Oct. Week 1, 2015
★ How Can I Be The Ideal Mother?
理想の母親像が分かりません


いつも、(本当に毎日の日課です)Cube NYを楽しみに愛読しています。 2003年にアメリカに移住した頃からCubeに出逢って、NYに2005年に住み始めてからは益々沢山の情報を頂いております。
普段はブログもツイッターもやっていないので、自分の意見、考えを発信するタイプでは無いのですが、今回 秋山さんにメールをせずにはいられませんでした。 秋山さんのQ&Aのアドバイス読む度に、自分のQではないのに、気分がスッキリするし、「そういうことか!」感心させられます。 秋山さん言葉が心にストレートに響いてきます。素人では到底このようなアドバイスができないと思います。 秋山さんはカウンセラーや精神科医の資格か何かお持ちなのですか?お母様が占い師とのことですが、お母様の影響が大きいのでしょうか?

前述が長引きましたが、子育てについてアドバイス頂けるたら幸いです。
秋山さんとお母様のお話がたびたびみられますが、親子関係が良好で、素敵なお母様だと見受けられます。 私は三人の子供達の子育ての真っ最中です。私には母親はどう子供に接するべきか、理想の母親像が分かりません。 自分が小さい頃は全くといって母親との思い出がありませんでした。愛情をもらえなかった訳では決してありませんが、 母は五人の子供の面倒と、特に父の面倒で(身の回りの面倒一切を母がしていました。父がキッチンに居るところを見たことがないくらい、汗)大変そうなのは、 小さい私の目からも明らかでした。 母親とまともに時間を過ごしたことは思い出せません。本を読んでもらった、公園に連れて行ってもらった等々。 思春期に母親に相談に乗ってもらったことも、母親から叱られた事もありません。
父とは全くもって接点はありませんでした。父は怖い存在だったので、小さい頃から距離を置いていた感じです。 怒鳴られて手が飛んでくるのがおちでした。

自分の経験を反面教師として、子供達にはなるべく接しようと頑張ってきたつもりです。 毎晩の読み聞かせが功を奏して、子供達は本が大好きです。子供達が六年生、四年生になり、意見がぶつかる、叱る機会が増えてきました。 私は理路整然と諭す事が出来ません。両親から学べなかった事の一つです。 きちんと自分の気持ちを言葉に出来ない分、感情を怒りに任せてネチネチとしつこくしてしまいます。
一番悪いのは、赦す事が出来ないことです。consequence だと罰をちらつかせて謝らせる感じです。 子供達は罰が嫌で、何が悪かったかも分からずに謝っているだけで、それがすぐ分かるのでまたネチネチと叱ってしまう、never ending です。 全くもって躾にもなっていないと頭では分かるのですが、感情が高ぶってしまって抑えられません。

幸運なことに、夫は私とは真逆で、彼は心が豊かに育ってきました。仕事で忙しいながらも、子供達の人生を積極的にサポートしています。 感情に流されずきちんと子供達が分かる様に諭すことが出来ます。話す内容もポジティブです。
私が子供達に怒っていると、感情に任せていると夫が判断した時、別室に私を呼んで私を諭します。 子供に躾の為に叱るのに、私が叱り方を知らないが為に、夫に私が諭されるパターンが多々あり、面白くない気分です。 頭では夫の方が正論だと分かっては居るのですが… 私が小さい頃 父にやられた、恐怖と罰がモチベーションとなって、逆らわないようにしていたのを、 正に今私が子供達に押しつけてしまっている感じです。
子供達が思春期に入り、私との関係が悪化しないよう、早い所解決しなくてはいけません。 私自身の問題で自分で何とかしなくてはいけないのは十分承知しています。自分自身の精神を少しでも変えられるようなお言葉を頂けたら助かります。

長文乱文でごめんなさい。Cube NYの益々のご発展を応援しています。

−T−





私は、カウンセラーや精神科医の資格は持っていませんが、大学時代から心理学に非常に興味を持っていて、 20代にはユングやフロイトの著書を読んだこともありましたが、日常生活の身近な人々の行動を分析する方が 遥かに勉強になると気付いてからは、大切なことや、学んだことを日記に書きとめて、 自分なりの勉強を続けてきました。もちろん占い師の母からも学ぶことが多く、 運と人間心理が非常に密接に絡まっていることは、母から学びました。
その結果、悟ったのは 人間が一定のキャラクターを形成したり、物の考え方を身につけるのには、必ずそうなるためのバックストーリーがあるということでした。

