Feb. 25 〜 Mar. 4 2018

”Best Social Impact Film Among This Year's Oscar Nominees”
今年のオスカー作品賞候補で最もソーシャル・インパクトがあった映画は?


私がこのコラムを書いている今日、3月4日は、第90回目を数えるアカデミー賞授賞式の日。
1月に行われたゴールデン・グローブ賞同様、セレブリティが #TimesUp のピンを付けて レッド・カーペット上に登場することになっているけれど、 もう1つセレブリティがつけることになっているのが、オレンジ色のアメリカ国旗のピンで、これはようやく盛り上がってきた銃規制を求めるシンボル。
今週には L.L.ビーン、ディック・スポーティング・グッズといった ライフルの大手販売業者が戦闘用モデルの取り扱い中止や、購入者の年齢制限を21歳に繰り上げる方針を発表。 大手のウォルマートも同様のストア・ポリシーを発表する見込みを示唆しており、一向に銃規制を進めようとしない政府や議会とは無関係に、 消費者からの圧力を受けたビジネスが独自の銃規制を進めているのだった。

話をオスカーに戻せば、今年の作品賞に選ばれたのは9本の映画。 昨今 映画プロモーションは、ソーシャル・メディア上で盛んに行われるだけでなく、 ソーシャル・メディア上のバズが興行成績に大きく影響するのは周知の事実。
フォーブス誌がソーシャル・メディア上のアクティビティの統計を纏めた結果によれば、 1月23日までの段階で、フェイスブック上のポストとリアクションが最も多かったのは「Lady Bird /レイディ・バード」、 ツイッター上で最もバズが大きかったのは「Dunkirk /ダンケルク」で、これはティーンアイドルの ハリー・スタイルが出演していることも影響しているのだった。
インスタグラム上で最もバズを生み出していたのは「Call Me By Your Name/コール・ミー・バイ・ユア・ネーム」であったとのことだけれど、 逆に、ソーシャル・メディア上のバズが総合的に最も少なかったのはスティーブン・スピルバーグ監督作品で、 トム・ハンクス、メリル・ストリープ主演の「ザ・ポスト」であることが伝えられているのだった。






興行成績的という見地から見ると、今年の作品賞ノミネートのうち、大ヒットと見なされる 1億ドル(約105億円)を超える売り上げを アメリカ国内で記録したのは、「ダンケルク(写真上左)」と「Get Out/ゲットアウト(写真上右)」のみで、それぞれ1億8800万ドル、1億7600万ドルの売り上げ。 でも製作費を考えると、「ダンケルク」がアメリカ国内の興行売り上げの半分以上に当たる1億ドルを掛けているのに対して、 「ゲットアウト」の製作費は僅か450万ドル。すなわち、アメリカ国内の興行売り上げの僅か約2.6%のバジェットで製作された作品で、 近年のハリウッドで最も利益率が高い映画であると同時に、 公開から1年が経過しようとしているのに、今も劇場で上映されているという根強い人気を誇っているのだった。

実際に一般のムービー・ゴーワーが 昨年公開されたベスト・ムービーに選んでいるのが「ゲットアウト」で、 私自身、昨年観た中で最もインパクトが強かったのがこの映画。 それと同時に、「もしこの作品を観ていなかったら 、会話に入れないオケージョンが非常に多かった」と言えるほど、 最も友人達と話題にしたのもこの映画。
そのストーリーは、白人女性と黒人男性の若いカップルが、ウィークエンドを過ごすために白人女性の両親宅を訪れるというものでありながら 「ホラー映画」とカテゴライズされていることから、その時点でかなり意味不明なコンセプト。 やがて両親宅のパーティーにやって来た白人ゲスト達が、黒人ボーイフレンドに対して フレンドリーでありながら、人種差別的な 会話や賞賛をするシーンが出てきて、 人種問題を投げかけているものの、実はそれがホラーとしてのプロットに繋がるというのが 同作品が非常に上手く出来ている部分。 なので「ゲットアウト」が今回のオスカーでオリジナル脚本賞を受賞したのは非常に納得が行くところ。
「ゲットアウト」を観たアメリカ人の多くが、「Creepy(不気味)」という言葉で 同作品を表現するけれど、私もそれには全く同感で 、 何人もの友達に同作品を観るように勧めたのだった。




