Feb. 5 〜 Feb. 11 2018

”New York Fashion ’Weak’? ”
年々影響力を落とすファッション・ウィークに何が起こっているのか?


金曜から平昌オリンピックが始まっているけれど、アメリカで今週最も報道時間が割かれたのは、月曜と木曜に NYダウが1000ポイント以上価格を落としたニュース。アメリカでは 今後「トランプ政権下で上がり過ぎた株価の修正が行われる」 という見方が強まっているのだった。
一方のオリンピックについては、日本の友人から「アメリカでどの程度盛り上がっているの?」と尋ねられることが多いけれど、 まずアメリカは伝統的にウィンター・オリンピックにはあまり関心を示さない国。 また、インターネットが普及してからは 時差がある国で開催されるオリンピックは、先にオンラインで結果が分かってしまうとあって 視聴率が低い傾向にあるのだった。 加えて、昨今は結果だけでなくストリーミングで競技そのものもTV放映を待たずして、ライブで観られるとあって、 前回のリオ・オリンピックでは TV視聴率がガタ落ちし、放映局であるNBCは高額のCM放映料を支払った広告主に対する謝罪として、 無料のCM放映をオファーしていたほど。
なので、今回の平昌オリンピックを放映するにあたってNBCはライブストリーミングのテクノロジーに多額の投資をして、 広告主に対してTVとオンライン双方の合計を視聴者数としてアピールするスタイルに変更。
それによれば、ストリーミングを含めた平昌オリンピック開会式の視聴者数は約2830万人。 この数字は前回のウィンター・オリンピックであるソチ大会に比べるとTV視聴率においては12%のダウン。 でもライブストリーミングはリオ・オリンピックの2倍以上である44万9000人のビューワーを獲得。
州別の視聴率を見てみると、高視聴率を獲得しているのはユタ、デンバーなどウィンター・スポーツのメッカで、 これらの州で参加選手がトレーニングをしていることも、オリンピックへの関心を高める要因になっているのだった。




アメリカのメディアにおいて平昌オリンピックは、競技よりも 北朝鮮と韓国の国交改善ぶりに興味が注がれていて、 それというのも この二国間の接近によって、 北朝鮮に対して強硬姿勢を取るトランプ政権の外交ポジションが微妙なものになるため。 なので、開会式で米国メディアが最も注目したのは、今や ”北朝鮮のイヴァンカ” と呼ばれるキム・ジョンウンの妹、キム・ヨジュン。 加えてキム・ジョンウンが送り込んだ229人の北朝鮮チアリーダーのルックス(写真上中央)にも欧米のメディアの関心が注がれているのだった。
それとは別に週末に物議をかもしていたのが、開会式の日本選手団入場の際に NBCのコメンテーター、ジョシュア・クーパー・ラモ(写真上左)が語ったコメント。 その内容は、「日本が1910年から45年まで韓国を占領し、その後の韓国発展の前例を示しただけに、韓国にとって日本は大切な存在」というもので、 これに反発した韓国民から 「NBCは日本のパールハーバー奇襲に感謝するのか?」、「ナチス・ドイツ占領下の国がヒットラーに感謝していると言っているようなもの」といった 非難がソーシャル・メディア上に殺到。NBCは韓国のオリンピック委員会に正式な謝罪を強いられているのだった。
そのNBCは平昌オリンピック期間中、2400時間分の競技放映を予定しているけれど、 今のところは、競技よりも政治絡みの関心の方が遥かに高い大会となっているのだった。

一方、ニューヨークでは木曜からファッション・ウィークがスタートしているけれど、 1月にアレクザンダー・ウォン(写真上右)が、今回のファッション・ウィークを最後に 今後はファッション・ウィークとは無関係に 6月と12月に独自にショーを行うことを表明したり、ラグ&ボーン、マーラ・ホフマンといった若いブランドが、どんどんファッション・ショー自体を行わない方針を打ち出すなど、 徐々にファッション・デザイナー達が、高額なファッション・ショーを年に2回のファッション・ウィーク期間中に行うことに マーケティング価値を見出さなくなってきていると言われるのが昨今。
しかも、オンライン・ショッピングがどんどん売り上げを伸ばし、アマゾン・ドット・コムが世界最大のファッション小売業になるご時世を反映して、 たとえ一流デパートの店頭で商品が売られていても、人々が小売店に足を運ばなくなっているのが現在のアメリカ。 その一方で、ランウェイで発表されたばかりのファッションが、 モデルやセレブリティのソーシャル・メディアを通じて、 ミレニアル世代を中心とした消費者に発信され、それら店頭に並ぶ頃には彼らの購買欲がとっくに失せている状況を反映して、 3シーズンほど前からデザイナー達がトライし始めたのが、ランウェイで発表した作品の即売。 これは、”See-Now-Buy-Now (シー・ナウ・バイ・ナウ)” ムーブメントと呼ばれ、 消費者の購買欲が最も高まっている段階で、タイム・ラグ無しに商品を提供しようという試みなのだった。