さて、私はTさんのメールを読み終えて、2つの疑問点を感じました。
まず1つ目は、「Tさんはご両親の何がそんなに悪かったと思っていらっしゃるのか?」ということです。
Tさんは心豊かなご主人と結婚して、3人の子供に恵まれて、その子供達を精一杯育てていらっしゃるという幸せな状況です。 そのTさんを生んで育てて下さったお母様は、Tさんより2人多い、5人の子供を育てながら、お父様の面倒を何から何まで見ていらした訳です。 もちろん誰にとっても1日は24時間しか無く、子供が増えれば、それが36時間になる訳ではないので、 Tさんが思い返すと、お母様と一緒に過ごした時間があまりに短く感じられる、もしくは思い出せないという状況かも知れませんが、 Tさんも「愛情をもらえなかった訳では決してありません」とおっしゃっている通り、私はTさんのメールの文面から 愛情を受けて育った方でいらっしゃる様子を強く感じました。

またお父様にしても、子供との接点が非常に少なく、子供とどう接したら良いか分からないフラストレーションで 「怒鳴られて手が飛んでくる」と言う状況になっていたのではないでしょうか?お母様が何から何まで面倒を見ていたというお話から、 お父様が人間的に不器用でいらっしゃる印象を強く受けましたが、人と接点を沢山持たない人、持てない人というのは、 人への接し方が分からないので、誤解を受け易い存在なのです。 気に入らないことや、ダメだと思うことに、「どうしてそこまで」と周囲が呆れるほどにリアクトしてしまう一方で、 優しくされたり、親切にされたりすると、それにどう反応したら良いか分からないので、親切心を断ったり、無視したりして 無礼な印象を与えてしまうことが多々ありますが、 そうした人は決して自分勝手に生きている訳ではありません。心の中に様々な葛藤や自己嫌悪、 自分がコントロールできないフラストレーションがあるのです。
今、Tさんが子育てに対して感じていらっしゃるジレンマや、フラストレーションの さらに厳しいヴァージョンを、TさんやTさんのご兄弟の成長段階で お父様が 感じていらしたとはお考えになれないでしょうか。
私はTさんのメールを拝読して、Tさんのご両親が 与えられた情況下で、それぞれに苦労や葛藤をしながらも、精一杯 Tさんやご兄弟を育てていらしたという印象を持ちました。

次に感じたのは、「理想の母親像」というものが本当に存在するのだろうか?という疑問です。
理想像というのは、人によって その具現化した姿や、レベルが異なるもので、”理想の男性像”が女性によって全く異なるのと同様、 ”理想の母親像”というのも、目指すべき、確固たる存在がある訳ではありません。 確実に言えるのは 子供にとっては、自分の母親が自分を愛してくれれば、それが理想の母親だということです。
子供にとって母親というのは、自分が生まれる前から身体の中で繋がっていた特別な存在です。 他の人に どんなに親切にされたり、甘やかされたりしても、母親に愛されなければ子供が心理的に満たされることはありません。
私の友人は、大金持ちの両親が7歳で離婚をして、親は子供に負い目があるので、お金は使いたい放題。 両親よりも、ナニー(子供の世話役)や家庭教師、セラピストと過ごす時間が長く、そんなお金で雇われた人が、 よってたかって面倒を見てくれる、何不自由の無い成長期を過ごしましたが、一番欲しいものだけが手に入らない状況を ”地獄”と言っていました。 その ”一番欲しいもの”が親の愛情でした。

