Feb. 19 〜 Feb. 25 2018

”How to Become a Seat Filler”
ハリウッドの花形ポジション!?、オスカー・シート・フィラー


私がこのコラムを書いている今日、2月25日で平昌オリンピックが閉幕したけれど、 蓋を開けてみれば、同大会は近年最悪の視聴率と言われた前回のソチ大会をさらに24%も下回る 極めて低い視聴率を記録。 放映局であるNBCは、約1兆3000億円を投じて2032年までのオリンピック放映権を入手しているだけに、 株主の間では この決断を大きな過ちと見なす声が一層高まっていることが伝えられているのだった。

その低視聴率の要因の1つとなったのが、フロリダ州のパークランドのハイスクールでヴァレンタイン・デイに起こった 無差別銃撃事件。アメリカ国内の関心が事件と銃規制法案に大きくシフトしたことであったけれど、 今週には そんな銃規制を求める人々の声を受けて、Hertz/ハーツを含む レンタカーの大手三社や 航空会社が 銃愛好家組合、アメリカン・ライフル・アソシエーション(以下NRA) のメンバーに対するディスカウント廃止を決定。 ネブラスカ州の銀行はNRA用のクレジット・カードの発行取り止めを決定し、 メンバーがライフル購入に使用する支払い手段を1つ減らすことを発表。
このようにアメリカの銃規制に企業が加担したのは これが初めてのことだけれど、 その一方でトランプ大統領は、「射撃の訓練を積んだ教員に銃を持たせるべき」と主張。 「銃には銃で対抗するべき」という方針を打ち出しているのだった。




さて来週の日曜、3月4日には今年の授賞式シーズンのラストを飾るハリウッド最大のイベント、 アカデミー賞授賞式を控えているけれど、 ハリウッドと言えば、映像に映る 細かいところまでを エキストラでコントロールする習性があるためか、 オスカーに付き物なのが”シート・フィラー”。
シート・フィラーとは、セレブリティがプレゼンターを務めたり、パフォーマンスを行ったり、受賞後のスピーチのために席を立った際などに その空席を埋めるバックアップ要員のこと。 オスカーの放映を観ていると、最前列に座っていたノミネート者が受賞し、 ステージ上でスピーチを行っている最中に客席が映った場合でも、 ノミネート者がそれまで座っていた席が空席でカメラに捉えられることは全く無い訳で、 ノミネート者が受賞と共に立ち上がった途端に、その席を埋めるようにアサインされるのがシート・フィラー。
シート・フィラーが空席を埋めるのはセレブリティだけではなく、そのゲストやプロデューサー等、会場内のカメラに捕えられる場所に 座っている全ての人々が トイレや休憩のために会場を出る場合も然り。 オスカーの場合、会場であるドルビー・シアターのキャパシティは3400人で、 毎回その9%に当たる 300人のシート・フィラーが待機していることで知られるのだった。

前述のようにシート・フィラーはアカデミー賞授賞式のエキストラに他ならないけれど、 そんなシート・フィラーに 放映中 初めてマイクを向けたのは2015年の授賞式でホストを務めた ニール・パトリック・ハリス。 そのセグメントによって、初めてシート・フィラーという仕事が存在することを知ったアメリカ人も多かったと言われるのだった。




オスカーだけでなく、ありとあらゆる授賞式イベントが80〜90年代から シート・フィラーを起用するようになっており、MTVミュージック・アワード、グラミー賞、スクリーン・アクター・ギルド・アワード、 エミー賞など、TV放映される 全ての授賞式イベントでシート・フィラーが起用されるのは今や当たり前。
オスカーの場合、アカデミー関係者か、毎年オスカーを放映するABCテレビの関係者、 もしくは2017年の作品賞発表の際に プレゼンターに間違った封筒を渡すという 大失態を演じたオスカーの会計担当会社、プライスウォーターハウスクーパーズの関係者でないと、 シートフィラーになれないとも言われるけれど、 アカデミー側には、毎年シート・フィラーのキャスティングをする担当者がいて、 そのキャスティング・ディレクターに申し込んでシート・フィラーになるケースは少なく無いのが実情。
その他の授賞式イベントは、シートフィラー用のキャスティング・エージェンシーが雇われているケースが殆どで、 それらのエージェンシーのウェブサイトを通じて申し込みをすれば、ごく一般の人々でもシートフィラーになることが出来るのだった。

