Mar. 19 〜 Mar. 25 2018

”Protests against Gun Control & Facebook”
銃規制とフェイスブック、今週の2つのメガ・プロテスト


今週、ニューヨークのローカル・ニュースでちょっとした報道になっていたのが、「セックス・アンド・ザ・シティ」のミランダとして知られるシンシア・ニクソンが 正式に民主党からニューヨークの州知事候補として立候補し、「シンシア For ニューヨーク」というキャンペーンをスタートした様子。 私が報道番組でスピーチの一部を観た印象では、場慣れはしているけれど ”政治家” よりも ミランダ同様の”弁護士” といった感じの カリスマ性の無さで、民主党予備選挙で対決する 現職のアンドリュー・クォモ州知事に勝てるという印象は 受けなかったのだった。
でもニューヨーク・ポスト紙のような共和党メディアは、万一彼女が勝利した場合は 共和党候補に有利になる一方で、 勝利しなくても 2016年の大統領選挙において 民主党予備選挙で敗れた バーニー・ザンダース支持者の多くが ヒラリー・クリントンに投票しなかったように、 彼女の存在がクォモ州知事再選の票減らしに役立つ可能性があることから、週末の社説欄で彼女に好意的な記事を掲載していたのだった。

一方今週のアメリカで最も報道時間が割かれていたのは、フェイスブックの 5000万人のユーザーの個人情報が ケンブリッジ・アナレティカ社によって不正に使用され、有権者が 2016年の大統領選挙でドナルド・トランプに投票するよう 心理的な操作がフェイスブックを通じて行われていたというニュース。
ケンブリッジ・アナレティカは、データ解析による戦略を専門とする選挙コンサルティング会社で、 同社に多額の出資をしているのがトランプ氏の個人的な友人で、保守系共和党支持者のビリオネア、ロバート・マーサー。 また以前同社の役員に名前を連ね、フェイスブックから取得したデータ解析の指示を出したのが、 トランプ政権で首席戦略官を務めたスティーブ・バノン。
今回のスキャンダルの ホイッスルブローワー(内部告発者)によれば、 選挙の票獲得のために、フェイスブック・ユーザーの心理を穏やかに導くのではなく、 感情を煽るようなアプローチをするようにと指示をしたのはスティーブ・バノンであったという。




ケンブリッジ・アナリティカが フェイスブック・ユーザーのデータ収集を行ったのは、2014年に同社が配信したフェイスブック・アプリ、 「ThisisyourDigitalLife(ディスイズ・ユア・デジタルライフ)」を通じてで、 これはケンブリッジ大学の心理学の教授、アレクサンドル・コーガンがデザインした調査アプリ。 表向きには「学術目的の調査を行いながら、ユーザーの性格判断が出来る」と謳われていたという。
これを2700万人のユーザーがダウンロードして、アンケートに回答したけれど、 ダウンロードされたアプリは、ユーザーの他のソーシャル・メディアの使い方や その友人達のデータも収集。 その結果5000万人分の個人データがケンブリッジ・アナレティカによって不正に入手されているのだった。

具体的に、ケンブリッジ・アナレティカ社がどんなことを行ったかと言えば ユーザー・プロフィールの内容や、ユーザーのポスト、”いいね!”をする傾向、メッセンジャーを通じて交わされるプライベート・メッセージの内容を 分析して個々のユーザーの人格プロフィールを作成。 その性格や趣味、宗教を含む思想に応じて 個々のユーザーが 興味をそそられたり、怒りを覚えるようなフェイスブック・ポストやフェイク・ニュースを発信。 彼らを さらに洗脳するコンテンツやウェブサイト、ブログを作成し、そこにターゲット・ユーザーを誘導するというのがその常套手段。 同社は人々の考えを変えるには どの程度の時間が掛かるか、どんなコンテンツが、どんな頻度で発信されるのが最も有効かも熟知しているのだった。

例えば中西部に住み、ナショナル・ライフル・アソシエーションのメンバーで、 射撃場のフェイスブック・ページに「いいね!」をして、ハンティングや銃愛好家のグループに所属しているユーザーであれば、 「ヒラリー・クリントンが 当選後に、大々的な銃規制を実践する準備を密かに進めている」というフェイク・ニュースや そのでっち上げ証拠を集めたウェブサイトに誘導する一方で、トランプ氏がナショナル・ライフル・アソシエーションをサポートしている様子を報じるだけで、 トランプ氏に投票するのは明らか。 それ以外にも人種問題、移民問題、人工中絶、ゲイの権利など、アメリカには人々が熱くなる社会問題が山積しているだけに、 フェイスブック・ユーザーの感情や怒りを煽るのはさほど難しいことではないのが実情。
また大統領選挙のスピーチで、トランプ氏が即興で語ったかのように思われていた「Crooked Hillary」、「Lock her up!」といった スローガンは 既に2015年の段階で、フェイスブック・ユーザーを対象に 調査が行われていたもので、 最も人々が反応したスローガンが トランプ氏のスピーチで語られていたことも明らかになっているのだった。