私は、親というのは自分を生んで、育ててくれて、生きていてくれるだけで 十分ありがたい存在だと思いますが、それに愛情が加われば、 たとえその愛情表現が不器用なものでも、子供はそれに応えて育つと考えています。 それを象徴するようなエピソードが、私が90年代に読んだ短い実話ストーリーです。
サクセスフルなキャリアを持つ一方で、誰が見ても理想の夫&父親という感じの男性が居て、 彼が妻と子供に愛情と理解を示しながら、子供をきちんと教育をする姿を見て、 ある人が「貴方のお父さんは一体どんな素晴らしい父親だったのか?」と尋ねたとのこと。 ところが男性の父親は アル中気味で、毎晩のように夫婦喧嘩ばかり。彼は殆ど父親と一緒に時間を過ごした記憶が無かったにも関わらず、 「父は自分に最高の愛情を注いでくれた」というのが彼の答え。 その理由は 父親が毎晩、彼が寝静まった頃を見計らって、彼の寝室の扉を開けて 「I Love You, Son」と呟いていたためで、 父が自分に面と向かっては言えない その言葉を 眠ったふりをしながら、毎晩聞いて育った彼は、その1センテンスを聞く度に 父親からの愛情を深く感じていた というのがそのストーリーでした。
私が このストーリーを約20年前に読んだにも関わらず 今も覚えているのは、これが親子関係や、親子の愛情を象徴するようなストーリーだと思ったためで、 こんな小さなことで親が愛情を示すだけでも、子供にとって 如何に大きな意味合いを持つかということなのです。

厳しいことを申し上げて恐縮なのですが、Tさんのメールを読んでいると、「親とこうする時間が無かった」、「親からこれが学べなかった」、「だから私はどうして良いか分からない」と、 ネガティブな方にフォーカスが行ってしまって、そのネガティブ・シンキングが 「罪と罰」のネガティブ・ベースの子育てに繋がっているように思います。
ペナルティ制度を報奨制度に代えた方が伸びるのは、企業業績も子育ても同じです。 悪い事をしない子供よりも、良い事を沢山する子供に育てるべきなのです。 人間なのですから、時には間違いもしますし、失敗や不注意もありますが、それは子供だけでなく、大人とて同じことです。 ですからネガティブをゼロにすることなど、人間である限り不可能なのですから、ポジティブを最大限に伸ばす子育て方に転換した方が、 遥かにすばらしい人間に成長してくれるはずです。

そのためには、まずTさんのご両親に対する気持ちをポジティブに切り替えてください。 ご両親が不器用ながらも 精一杯ご自分を育ててくれたからこそ、今日の自分があることに感謝するべきです。 たとえ反面教師でも、お子さんが本が大好きになるきっかけをくれたのはご両親ですし、Tさんがご両親から愛情を受けて育ったことは事実なのです。 一度ポジティブに考え始めたら、知らず知らずのうちにTさんがご両親から学んだり、影響を受けたことが 沢山あったことに気付くかもしれません。
TさんのDNAの半分はお父様から、そして残りの半分とミトコンドリアは全てお母様から来ているのですから、 親を愛せない人に自分を愛することはできません。 また自分が愛せない人には、子供や周囲の人を愛することも出来ません。

次に、お子さんに Tさんとご両親の関係について、話して聞かせることをお勧めします。 私は、成長過程で両親から 祖父母の話を随分聞かされて、両親が子供時代に味わった親子のエピソードを聞くことで、 親子関係についてかなり学んだと思っています。 Tさんが お母様と まともに時間を過ごしたことが思い出せないのであれば、そう話すだけで良いのです。 本がお好きで、既に様々なストーリーを理解してきたお子さんであれば、 Tさんが 子供時代に両親に抱いた気持を理解することで、 Tさんがどうしてそう考えるのか?どうしてそうやって自分たちを育てたがるのか等が 少しずつ分かってくることと思います。
「どうしてそんなことを言うのか分からない」、「どうしてそんなことを押し付けるのか分からない」と思って不満を感じているのと、 「きっとこういう理由で、そう言ってくるんだろう」と不満を感じるのとでは、反発心の種類が異なります。 人間というのは理解し合えば し合うほど、許し合える関係になれるのです。