でもシート・フィラーはフィーが支払われることが無いのに加えて、女性の場合はフルレングスのフォーマルガウンにハイヒール、 ヘア&メークをしっかりして、ジュエリーをつけての登場がドレス・コード。 男性の場合もタキシード着用がマストで、きちんとグルーミングをするのがルールで これらはもちろん自己負担。 シート・フィラーはとにかく目立つことが ご法度とされるので、観客に溶け込むレベルのドレスアップを自費でした上で、 セキュリティが厳しくなった昨今では、授賞式の2〜3時間前から会場で待機しなければならないケースも珍しくないのだった。
要するに よほどセレブリティ・カルチャーが好きで、時間が余っている人しか出来ないのが シート・フィラーであるけれど、一度やったことがある人は その経験を「忘れられない」、「楽しかった」と語っていて、 中には10年以上シート・フィラーを務めるベテランも存在するのだった。。




シート・フィラーは、写真撮影が許されず、隣に座ったセレブリティに話しかけたり、握手を求めたり、 名刺などの連絡先を渡すこと はもちろん許されないけれど、 セレブリティに話しかけられた場合は、最小限に会話をすることはOK。 授賞式慣れしていないセレブリティの中には、シート・フィラーという役割そのものに興味を示して 話しかけてくるケースもあるようなのだった。
シート・フィラーは アサインされた椅子に座るために 着席しているゲストの前を通る際は、背中を向けるのではなく、ゲスト達に顔を向けながら移動するのが正しいマナー。 移動はCMの最中に終わらせなければならず、放映中に通路を歩くことは許されないのだった。 中には授賞式の最中、一度も出番が巡って来ないシート・フィラーも居るとのことで、 その場合、会場の横廊下でずっと待機を強いられることになるのだった。

メリル・ストリープくらいに授賞式イベントの常連になると、シート・フィラーの常連のことも覚えているようで、 15年間シート・フィラーを務めたという女性は、メリル・ストリープと目が合うと挨拶されるようになったと語っているのだった。
そうかと思えば、まだセキュリティがさほど厳しくなかった1990年代には、隣に座ったセレブリティに誘われて、 シート・フィラーが映画会社が主催するアフター・パーティーに参加した というようなエピソードもあるけれど、 今は全てのアフター・パーティーがゲストリストに名前が載っていない限りは 誰も会場入りさせないので 、もはやこれはあり得ないこと。 またごくたまに、セレブリティが体調を崩して授賞式そのものに欠席するというケースもあるけれど、 その場合、シート・フィラーは授賞式を最初から最後まで 特等席で楽しむことが出来るのだった。

オスカーもオリンピックと同様で、年々視聴率を下げているイベントではあるけれど、 シート・フィラーになりたがる人々は年々増え続けているとのことで、それはオスカー以外の授賞式イベントでも見られる傾向。 2001年からグラミー賞のシート・フィラーをアレンジし続けているエージェント、”シート・フィラー&モア” 社によれば、 今年のグラミー賞のシート・フィラーには2万4000人からの申し込みがあったとのこと。 すなわち、TVやストリーミングで授賞式を観ることに興味を示さなくなっている人々でも、 授賞式イベントを体験することには興味津々で、そのためには金銭的、時間的自己負担も厭わないということなのだった。
こうした体験を望む傾向が テクノロジーの進化によるヴァーチャル・リアリティの普及と関係があるかは別として、 オスカーもオリンピックも、視聴者が単にそれを観るだけである場合、どんどん興味が薄れて、離れて行くだけのように思うのだった。


執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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