Vol.16 Aug 11 2026
Immigration Nightmare
ワールドカップ、大谷観戦…、物議を醸す米国入国審査の明暗について


 昨年第二期トランプ政権が誕生し、入国審査が大幅に強化された際に言われていたのが「来年のワールドカップに合わせてアメリカに行けば入国審査が緩くなるはず」という憶測。
 ところが蓋を開けてみれば、出場選手さえ別室で7時間尋問され、FIFAからの必要書類を持参したアフリカのレフリーが入国を拒否されたりと、ワールドカップ関係者に対しても厳しい審査が行われただけでなく、 観戦目的の旅行者に対しても少なくなかったのが入国拒否と強制送還の措置。実際にワールカップを機に増加したのがICE(移民取締り局)による逮捕者。
 近年では日本人の入国拒否&強制送還が増えていることが取り沙汰されているけれど、 女性の1人旅が出稼ぎ売春と疑われて入国拒否の対象となり始めたのはパンデミック前の第一期トランプ政権時代からのこと。 その件数が増えたのがパンデミック以降で、円安ドル高、そして日本の貧困化が諸外国で知られるようになってからは、更に日本人の出稼ぎ目的が疑われるようになったのは周知の事実。
 とは言っても国籍とは無関係に入国審査官に怪しまれる、もしくは嫌われる要因というものがあって、 「何も疑われる理由は無い」と主張しながら別室送り、引いては強制送還になる人はそうした要因について間違った解釈をした結果、 自ら墓穴を掘っているケースが非常に多いと言われるのだった。


「アメリカに友人が多い」、「友達の家に滞在」、「仕事をしていない」は全てNG


その要因とは以下のようなもの。
・ 入国前にアメリカと政治的に問題がある国に立ち寄っている。
・ アメリカに頻繁に入国した渡航歴がある。
・ ESTA(VISA免除プログラム)を利用して、期限ギリギリ(3カ月間)まで滞在予定である。
・ 滞在期間が不自然に短い。
・ ホテルに宿泊せずに、友人宅に滞在する。
・ 「アメリカに友人が多い」、「恋人に会いに来た」等を訪米理由に挙げる。
・ 帰りのチケットがオープンである。
・ 仕事をしていない。
・ 渡航目的が曖昧。
・ インフルエンサー、コンテンツ・クリエーターをしている。
・ 見るからに問題がありそうな風貌をしている。

 上記要因の逆のケース、すなわち1~2週間の滞在で、ホテルと帰りの便がきちんと予約されていて、普通の風貌で2~3人の友人と一緒で、疑いを持たれる渡航履歴が無く、 旅行に必要な額のキャッシュとクレジット・カードを持参し、旅の目的を「Sight seeing/観光」と明確に答えた場合、日本人であれば問題なく入国審査がパス出来るのは今も昔も同じ。
 例えばドジャース観戦が目的でLAX(ロサンゼルス空港)に大谷選手のユニフォームとドジャース・キャップ着用で降り立った場合は好意的に迎えられるケースが殆どであるし、 5月に友人がBTSのコンサートのために入国した際も、審査官の方から先に「BTSのコンサートで来たの?」と尋ねられて、「Yes」と答えると「BTS! BTS!」というチャンティングと共に あっさり通してくれたとのこと。
 ワールドカップ観戦の旅行者については、イングランドのジャージー着用し、予選リーグのチケットを持っていたイギリス人は全く問題ナシの入国。 ところがジャージ着用無し、観戦チケットを持っていなかった有色人種のフランス人男性は入国は出来たものの、別室送りになったとのこと。
 ちなみに別室送りは必ずしも非常に怪しいという意味ではなく、入国させるには情報確認が不十分で、後ろに審査待ちの人々が大勢並んでいるケースでは頻繁に起こること。 グリーン・カードを持っていても、出入国の回数が多ければ別室送りになるのが現在で、確認事項が深刻でない場合は通常1時間程度の足止め。 それが7時間を超えると、強制送還を覚悟するべきと言われていて、旅費はもちろん自己負担。入国した時と同じ便の復路で帰国することが義務付けられており、 支払が出来ないもしくは、支払を拒むとディテンション・センター、すなわち不法移民の留置所に送られ、 そうなると弁護士や家族とも暫し連絡が取れない悪夢が待っているのだった。