でも今年のオスカーの作品賞候補の中で、最もソーシャル・インパクトを与えた作品と言えるのは、 「スリー・ビルボーズ・アウトサイド・エビング・ミズーリ」。
同映画のストーリーは、残虐に殺害された娘の犯人捜査が一行に進まないフラストレーションから、 娘の母親、ミルドレッド・ヘイズが 街の中心部に通じる主要道路沿いに 3つのビルボード(掲示板)を設置。 そこには「RAPED WHILE DYING」「AND STILL NO ARRESTS?」、「HOW COME CHIEF WILLOUGHBY?」 (殺害される最中にレイプされた、なのに未だに 犯人未逮捕? ウィロウビー署長、何故?)という メッセージがフィーチャーされ、事件解決に消極的な地元の警察署長に圧力を掛けたけれど、 そこから更なるヴァイオレンスが始まるというもの。
ミルドレッド・ヘイズを演じるのは、オスカーだけでなく 今年の授賞式シーズンで ありとあらゆる主演女優賞を総ナメにしてきたフランシス・マド―マン。 同作品の中で警察の副署長役を演じたサム・ロックウェルも、オスカーの助演男優賞を受賞しているのだった。

この「スリー・ビルボーズ・アウトサイド・エビング・ミズーリ」は、 テキサスで実際に起こった殺人事件と、その捜査を求める掲示板(写真下、一段目左)にインスパイアされた映画で、 本来だったら、社会的な影響力も発言権も無いような1人の母親が、人目を引くビルボードを使って 世の中を動かしたというストーリー。
これに触発されて どんどん登場するようになったのが、映画に登場したのと同じような 真っ赤なメッセージ・ビルボード。 例えばアカデミー賞授賞式の数週間前からハリウッドに登場したのは、 写真下一段目右と2段目の2枚の合計3枚のビルボード。 「青少年虐待のオスカー受賞者は…」、「我々は皆知っている、なのに未逮捕」、「ステージで名前を明らかにするか、そうでなければ黙れ!」 と、ハリウッドにおける青少年虐待行為とその放置を厳しく批判する内容になっているのだった。

そうかと思えば、「パナマ文書」の報道に参加した マルタ共和国の女性ジャーナリスト、ダフネ・カルアナ・ガリチア殺害事件の 捜査と裁きを求める#オキュパイ・ジャスティスは、写真下3段目2枚を含む3枚のビルボードを製作。 現地の政府と真っ向から対立するメッセージを打ち出しているのだった。










こうしたメッセージ・ビルボードのムーブメントに更に拍車を掛けているのが、ビルボード・トラックの存在。
ビルボード・トラックとは、その名の通り 運送用のトラックの車体の壁面をビルボードに見立てたもので、 電光掲示板スタイルなので、どんな広告でも 画面のデザインをプログラムするだけで簡単に行えるというメリットがあるもの。 しかも通常のビルボードとは異なり設置の許可や手続きが不要で、公道を走り続けるうちに多くの人々の目に触れるので、 広告効果も抜群というもの。
写真上段左側は、ロンドンで行われた グレンフェル・タワー火災に対する抗議活動。 同火災は2017年6月14日に起こったもので、71人の死者を出し、業務上過失致死や防火基準違反等が指摘されているものの、 火災から何ヶ月が経過しても一向に責任追及が行われないだけでなく、ロンドン内には今も297もの 防火基準違反のビルディングが放置されたままという状況。それに対して 「71 DEAD」、「AND STILL NO ARRESTS?」、「HOW COME?」と、映画内のビルボードのフレーズを真似た その3つのメッセージをフィーチャーしたビルボード・トラックがロンドン市内を走り回ったプロテストは、 ”justice4grenfell / ジャスティス・フォー・グレンフェル”が行ったもの。 その様子は、 同オーガニゼーションのウェブサイト でも紹介されているのだった。

その隣は今年2月22日、ニューヨークの国連前で行われた シリア内戦に対する対応の遅れに対するプロテストで、 「500,000 DEAD IN SYRIA」、「AND STILL NO ACTION?」、「HOW COME SECURITY COUNCIL?」、 (シリアで50万人の死者が出たのに、国連安保理が何のアクションも起こさないのか?)というのがそのメッセージ。
その下は、フロリダ州パークランドのハイスクールで起こった19人の犠牲者を出す無差別銃撃事件が起こったにも関わらず、 銃規制に反対する姿勢を見せた同州の上院議員マルコ・ルビオに対する抗議のメッセージ。 「学校で虐殺事件、なのに未だ銃規制をしない? マルコ・ルビオ、何故?」という 3台のビルボード・トラックはマイアミの街中や、州政府前走り続けたのだった。

このメッセージ・ビルボードは メディアの関心を集めるのにも有効な手段であるだけに、 映画のサクセスが一段落した後も、社会システムに対する問題定義や、 政治権力に対する世論圧力の手段として、まだまだ活用されそうな気配なのだった。


執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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