースター」というセックス・テープ。
この版権を売ったレイ Jは約1億円を受け取り、ヴィヴィッド・エンターテイメントを訴えたキム・カダーシアンは 約5億円を受け取って訴訟を取り下げているけれど、この40分のポルノ・ビデオはメガヒットとなり、 編集段階でカットされたシーンを再編集した第二弾も登場。 ヴィヴィッド・エンターテイメント史上、最大の売り上げを記録しているのだった。

このポルノ・ビデオでパリス・ヒルトン同様、一躍有名になったのがキム・カダーシアンで、それまで彼女に全く興味を示さなかった ゴシップ・メディアが彼女に関心を払い始めたのがこの頃。 またキム・カダーシアンは、ジェシカ・シンプソンと離婚した直後のニック・ラシェ、マライア・キャリーと結婚する前のニック・キャノンらと交際。 パパラッツィに自分のデート・スポットを教えることで、パブリシティを獲得していたことはニック・ラシェ、ニック・キャノンの双方が認めているのだった。
そんなキム・カダーシアンの知名度アップによって製作が決定したのが、キムとその姉妹、コートニー&クロエを中心に、 カダーシアン・ファミリーを描くリアリティTV。 それまで母親のクリス・ジェナがどんなに熱心に働きかけても誰も乗り気でなかったプロジェクトに、 Goサインを出したのが、「アメリカン・アイドル」のホストとしても知られたプロデューサーのライアン・シークレスト。
彼のプロダクション・カンパニーが手掛けるリアリティTV 「キーピング・アップ・ウィズ・ザ・カダーシアンズ」は、キム・カダーシアンのポルノ・ビデオが 発売された約3か月後の2007年7月に製作・放映が発表され、2007年11月よりシーズン1の放映がスタートしているのだった。




ニューヨーク・タイムズ紙がフェイスブックで最も「Like / いいね」が多い上位50のTV番組の 調査を行ったところ、ヒスパニック系の間でNo.1の人気を博していたのが「キーピング・アップ・ウィズ・ザ・カダーシアンズ」。
同番組が知識人層に嫌われながらも 社会に影響力を持つようになったのは、番組内で頻繁に行われたプロダクト・プレースメントによって アドバタイザーがカダーシアン・ファミリーに興味を示したため。 プロダクト・プレースメントとは、番組内にさりげなく商品の宣伝を盛り込むことで、カダーシアン・ブランドの製品はもちろん、 キムが広告出演するダイエット・サプリメントから、化粧品、コルセット、デトックス・ティーなど、アグレッシブなまでに番組において 商品やサービスの宣伝を盛り込んでいたのが「キーピング・アップ・ウィズ・ザ・カダーシアンズ」。
その最たる例は、僅か72日で終わったキム・カダーシアンとNBAプレーヤー、クリス・ハンフリーとの2011年のウェディングの際で、 番組内でのプロダクト・プレースメントと引き換えに、そのスポンサー達にウェディングの費用、10億円の殆どを負担させたのは非常に有名な話。

でもキム・カダーシアンが社会への影響力を大きく高めたのは、そのリアリティTVを通じた広告戦略を ソーシャル・メディアに持ち込んだ最初のセレブリティであるため。 キム・カダーシアンはフェイスブック、ツイッター、インスタグラムなどのソーシャル・メディアを通じて 頻繁にそのフォロワー=ファンにアプローチしており、自らのリアリティTVやブランドの宣伝をする一方で、 様々なプロダクトのプロモーションを行ってきたのは周知の事実。
現在、キム・カダーシアンにインスタグラムで1回商品をプロモートしてもらうためにブランド側が支払うフィーは最低で50万ドル(約5700万円)。 彼女の姉妹のコートニー、クロエの場合でも25万ドル(約2850万円)をチャージしているとのこと。
またキム・カダーシアンが1回のイベントのアピアランス(出席)フィーとしてチャージしているのは約5000万円から1億円。 もちろんそれだけのフィーを支払うクライアントのために、キム・カダーシアンはイベントに出席するだけでなく、 ソーシャル・メディア上で的確にツボを押さえた宣伝を行うのが常。インスタグラムだけで9600万人のフォロワーを持つ 彼女の宣伝効果は抜群なだけに、高額フィーを喜んで支払うスポンサーは後を絶たなかったのだった。

