Dec. Week 4, 2016
★ "The Goodness of Human Nature & Hope"
武器を使わず、心に働きかけて 52年続いた内戦を
終結に導いたコロンビアの奇跡に学ぶもの



今週は 2016年最後のこのコラムなので、頂いたご相談にお答えするのをお休みして、私が2016年に最も感動的と思ったストーリーで締めくくろうと思います。

私は毎年ノーベル平和賞受賞者の名前を聴いても、さほどピンとこないケースが多いけれど、今年受賞した コロンビアのフアン・マヌエル・サントス大統領(65歳)については、「他に誰が居るだろう!」と思うほどに納得したチョイス。 というのも世界中が不可能と疑わなかった半世紀に渡る泥沼の内戦を終結に導く奇跡を成し遂げたのが、サントス大統領、そしてコロンビア政府軍、及びコロンビアの人々なのだった。

コロンビアの内戦終結のニュースについては、世界中で報じられただけに理解している人は少なくないけれど、 私がそれにこぎつけたプロセスについて初めて知ったのは、12月上旬にアメリカで放映された報道番組のセグメントを観た際のこと。 2016年はご存知の通り、アメリカで史上最悪の大統領選挙が行われ、政治と人間のネガティブな部分をウンザリするほど見せつけられた年であったけれど、 コロンビアの内戦終結は 人間に生まれながらに備わる善良な心と、それを呼び起こそうとする人々の希望が勝利を収めた歴史上の輝かしい功績と言える出来事なのだった。

コロンビアと言えば これまで世界中が抱いてきたイメージは、ドラッグ&カルテルや、治安が悪く、殺人や誘拐が頻繁に起こる貧しい国家というイメージ。 そして過去52年間、コロンビアという国を世界から孤立させる要因になってきたのが左翼ゲリラであるコロンビア革命軍(FARC)との内戦。 その22万人の死者と500万人以上の避難民を出した内戦終結に向けて、 コロンビアの政府軍が これまでと異なるアプローチに踏み切ったのは2006年のこと。
ゲリラ軍が活動するのはコロンビアの広大なジャングルで、その人数は随時約6000人以上。 彼らに武装解除をさせるには射殺するか、捕らえるか、自ら武器を捨てるように説得するかの3つのチョイスしかなかったけれど、 前者2つを続けたところで 解決策にはならないことを熟知していたコロンビア政府軍隊の副参謀が 2006年に 雇ったのが 大手広告企業の共同チェアマンで、世界的にも広告業界で大きなサクセスを収めるホゼ・ミゲル・ソコロフ氏。 すなわち武器に対して武器で応戦するのではなく、広告キャンペーンによって左翼ゲリラに ”武器を捨てて、家に帰ろう” と働きかける、 一見非現実的で、極めて奇抜な作戦に乗り出したのだった。

そこからスタートしたのが、左翼ゲリラ達に対する広告とキャンペーンの数々。
まずソロコフ氏は、元ゲリラ・メンバーであった人々とのインタビューから、CMのストーリー・ラインをクリエイトし、 それをドラマ仕立てで俳優に演じさせたというけれど、それはゲリラ達が見れば明らかに”演技=フェイク”と分かるもの。 その効果は全く得られなかったという。 この失敗の反省から、実際にゲリラ・メンバーであった人々が自らの経験を語るCMに切り替えたところ、 徐々に表れたのがその手応え。

広告業界で既に成功を収め、サクセスフルなキャンペーンのためには そのターゲット層について熟知する必要があることを誰よりも理解しているソロコフ氏は、 以来、元ゲリラ・メンバーやその家族や友人とのインタビューや様々な情報収集で ゲリラ軍に対する理解を深めたところ、 それによって初めて分かったのが、ゲリラ・メンバーの多くが自ら進んで残虐な戦闘行為をしている訳ではなく、 彼らとて抜け出すことが出来ない苦しい状況に置かれていること。 そして彼らも本当は ”家に帰りたい”、”終わりが見えない戦闘を止めたい” と考えていることで、ソロコフ氏を始めとする広告チームは、 それまでの思い込みに反して ゲリラ・メンバー達が極めて”人間的” であることに驚いたという。
そんな彼らの意識の切り替えから生まれたのが 以下のようなキャンペーンの数々と、それをフィーチャーしたコマーシャルなのだった。