そして、Tさんご自身の子育てについても、ポジティブ・シンキングに切り替える必要があります。
どんな親にとっても自分の子供が生まれるまでは、子育てなどした事が無いのが普通ですから、 出来ないこと、分からないことがあっても当然なのです。にもかかわらず、立派に子供を育てていることを誇りに思うべきです。 同じ料理でも「不味いのを我慢して食べて下さい」と言って出されるよりも、「美味しいから食べてみてください」と言って出された方が美味しく感じられるわけで、 「私は完璧でなくても、いつもベストを尽くしている」と自分の子育てについて胸を張れば、 お子さんもそう捉えるように変わってきます。
Tさんが時に感情的になってしまうのも、Tさんがお子さんに愛情と情熱を注いでいるためで、Tさんが不完全な人間だからではありません。 人間なのですから、常に理性的に振舞えなかったとしても仕方ないのです。 大切なのは、たとえ怒っても、叱りつけても、それが愛情に基づく行為であるということです。 子供のピュアな目には、物事を本質で見極める力がありますので、愛情をもった衝突であるかぎりは、時にぶつかっても良いのです。
その意味で、罰をチラつかせて恐怖心を煽って、不本意なまま嫌々謝らせるというのは、親子関係を表面的なチープなものにしかねない行為ですので、 やめるべきだと思います。

私が常々、様々な親子を見ていて思うのは 子供が如何に大人で、親が如何に子供かということです。 子供の方が、雑念が少なく、周囲の出来事に深い関心を払うので、物事の本質を的確に捉えているケースは非常に多いのです。 ただ、それを正確に表現するボキャブラリーや論理的に語る話術が身に付いていないだけです。
また子供というのは、親の不完全さに気付く一方で、それを許しながら生きています。これは3歳児や4歳児でもやっていることです。 「まさか」と思う人は、自分にその頃の記憶が無いだけです。子供というのは、人生経験と知識をこれから身につけなければならないだけで、立派に人間なのです。
逆に親は、時に自分の親というポジションの意味合いを誤解して、自分が正しいと思うことや自分が選んだことを子供に押し付けようとしますが、 それは教育やしつけというよりも親のエゴで、言ってみれば子供の我がままと変わらなかったりします。

そうなってしまうのは、親が自分がこの世に産みだした「子供」が、人権を持つ1人の人間であるということを忘れているためで、 ”子供扱い”というのが、人を見下す行為であることは 親子関係でも然りなのです。
人間は0歳から4歳までの4年間が、生涯で最も様々なことを多岐に渡って学習する時期ですが、 その時期から親が勝手な思い込みに基づいたフィルターを使って、子供の年齢と能力レベルに適したものを与えようとするのは 子供の成長には役立ちません。 例えば 親が子供の言語能力を過小評価して、赤ちゃん言葉で子供に話し続けると、 子供の言語発達が遅れるだけでなく、親の言語能力までもが劣化することが指摘されています。 逆に、幼い頃から大人と会話するように子供に話しかけていると、子供のボキャブラリーが増えて、 文法的に正しい会話を早い時期から始めるだけでなく、学習能力もアップするのです。

したがって、子供に一人前の立派な人間になって欲しいと思うのであれば、個々の主張や考え、好み、プライバシーや権利を尊重して、 子供が自立心を持って、自分の決断や意思で 正しい方向に進める手助けをするべきで、 親がレールを引いて、誘導するのは大きな間違いですし、「そんな事早過ぎる」とか「出来ないに決まっている」、「無理に決まっている」と 子供を守ろうとして、その可能性を潰してしまうのも大きな間違いです。

子育てのスタイルは、自分の親からの影響を様々な形で反映しますが、前述の男性のエピソードのように、 小さなことでも 子供の心の琴線に触れるものは、素晴らしい効果を生み出します。
ですから、「理想の母親像」などに捉われず、子供を押さえつけるのではなく、伸ばしてあげること、ネガティブよりポジティブに フォーカスすることで親子関係は必ず好転します。 また愛情と同じくらい大切なのが 信頼です。親が信頼すれば、子供は必ずそれに応えてくれます。

最後に、子供というのは親の教育やしつけよりも、親の暮らしぶりや生き方から学ぶことが非常に多いのです。 ポジティブにフォーカスしたTさんが、ハッピーに、ヘルシーに、無理なく、リラックスして生きることは、 お子さんの人生にも同様のポジティブ効果をもたらしてくれるはずですので、 生き生きとした素敵な女性であり続けてください。


Yoko Akiyama


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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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