そんなキム・カダーシアンは、ホワイトハウスのコレスポンダント・ディナーに出席したり、 かつては彼女のイメージを敬遠していたと言われるヴォーグ誌の編集長、アナ・ウィンターとも現在の夫、カニエ・ウエストを通じて親しくなるなど、 ファンに対する影響力だけでなく、社会的なステータスも上昇させてきたけれど、 彼女が初めてリアリティTVスター、ソーシャル・メディア・スターとして、 自らのプライバシーをオープンにする高い代償を支払う羽目になったのが、昨年、2016年10月3日、 パリ滞在中に強盗グループに襲われ、10億円相当のジュエリーを盗まれたエピソード。
世界中で大きく報じられたこのニュースを境に、 キム・カダーシアンは数カ月ソーシャル・メディアから遠ざかり、メディアの取材にも応じず 事件の全容を始めて自ら語ったのが、この3月にスタートした「キーピング・アップ・ウィズ・ザ・カダーシアンズ」の シーズン13の番組内のことなのだった。




「キーピング・アップ・ウィズ・ザ・カダーシアンズ」のシーズン13は放映前から上のビデオのような トレーラーが頻繁にTVCMとして放映されて、恐らく最もプロモーションに費用を投じたシーズン。
にも関わらず、大方の期待を裏切って視聴率は近年で最悪の低さ。 番組内で強盗に襲われた時のことをキムが家族を前に語るシーンでは、 目薬1本を使い果たして涙を演出したという裏話まで伝えられたけれど、視聴者数はエピソード3までの平均が145万人程度。 シーズン9の平均視聴者数が330万人、シーズン10の平均視聴者数250万人であったことを思うと極めて低い数字で、 2015年8月に記録した最高視聴者数480万人の3分の1にも満たない数字になっているのだった。

では どうしてここへきて、カダーシアン・パワーが減速したかと言えば、 昨年強盗事件に見舞われた後、キムがソーシャル・メディアから遠ざかっている間に、 世の中にはドナルド・トランプという リアリティTV出身の大統領が誕生し、 メディアと人々がその判断力を疑うようなツイートを繰り広げて、世の中の関心がドナルド・トランプとその政権に集中してしまっているため。
今や毎日のようにニュースというメディアを通じて放映されているのが、トランプ政権のリアリティ・ショー。 ロシアとの癒着を始めとするスキャンダルが次々と報じられたかと思えば、ホワイトハウスの報道官、ショーン・スパイサーが その理不尽なコメントで一躍国民に知られるセレブリティになり、 オバマ前大統領のトランプタワー盗聴疑惑については、ホワイトハウスが リアリティTVにおけるヤラセのようなコメントを 共和党下院情報委員長のデヴィン・ニューネスに語らせて、その後それがメディアによって暴かれるなど、 「キーピング・アップ・ウィズ・ザ・カダーシアンズ」など足元にも及ばない ストーリー展開が繰り広げられているのが現在のトランプ政権。

これを受けて、それまでフェイスブックやツイッター等のソーシャル・メディアを通じてしか政治関連のニュースに触れることが無かったミレニアル世代が、 メインストリーム・メディアのニュースをTVやストリーミングで観るようになってきたことが伝えられているけれど、 その背景には、もちろんソーシャル・メディア上におけるフェイク・ニュースの氾濫が問題視されたこともあるのだった。
トランプ氏と言えば、2004年に放映がスタートしたリアリティTV 「アプレンティス」で、 ”敏腕ビジネス・マン兼指導者”というイメージを築いており、そんな番組のイメージを そのまま頭に描いて昨年の大統領選挙で投票したアメリカ人は中西部に非常に多かったのが実情。
そう考えると現在のトランプ政権は、「リアリティTVがリアリティになった」と解するべきなのか、 「リアリティがリアリティTVになってしまった」と解するべきなのか判断に苦しむけれど、 キム・カダーシアンがリアリティTVに登場した当時は、 やがて彼女がこれほどまでにアメリカン・カルチャーに多大な影響を与える存在になるとは誰もが想像し得なかったこと。
同様にトランプ氏の場合も「アプレンティス」で人気を博している時代には、彼がやがて米国大統領になるとは誰も想像し得なかった訳で、 「リアリティはリアリティTVより奇なり」と言わなければならないのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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