Operation Bethlehem / オペレーション・ベツレヘム


ジャングルからその出口までの道に沿って、ヘリコプターから沢山の小さなライトを散布。 「ライトをフォローして進めば、家に帰れる」というメッセージをフィーチャーしたステッカーを 木々に貼り付け、食糧のパックにも同じステッカーを張って、空腹のゲリラのために森の中に散布。
さらに夜空に光のビーム(写真上右)を走らせて、ゲリラ達に 光と共に希望を与えることに成功していたのがこのキャンペーン。 207人のゲリラ・メンバーがこの光に導かれて家に帰ったことが記録されているのだった。

Sky Voices / スカイ・ヴォイシス


元指揮官を含む かつてのゲリラ・メンバー達による武装解除の呼び掛けを、1か月間に渡って ヘリコプターに積んだ巨大スピーカーでジャングルに流し続けたのがこのキャンペーン。「自分もかつては、今の君らと同じ立場だった」と語りながら、 武器を捨てて自由を取り戻すように促す元ゲリラメンバーのメッセージに勇気づけられて、期間中にジャングルを去ったゲリラ・メンバーの数は 188人に達したとのこと。

Mother’s Voice / マザース・ヴォイス


子供がゲリラ軍に加わってしまった母親達から、その子供達の写真を集め、それに 「あなたはゲリラである以前に 私の子供なのです」、「Come Home, I'll Always be waiting for you at Christmas time」というメッセージを添えた ビラを何百枚も作成。それをジャングルのゲリラ達の通り道に 電車の車内広告のように吊って、 母親たちが何時までも子供の帰りを待っていることをアピールしたキャンペーン。 この母親たちからのメッセージに心を打たれた218人のゲリラ・メンバーが 武器を捨てて、母親たちの元へ帰っているのだった。

Operation Rivers Of Light / オペレーション・リバー・オブ・ライト


日本の灯篭流しにも似たこのキャンペーンは、LEDライトが光を放つ円形のプラスティック・カプセルの中に、 「武器を捨てて家に帰ってきてほしい」というコロンビアの人々や政治家からの手書きのメッセージを、小さなギフトと一緒に詰めて河に流し、 その美しい光の流れと共にゲリラ達に暖かくポジティブなメッセージを送ったキャンペーン。
ゲリラ達がジャングルの中を流れる河をライフラインにしていることに着眼して生まれた同キャンペーンで流したカプセルの数は約7000個。 オペレーションを敢行するコロンビア政府軍の兵士たちの目も潤ませた 戦闘地のジャングルの中の夢のように美しい光景。
2011年のクリスマスに行われた同キャンペーンは、革命ゲリラ軍を翌年からの和平協議のテーブルに着かせる強力なプッシュとなったもの。




2006年からの11年間に渡って、次々と行われてきたこれらのキャンペーンの中でも、 最もサクセスフルだったのは、以下にご紹介する2つのキャンペーン。
その1つは、コロンビアが国をあげて愛するスポーツ、サッカーにフォーカスしたもの。 サッカーの試合が行われている最中は 戦闘もストップするというデータが得られたことから、 まず最初に行われたサッカー関連のキャンペーンは、”I'll save your seat” というもの。 すなわち、サッカー観戦の際に「君の席も取っておくからね」というキャンペーンで、 コロンビアの国民達が 自分の隣の椅子に、キャンペーン・スローガンをフィーチャーした大きな丸いステッカーを張って、 「ここに座って、一緒にサッカー観戦をしよう!」というジェスチャーを見せる様子をCMとして放映。
このキャンペーンは、数字的にはさほど実績を上げなかったものの、 これきっかけで最もサクセスフルなキャンペーンが生まれる結果になったのだった。