ファション・ショーが時代に応じて様変わりしてきたのは今に始まったことではなく、90年代までは ランウェイ・ショーと言えば、商品を買い付けるバイヤーとプレスのために行う業界イベントなのだった。 やがて1990年代半ばから、”フロントロー”という言葉が盛んに用いられ、 ショーの最前列にどんなセレブリティが座るかが、ショーの内容よりも注目を集めるようになったのは周知の事実。 それまでファッション・フォトグラファーで占められていた会場に パパラッツィが多数 交じるようになったのは2000年以降のこと。
多くのデザイナーは、当初はオスカーでドレスを提供したセレブリティなど、 独自のコネクションでセレブリティを最前列に招待し、そのお礼としてショーにやってくる際のアウトフィットを提供していたけれど、 やがてセレブリティが請求し始めたのがフライト&ホテル代に加えて ”出席ギャラ”。 その結果、2010年を前後してファッション・ショーに出席するセレブリティのキャスティング・エージェントが誕生。 リアリティTVスターなどの低レベルのセレブリティで50万円程度、ビヨンセのようなハイレベルのセレブリティで3000万円といった ギャラが支払われるようになる一方で、 招待客のリストに大きく割り込んできたのが ファッション・ブロガー達。
ほんの2〜3年前までは、ファッション業界では ブロガーが商品の売り上げに大きく貢献すると信じられてきたけれど、 そのファッション・ブロガーと有料で招待されるセレブリティの売り上げへの貢献度については、 このところデザイナー側から 厳しい コスト・パフォーマンスのチェックが入っていることが伝えられているのだった。

というのも、今ではデザイナーたちが自分達のEコマースと、ソーシャル・メディアを通じて直接消費者にアプローチが出来る時代。 小売りとファッション・メディアのパワーが同時に衰えているのが顕著なだけに、 大金を投じて セレブを招待して ファッション・ショーを行っても、ファッション業界やその関係者を潤すことはあっても、 消費者に対するインパクトがさほど望めないことは、若い世代のデザイナーほど悟っていることなのだった。




ところで、昨年11月からスタートした#MeToo ムーブメントと 決して無縁ではないのが ファッション業界。 テリー・リチャードソン、マリオ・テスティーノ、ブルース・ウェバーといったフォトグラファーが 女性、男性モデルに対するセクハラ行為で告発されただけでなく、 モデルのケイト・アプトンが、ゲス・ジーンズの創設者ポール・マルシアーノに性的不適切行為を受けたことをメディアに告白するなど、 様々な物議を醸しているけれど、それを受けて今シーズンから 多くのファッション・ショーのバックステージに設けられたのが プライベート・ドレッシング・ルーム。
これまでのランウェイ・ショーと言えば、バックステージ・パスさえあれば、誰もがモデル達が裸同然で着替えをするエリアに足を踏み入れ、 フォトグラファーであれば、自由に写真撮影をすることさえ出来た状況。 でも今シーズンからは ようやくモデル達の着替えの際のプライバシーが尊重されるようになった訳で、 そんな当たり前のことさえ配慮されなかったほど、ファッション業界というのは、 よほどのスーパーモデルか、 親の七光りでもない限りは、好ましい労働環境とはいえないのが実情。
今の時代から振り返ると、ヴォーグの編集長、アナ・ウィンターの元パーソナル・アシスタントが書いた「プラダを着た悪魔」に描かれていたような労働条件は、 セクハラこそはなくても 給与が安い上に 長時間の拘束で、上司にはNoと言えない 奴隷的な扱い。

でもそのヴォーグ誌も、ミレニアル世代を中心に ファッションの情報ソースが、雑誌から インスタグラムやスナップチャットといった ソーシャル・メディアに大きく移行した結果 ファッション・メディアとしてのパワーがどんどん減速している状況。 今ではヴォーグのことを、 毎年恒例のメトロポリタン美術館コスチューム・インスティテュート・ガラの ”パーティー・オーガナイザー” と 呼ぶ人々が ファッション&メディア業界に少なくないほど。 昨年11月には、 編集長であるアナ・ウィンター自身が「Nobody would talk about us(誰もヴォーグのことを話題にしない)」と認めるコメントをしていたのだった。

そもそもファッション業界というのは消費者にとって不要なものを買わせなければ、大きくなり得ない業界。 これまでトレンドやセレブ・ファッションという情報を操作して、消費者心理に働きかけてきたファッション・メディアの影響力が衰えた現在、 人々の関心がランウェイから遠ざかって、 アスリージャー&ワークリージャー(前者はアスレティックとレジャーを合わせた造語、後者はワークとレジャーを合わせた造語)といった 着心地と実用優先のライフスタイル・ニーズに基づいた消費動向になるのは、当然の成り行きと言えるのだった。


執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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