余計な発言が命取りになる入国審査

 何も怪しい事をしていないつもりでも別室送りになり、そこで長時間の足止めを強いられるケースで多いのが、 余計な発言をして誤解を招く、もしくは事態を複雑にするケース。
   そもそも入国審査は不法滞在、不法就労目的の旅行者をブロックするためのプロセス。 そこで訪米回数が多い人が犯しがちなのが、「自分はこれまで何度も米国滞在をしてきた」と言うことが自分の正当性の証明に繋がると勘違いして、 尋ねられてもいないのに米国留学経験や就業経験を語り、「アメリカに友人が沢山いる」などと語ってしまうこと。 これは全くの逆効果で、「不法滞在や不法就労をサポートする人脈がアメリカにある」と言っているようなもの。
 また会社を辞めて、次の仕事を探す前にアメリカに長期滞在、それも友人宅を渡り歩いて旅費を節約しようとするのも、入国審査官にとっては 「仕事が無いのでアメリカに出稼ぎにやって来た」と解釈される典型的なシナリオ。 そのケースで必ず尋ねられるのが 「滞在中の生活費をどうするのか?」という質問であるけれど、ここで最も有効なのはキャッシュで10万ドル以上が入っている銀行口座の残高を オンライン・バンキングのアクセスで提示すること。  最も言ってはいけないのは「友人宅に泊めてもらう替わりに、仕事や家事を手伝う」、「SNSにコンテンツをアップして収入を得る」という答え。 理由はトランプ政権下では、前者の「労働と引き換えの宿泊」は”報酬”と見なされるため。後者についても、インフルエンサーがコンテンツのためのビデオ&写真撮影をするのは問題なくても、 それをアメリカ滞在中に投稿して収益を得た場合は不法労働と見なされるケースがあり、これを判断するのは入国審査官。 インフルエンサーは保証も安定も無い仕事の割には、国籍を問わず態度が大きい人が少なくないようで、入国審査官が嫌う職業と言われるのだった。

 前述の「見るからに問題がありそうな風貌をしている。」というのは、外観の一般的概念で犯罪者を想像させる人がやはり不利なよう。 友人の親戚の悪役専門の俳優は、9/11のテロの直後から空港での手荷物検査やパッティング検査の頻度が急激に増えたとのこと。 日本では「ブランド品を身に着けるのは危険」と言われるけれど、確かにインフルエンサー成金のようなロゴで固めたスタイルは奨励されないもの。 でも見るからにオールドマネー(昔ながらの金持ち)という印象の上品な高額宝飾品や衣類は、入国審査官に余計な嫌がらせを止まらせる威嚇力になるというのは移民局の元職員も認める事実。 確実に言えるのは、この上品さの判断基準が分らない場合は、余計なブランド品を避けた方が賢明だということで、 財力に関わらずアメリカ人が最も嫌う「Arrogant/傲慢」な態度だけは取るべきではないのだった。

 もし別室送りになった場合は、自分の英語力を過信せずに通訳を依頼することが大切で、意味が分からない質問に適当に返事をしてしまうと、 それを宣誓証言としてサインさせらるのが調書というもの。 先日、日本人インフルエンサーのYouTubeチャンネルで入国審査に立ち会う日本人通訳が明かす現場エピソードが紹介されていたけれど、 別室送りになった緊張で余計な発言をしてしまい、それについてさらに厳しい質問をされた人の中には「通訳さん、助けて下さい」と、同じ日本人だと思って 通訳者にすがるケースがあるとのこと。しかし、通訳者は「証言と質問を一言一句正確に訳す」ことを宣誓してから仕事に臨むので、 「通訳さん、助けて下さい」という苦しい本音はそのまま翻訳されて審査官の耳に入ってしまうのだった。
 また数は少ないようだけれど、中には「キレれば何とかなる」と考えて、見苦しい態度を取る日本人もいるようだけれど、これはアメリカ在住者からは見れば命知らずの行為。

 入国審査は、領事館のVISA発給審査&面接とは異なり、確固たる基準に基づく判断ではなく、その場の国境警備当局の判断で行われるため、 コンシスタンシー、すなわち一貫性を欠くケースが多く、一部で指摘されるのは現在の米国入国審査が 質問内容から、回答の上げ足の取り方まで、イスラエルの入国審査に酷似してきたということ。 トランプ第一期政権が政策の要に掲げたメキシコとの国境の壁も、イスラエルがパレスチナからのテロを防ぐ名目でヨルダン川西岸地区やガザ地区との境界に建設した分離壁がインスピレーションだったと言われ、 トランプ政権にはイスラエルのために終わらない戦争を始めるだけの深いコネクションが最初から存在していたと言われるのだった。    

Yoko Akiyama

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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