そのキャンペーンは 2011年にFIFA U-20 ワールド・カップをコロンビアがホストした際に行われたもの。 一流プレーヤーから、セレブリティ、一般のサッカー・ファンまでがメッセージとサインを書き込んだ数千個のサッカー・ボールに 「Demobilize. Let's play again! (武装解除をして、またプレーしよう!)」というメッセージのステッカーを張って、 ヘリコプターからジャングルに巻いたのが同キャンペーン。
コロンビアの人々にとってサッカーはパッション。それを立証するかのように、最も多くのゲリラ・メンバーが武器を捨てて 戻ってきたのが同キャンペーンなのだった。


2つ目の最もサクセスフルなキャンペーンは、 前述のオペレーション・リバー・オブ・ライトの前年、2010年のクリスマスに行われ、この年の「世界で最もサクセスフルな広告キャンペーン」にも 選ばれた その名も ”オペレーション・クリスマス”。
クリスマスはゲリラ・メンバーでさえセンチメンタルになる時期で、1年中でゲリラが自ら武装解除するケースが最も増える時。 それに着眼し、彼らの生身の人間としてのハートに強烈にアピールしたのが同キャンペーン。
ジャングルのゲリラの通り道にある9本の大木をクリスマス・ツリーに見立て、LEDライトでデコレートし、センサーを設置してゲリラがツリーに近づくと ツリーがライトアップされて、それと同時に ゲリラが目にするのが "If Christmas can come to the jungle, you too can come home. Demobilize. At Christmas, everything is possible. / もしジャングルにもクリスマスがやって来るのなら、君らだって家に帰れる。 武装を解除しよう。クリスマスには何だって実現する" という横断幕のメッセージ。
長年のジャングルでの戦闘で 凍り付いてしまったかのように見受けられたゲリラ達の心に 暖かい灯を点したのが同キャンペーンで、実際に武器を放棄して家路ついたゲリラ・メンバーの数は、当時のゲリラ軍全体の約5%に当たる331人。 クリスマスの本当の意味合いを 改めて気付かせてくれる貴重なレッスンとなったハート・ウォーミングなキャンペーン。

もちろん、これらのキャンペーンがサクセスを収めた背景にはジャングルに出向いて、命懸けでツリーをライトアップしたり、河にカプセルを流すといった 実際のオペレーションを敢行したコロンビア政府軍隊の尽力や、ゲリラ達に同じ国民として暖かいメッセージを送り続けたコロンビアの人々、 そして度重なるキャンペーンのためのバジェットと協力を惜しまなかったコロンビア政府の存在があるのは言うまでもないこと。
このコロンビアの内戦終結は、政治によってこんな素晴らしいことが実現するという希望を与えてくれたと同時に、 人間本来に備わる善良さを改めて認識させてくれたという点でも 2016年で最もポジティブで意義ある出来事。

この内戦終結を受けて、コロンビアに対する外国資本の投資は前年比100%アップ、 外国からの旅行者も250%アップ。
それだけでなくコロンビアでは、貧困層が数多く暮らすマウンテン・スラムにエスカレーターやケーブルカーが建設され、 貧しい人々が交通難を味わうことなく 働きに出かける手段を得た一方で、 そうした貧困エリアが 近代的なミュージアムやライブラリーの建設によって活気付くという、絵に描いたような町興しも行われ、 ここ数年でこれまでと全く違う国に生まれ変わろうとしているのが現在のコロンビア。
そんな上昇ムードと生き生きとした人々の姿を見ていると、 ”At Christmas, everything is possible” というメッセージは本当だと心から思えてくるのだった。

Merry Christmas!

Yoko Akiyama

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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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