フェイスブック側がこの状況を把握したのは2015年と言われ、 その時点でケンブリッジ・アナレティカに対して取得したデータの削除を命じたというけれど、 実際には それが行われていなかったとして 同社のアカウントを停止したのは3月16日のこと。 しかしながらフェイスブックは ユーザーに対しては 不正データ流用について一切の警告も、報告もしていなかったのだった。
フェイスブックのCEO、マーク・ザッカーバーグは、この事態を受けて数千もの同社関連アプリを全てチェックしたとコメントしたものの、 週半ばまでは 下院議会での証人喚問を拒み、謝罪もしなかったことから、 フェイスブック・ユーザーの怒りが爆発。その抗議活動としてフェイスブックをやめるという人々が続出し、 ツイッター上でトレンディングになっていたのが ”#deletefacebook(#デリートフェイスブック)”。 多くの人々がどうやったらフェイスブックのアカウントをクローズ出来るか、どうやったらフェイスブック上の自分のデータが全て消せるかで四苦八苦していたのが今週。 このムーブメントを受けて イーロン・ムスクも、スペースX のフェイスブック・ページの削除を約束しているのだった。

そんな状況なので、フェイスブックの株価は今週大暴落し、3日間で4兆7000億円分の企業価値を失ったけれど、 それでようやく危機感を煽られたのか、金曜になってようや マーク・ザッカーバーグが謝罪。 日曜には英米の大手新聞にフェイスブックの謝罪広告が掲載され 「We have a responsivility to protect your information. If we can't, we don't deserve it. (我々には貴方の情報を守る義務があります。もし出来ないのならば、我々は貴方の情報を受け取るに値しません)」 というヘッドラインが見られていたのだった。

でも元フェイスブックのエンジニアたちが、同スキャンダルの取材に対してこぞって語っていたのは、 フェイスブックが そもそもユーザーから集めた個人情報を売るために 存在している企業であるという事実。 何故フェイスックが 世界最大のソーシャル・メディアを ユーザーから一銭も受け取らずに運営出来るかと言えば、 2017年の段階で22億人と言われる アクティブ・ユーザーの個人情報を商品化しているからに他ならないのだった。
ケンブリッジ・アナレティカが分析するまでもなく、フェイスブックではユーザー・プロフィールで 出身大学や居住地、年齢、誕生日といった情報が公開されているだけでなく、ニューズフィードにポストするレストランの食事やヴァケーションの写真で、 大体の年収や家族構成、趣味や行動半径も分かる訳で、人によっては移動する度にチェックインした場所を自らフェイスブックにポストして、 今どこに居るかまで明らかにしている有り様。 ユーザーは、今回のような事件からフェイスブックを法的に守るための協約に知らない間に合意しているからこそ フェイスブックが使えている訳なので、 同社が企業イメージを守るための表向きの謝罪はしても、責任を取る意向など全くないのは多くのメディアが指摘する通り。
ケンブリッジ・アナレティカのフェイスブックを通じた選挙操作は、2016年のブレグジットや、2017年のケニアの選挙においても 行われていたと言われており、 今後 フェイスブックとケンブリッジ・アナレティカに対しては集団訴訟が起こされる見込みなのだった。




話は替わって、3月24日土曜日に行われたのが 銃規制を求める世界規模の抗議デモ、「マーチ・フォー・アワ・ライヴス」。 ニューヨークでも10万人が抗議デモに参加したけれど、ワシントンDCでは何と80万人が参加し、史上最大規模の抗議デモになっていたのだった。
このデモを企画したのは今年2月14日に17人の犠牲者を出したフロリダ州パークランドの銃撃事件の現場となったハイスクールの学生たちで、 銃規制を求めるグラスルーツ・ムーブメントがここまで大きくなったのは初めてのこと。 抗議デモには、多くのセレブリティが多額の資金を寄付をしただけでなく、 ワシントンのデモにはジョージ&アマル・クルーニー夫妻や カニエ・ウエスト&キム・カダーシアン夫妻、 スティーブン・スティルバーグ夫妻、マイリー・サイラスらが参加。 ニューヨークのデモには射殺された親友、ジョン・レノンのために参加したというポール・マッカートニーの姿も見られていたのだった。
でも数えきれないほどのセレブリティが参加したとは言え、このイベントの主役は銃規制運動をここまで盛り上げてきたティーンエイジャー達。 昨今、数多くのメディアに登場してはNRA(ナショナル・ライフル・アソシエーション)から政治献金を受け取って、 銃規制を一向に進めようとしない政治家を 批判してきた彼らの主張は、大人の世代よりも筋道が通ったシャープなもの。 彼らを理想主義者として批判する大人の言い分の方が 理不尽な子供のわがままのように聞こえるのだった。
NRAを始めとする銃の愛好家たちは ツイッターやフェイスブックを通じて 、 今回の活動の中心になっているティーンを クライシス・アクター(犠牲者のふりをするために雇われた俳優)だというデマを流すなど、 クラスメートを殺害され、自分達も死に瀕する思いをした17歳に対する態度とは思えないような 薄汚い常套手段を繰り広げているけれど、 それに対して 堂々と 「親の世代にスマートフォンの使い方を教えなければならないのと同様に、正しい民主主義を教えるのも自分達の世代の仕事」 と言ってのける様子には、頼もしい思いを通り越して、私は尊敬の念さえ抱いているのだった。
彼らは 抗議活動をしたところで、政治家が銃規制法案を可決しないことは十分に理解しており、 今回の抗議デモでフォーカスになっていたのは、自分達の世代が選挙権を獲得した暁には、 NRAからの献金を受け取っている政治家を全員議会から追い出す、すなわち選挙で落選させるという ”#votethemout(ヴォート・ゼム・アウト)” というスローガン 。
オバマ大統領を含む 大人の政治家さえ、僅か6週間でここまで大きな銃規制のムーブメントを起こすことが出来なかったことを思うと、 ひょっとしたら ミレニアルの次に当るこの世代が 「銃規制だけでなく、アメリカ社会の様々な腐敗をクリーンアップ出来るかもしれない」という期待さえ 抱かせてくれるのだった。


執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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